ニヒルな中年、
「百年前のババアを利用して金もうけ、いかにもレンチューらしいや」
「おいおい、聞かれるぞ」
「かまやしない、ホントーなんだから」
「紙カップのソバが650円だよ、駅なら350円ぐらいだ」
「牛丼は500円、いや550円か」
「紙のコップのコーヒーが、300円、350円だったかな、それも、日によっちゃあ七分目だぜ」
「よく、見てるね」
「せめて、八分目は、入れろよ」
「ババアはダメだろう」
「深沢七郎は、もっと痛烈だね、
『くそったれババアーだよ』 」
「おいおい、そのくらいにしとけよ、どうして、そんなことを言ったのかな」
「深沢は山梨の出身でね、昭和初期の山村の現実を体験していた」
「・・・」
「生糸工場でね、16~17の娘がバタバタと倒れた、劣悪な環境と長時間労働だ」
「なるほど」
「深沢は、
『ジョコー(女工)という言葉を聞くと、ナミダがこぼれる』」
この二人は左翼思想の洗礼を受けているのかもしれない、
「この国の近代化のための犠牲か、一部の特権階級のための犠牲だったのか、
シャチョーさん
シャチョーさん
あなたのグラスに光るは
なんですか なんですか
シャンペーン
シャンペーン
いえいえ それはちがいます
いえいえ それはちがいます
かわいい ジョコーの
かわいい ジョコーの
血のナミダ 血のナミダ 」
「山梨や長野、栃木・群馬を行く時、ちいさな寺の前を通ったら、その寺の裏にある墓地を参拝してごらんなさい、きっと、
何々信女
行年 17歳
そんな文字を見ることでしょう 」
ニッポンのオトコは、
「なにひとつ不平をいうことなく、だまって消えていった少女たちのさびしげな笑顔が、見えるような気がするんですよ」