リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

最強の弦?

2019年05月03日 22時07分11秒 | 音楽系
リュートを弾き始めてとっくに40年を過ぎてしまいました。下手すりゃ50年に届いてしまいます。その間いろんな弦を試してきました。自分の中のリュート史は弦の歴史でもあります。

26日のリサイタルにむけてフレットも弦も一新しましたが、今は以下のような弦の組み合わせでバロック・リュートを弾いています。

1コース→ナイロン(ガムート社製)
2,3コース→ナイルガット
4、5コースと6~13コースのオクターブ弦→フロロカーボン
6~13コースのバス弦→ローデドナイルガット

張力は、1、2コースが3.5キロ前後、ユニゾン弦、バス弦は3キロ前後、オクターブ弦はバス弦の85%くらいです。12,13コースはバスライダー保全のために10%くらい低めです。

せっかくのリサイタルだし、5月といういい気候の月なのでガットを使うということも考えましたが、コンチェルトではパワーが欲しいし、1コースや2コースのケバをいつも管理するのも面倒なのでやめました。

合成樹脂弦が切れないといっても細いナイルガット弦は、力学的な切れやすさから言えば、ガット弦よりよく切れます。といいますか、ガット弦が切れるのは、ケバが出てほつれてきて切れるのであって新品のときは細い弦であってもとても丈夫です。一方細いナイルガット弦は新品でも手で引っ張れば切れます。そもそも強度がないのです。2,3コースにナイルガットを使っておきながら、1コースにナイルガット弦の0.42あたりを使わなかったのはそういう理由からです。音色的にもちょっとキンキン気味でよくありませんし。

1コースのナイロン弦はガムート社製です。ガムート社はガット弦のメーカーですが、実はいいナイロン弦も作っています。音もクリアでそしてなにより精度がとてもよろしい。ピラミッド社のナイロン弦は精度が悪いのが多く、ひどいときだと8本目にしてやっと使えるのが出て来た、という経験があります。ガムートのナイロン弦はほぼ一発合格です。

フロロカーボン弦を使っているのは、温度に対する感受性からです。このフロロカーボンの替わりにナイルガットを使うという方法もありますが、太いナイルガット弦は温度の変化に対して、他の素材と反対の動きをします。すなわち、部屋の温度が上がると他の素材(ガットも含みます)は音程があがるのに対してナイルガット弦は音程が下がります。気温が下がる場合はその逆です。ガット弦やローデドナイルガット弦は気温変化による音程変化の度合いは少ないですが、ナイルガット弦はとても大きいのです。

ということで、切れにくい、気温の変化による音程変化がより少ないということを考えて上記の組み合わせにしています。6~8コースあたりのオクターブ弦がちょっと出過ぎる感じもしますが、耐久性と安定性のメリットはそれを補って余りあります。