令和5年1月7日
島根に誘う森の香り クロモジ 焼酎やビール、旅行資源にも
「森の香り」の特産化で観光客を呼び込め。
島根県で、生薬の原料などで知られる樹木クロモジの活用が広がる。
爽やかな芳香を生かした焼酎やビールなどが登場。
クロモジを使ったサウナや料理を体験する旅行企画も立ち上がった。
自生する地域資源の活用に加えて県は、栽培マニュアルを整えて生産を後押しする。
獣害に強く県も栽培後押し
クロモジは、本州から九州に広く分布するクスノキ科の落葉低木。
黒い樹皮に斑点があり、文字に見えることからその名がついたともされる。
リナロールというラベンダーやローズウッドなどに似た香り成分を含み、
古くから葉は茶、根皮は健胃薬の原料、枝はようじなどに使われてきた。
隠岐諸島・海士町の「ふくぎ茶」など、各地にクロモジ茶を飲む習慣が残る島根県。
松江市美保関町には正月にクロモジの枝に餅を刺す「もち花祭り」なども伝わる。
クロモジ文化の伝統を継ぐ同県で、新たな特産品づくりが始まっている。
益田市匹見町でワサビなどを栽培する葵屋と市内の酒造メーカー・岡田屋本店は
クロモジの焼酎「黒文字焼酎HIKIMI烏樟森香(うしょうもりのか)」を開発した。
県産大麦のもろみにクロモジの枝を混ぜて蒸留し、香りを引き出す。
2019年の発売以来、口コミでファンを増やし、売り上げは右肩上がり。
葵屋の安藤達夫代表は「料理の邪魔をしない香りなので、食中酒でも楽しめる」と勧める。
同市の高津川リバービアはクラフトビール「クロモジギャルド」を提供する。
ビールとクロモジの合わさった香りが、男女問わず人気だという。
販路を絞り、売り上げの半分は店内で販売する。
同社の上床絵理社長は「益田に来てもらうきっかけにしたい」と話す。
クロモジを使った旅行企画も進行中だ。
ブランディングネットワークしまね協同組合は今春、クロモジの香りを満喫できる観光ツアーの開始を予定する。
「癒やし」をテーマにクロモジの精油を使ったサウナ体験や、クロモジを使った豆腐などの料理を組み込む。
昨年10、12月に体験モニターを行い好評だった。
同組合の大谷修司副理事長は「現地でないと体験できない自然の香りは大きな武器。
観光資源として活用したい」と力を込める。
利用拡大に伴い、栽培する人も出てきた。
葵屋は山林で採集する他、畑1アールで栽培もする。
県中山間地域研究センターによると県内で約10戸が栽培。
生産者からの要望に応え、21年には「栽培の手引き」を作成した。
同センターは「育てやすく、獣害に強い。用途が増えれば農家の所得向上につながる」と期待する。