世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

小鳥の神様

2015-08-11 05:28:58 | 月夜の考古学・本館

わたしは
小鳥の神様になりたい

それは小さな谷に住んでいて
その姿は大樹のようで
顔は月に似ているの
谷の小鳥が全てとまれるほど
枝がたくさんあって 笑うと
言葉の香りをした大きな風がまき起こって
豊かな髪がなびくように森が騒ぎだすの
そして左右に伸びた大きな両手には
こんこんと泉がわき出ているの

いつもは山の奥に眠っていて
時々 気まぐれに起き出すの
すると谷じゅうの小鳥が一斉に集まってきて
みんながわたしの体にとまるの
わたしは小鳥の顔も声も
一羽一羽みんな覚えていて
さあみんなに何をあげようかと考えるのが
一番の楽しみなの

右手の泉には
いつも静かな星明りを溜めこんでいて
そこからは千年に一度くらい
星のウサギが一羽 生まれてくるの
それは私のしもべで
谷じゅうを跳び回っては
鳥に渡りの時を教えたり
きれいな巣の作り方を工夫しては
小鳥の暮らしを助けてあげたりするのよ

左手の泉は 死んだ小鳥の魂を
洗ってあげるためにあるの
わたしのおなかのあたりには
やわらかな土の寝床があって
哀しみも幸せもみんな泉できれいに洗ったあと
小鳥はみんなそこですこやかに眠るのよ
そして時が満ちるまで 新しい夢を見るの

冬がいって 春の風がわたしをくすぐると
わたしは大声で笑い出したくなるの
すると わたしの中で眠りを終えた魂が
みんな歌になって口から出てくるの
そして魂は虹の泡のように空を飛んで
全ての小鳥に歌いかけるの

恋をしなさい! 恋を!

そうして小鳥は
また生まれてくるの
わたしの中で見ていた夢を
もう一度この谷で歌ってゆくために

ああ
小鳥の神様になりたい




(古い書類束の中からの発掘品。おそらく30代前半に書いたもの。同人誌用に書いたものをボツにしたものらしい)





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