Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『全ての装備を知恵に置き換えること』

2014-07-08 01:28:55 | 読書。
読書。
『全ての装備を知恵に置き換えること』 石川直樹
を読んだ。

ときにチョモランマに登り、
ときに北極から南極までを踏破するプロジェクトに参加し、
ときにミクロネシアで方位磁石などの文明の利器を使わない航海術を学び、
世界中を旅する人。そして写真家。エッセイスト。
そんなふうに自分の生を躍動させ、つねにフレッシュな感性や感覚でいる人なのが、
著者の石川直樹さん、そう僕は感じました。

前を向いて直進的で、素直な感性で正直に、
慎重にだけれども臆することなく言葉をみつけて綴っているようなエッセイです。
気持ちのいい、瑞々し感性で書かれているなぁとわかるでしょう。
語彙も豊かで、言葉の当てはめ方が、僕なんかはすごく好きでしたね。

僕と同い年ということで、時代の流れからくる、
目に入ってきたもの、耳に入ってきたものが同じなので、
近しい気分とライバル心をもって読んでしまいましたが、
大した人だなと思いました。

彼は普通の都市を旅することも多いようなのですが、
自然を相手にして、生きるか死ぬかを背後に感じながらの旅もよくされている。
ここでカヌーが沈没したら終わりだなというのを、
1週間も人に会わずに自然の中だけの川下りの最中に考えたりする。
それがゾっとする感じがありながらも、
なんともいえないわくわく感のようなもののほうこそを強く感じるそうです。
それを想像してみると、新たな感覚として思い起こされるかのように、
それら石川さんの経験のほんの切れっぱしであるだろうものが僕の中にも移ってきます。
僕は仕事で川を滑走したモーターボートに乗ったことがありますし、
そうしながら川の上で作業をしたこともあります。
また、夢の中で、ボートに乗っていて、それが川の真ん中にいてぞっとした、
ということもあります。
そういうのが、石川さんの本に綴られて込められた「経験」の伝搬の助けを
しているんだと思います。

本書では、石川さんにしか語れないことが語られていて、
それを読者は興味をそそられながら読むことになります。
疑似体験とまでは言えないけれども、その経験のほんの小さなかけらの部分くらいを
授かることができるんだと思います。
「こういう世界もあるんだな」じゃないですが、こういうふうに生きていて、
こういうものを見ているんだなっていうのが、日々いそいそと日常を送る、
定住者の僕らにはないことなので、
いうなればカルチャーショックに似た、今までと違うヴィジョンのようなものが得られます。

彼にしか書けないことを、優れた言語感覚で持ってそれを過信せずに、
うそんこの言葉ではなくそこは素直に真面目に書いた、
そんなエッセイだと思いました。
読んだ後には、実感のように、この空はずっといろいろなところと繋がっているんだな、
といろいろな土地に想いを馳せてしまいました。



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