Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『TVピープル』

2011-01-04 13:19:27 | 読書。
読書。
『TVピープル』 村上春樹
を読んだ。

村上春樹さんの短編集です。
のちに長編『ねじまき鳥クロニクル』に登場するキャラクターの
パラレルワールド的なお話も収録されています。

奇想天外な設定や登場人物などは、
読者の想像力を操る点で言うと、言葉の彩りを操ることで美しさなどを表現する
「詩」に近いものがあるかもなぁと思いました。光の当て方によっては
そういう見え方もする文学です。

哲学的な言葉もありますが、学問としての哲学から生まれ出るような言葉や思考が
綴られている場面があって、村上春樹さんの作品には時どきそういう記述が
出てきたりするのですが、だんだん、10代のころに比べてすんなりと読み進めることが
できるようになってきていることを感じています。
人間の頭っていうのは、鍛えられるというか、なれてくるというか、してくるものですね。
でも、逆に、10代の頃のように、鮮烈にその表現や世界観に驚かせられる程度が弱くなっていますし、
わからない表現に頭をひねってみるという素晴らしい行為も、
嘆かわしいことにそれほどしなくてもよくなっています。

ただ、やっぱり村上春樹さんの作品っていうのは、
というか、すぐれた文学作品ならばどれもそうなのかもしれませんが、
ストーリーの面白さや文章自体の面白さもさることながら、
前述したように、読んでいて、正面切って頭を使う状況になること、
それも適度な負担と快楽をともなってそうなることが、
大きな魅力なんじゃないかなぁって思いますねぇ。

変化球のように見えても、
斜に構えているように見えても、
実は的をちゃんと得ているのが、すぐれた作品のように思えます。

その作品がわかりにくくても、迷宮のようでも、
根底で捉えていることは、浅はかなものじゃないし、ズレてもいない、
逆にいえば、そうやって根底で捉えられているならば、
その他の部分では何をやったっていいのかもしれない。
なんやかややっても、ちゃんと結果がついてくるような気もしますし。
物語自体が自律的に進んでいくんだよ、って言っている作家の人もいらっしゃったような気がします。
というわけで、作品の持つ輝きや力強さには根底が大事なのかなと思いました。

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