たいへんに失礼な話ではあるが、私はメキシコには行きたくないと思っている。
特段、メキシコ人から被害を受けた訳でもなく、いささか過剰な反応であることは自覚がある。では、何で嫌なのかというと映画「ディスペラート」の影響が大きい。あの映画の中で描かれているメキシカン・マフィアの残酷さにおぞましいものを感じたのが契機だった。
ピアノ講師の腕を切り落とすのもひどいが、あの目玉を抜き取る遣り口の残虐さは理解を絶する。なにを映画で嫌っているのかと思われるだろうが、あれが概ね事実に基づくことぐらいは知っている。ウィンズロウの「犬の力」における麻薬マフィアの凄まじさも同様だ。
もちろん似たような残虐さは、世界各地の非合法組織で見られるし、苛烈な拷問で知られる歴代のトルコ王朝や中華王朝も目を覆うほどの残虐な刑罰で悪名高い。だがメキシコの犯罪組織の残酷さは一味違う印象が強い。
なんとなくだが、湿った残虐さを感じる。鬱屈したものが突如湧き出して、埃のように舞い散って残酷さを見せつける。そこには人間が野生の獣の延長であることを想起させずにはいられない。無秩序に、無造作に、そして無情に残酷なのだ。
実は私、とんでもない妄想を信じています。それはスペイン人に虐殺されたアステカ文明の呪いです。実際にはスペイン人により持ち込まれたインフルエンザや梅毒に対して絶望的に免疫を持たなかった中南米の原住民は大量の病死により衰退しています。しかし、それを加速させたのがスペイン人の奴隷制度であったことは事実でしょう。
現在、メキシコに住む人々で純粋な原住民はほぼ皆無であり、大半はアフリカから連れてきた黒人奴隷との混血です。そしてスペイン人との混血が支配階級としてメキシコの政治を牛耳り、大土地所有者として多くのメキシコ人を貧困に追いやっている。
もちろんメキシコ人もこの状況を変えようと改革を志したことは何度もあります。しかし、いずれも既得権者の妨害に遭いとん挫しています。私はこれをアステカの呪いだと勝手に呼んでいます。
このような格差社会において麻薬業は、貧乏人が成りあがる数少ないチャンスでもあります。麻薬が体に悪いことは知っていても、その麻薬を使うのはアメリカ人。アメリカがメキシコ人の人件費が安いことを知っていて、暴利を貪っていることは周知の事実。なれば、麻薬を輸出して、富を取り返して何が悪い。
だからこそメキシコにおいて麻薬組織は必ずしも犯罪組織として憎まれる訳ではない。むしろメキシカン・マフィアとまで呼ばれる麻薬組織同士の争いのほうが疎まれる。でも報復が残虐で恐ろしいので誰も口に出せない。
そんな状況下でアメリカの西海岸で良質なマリファナを製造販売する二人のアメリカ人が、メキシカン・マフィアに狙われた。二人の友人である女性を誘拐して下請けとして協力するように強請られる。
果たして二人は女性を救出できるのか。
凄まじいクライム・ミステリーである「犬の力」に比べるとかなり軽い読み口ですが、アメリカとメキシコ、アメリカの官憲とメキシカン・マフィアの関りを知るのには入門編として良いかもしれません。
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