今のままだと脱税が横行すると思う。
なにがって、消費税の複数税率の導入である。当初、財務省は複数税率の導入には反対であった。しかし、自公政権からの突き上げに抗しきれないと踏んだのか、俄かにその導入を容認する方向に転進した。
しかし、転んでもタダでは起きないのがエリート役人である。ただでさえ10%への段階的導入を遅らされて、背水の陣であり、これ以上の歳入減少は断固として容認できない。
減税でもある複数税率の導入が止む無きだと云うのならば、かねてからの課題を解消することを目論んだ。それがインボイス制度の導入である。インボイスは税額票のことで、欧州などの大型間接税を採用している国では一般的なものだ。
仕組みは簡単で、収入にかかるインボイスと、支出にかかるインボイスを集計し、その差額を納付もしくは還付請求するだけだ。このインボイスを発行できるのは、消費税の納税義務者だけで、規模の小さくて消費税の納税義務がない事業者には発行できない。
よく日本でも、こんな小さなお店で消費税をとることを訝ることがあるが、日本ではインボイス方式ではなく、帳簿計算方式で消費税を計算する。その為、実際には消費税の納税義務がない小規模事業者でも、お客から消費税をとることは違法ではない。
ヘンに思われるだろうが、そもそも消費税は税込が前提で法律が構成されており、規模が小さい(売上1000万以下)場合は、法律で消費税の納税義務がないと銘記されている。つまり消費税を上乗せしてもいいし、それを納めなくても適法なのだ。
だが、インボイス方式を採用すると、インボイスを発行出来るのは、あくまで消費税の納税義務者だけである。小規模事業者が消費税を上乗せすることが出来ない構造となっている。
インボイス方式ならば複数税率もまた容易に実現できる。生活に必須な食料品などを低減税率とし、それをインボイスで表示すれば済む。ただし、事業者はインボイス発行という事務負担が増えることは確かで、その点はたしかにデメリットだと云える。
しかし、現行の日本では、消費税は帳簿計算方式である。この方式だと、複数税率を採用した場合、帳簿の上での誤魔化しが容易となる欠点がある。だから、私たち税理士業界では、消費税の複数税率には反対であった。
なぜかインボイス方式の導入にも反対する意見はあるが、私は複数税率が導入されるならインボイス方式への変更は必然だと思っている。思ってはいるが、複雑な気持ちもある。
たしかにインボイスを導入すれば、小規模な事業者が売り上げに消費税を上乗せすることが出来なくなる。つまり今までのように消費税分を懐に入れることは出来なくなる。
このことを良いことだと思う人は少なくないだろうが、率直に言って現場を知らないからこその意見だと思う。消費税の納税義務がないはずの小規模事業者は、商品などを仕入れる時に、仕入れ先に対して消費税を払っている。
従来、その仕入れにかかる消費税を売り上げに転嫁していただけであり、彼らには脱税の意識はない。むしろ当然だと思っている。だが、インボイス方式が導入されると、仕入れにかかる消費税は従来通り払わねばならず、それを売り上げに転嫁できない。つまり差し引きの純利益は確実に減少する。
インボイス方式は、小規模な事業者に厳しい制度とならざるを得ない性格を持つ。このことを指摘しているメディアは少ない。マスコミの勉強不足はいつものことだが、毎度ながら困ったものである。
とはいえ、現行の帳簿計算方式では脱税が横行するのは明らかなので、インボイスの導入は不可避と思う。そうなると、困るのは規模の小さい店舗や、零細法人である。
実は対策がないわけではないのだが、今のところ私案に留まっているらしい。小規模事業者は政治力が弱く、マスコミは大企業優先なので知られていないのだ。難しいことではない。インボイスを発行できない事業者、つまり消費税の非課税事業者に対しては、その取引に消費税を載せることを禁じればいいだけ。
ただ、これは仕入れ先等にとっては、かなりの事務負担となるので二の足を踏む。だから大企業の代弁者である経団連などは無視している。マスコミも広告主様である大企業に不利なことはあまり報じたがらない。なにより勉強不足で知らないし、零細企業への関心も薄い。
いずれにせよ、消費税の増税とインボイス方式の導入は、日本の零細店舗、零細法人を苦しめることは間違いない。このことは覚えておいて欲しいものです。