(1)今年の政治の大きな出来事は、ドイツを16年間にわたって率いてきたメルケル首相の退陣だ。EUを仏とともに主導してきて、G7での保護主義、米国第一を唱えて気候変動会議、イランとの核合意、露との戦術核兵器削減協定からの離脱を表明したトランプ前米大統領の主張と真っ向対立して詰め寄るなど、国際政治でも存在感を示した。
(2)メルケル首相は中国との関係を重視してたびたび中国を訪れていたが、日本には数えるほどしか来日しておらず同じ自由主義、民主主義圏としては日独関係が緊密だったとはいえない。中国を重要視したのは成長する中国経済、巨大市場との関係強化をはかってのものか中国はドイツの最大の貿易国であり、またメルケル首相が旧東ドイツ出身であり、ソ連時代の共産主義圏であったことから特別な感慨もあったのかはわからない。
(3)それはもちろん興味本位な見方でドイツ経済、EUにとって中国経済、巨大市場との関係強化が必要だったとの大局的な判断があったと推測するが、うがった見方をすれば中国が軍事力強化で米中対立で世界の脅威になる中で、米ソ冷戦後のソ連崩壊にドイツが第2次世界大戦の反省、経験から中国に対して慎重な行動をうながす役割を担うことを考えていたのではともとれる。
(4)日本の軍備強化はかっての日本の植民地占領支配の苦い経験を持つアジアからは警戒をもってとらえられるように、日本とドイツが近づきすぎることは三国同盟の軍事歴史から世界からも警戒感をもってみられることが考えられて、日本もドイツも関係強化には慎重になることは考えられる。
(5)今でもG7国の日本とドイツは国連安保理の常任理事国には入れずに、歴史的責任の重さを感じさせるものだ。中国との関係強化を推進したメルケル後のドイツのショルツ3党連立政権は、中国を権威主義、専制国家として「厳格な対中外交指針」(報道)を示してメルケル政権とは一線を画している。
(6)来年の北京冬季五輪の外交ボイコット国が続いているが、メルケル首相だったらどう判断したのか、ドイツ・ショルツ政権では閣僚が次々と北京冬季五輪欠席を表明している。バイデン大統領は「民主主義サミット」を開催してトランプ後の米国の復権を目指しており、ドイツも16年に及ぶメルケル時代から変わろうとしている。
(7)国際政治は米中、米露を中心軸ではありながら、あたらしい世界の政治構図(new world political composition)が始まろうとしている。