ピアノの演奏が好きになったのは、多分大学生の頃だ。
ジャズピアノを録音したテープをWV部の先輩が合宿に持参して、小型携帯用ラジカセで聴いたのがきっかけだったと思う。
アルプスの標高3000メートルの稜線にあるキャンプ場で、夜に小さなラジカセから流れるジャズピアノの音があまりに印象的であった。忘れもしないその曲は「ワルツ・フォー・デビー」演奏はもちろんビル・エヴァンスであった。
星に手が届きそうなアルプスの山稜で、夜空を枕に聴くジャズピアノの音は私を魅了した。山を下りてからも、あの感動は忘れがたく、吉祥寺のジャズ喫茶で時間を潰すようになったのは懐かしい思い出。
その後、社会人になったが、身体を壊して長い療養生活に入る。そのあまりの退屈さに精神を病み、そこから抜け出すために税理士の国家試験に挑むことにした。別に税理士になりたかった訳ではなく、なにか病気を忘れさせてくれる時間が欲しかっただけだ。
勉強に集中している間は、脳裏にこびりついた病気のことを忘れられる。だからこそ、あの退屈な受験勉強に耐えられた。
とはいえ、次第に身体が元気になると、なにか気を紛らわすものが欲しくなる。具体的には、勉強している間に流すBGMが欲しくなってきた。
しかし、ヴォーカルの入っている曲はダメだ。意識が歌詞を追いかけてしまい、勉強の妨げになる。また、あまりに勇壮な曲や、賑やか過ぎる曲も勉強の妨げになる。
あれこれ試したが、一番良かったのがクラシックのピアノ・ソロであった。どちらかといえば、クラシックに縁がなかった私だが、長引く難病で病み疲れた私の心を一番癒してくれたのがショパンのピアノ曲だった。演奏者はウラジミール・アシュケナージが一番のお気に入りであった。
あれから20年以上の歳月を過ごしたが、今も夜半寝る前にピアノの曲を聴くことはままある。その流れで、ユーチューブでもしばしばピアノの演奏を聴いているのだが、昨年位からストリートピアノと呼ばれる番組をよく視聴していた。
駅や空港など公共の場所に置かれ、自由に弾くことの出来るピアノである。もっとも、見知らぬ他人の前で弾くのだから、腕に覚えがないと無理だと思う。
そのストリートピアノの世界で現在、一躍有名になっているのが「ハラミちゃん」という女性である。
御多分に漏れず、幼少時からピアノを習い音大に進んだものの才能の差に愕然とし、卒業後は一般企業で働いたが馴染めずに退職。誘われて弾いたストリートピアノで、その楽しさに目覚めた。
その演奏をユーチューブにアップしたところ、俄然注目を集めてあっという間に人気のユーチューバーになり、CDまで出す人気者となった。
私も今年は自宅で暇をつぶすことが多く、ネットであれこれ見たり聴いたりしていたなかで、彼女の番組に注目した一人だ。ストリートピアノを使ったユーチューバーは結構いる。
菊池亮太さんや、かてぃさん、けいさん、ジェイコブ・コーラーさん辺りを私は聴いている。そのなかでも、ハラミちゃんの演奏は非常に分かり易いというか、曲の解釈が易しく明確だ。だからこそ人気が出たのだと思う。
率直にいって私は音楽全般にド素人である。だから私の評価の基準は、もう一度聴きたいかどうかで決まる。技巧的にいうならば、ハラミちゃん以上の奏者はいると思うが、楽しんで聴かせてくれる点で、私の評価は非常に高い。
もし宜しかったら、ネットで楽しんで欲しいです。
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