二銭銅貨

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夏の雨

2011-01-09 | Weblog
夏の雨

透明に、
青に抜けた空だったのに、
急に雨が降り出して、
もくもくとした雲の、
お天気雨。

パリに近い海岸のリゾートで、
人形を抱いた少女の眼に何かが写っている。
昆虫か、落し物か、小動物か。
何か、貴重で大事なもの。
一点を凝視して、
それを捕まえようとして、
急いで、
駆け出している。

素朴で無心。
無邪気で無垢。
木綿の素朴、
絹の無心。

風は一陣、爽やかで、すがすがしい。
雨、
雨なんか、
彼女は気にしてない。

大島和代、「夏の雨」、人形(絹、綿)、2003
東京国立近代美術館、工芸館所蔵

「おとな工芸館 涼しさ招く fujitv artnet」、
ブログ:「光と影のつづれ織り」2010年12月11日の記述、
などに写真有り

2010 夏と暮れに1回づつ見学
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東京物語

2011-01-07 | 邦画
東京物語 ☆☆
1953.11.03 松竹、白黒、普通サイズ
監督・脚本:小津安二郎、脚本:野田高梧
出演:笠智衆、東山千栄子、原節子、杉村春子、山村聡
   香川京子、三宅邦子

貞節を求める戦前の倫理観と、
自由を求める戦後の倫理観と、
その間に挟まれて、
身動きもならない紀子にとって、
義理の母の「再婚して欲しい」と言う言葉が救いだった。
戦後の倫理観の中へ一歩押してくれる一言だったから。

戦前の倫理観を代表する尾道から、
戦後の倫理観を代表する東京へ、
帰るには踏ん切りが必要で、
だから、じっと義理の母の形見を握り締めている。
形見は時計。

自分を「ずるい」と言う紀子にも苦しみがある。
そんな風には見えないけれど。
義理の両親につくしていることで救いがあるけれど、
でも、それは嘘をついていることになるのではないかと、
そこに後ろめたさがある。
貞節を守り、義理の両親につくすことで、
再婚したいという気持ちを覆い隠すことに
うしろめたさがある。

ゆったりした尾道の風、日差し、
夕焼け、
気さくな隣のおばさん。
末娘の京子ちゃん。
すべてがゆっくりして、
のどかだ。

騒音と、機械音にあふれ、
煙がもくもくあがる東京の煙突、
時間に追われている人々。
殺伐とした空気。
いそがしい。
いそがしい。

尾道から東京に向かう夜汽車は
ゴーと号泣しているかのごとく、
音を立てて走り去って行く。

体力も気力も落ちて来た親、
生活に追われて親の面倒どころでは無い子供達、
わがままで能天気な孫達。
優しい義理の娘。

さまざまな立場、
さまざまな時代、
いろいろな思い、
家族の写真集。

それぞれのキャラクターを演ずる俳優たちがすばらしい。脚本は俳優を当てて書いているのだろうか?原節子の「年はとらないことに決めてます」という趣旨のセリフが面白かった。

10.12.25 神保町シアター
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秋刀魚の味

2011-01-06 | 邦画
秋刀魚の味 ☆☆
1962.11.18 松竹、カラー、普通サイズ
監督・脚本:小津安二郎、脚本:野田高梧
出演:笠智衆、岩下志麻、佐田啓二、岡田茉莉子、三上真一郎

新鮮でピュアな感じの岩下志麻。
それでも、大きな通る声に迫力がある。
無垢のお嫁さん姿も堂々としている。
誰の妻になるのだろう。

岡田茉莉子はすでに怖い奥さん。
亭主を操縦しなれてる。
佐田啓二が完璧に尻に敷かれて、かよわい。

岸田今日子のやっているバーで、
軍艦マーチをかけながら、
海軍式敬礼をして歩調をとっているのが加東大介。
笠智衆は駆逐艦艦長だ。
昔を思い出すと楽しくもあり、
悲しくもあり。

ちょっとだけ出て来る杉村春子の
うらぶれてささくれ立った様子が鮮烈。
東野英治郎のぐだぐだした酔っ払いの芝居と共に際立っていた。
中村伸郎、菅原通済、高橋とよなど、
名優の名演技が盛りだくさん。

