Fish On The Boat

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『人を助けるすんごい仕組み』

2014-07-19 17:48:52 | 読書。
読書。
『人を助けるすんごい仕組み』 西條剛央
を読んだ。

サブタイトルは
「ボランティア経験のない僕が、日本最大級の支援組織をどうつくったのか」で、
まさにその通りの本でした。
著者の西條さんは「ふんばろう東日本支援プロジェクト」代表で、
早稲田大学大学院(MBA)専任講師です。

帯の糸井重里さんの推薦文がわかりやすいので、
全文引用します。

『岩をも動かす理屈はある。
「そこに方法がないなら、つくればいい」
西條さんの学問は、実戦的で痛快だ。
震災の状況だけでなく、あらゆる仕事の場で
役に立ってしまう本になったと思う』

最初は、地震の発生、そこからの著者の思いや行動などが綴られて進行していきます。
あっという間に組織の原型が出来あがりますが、
そのスピード感はほんとうに現実に即しており、
ただ、紙幅の都合上早まっているわけではないのです、当たり前だけど。

どういうプロセスを経て、このような大きくて機能的な支援組織が編まれたか。
それがこの本を読むとよくわかります。
細部の折衝なんかまではわからないところはありますが、
著者自身、組織や枠組みを作ったらそこにいる人たちに放り投げてまかせられる人です。
仕組みさえきちんとしていれば、ちゃんと動くのだ、
という信念とご自身のされている学問への自信がそこにはあるようですし、
実際、そうやってうまくいったボランティアモデルなんですよね。

要所要所で、著者の専門である「構造構成主義」に照らして行った行為だとして、
そのやり方が紹介されます。そのうちの「方法の原理」というのが、
今回とても有益に使われていて、それはこういうことで、
(1)状況と(2)目的によって規定される
ということでした。
_______

状況を踏まえて、目的を見定めつつ、その時点、その場で
有効な方法を考案すればいいという考え方である。
_______

と、引用すると上のような説明があげられます。
これはね、けっこう使える考え方なんじゃないかなと思いました。
知らず知らずそうやって「方法」を考えている人も多いでしょう。

それにしても、最初の段階で著者が被災地に足を踏みいれて、
その状況や被災者の話が載っている部分があるんですが、
今読んでみると、当時の、北海道に居ても感じた、
打ちのめされるような気持ちがよみがえり、
さらに、こんなにもひどかったのかという新たな生々しい情報を知ることにもなって、
この震災を忘れ去るべきではないなと思い返したくらいです。
遺体の損傷もひどかったみたいですね、言うのがはばかられるくらいに。

また、ちょっと考えたところは、P・F・ドラッカーの引用のところです。
これは、価値についての考察のところであり、僕が気になった文章は
まったく本書とは関係のないところなんですが、それはこういうところでした。

_______

「われわれは何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」を問う。
_______

小売店で働いていた時に、お客さんが何を買いたいかだなと考えていた僕は、
上司に「何を売りたいか考えて、どうやって売れるかを考えて売るんだ」と言われた。

本部から、週末のセールはこれこれでチラシに載るから発注忘れるな、
みたいな感じで毎週やってたわけで、
本部としては顧客が買いたいものだとか旬のものだとかの合わせ技で出してきたと思うんだけど、
その数量とかを決めるのは末端の僕みたいな人でした。
そうなると、どれだけ売れるかを想像したり、過去のデータとか、
昔からいる人にアドバイスしてもらって発注することになる。
お客さんは買いたいかなと、そこで考えるわけです。
でも、「何を売りたいか」ありきだったんですよね、どっちが先かって言うと。
末端にいると、そこらへんひっくり返ります。
だから、「何を売りたいか」でポップを作ったり、置き場所を考えたりして商売してた。
店員は、もう、「どう売るか」なんですよねぇ。
何をどうやってさばくか、でやらされる。
ドラッカーを読んでると実はこういうところで末端の人はわからなくなります。

と脱線したところで話を本書の内容にもどして。

冒頭、糸井さんの名前が出たところで気がついた方もいらっしゃると思いますが、
本書の第5章になっている部分は、『ほぼ日』で行われた糸井さんと著者の西條さんの
まさしくこの「ふんばろう東日本支援組織」についての対談から
再構成されたものだったりしますので、その対談で西條さんを知っていたりもするでしょう。
また、ツイッターをよく使われていたようなので、地震発生まもない時点から
西條さんを知っている人もいるかもしれない。
そういう人に至っては、本書は僕よりももっと身近に感じて読めたりもするでしょう。

最後に、本書の印税全てと出版社にはいる収入の一部が、
このボランティア組織「ふんばろう東日本支援」におくられるとのことです。
いまもまだ、仮設住宅にはいられている被災者のひとたちって多いでしょうし、
この本で触れられているような、被災しながらも満足に支援をうけていない
人たちもいらっしゃるみたいです。
それを知ると、何もできない自分にはため息がでますが、
本書を買ったことでちょっぴり寄付ができて、さらに読んで状況などを知れたこと、
そして、明日へ繋がるような方法論に触れられたことは良かったなぁと思っています。



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