Fish On The Boat

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『嫌われる勇気』

2015-01-23 13:44:24 | 読書。
読書。
『嫌われる勇気』 岸見一郎 古賀史健
を読んだ。

フロイト、ユングにならぶ心理学三大巨頭の一人、
アルフレッド・アドラーの教えをわかりやすく、
「哲人」と「青年」の架空の対談形式で述べてくれるのが本書です。

トラウマなどに代表される、
因果をもとにした「原因論」を説くフロイトたちの心理学とは一線を画して、
ギリシア哲学とも繋がる「目的論」を主軸とした理論になっています。
原因論とは、たとえば、幼いころに両親が不和で離婚した経験があるから、
それを原因として、今は異性とお付き合いできない、というようなものです。
目的論の場合は、両親が不和で離婚した経験を悪い方向に解釈して、
それを異性とお付き合いしない言い訳にしているということになります。
つまり、お付き合いしたくないから(それは面倒だからだとか理由はあるでしょう)、
両親の離婚を言い訳にしているということであって、
トラウマではないということになります。
このあたりは、本書を読むと、いろいろな例がもっとうまく書かれているので、
すっきりと理解できることになります。

また、これがアドラー心理学の土台をなしているもう一つとも言えますが、
「人間の悩みはすべて対人関係である」という見抜きがあります。
なので、対人関係の悩みをとっぱらってしまうことで、人は幸せになれるとする。
そして、その考えを論理的押し進めていってできあがった理論が、
このアドラー心理学の教えなんです。

そうして、
・競争は不幸を生む。
・他人の期待にこたえるために生きてはいけない(承認欲求の否定)。
・他人の課題にまで土足であがりこまない(課題の分離)。
などなど、現実の人間関係の足かせになっているコモンセンス(共通認識)を
くつがえして見せてくれます。
ゆえに、アタマでその理論がわかっても実践に移すのが難しいところでもあります。

ただ、個人的に言えば、
ぼくは書かれていることの半分以上はわかっていたことでした。
けっこう、アドラーの考えは、知らずにぼくも考えていたことでもあった。
ただ、僕の場合はその考えがとっちらかっていて、
体系的じゃなかったというのはあります。
さらに、「共同体の感覚」というアドラー心理学のゴールの概念がありますが、
これなどは、驚いたのですが、僕がモースの『贈与論』を読んだことを起因として
悟ったことと同質のことが書かれていました。
渡りに船じゃないけれど、やっぱり時代のひとつの潮流なのか、
または巡り合いってこういうものなのか、という気がしました。

この本のすごいところは、ぼくの考えではネックであった「しがらみ」
というものについても、処方箋が書かれていることです。
不信というものがどれだけ害になるか、
ということがとくに大事なことのように僕はよみました。

ただ、実践が難しい上に、こういう人もいるだろうと浮かんだのがあります。
アドラー心理学は、さきほど書いたように、
対人関係こそが人間の悩みのすべてとされていて、
それを無くすことができるんだよっていう教えですけれども、
悩みや苦しみがあってこその人生じゃないか、
それでこそ面白いんだって人は結構いそうで、
そのあたりの視点はなかったんですよね。

最後になりますが、たぶんぼくにとって最も難しい点は、
「ほめてはいけない」という部分。
ほめても、叱ってもいけないのです、なぜかといえば、
そうすることで、人間関係に上下関係、縦の関係を築いてしまうからなんです。
横の関係でなければ、「共同体の感覚」は作れない、
という結論になっています。
下からほめるっていうのはないのかな、なんて考えたりもして。
草葉の陰からほめております、みたいな。
ぼくなんかは、人や作品なんかをほめるときには、
下からほめてる気がしてたけれど。太鼓持ち的に。

まあ、そういうわけでして、
久しぶりにガツンときて面白い本でした。
みんなにおすすめしたくなります。


Comments (2)
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