Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『「300億円赤字」だったマックを六本木のバーの店長がV字回復させた秘密』

2022-12-13 22:34:38 | 読書。
読書。
『「300億円赤字」だったマックを六本木のバーの店長がV字回復させた秘密』 足立光
を読んだ。

小説仕立ての、マーケティングの考え方を知る本。ビジネスを扱っていても、堅苦しさがまったくなく、すいすいと読めてしまいます。もしかすると、小学校高学年の人でもおもしろく読めるかも。

中身は地に足がついたマーケティング論なのですが、平易な言葉でシンプルにマーケティングの考え方を学ぶことができます。著者はコンサルティング会社やP&Gなどを経て、日本マクドナルドのマーケティング本部長として、業績を瀕死の状態からV字回復させた方。マクドナルドの商品や、近年展開されたキャンペーンが具体例として出てくるので、マック好きな方にとっては親近感をもって読めるでしょう。かくいう僕も、にわかですが隠れマックファンで、たまにドライブスルーを利用しているクチで、おもしろいなあと思いながら読んでいました。ダブルチーズバーガーやフィレオフィッシュが恋しくなったりもして。

さて、では中身を。
どうすれば業績があがるのだろうか? という課題を抱えた、洋食屋の三代目を継ぐことになった祐介が足立(著者)の経営するバー・夜光虫に足を踏み入れることで、マーケティング話が始まっていきます。祐介の洋食屋はバイト店員のよからぬSNS投稿で炎上し、客がよりつかなくなってしまって困っている。いっぽう、足立は不祥事によってイメージと業績が落ち込んだマクドナルドを再建している。祐介はどうしても話が聞きたいし、足立は話好きだしで、そうして長い夜が幕を開けるのでした。

話題性が大事でポジティブな話題性によって、それまでの悪いイメージ、停滞したイメージを覆していく。そればかりか、波に乗ってからも「話題性」なのです。楽しさがマクドナルドの大きな魅力ですし、エンタテイメントを途切れさせないことなんだなあと、僕はそう捉えて感心しました。

ライバルは同業他社のモスバーガーか、それともオリエンタルランド(ディズニーランドなどの会社)か、と問うところがあるのですが、答えはやっぱりひっかけになっているかのように、オリエンタルランドなのでした。楽しさをどちらが多く創れるか、みたいなライバルなんでしょう。

同業他社よりも、他業種をライバルとする。ちょっと脱線しますが、これって創作の姿勢に役立つことで、同業他社としてのたとえば小説を読み漁ることも勉強になるけれども、賞を取るくらいまでになりたかったら、他業種、すなわち美術・音楽・映画・ドラマなどなどから勉強するのがいいのだろうと思えてきます。小さい枠の中で発送するよりか、業種の垣根を超えたところでの発想を目の当たりにして、小さな枠をはみ出す思考でいたほうがおもしろいものが出来たりするということです。そのためには、感性と理解力、そして応用力あるいは類推力が大切なポイントとなるのでしょう。

また、序盤でなにげなく語られた教訓めいた内容ですが、こういうのがありました。アドバイスに振り回されて潰れていかないために、自分で自分自身をまず分析しながら仮説を立て、自分の目指すところを見定めて、頂くアドバイスの取捨選択をしていける賢さが大事だ、と。これって目からウロコ。その通りですよね。アドバイスをくれる人に気を遣って言うことを聞こうとするのは、自分を大切にしないことに繋がる可能性が在るんです。そこは自己中でもエゴでもなく、ある意味でのしたたかな自己成長戦略だと位置づけておくとよいことだろうと思いましたし、こういったスタンスでいることを、ほんとうに多くの人におすすめしたいです。

あとは、広告を打つよりか、自社PRやSNSなどの口コミなどで第三者に話題にしてもらったほうが、信頼感や親近感を持ってもらえるのではないだろうか、ネガティブな雰囲気も変わるのではないか、というところがあります。これってたとえばブログをやっていくことにも生かせそうだし、そうやってみることは面白そうです。

さらに、激しい飲み会の話。仲間意識を強く持ちお互いを印象付けるためには、おなじ飲み会でも、激しい飲み会が好ましいと著者の足立さんは考える。これは、創作においてもそうだろうな、と考えさせられました。小説の中で、激しいシーンのシーケンスが、その小説表現を読者に強く印象付ける。殴り合いなどのバイオレンスじゃなくても、激しい言い合いなんかでも、その激しくて真剣で感情的な部分は読者を揺さぶるのだろうと仮説が立ちます。

というように、僕は創作に寄せて、この小説仕立てのマーケティング論を楽しみました。対立構造、既出のアイデアを取り入れて新たにつくる、意思決定に義理人情はNGなど、他の数々のマーケティング方法論においても、やっぱり小説づくりに役立つアイデアです。おもしろいもので、すべての道はローマに通ず的なのでした。

最後に、まとめます。
難しい理論は抜きで、現実的で実際的な、一歩一歩のあゆみのようなやり方でだって、突破口は見えてくるんじゃないか、と読者は本書から感じることになると思います。個人経営の洋食屋の三代目が主要キャラとして、マーケティングの達人・足立の話を聞くという体裁でしたが、まさに、自営業者の商売戦略の助けになるような内容でした。商売がうまくいかなくて、まるで骨折してしまったかのようだ、なんて表現するとしたら、本書はその骨折した箇所にあてる副木になり、それからリハビリを助ける理学療法士となってくれるような感じでしょうか。自分で歩く力を身に着けるため、まず自分のあたまで考えてみようとするそのスタートラインへ引っ張ってくれるかのようでした。それも、ほんとうのはじめの一歩からです。知識というより、考え方の基礎を雑談の中で学べるなんて、最高ですよね。そういった本なのでした。


Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする