イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「絶対に面白い化学入門  世界史は化学でできている」読了

2022年05月09日 | 2022読書
左巻健男 「絶対に面白い化学入門  世界史は化学でできている」読了

「世界史は化学でできている」というタイトルだが、普段はそんなことを考えることはないのだが、なるほどその通りだと思う。人はモノの中で暮らしていると言っても過言ではない。そして当然ながらそれらは物質でできている。そしてそれらは自然界に存在する資源に化学変化をおこさせて純粋なものにしたり新たな機能なり特性なりを加えて作りされているものだ。世界史ができる前に生活そのものが化学でできている。
また、大きな歴史の転換点にはそういったモノが関わってきたというのも確かなことだ。新たな素材や、薬、兵器、そういったものの登場で歴史のパラダイムが変わってしまうのである。
この本に取り上げられている話題はおそらく高校生が習う化学くらいのレベルのものであるが、それを歴史に変化を与えたものという視点で並べられているというのが新鮮である。

化学というのは、特に物質の「性質」と「構造」と「化学反応」の三つを研究している学問だそうだ。こういった定義を高校時代にしっかり教えてもらいたかった。こういう定義はすべての学科にあるはずなのだが、そういった元の元について先生が教えてくれたという記憶がない。もっとも、きっちり教えてもらっていても右から左へ流れてしまっていたのかもしれないが・・。哲学についても、「存在」を論じているのだということを知るといままでわけのわからなかったものがなんだか、ここを見ればいいのだということがすこしずつわかってきた。学校で勉強するものもそういった指針をしっかり教えるべきではないのだろうかと思うのである。

化学と人間の関りの始まりは「火」を使うことからであると著者は考えている。『火は「燃焼」という化学反応にともなう激しい現象である。原始の人類は、山火事などに、他の動物と同様に「おそれ」を抱いて近づくことはなかったのだろう。しかし、私たちの祖先は「おそれ」を乗り越えた・・。』と冒頭に書いている。
その後、哲学者たちが物質とは何か、そしてそれを形作っているものはなにかという元素の概念を作り出した。
それと同時に、経験的には酸化した鉱石を還元することで純粋な金属を作り出すことができることを知り、石器から青銅の時代が始まり、さらに鉄の時代へと発展する。それぞれは大きな時代の転換点になっている。
そういった見方をしてゆくと、ひとつは、武器として何が使われたかということで歴史が変わっていく姿を見ることができるのではないかと思う。もうひとつは医薬品の進歩がもたらした歴史の変化だ。人を殺すことと人を生かすことという両極端なものであるが、このふたつが大きく歴史を作ってきたといえないだろうか。

様々な科学の発見から武器はどんどん進化してきた。化学が作り出した最初の武器は青銅製の武器だろう。それから鉄の武器。さらに火薬が生まれ、毒ガス、原子爆弾と殺傷力がどんどん強まり、最新の武器を手にしたものが歴史を作ってきたといっても過言ではないのではないか。

医薬品はどうだろう。薬というのは最初は植物の葉っぱや根などをそのまま使うものだったが、その中の成分を抽出する方法を見つけ、さらにその成分を人工的に合成できるようになったことで多くの人たちの寿命が延びた。これも大きな歴史の転換であっただろう。また、公衆衛生の面では消毒薬や殺菌剤などの開発が感染症を防ぎ、同じ技術は食料の増産にも貢献していく。これは知らなかったことだが、医薬品メーカーの源流というのは染料メーカーだったそうだ。ある種の染料は特定の細胞を染めるということが分かってくると、その性質を利用して薬効成分を特定の細胞に作用させるということが考え出されてきたそうだ。今でも残っているバイエルンという製薬会社ももとは染料メーカーであったそうだ。
近代の日本文学でもよく出てくる、アスピリンという鎮痛剤を開発したのはこの会社なのである。
医薬品は光だけでなく陰も作り出す。様々な麻薬はいちおう医薬品だが、世界の裏側で戦争を引き起こすきっかけやその資金源になってきたし、消毒薬や殺菌剤は人々に多大な副作用をもたらしたというのも歴史のひとつだろう。

著者はこれからの世界は環境をどう維持、改善してゆくかということ考えねばならないと書いている。冷媒に使われていたフロンはオゾン層を破壊するが代替物として開発されているものはオゾン層を破壊しなくても強力な温室効果をもたらすそうだ。廃棄されたプラスチックは紫外線などの影響でマイクロプラスチック化し生物に悪影響を及ぼす。自然分解するプラスチックはまだ、価格の問題や耐久性の問題を抱えている。
それらを解決してゆくのが未来の化学者の使命であると言っている。僕が大学に入る頃、化学というのはほぼすべて解明しつくされてしまった分野だから面白くないなどと言われていたが、そんなことはまったくないようである。これから先も解決しなければならない課題はたくさん残っているらしい。

話は最初に戻るが、人類は火を使うことから化学をはじめた。様々な害を引き起こしながらも豊かで便利になったけれども、核兵器という世界を滅ぼすことができる火を持ってしまったということは火を使うことを知ったものはその火によってその終末を迎えるのだと暗示しているようにも思えるのである。


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