Fish On The Boat

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『弱者の居場所がない社会』

2014-07-27 00:08:05 | 読書。
読書。
『弱者の居場所がない社会』 阿部彩
を読んだ。

貧困や社会的排除・社会的包摂について、
くわしくわかりやすく説明する本です。

貧困については、自己責任論というのが、
現在主流になっているように感じられますが、
本書でも自己責任で話を終える人は多いとしている。
「日本人は冷たいのか?」の項で、

__________

すべての結果はその人の努力や能力の違いの当然の結果なので、
ある人が何かをもつことができなくても、
それはそれの人自身の責任なのでしかたがない、という考え方である。
__________

と、その自己責任論とはどういうものかについて説明していますが、
僕も実はそう考えてきているフシっていうのはあるなぁと思い到るところもありました。
僕の、「自助」というものをピックアップして考えるさまには、
自己責任なんだから、という背景が見え隠れしますが、
それは、(言い訳みたいになりますが)「社会が自己責任を主とするシステムだからしょうがなく」
そのなかで、より生きやすい選択肢としての「自助」を推奨しているんです。

それはそれとして、著者は続けてこうも言っています。

__________

しかし、いくら自己責任論を主張する人でも、
子どもにまでその論理を当てはめようという人は少ないであろう。
自己責任論には、公平なスタートラインと競争が存在するという前提があるからである。
競争が公平でなければ、結果としての不平等を肯定することは難しい。
「結果の平等」は支持しなくても、「機会の平等」はあるべきだと多くは考えるであろう。
__________


どうでしょう、この世の中、実際は平等な競争ってないですよね。
極端なことをいえば、金持ちの家に生まれて何もかも与えられた人と、
貧しくて、あまり与えられずにきた人とでは、この競争社会において平等な競争ではない。
機会の頻度さえ違うでしょう。
つまり、この世はアンフェアな競争社会なんですよね。
そんな中で自己責任だ、とする主張は実際的でも現実的でもありません。
なのにそれがまかり通るのは、格差社会の上層や中流層にいる人たちの、
ある意味保身なんだと思います。
それは、経済的な保身であるかもしれないですが、多くは心理面の保身です。
格差社会では、上のものが下のものを攻撃するチンパンジー社会のような力関係が
生じるようですが、こういったアンフェアな競争を肯定する「自己責任論」も
そのひとつなのではないか、と読みながら思いました。

また、話は変わりますが、げんなりしたのは、
「頼れる人の有無」アンケートがあって、その結果、
僕も自分で考えて答えを出してみたら、
全体の下位3%くらいの位置に自分がいたことです。
孤独なもんだなって思いましたね。
いざとなったら頼るかもしれないですが、
そうなったときに、友人や知人は頼られてくれるのかがわからないです。

こういうことも紹介されています。
「人々は攻撃的になり、信頼感が損なわれ、差別が助長され、コミュニティや社会の繋がりは弱くなる。」
これは「格差」によってもたらされるとする、
ノッティンガム大学名誉教授リチャード・ウィルキンソン氏の主張の要約だそうで、
10年近く前に英国で大反響をおこした考えだそうです。
そして、「貧困」があるから、すなわち排除される人々がいるから、
社会の上層部にいる人間まで被害をこうむるといっているわけじゃなく、
要は「格差」が問題であって、人を「上」だの「下」だの段階を
ランク付けするシステムが問題だといっている。

そういう考察もしながら、最後のほうには、
社会的包摂についての提言もなされている。
社会的包摂っていうのは、社会的排除の反対の言葉で、
居場所、役割、つながり、というのが三要素のようです。
要するにたとえば、

失業した→
親戚や友人に会うのが恥ずかしくなり一人でいることが多くなる→
頼れる人がいなくなる。

という流れが挙げられますが、それが排除されたとする考えです。
非正規雇用などにおいやられていくのも社会的排除です。
人間関係が希薄になり、社会の一員としての存在価値を奪われていくことを問題視して、
そういう人を社会から切り離さずにつなぎ止めていこうというのが、
社会的包摂であると言えるでしょう。

僕個人の意見としては、モースの『贈与論』からくる連帯の考え方が、
社会的包摂の考え方と結びつくことで、強靭な社会的包摂になるんじゃないか、
というのがあります。このあたりは、そのうち、贈与論やそれを論じた本を読んで、
もうすこし考える必要がありそうなんですけどね。

社会的包摂はほんとうに大事だと思うんですよ。
格差と生きにくさを見直してよりよくしていくにはこれだと思えますもの。

本書は200pくらいの薄めの新書です。
丁寧で読みやすく知識も頭にはいってきやすいので、
貧困や社会的排除に興味のある人、
いきやすさを求めてちょっと考えたい人にはおすすめです。



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