ウルトラマンよりレッドキング、仮面ライダーよりも蜘蛛男。
どちらかといえば悪役好きな私は、プロレスでも悪役贔屓である。しかし、外見的に好きになれなかったレスラーもいる。その代表が「まだら狼」こと上田馬之助だ。
190センチの長身であり、大相撲出身のがっちりした体形なのだが、腹が出ているのが嫌で、あまり好きになれなかった。日本人レスラー初の悪役専門が上田馬之助だと云われているが、実力は相当なものであった。
あの悪役王であるタイガー・ジェットシンが認めた数少ない相方であり、二人で肩を組んで入場する場面をご記憶の方もあろうかと思う。サーベルを振り回すシンと、竹刀で叩きまくる上田の入場時には、リング近くの観客は逃げ回って楽しんだものである。
ターバンにサーベル、褐色の逞しい体躯のシンが目立ちすぎて、上田は地味な存在であった。猪木は上田を評して、プロレスラーとして技術は一流だが、プロとしての地味すぎたと言っていた。上田本人は本来非常に真面目な人柄であり、なおさらプロレスラーとしての立ち位置に悩んでいたそうだ。
そんな上田を私が見直したのは、UWF勢が新日本に戻ってきたときだ。新しいプロレスを目指して独立したものの、経営的に失敗して戻ってきたUWFの若者たちは、新日の本家相手に暴れて人気を取り戻した。
従来のプロレスではあまり使われなかった本格的な蹴り技、関節技を主体とするUWF勢には、さすがの新日本プロレスのベテラン勢も苦労した。そんな時、新日本の助っ人として参戦したのが上田であった。
エース格であった前田日明相手に、いきなり寝技を仕掛け優勢に試合を進めたのには驚いた。しかし、さらに驚かされたのは、TVの放送が始まる時間になると、地味な寝技の攻防を止めて、立ち技主体の試合に切り替えたことだ。
ご存じの方も多いかもしれないが、UWFは蹴り技に自信をもっている。それを承知でTV映りを考慮しての立ち技主体の試合にも対応した上田の実力は相当なものだと分かった。実際、前田相手に寝技、立ち技の両方に応じてプロレスを演じられたのは、マードックと藤波くらいで、猪木でさえ嫌がる前田の蹴りを受け切った上田の面目躍如であった。
もっとも外見が地味で、性格までもが地道であった上田なので、人気が爆発することはなかったと思うが、実力派のプロレスラーとしての評価が高まったことは確かだ。
私は上田が交通事故で引退する少し前に、四谷の路上で本人を見かけたことがある。もう60代半ばだったと思う。身長が190近くあるので目立つのはともかく、さすがに老齢だけに筋肉量は落ちていた。だからこそ、その骨格のぶっとさが目についた。こりゃ強かったはずだわ。
私見だが、ケンカが素で強い奴には、体格がごつい奴が多い。特に骨太の奴らは、特段格闘技などやっていなくても、その圧倒的な体格差でケンカに勝ってしまう。おそらく上田馬之助もこのタイプだったと思う。
日本人初の悪役専門プロレスラー上田馬之助は、今少し知られていてもおかしくない名レスラーだったと思います。