Fish On The Boat

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『詐欺の帝王』

2015-06-05 23:57:43 | 読書。
読書。
『詐欺の帝王』 溝口敦
を読んだ。

起訴も逮捕もされないでのうのうと暮らしている
オレオレ詐欺などをやった「詐欺の帝王」がいるそうで、
その男と著者が接触し、詐欺の手口やなれそめ、
どういう人物なのかなどについて明らかした本。

その「詐欺の帝王」は、
本書では本藤という仮名で書かれていますが、
ちょっとネットで調べると工藤という男にたどりつきます。
これもまた、実在の人物説、架空の人物説があり、
お互いに工作員呼ばわりして混沌としていたりします。

たしかに、本書に詐欺のシステムなどを語った本藤は、
なぜ表に出てきたのか信じがたいところで、
すべてノンフィクションではなくて、
フィクション仕立てで詐欺の実像を暴いた本なのかなという気もしました。
こういう人物がいたほうが、えたいのしれない裏の世界の詐欺世界に対して、
逆に安堵の気持ちが持てるという人も多いような気さえします。

さてさて、
ヤミ金のシステムから換骨奪胎してオレオレ詐欺が生まれたとのこと。
それも、半グレ集団がやっているそうです。
暴力団は年々衰える傾向にあるようだが、
半グレ集団は勢いを増しているという。
突きつめると、現代の雇用環境の劣悪さが詐欺の世界を肥沃にしているんだとか。

倫理道徳がすたれて、そんなのどうだっていいとして生きている人々が多くなり、
雇用環境が悪化して、ワーキングプアだとかネットカフェ難民だとかになるくらいなら、
違法でも他の人を食い物にして生きてやるという、
万人の万人への闘争みたいなかたちになっているように見えてきます。

前に『キャバ嬢の社会学』を読んでいて、
オレオレ詐欺などで儲けた若者が来店して
大金を落としていく時期があったというようなのがあったけど、
この『詐欺の帝王』にもそんな記述がさらっとあって、
やっぱり詐欺で儲けた金をキャバクラなんかに落としていたようだ。
そういうところから検挙できないのが、
たぶんに大金を落とすものをかばう金目当ての人びとの
欲望のためなのだろうと思いますし、
終章にもそのように書かれていた。

本藤がオレオレ詐欺の黒幕ということなのだが、
彼は六大学出身でイベントサークルを仕切っていた人。
そのあたりの事情をしるにつけ、彼の企画したイベントには
スポンサーにつく大企業がいたりして、
暴力団にも通じていたと言う裏の事情も考えると、
ちょっとしたカオスになっていたなと思った。

学生時分からこうやって金もうけの世界に足を突っ込んで
自分たちのメリットを活かして金を引き出す方法を
血肉化させていった人びとを企業は将来、
自分たちの会社などの利益を第一とするという意味での
健全な金もうけの道を進むことを嘱望していたのだろうけれど、
実際の本藤はもっと姑息な人だったのが正体ということなのだろう。
これはなにも本藤にかぎらず、イベントサークルを仕切っていたような人は
多かれ少なかれそういう気質だったのかもしれない。
まあ、姑息というか、倫理観が薄れていて、
さらに個人主義(利己主義)で、という。
そういう土壌から出てきた人としてみると、
ホリエモンさんなんかの見方もなるほどなと思える部分もありそうな気さえする。
というか、そういう人とホリエモンを比較するなという感じもしますが…。

ちなみに、ぼくが学生時分にも、
大学に遊びのためや飲み会のためサークル、
イベントサークルがあったけれど、
なんだよそれと思って一蹴に付していた。
見るからに、悪徳、反モラルの温床という気がしたから。
時代はちょうど本藤と同世代になるかな。
逆に、そういうのを気にしないで楽しむ人が主流になって生きるようなのが
この世の中なんだろう。

こういうのにも、
生産物や購買物、贈与物などにその送り手・作り手の顔が見えるというか、
存在を感じるような社会は有効だと思うんですよね。
あたたかみを感じる社会。
包摂性のある社会。
今の社会には包摂性がないから、
詐欺をするような反社会的な半グレ集団が勢いをつけるともいえる。

というわけで、
ふだん読まない種類の本で、
さらに内容からして気が引き締まる思いがしました。


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