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『サキ短編集』

2024-04-21 18:50:01 | 読書。
読書。
『サキ短編集』 サキ 中村能三 訳
を読んだ。

10ページ前後の作品が21編おさめられています。海外では、アメリカで活躍したO・ヘンリと「短編の名手」として並び称されるほど書き手だそうです。サキは、1870年に植民地ビルマで生まれ、2歳の時にイギリスに渡ったスコットランド人。第一次世界大戦のフランス戦線で戦死しています。

序盤の3,4作こそ、牛や二十日鼠が「またなのか!」という具合にでてきて、どことなくほのぼのとしているというか、のっぺりとしたような地味さを感じましたが、その後の作品では味わいがそれぞれ違ってバラエティに富んでいましたし、地味ということもなく(キラキラと派手でもないのですが)、それぞれに独特の風刺があり、すごく楽しめました。

というか、風刺が持ち味の作家です。蛇足ながら言わせていただくと、風刺とは、遠まわしに社会・人物・慣習の、その欠陥などを批評的に表沙汰にすること。それも面白く、おかしく、ユーモアに包んで。サキは、「人のこういったところは風刺になる」という部分によく気づける人だったのでしょうね。作家としては光る才能であり、一般人としては周囲に嫌がられてしまった可能性のある、そんな特徴ではないでしょうか。

おもしろい話だらけのなか、いちばん好きだった話は「七番目の若鶏」かもしれません。主人公は、自分が始める話のつまらさなのために、汽車の乗車仲間と話をしていても、ちっとも座の主役になれたことがないブレンキンスロプという男。同僚に相談すると、創作をすることだよ、との忠告を受け、真に受けてしまいます。同僚が例に出した創作話「七番目の若鶏」をブレンキンスロプが脚色して仲間に話してみると、みな興奮して食いついてくるのでした。嘘を用いて周囲の賞賛を集める気持ちよさを知ってしまうのです。下に引用を。
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それからの数日間に、ブレンキンスロプは、世間の尊敬をかち得た場合、自己に対する尊敬を失うことが、いかに屁でもないかということを発見した。(p66)
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こういうことってあるなあと思いました。世間から注目されたい、一目置かれたいという虚栄心が勝って、嘘をついてまでする「自らの不徳」については不問にしてしまう。その結果、そのような行為が引用の通り「屁でもない」ことにまでなってしまう。僕個人は、このあたりのことって、まだ小さな子どもの頃から葛藤していたことでした。ですから、その原体験みたいな部分に改めて触れることになって、甘く苦いような気持ちになりました。また、白状するならば、僕にも次のような、この短編の例と似た経験があります。それは、親のおつかいで使ったお金のお釣りをちょろまかして、それでギャンブルをして勝つんです。どうだ、こんなに胴元からぶんどったぞ、と意気揚々自慢するんですけど、どういった資金だったかというと、その行いがクズなんですね。で、これだけ勝ったんだというところを見せつけてそれに賞賛を得ることが気持ちよく、大きな意味を持つので、自分を尊敬できなくなることなんか眼中になくなるわけです。人間心理の怖さの部分であり、気持ちを引き締めていなきゃまずいよなあと思うところです。

他、これは慧眼だ、と思えた部分を「運命」という作品から。激しい疲労や絶望に追い立てられて前へ前へと進むのは、考えて進んでいるのではなく、隠れた衝動によって進んでいる。この作品の冒頭にあった看破です。自分は今、隠れた衝動に動かされていると気づけたならば、そこから自分を取り戻すことなのだよ、と照らされた道を見たような気分です。自分の道は衝動によってオートマティック的に歩くというより、一歩一歩意志を持って歩いていたいものです。


二人の敵対する地主の男が、敵対することとなった大きな理由となる森の一角の土地ででくわし、二人のその心理の変化を追う「おせっかい」。愛嬌ある毒舌家であり、そしてケチというよりも金銭にはきっちりとしておきたい性格をしていたラプロシュカという男の死と、そのきっかけをつくった男との因縁のある不思議な話、「ラプロシュカの霊魂」。以上のふたつも気に入った作品でした。

O・ヘンリもよかったですけど、サキのこの毒のある風刺のほうが日本人には向いているんじゃないかな、という気もしました。おすすめです。


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