(1)広島、長崎原爆の日を迎えて、8月15日終戦記念日の頃は日本の夏も少し雰囲気が変わる。この時期に自民党の麻生副総裁が台湾を訪問中だ。自民党のNo.2副総裁が台湾を訪問するのは初めてといわれて、これまでの最高位といわれる。
台湾で開催された国際フォーラムでの講演では「我々にとって今最も大事なことは、台湾海峡を含むこの地域で戦争を起こさせないことだ」(報道)と述べて、ここまではよかった。
(2)「お金をかけて防衛力をもっているだけではダメだ。いざとなったら台湾防衛のために使う明確な意思を相手に伝えることが抑止力になる」として「戦う覚悟です」と強調(報道)した。
ちょっと待ってくれ。岸田首相が「防衛力」増額を決めたのは日本の国家、国民の安全、生活、権利を守るためのものであって、台湾有事で日本が「戦う覚悟」のためなどではないはずだ。国民の大半はそんな風には思ってもいないはずだ。
(3)安倍元首相が推進した安保関連法でも、日本の存立が脅かされた場合に限り集団的自衛権を行使できるもので、麻生副総理の言う台湾のために「戦う覚悟です」は日本の防衛力構想とはかけ離れた異質の認識だ。
麻生副総裁は自民党長期政権を終わらせた当時の首相であり、09年民主党による本格的政権交代(民主党政権も3年半で自壊)につながった。
(4)こういう政治家が台湾訪問の講演で調子に乗ったところもあったのだろうが、まるで戦前の軍閥のような過激な発言をして台湾擁護をしてみせるとはあきらかなやり過ぎだった。岸田首相の防衛費増額5年で43兆円がこういうためにあるのかと疑念を持たれかねない、台湾での麻生問題発言だ。
(5)講演後の蔡英文総統との会談では、蔡氏は「日本は台湾にとっては大切な国際的パートナーだ」と述べ、台湾の先進的半導体事業で「政府と民間双方の連携を通じて、より強じんで安全なサプライチェーンを構築していきたい」(報道)と話を引き取って、蔡総統も中国との軍事対立関係を考慮してあまり中国を刺激したくない配慮が「戦う覚悟」の麻生発言ではなく経済関係強化発言に向かわせたとも考えられる。
(6)自民党安倍派の萩生田政調会長、世耕参院幹事長、昭恵夫人が相次いで安倍元首相とつながりの深い台湾を訪問しているが、この時期に自民党麻生副総裁が台湾を訪問する目的、意図がわからずに、冒頭でも書いたようにこの時期の日本の夏は少し雰囲気が変わる中で台湾を訪問し、前述のように講演で台湾のために「戦う覚悟」を強調してみせるなどとは、日本にとって、岸田首相にとっても大変迷惑な台湾発言だった。