ゆくへなき
ゆくへなき この身いづこに あづけむと さすらひびとの 影を描く月
とほき日の 雪に凍える 炭の目の わらはの魂よ 古家に憩へ
ひとひらの てふを小箱に とぢこめて 君に寄すこの 謎解きたまへ
すでになき ものをたよりと 背もたれて くづれゆく身の ゆくへを知るか
梅が枝に とをとひとつの 小鳥ゐて ささやきこめる 星のことのは
乾ききる 砂をグラスに ついで飲む 鉛の肺に 降り積もる虚無
蒼穹に 星組みて野に 愛の散る 白百合は待つ 受胎のここち
背を向けて 風の岩戸に 去りゆかむ 追ふものもなし たそがれの星
きぐるみの おのれを踊る うつせみの 世は一幕の かげろふの歌
ゆふやみの しづかにおりて 石のごと 重き荷となる 立てずとも立て
高光る 日のしたたりの 胸に映え さいはひに似し 孤独の痛み
(2012年、歌集「玻璃の卵(はりのかひ)」より抜粋)