世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

ナズナ

2009-04-16 11:22:23 | 花や木
ナズナです。どこにでも生えている小さな花。でもマクロで写すとこんなにきれい。この美しさを知ってから、ナズナをまたぐたびに、今、とてもおしいものを見損なったという気持ちが起きるようになりました。

こんなきれいなものが、ごくふつうに、なんぜんなんまんなんおくと、ふつうに、そこらへんののっぱらやみちのすみに生えている。それを考えるだけで、この世界がいかに愛に満ちて美しいものかわかるのです。

さっき通り過ぎたナズナには、もう絶対に会えない。もしカメラを向けたら、信じられない美しさに出会えたに違いない。世界中のどこにもない、どれひとつとして同じ物のない、美しさに出会えたに違いない。それをわたしは、今ナズナを撮ったばかりだしと、とおりすぎてしまった。

実際に、美しいものは多すぎて、一個のカメラで捕まえられきれるものでありません。世界はキラキラおもちゃ箱。どうしても、全部見られない。みんなおんなじようで、みんな違う花。そして毎年毎年違う花。よくばりなカメラマンは全部のナズナの美しさを捕まえたいなんてばかげたことを考える。でもそれが無理なことも知っている。

なずな、なずな、どうしても捕まえられない花。ナズナの美しさに気づいたら、生涯ナズナばかり追いかけてしまう。一生撮り続けても撮りきれない美しさ。道の隅の雑草だからと振り向いてもくれない花に一生とりつかれてしまう。

こんなにもきれい。人生を全部ナズナのためにつかってしまいそうで、本当は、おそろしくて、ナズナをまたいでいく。きれいなものに気づいたら、気をつけないといけない。ときどき、恐ろしいことになりかけてしまうから。

野のすみの、小さなナズナに気づいたら、気をつけないといけません。撮ろうかな? 撮ったらきっときれいな絵ができるにちがいない。でも、ナズナばっかりとってしまう。かわいいから、あんまりかわいくて、きれいだから。

美しさの前には、ちゃんと心のバランスのとれる忍耐力が必要なのです。ナズナは美しいけれど、ここは心の誘惑に耐えて通り過ぎていかねばならない。でないと世界中のナズナを追いかけてしまう。

なぜナズナは美しいのか。ナズナは美しいけれど、美しいからこそ、こんななんでもない花になってそこらじゅうにいるんだ。みんなを、苦しめてはかわいそうだから。美とはときに、誰かを強く苦しめるものだということを、ナズナはよく知っているから。

この世界は美しすぎる。美しいものがありすぎる。なんでもない花の中に、永遠の愛がある。








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