令和5年3月3日
諫早開門判決「失効」確定
干拓事業訴訟で国勝訴・最高裁
国営諫早湾干拓事業(長崎県)を巡り、潮受け堤防排水門の開門を命じた確定判決の無力化を国が求めた訴訟で、
最高裁第3小法廷(長嶺安政裁判長)は1日付で、漁業者側の上告を退ける決定をした。
確定判決の効力は失われたとした二審福岡高裁判決が確定した。
開門を認めない事実上の統一判断で、裁判官5人全員一致による決定。
国に「開門」と「非開門」の相反する義務を課した司法判断のねじれ状態が解消されたことになり、
漁業者側が求めた開門の実現は困難となった。
漁業者側が起こした訴訟では2010年、福岡高裁が国に「3年以内に5年間の開門」を命じた。
国は上告せずに確定したが、開門に応じなかったため、漁業者側への制裁金支払い義務が生じた。
一方、長崎地裁が13年、営農者側の訴えを認め、国に開門の差し止めを命じる仮処分を決定した。
国は14年、状況を打開するため、開門を命じた確定判決は効力を失ったとして制裁金の支払いを強制しないよう求め提訴。
一審佐賀地裁は訴えを退けたが、二審福岡高裁は18年、「開門請求の根拠となる漁業権は消滅した」と判断。
一審判決を取り消し、制裁金の支払い義務を否定する国側逆転勝訴の判決を言い渡した。
最高裁は翌19年の上告審判決で、漁業権の消滅だけでは確定判決の効力を失わせる理由にならないと指摘。
開門を強制することが権利の乱用に当たるかについて、さらに検討する必要があるとして審理を高裁に差し戻した。
昨年の差し戻し審判決で高裁は、堤防閉め切りから長期間が経過し、漁業への影響は軽減していると判断。
国から漁業者側に制裁金約12億円が支払われたことなども考慮し、
開門の強制は権利乱用に当たるとして、改めて確定判決の失効を認めた。
干拓事業を巡っては、開門を認めない司法判断が相次いだ。
最高裁で19年、タイラギ漁とアサリ養殖の漁業被害を認めた
一方、堤防閉め切りとの因果関係を否定して漁業者側の請求を棄却した福岡高裁判決など2件が初めて確定している。
◇諫早干拓事業を巡る司法判断
1986年12月 干拓事業に着手
97年 4月 潮受け堤防閉め切り
2000年12月 有明海でノリの色落ちが深刻化
02年11月 漁業者らが開門を求め佐賀地裁に提訴
08年 4月 干拓地で営農開始
6月 佐賀地裁が開門を命じる判決
10年12月 福岡高裁が開門を支持。国が上告せず判決確定
13年11月 営農者側の申し立てに長崎地裁が開門差し止めの仮処分。司法判断ねじれ
12月 開門を命じた確定判決の履行期限。国は応じず、制裁金支払い義務
14年 1月 国が開門確定判決の「無力化」求め提訴
12月 一審佐賀地裁が国の訴え退ける
17年 4月 開門を巡る別の訴訟で長崎地裁が開門差し止め。国は開門しないと表明
18年 7月 二審福岡高裁が「漁業権の消滅」を理由に開門判決の「無力化」認める
19年 6月 開門を巡る別の訴訟で、開門を認めない2件の判決が最高裁で確定
9月 最高裁が「二審は審理不十分」と高裁に差し戻し
22年 3月 差し戻し審で高裁が「開門強制は権利の乱用」と改めて無力化認める
23年 3月 最高裁で開門判決の無力化が確定。開門を認めない統一判断
津山市は、諫早市と友好交流都市(昭和56年7月28日締結)
相互の交歓を基に友好と親善を深め、市政の進展と市民福祉の向上を期する。
諫早市 (city.isahaya.nagasaki.jp)
令和4年7月に諫早市を訪問する。
野村農水大臣「よかったの一言。もう訴訟だけはおやめいただきたい」
諫早湾の干拓事業をめぐる最高裁の決定により、排水門を開けない方向で決着する見通しとなったことを受け、
野村農林水産大臣は臨時の会見で、「よかったの一言だ」「もう訴訟だけはおやめいただきたい」と話しました。
1997年に干拓事業で閉め切られた長崎県の諫早湾。
これまで、
▼漁業者側の訴えで排水門を開けるよう命じた判決と、
▼逆に干拓地の農業者らの訴えで開けないよう命じた判決があり、司法判断が矛盾する形が続いてきました。
去年3月には、福岡高裁が排水門を開けるよう命じた過去の判決の効力をなくす判決を言い渡しました。
一方、漁業者側は漁業被害などを理由に門を開くよう求めて上告して争っていましたが、
最高裁は1日付でこの上告を退け、判決が確定しました。
これを受けて、野村農水大臣は臨時の会見を開きました。
野村農水大臣
「よかったの一言です。もう訴訟だけはおやめいただきたいなと。
でないと、せっかくの宝の海が持ち腐れになってしまうおそれがありますので、できるだけ話し合いの上で、
我々国の支援で何とか再生をしていただきたいと、こんなふうに思います」
また、「判決からきょうに至るまでの国の対応について、厳しいご指摘があることは承知しております。
ご指摘を真摯かつ謙虚に受け止めます。
『話し合いの場』を設けるとともに、必要な支援を講じてまいります」
「有明海の再生は、開門、開門反対の立場にかかわらず、早期の実現を願う思いは同じです」などとする大臣談話も発表しました。