やっと翠勝丸の船底塗装をした。一応、仕事が忙しくて9月も中旬になってしまった。
今年は初めて和歌浦漁港のスロープを使わせてもらうことにした。いつも船のことやその他諸々のことでお世話になっているちからさんの勧めだった。
ずっと以前から声をかけてくれていたが、自分で作業をやりきれる自信がなく、去年はいざというときはメンテナンスを丸投げできるいつもの工場で作業をしたが、少し自信がついたこと、そしてその請求書に“電源使用料 1000円”という、サンダー10分ほど回してこれはどう?と、どう考えてもちょっとボッたくってんじゃないかという項目があって、和歌浦は何もかも込みでもっと安くて、上架させてもらえる日数も融通を聞いてくれるということだったことが決め手になった。
9月15日から連休をもらっていたので上架の日もこの日でお願いしていたが、上架の手助け(というか、基本的にセルフサービスのようだ)をしてくれるちからさんはこの日、漁の手伝いがあるので前日ではどうかということになり、しかしながら僕はどうしても出勤しなければならないので無理を言って夜明けと同時に上架してもらうことにしたのだ。
夜明けは午前5時過ぎ、その時間に和歌浦港に入港するため午前4時過ぎにスロープに原チャリを置いて港へ向かう。
スロープは港からはなかり近いので15分で船のところへ到着だ。毎年は約40分の道のりを歩いていたのでこれも助かる。
出港時は真っ暗。曇り空のせいで空が明るくなってくるのが遅いようだ。
安全運転で和歌浦港に向かい、予定通り午前5時過ぎに和歌浦港に入った。実は漁港に入るというのは初めての体験だ。当然のことだがそこは生産の場、仕事の場だ。遊びで船に乗っているよそ者がおいそれと近づけるものではない。ましてや様々な設備がある中で勝手にウロウロするのは危険なことだ。
すでにちからさんはスロープにスタンバイをしてくれていた。そして僕も薄暗い中、生け簀なんかにぶち当たらないように慎重に指示された岸壁になんとか接岸。ここでは岸壁に横付けを指示されたのだがこれもやったことがない。へっぴり腰て岸壁と直角になった船を引き寄せてなんとか完了。
申訳ないことにあと2名、助っ人に来てくれていた。ちからさんが手伝っている網元の若船長とそこの従業員さんらしい。まったく氏素性のわからない人間のために夜明け前から出向いてくれるとは本当に申し訳ない。そして本当にありがたい。
若船長が船に乗り込んでくれて台車に接舷。スロープをウインチで引き上げられてゆく。なんだかカタパルトに向かって移動するウルトラホーク1号のようだ。
おまけにカキを落とすのは濡れているうちがいいからと出勤しなければならない僕に代ってやっておいてあげると言ってくれる。ちからさんが事前にそういことを説明してくれていたらしく、大阪まで行くんやろ?早く行っておいでと送り出してくれるのだ。本当に申し訳ない。
そして翌日にはきれいにカキが落とされた状態にしておいてくれた。
僕には想像もつかないが、漁師や農家というのはこうやってコミュニティのなかで助け合って作業をするのが当たり前のことであって、そういうやさしさというかそういうものを少しだけのつながりでしかない僕のようなものにも手を差し伸べてくれるのだろうか。そしてみんながそれぞれ技術を持っている。僕なんか何かをやってあげたくてもなんの術ももっていない。タジタジとなってしまう。
船底塗装の作業の中で一番の重労働がこのカキ落としだ。それを済ませてくれているので翌日は塗料を塗るだけだ。
作業の工程で、一番しんどい作業を一番最初にやらなくてはならないのでそこで半分心が折れてしまう。それをやってくれているのだから今回は楽チンだ。
そこでまた助っ人が現れた、というか、半分冗談で、外回りの仕事をしている前の職場の同僚、前回のタチウオ釣りで久々に出会った彼にこっちへ回ることがあったら差し入れ頼みますとメールを打ったら休みだったらしく、ペイントローラーを片手に手伝いに来てくれた。これまた怪しいメールを打ったばかりに本当に申し訳ない。釣り船のオーナーである彼は手際もよく半分近くの船底を塗ってくれた。
それで作業はあっという間に終わってしまい、道具を片付けた終わった時間はちょうど正午。去年は1日の作業で突貫工事だったとは言え、6時間も早く終わってしまった。
ほとんど他力本願の作業で、天気も他力本願、朝一は雨模様だったが塗料を塗り始める頃には雨も止み、日差しもないので暑くなることなく快適に作業を終えることができた。
家に帰って体重を計ると70㎏を切っていた。
健康にもいい1日であった。
翌日早朝、進水。
約束時間より少し早い目に到着して付近を散策。
このあたりは僕の魚釣りのルーツのひとつだ。
昔は画像の右端くらいのところに岸壁があって魚市場になっていた。今は「おっとっと広場」として建物だけが残っている。父親はその角でぼくにギンタ釣りをさせてくれた。そうして僕はウキ釣りを覚え、友達同士で行くときはここに水揚げされるシラスのおこぼれをいただいてそれをエサにしていたものだ。ヌルヌルした魚で、外道の筆頭のような評価しかもらえない魚だがそれが僕の最初の獲物だった。
その岸壁の裏側、今でも同じような風景だがここではガッチョがよく釣れた。
無事に船は再び海面に戻りその後は少しだけお手伝いをしてもらった人たちを逆にお手伝いさせていただいた。お手伝いをしていただいた方々はみんな漁業関係者で、シラス漁の船を台風16号の接近に備えてマリーナシティに船を避難させるのだが、帰りの足がなくなるのでみんなを乗せて港へ戻るのだ。
和歌浦漁協はマリーナシティを埋め立てるとき、漁業補償の代わりにここに漁船を避難させる権利をもらったそうだ。一時的な現金ではなく、漁協の将来を選んだというのは賢明な選択であったのだろう。
ここは貧乏人にはまったく縁のない超高級マリーナ。数千万円から数億はするだろうというクルーザーやヨットばかりが係留されている。
こんな経験はめったにないと僕の船も桟橋に係留して記念撮影。舞い上がってしまっていたので舳先が見切れてしまった。しかしどうだ、ヘッポコ船もコンクリート製というまったく揺れない桟橋に係留するといっぱしのクルーザーに・・・、見えないか・・・。
そんなこんなで無事に帰港。航跡はまっすぐ。最初の時はどこまでも行けるぞ!とそんな気持ちになる。(と言っても半径10キロだが・・・)