軽い感じの作品で、
最後は娘の居なくなった我が家の台所で、
父親の笠智衆がコップで水を飲むシーン。
なんか、笠智衆はまだまだやるぞっていう感じだったし、
小津さんも、まだまだ映画を取り続けるぞっていう、
そんな感じの小津さん最後の作品。

10.12.19 神保町シアター、1980年頃に銀座並木座、2006年頃にVTR。
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お早よう

2011-01-05 | 邦画
お早よう ☆☆
1959.05.12 松竹、カラー、普通サイズ
監督・脚本:小津安二郎、脚本:野田高梧
出演:久我美子、笠智衆、三宅邦子、設楽幸嗣、島津雅彦
佐田啓二、沢村貞子、三好栄子、杉村春子、田中春男
東野英治郎、長岡輝子、高橋とよ

おならに始まって、
おならに終わる。
もらしてしまった杉村春子の息子役の、
土手の青空を背景にした、
なんとも動きの取れない極まった姿が良い。

土手の緑の斜面、
コンクリの細い階段、
その両脇のコンクリの板をはめ込んだ斜面、
駆け上がる子供たち、
雲、空、高架線、土手の道。

セリフの中に「ガス橋」が出て来るので多摩川のどこか川沿いの地域が設定らしい。ガス橋は中原街道が多摩川を渡る部分。ロケもそのあたりで撮影したのであろう。当時のラジオ関東(現在、ラジオ日本)のアンテナらしきものが見える。佐田啓二と久我美子が無駄話をしている駅はウェッブによると「八丁畷(はっちょうなわて)駅」で、ちょっとはなれた所にある駅。

定年まじかのおじさんたちのショボクレと、
暴発するおばさんパワー、
子供達の無邪気さ、
能天気な青い空。
楽しい喜劇。

杉村春子を背景にグチる三好栄子がいい。三好栄子が杉村春子を「なんであんなのをヒリ出したんだろう」みたいな事を言う。怪演だ。ムズムズしてくる。

冒頭の音楽はモーツァルトの曲をだいぶアレンジしたような感じのコミカルなもので、最後もそれを使っていた。音楽は黛敏郎。

10.12.19 神保町シアター
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風の中の牝鶏

2011-01-04 | 邦画
風の中の牝鶏 ☆☆
1948.09.17 松竹、白黒、普通サイズ
監督・脚本:小津安二郎、脚本:斎藤良輔
出演:佐野周二、田中絹代、村田知英子、笠智衆

戦争の鉄槌は、
様々な暮らしの中に、
多くの刺を残し、
殺伐たる戦後すぐの東京の風景の中に、
人々が懸命に生きる姿がある。

こんな風景を今撮ろうと思っても。
何処にあるものでも無く、
人々の気分や風情を含めて、
そういうものは今は跡形もない。
あのときに撮影しなければ、
残らなかった風景だ。

建設中なのか、戦争の残骸なのか、
円筒形の骨組みの大きな構造物が、
庶民の家屋の屋根の上に、
空を不気味に覆っている。
冷酷な戦争の悪魔の残骸なのか、
人々を救おうとしている精霊の宿るものなのか。

風は冷たく、社会は寒い。
痛烈で、のこぎりのような人々。
それでも優しい人々が居て、
人情に篤い。
目玉が大きくて、
ギョロリとした表情の村田知英子が印象的。

素朴で純真な田中絹代が総て。
一所懸命な田中絹代。
両手を組み合わせて、
必死に祈る田中絹代。

烈風や強風の中、
子供達を守りながら必死に生き抜いている牝鶏、
足を挫いても、
夫が居なくなっても、
素朴に無心に頑張っている牝鶏。
主人公が牝鶏に見えてしまうのは、
田中絹代の芝居の故であろうか。

主人公が急階段を落ちるシーンがある。当時としては破格にインパクトのある映像だったんではなかろうか。小津さんの映画ではめずらしい。ウェッブによるとスタントをつかったらしく、本人では無いらしい。

素朴で愛らしい映画。表面上はほとんどそれらしく無いが、反戦映画であるようだ。

10.12.11 神保町シアター
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