私が十代の頃は、サッカーにおいて韓国に勝つことは不可能だと思っていた。
その位、両国の間には実力差があった。チェ・スンポやチャ・ブングンの全盛期を見ていたので、その実力差に絶望さえ感じていた。何故にこれほどまでの格差が生じたかといえば、日本独特のアマチュア至高主義である。
具体的にはメキシコ五輪の銅メダルである。クラマー・コーチの指導の下、釜本らがオリンピックで銅メダルを取った時、日本は勘違いをした。もう日本は世界のトップクラスに並んだのだと。
当時の日本は五輪で活躍してこそ華。アマチュアイズム絶対の妄論を信じ込み、サッカーの世界ではプロ選手が参加するワールドカップ大会のほうが遥かに格上だと知らなかった。だから日本よりも早くサッカーのプロリーグを作り、全国規模の選抜により優秀な若者を強化して世界に挑ませた韓国とは実力差が広がるばかりであった。
日本の勘違いに気が付いたサッカー関係者は、川淵三郎のプロリーグ設立こそサッカー弱者の立場を変える唯一の方法だと考え、遂にJリーグが設立された。オフト監督のもとで最終予選にまで進み、あと一歩のところでイラクに敗れたドーハの悲劇は、その後の強化策の原点となった。
Jリーグ人気に便乗して高校サッカーでは外国人コーチを採用し、海外からの留学生まで招聘して強化に努めた。プロチームは若手主体の二軍を作り、地域ごとにリーグを作って高校サッカーとは異なる強化策を作り上げた。
福島にJヴィレッジを設立し、若手のサッカー選手の育成専門設備を活用するなどして裾野の広いサッカー強化策を実施してきた。あれから20年、その成果がようやく出てきている。ロシア・ワールドカップ大会及びカタール・ワールドカップ大会において世間的には無名の選手が活躍して決勝トーナメントに進出したのは偶然ではない。
Jリーグに注目している人には、三苫や富安、田中碧は注目選手だったが、マスコミが特に取材していなかったために世間的には無名だった。今も野球選手ほどのスター選手こそいないが、実力的には欧州のプロリーグで活躍できる人材は数十人に上る。
これは地味ながらも裾野の広いサッカー強化策を粘り強く続けてきた成果である。Jリーグ当初は若く才能ある選手を十代前半で欧州に送り込んだりして失敗していたが、現在は高校サッカー及びJリーグのユース部門で育成してから欧州に売り込んでいるため、いざ日本代表に招聘しても適応が速い。
これはアルゼンチンのメッシやブラジルのネイマールらが欧州で育っているため、母国の代表チームになかなかフィットしないことを思えば、非常に賢い方法である。あまりに若すぎる選手の海外挑戦は、むしろ失敗することが多いことからの反省でもある。
スーパースターこそいないが、実力ある若手選手の多彩な育成が、現在の日本サッカーの強さを支えている。
では現在、日本に連敗を重ねている韓国はどうか。私はさほど弱体化しているとは思っていない。実際、ロシア大会でもカタール大会でも日本と同様に決勝トーナメントに出場している。ただ選手層が薄い。欧州のプロリーグに参加している選手は、一桁台であり二チーム作れるほどの日本とは明白な差となっている。
これは幼い頃から才能のある選手だけを選抜して強化してきたため、本来最も才能を伸ばせる十代後半に新たに登場するような選手を見いだせずにいる。また勝ち負けのあるスポーツだけに、負けたチームの選手たちが将来も頑張ろうとする第二の人生のステージが築きにくいことも影響している。
サッカーが生活に根付いている欧州や南米では、代表選手になれなくても地元の町のコーチやサッカー場の管理者などになり第二の人生を歩むことが出来る。日本もこれに近づきつつある。ところが人口が6千万台であり、サッカーは選ばれた選手だけが続ける韓国では、第二の人生にサッカーの世界は敷居が狭すぎる。そのため、他のプロスポーツを目指す若者が少なくない。
具体的に数字を上げると、日本のプロサッカー選手は1700名あまり。それに対して韓国のプロサッカー選手は800名足らず。コーチや施設管理者などを含めたサッカー関係者は、日本が70万人余、韓国が9万人程度。人口比は二倍程度ですが、サッカーに関しては圧倒的に日本が母数が多い。これが現在のサッカーにおける格差となっている訳です。
まぁ両国ともに少子化が進み、人口減少が予測されていますから、案外と今が最盛期の可能性もありますね。