ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

失神して分かったこと

2017-09-26 12:48:00 | 健康・病気・薬・食事

30年前、私が長期間の入院をしていた某大学病院の内科病棟は、新しく建て直された綺麗な建物であった。

また病棟の管理者であるN教授は、大学病院全体でも筆頭と云える存在であり、医師からも、また看護婦からも、ここで働きたいとの希望が多かったと聞いている。

そのせいか、医師も看護婦も優秀な人が多かった。もちろん例外もいたが、全体としては良かったと思う。これは、長期入院している患者たちからの意見なので、客観性は乏しいと思うが、吾が身を委ねる側からの意見なので、それなりに説得力はあると思う。

この病棟の看護婦さんたちのリーダーは、婦長のAさんである。小柄ながら、しっかりとした働き者、頑張りぶりであり、おまけに美人であった。間違いなく優秀な方だと思う。

でも、長く入院していると気が付くことがある。それは、なにか緊急時とか重要性の高い状況になると、教授や助教授、講師の先生方が呼び寄せるのは、Aさんだけでなくはなく、年配のBさんも呼び寄せていることに。

ちなみにBさんは、准看護婦である。その病棟に准看護婦はBさん一人であったから、余計に浮いてみえた。私が入院した年の新人看護婦のCさんは、いつもBさんと組まされていた。

はっきり言って、力量の差は明確であった。医療に素人の私でさえ、Bさんが技量が高いことはすぐに分かった。退院後の話だが、私がCさんをデートに誘いだしての話のなかで、病棟で実力一番の看護婦はBさんだと、Cさんは自ら認めていた。

でも、Cさんはこうもいった。「でも、Bさんは准看護婦だから婦長にはなれないの。仕方ないのよね」と。私はその言葉に、強烈なエリート意識を感じた。Cさん自身は、新人だから仕方ないけど、いつもBさんに助けてもらっていた。教えてもらっていた。それでも、看護婦と准看護婦の地位の差は、Cさんにとっては自明の理であった。

高い能力をもっていても、決して婦長にはなれぬBさんは、意図されてあの病棟に配属されたのだと思う。そして、そのことに一番プレッシャーを感じていたのは、他ならぬ婦長のAさんであった。

あれは、夕刻の透析室のことだ。入院以来、ずっとストレッチャーという移動式ベッドで病院内を動いていた私は、その時主治医の判断で、車椅子へ移ることになった。私は大喜びである。かねてからの希望であり、うきうきするほど嬉しかった。

ストレッチャーから寝たきりの私を車椅子に移すには、看護婦さん4人が補助してくれた。そのなかに婦長のAさん、准看護師のBさんもいた。女性四人がかりで車椅子に移された私は、それまで天井しか見えなかったので、光景が一変したことに嬉しい驚きを感じていた。

が、なんかおかしい。なんかおでこに汗が吹いてきた・・・

私は車椅子に座って一分と持たずに失神していた。そのことに真っ先に気が付いたのがBさんであった。主治医はもちろん、そばにいたAさんも気が付かなかったらしい。間が悪いことに、その場にはN主任教授と、鬼より怖いと云われてた総婦長もいた。

詳しいことは知らないが、この件でAさんは総婦長から、かなり厳しく叱責を受けたらしい。一方評価を上げたのは、やはり准看護婦のBさんである。ちなみに、このことを教えてくれたのは、例の新人看護婦のCさんである。そういえば、彼女もいたな、あの場に。

どうも、Aさんの婦長就任に不安を覚えた総婦長自ら、Bさんを補佐にあてがったらしい。そして、その不安は的中してしまったようなのだ。私は再び、ストレッチャー使用に戻されてしまい、車椅子に戻れたのは半月後であった。

あの件以来、Aさんは私の担当にはあまりならなかったように思う。私の気のせいかもしれないし、私自身はAさんを恨む気持ちも、蔑む気持ちもなかった。が、プライドの高いAさんには辛い事件であったようなのだ。

その後、私は冬が来る前に退院したのだが、案の定一年持たずに再発して、またも入院生活であった。でも、病棟にAさんはおらず、他の病院から来たという若干年配の方が婦長になっていた。ちなみに、Bさん、Cさんは隣の病棟に移っていた。

実は喧嘩以外で失神したのは、あの時が初めてであった。だから、余計にあの事件はよく覚えている。私が看護婦と准看護婦の差異について、意識するようになったのは、この時の経験が大きい。

高い実力を持ちながら、決して婦長にはなれぬBさん。一方、頑張りながらも、職務を全うすることが出来なかったAさん。誰が悪いとかの問題ではなく、制度としての在り方がおかしいのではないか。今も満たされぬ私の中の疑問なのです。


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7 コメント

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Unknown (青蛙堂)
2017-09-27 16:09:26
ええと…ヌマンタさんがいつも危惧して来られた話なんですが…人口縮小のお話。私もベストセラーの新書を慌てて読んで、もっと慌てたのです。
あそこに出てくる政府の試算では、あと7年位で
輸血血液が足らなくなる…てのがありました。献血は50歳未満に多代ってますからねぇ……。
かなり医療を直撃してくる話が多かった。さて、そこに非正規労働者が全労働者の3割を越えている現在を考えます。
大学の看護学部に通ったり、高看学校に親の支援で通える者は良いが…。準看護制度の廃止を目指すってのは、公務員や大企業の親を持つ者しか看護師になれなくなる道って事です。
そして、あと20年足らずで全国の自治体の半数が夕張状態で破綻する…消滅する可能性が高いとも。人件費から準看護師を雇わざる得ない地域医療の医院から潰れますね!小学校の検診や予防注射に来てくれる地元医師もいなくなる。
準看問題は人口縮小による地域医療崩壊の引き金になるって話です。
日本が医療で富裕な外人から稼ぐとすると、ナースの高度化は必要です。死んだ嫁は脳外のオペ室ナースしたから!オペ室ナースてのはプロの仕事でして、その中でも脳外科オペに対応するナースは少ない!医者には有名どころがいても、スタッフを集めるのが問題なのです。スタッフ集まらないとオペにならないんですよ!
今、日本では専門看護師だっけな…簡単な処置ならドクターの指示抜きで判断を出来るナース制度が出来ました。10年前かな。でも骨抜きになりましたね。アメリカには「医療助手」といって、ドクターとナースの中間形態の職種があるのに。それを真似する制度であったはずですが。
結局、医師会も看護師協会も、たいどが曖昧で中途半端なんですよ。
準看護師制度はその象徴みたいなものでしょう。
医療の高度化に従い、ナースの高学歴化はやむ得ない部分もあります!
いっそ分けたらどうでしょう?
脳外科の専門化したナースばかりでないでしょう? 地域の小さな診療場や医院の存続を無視するのならば、それはそれでブーメランとして帰ってくるですよ。その時に看護協会も報いを受けます。地域医療が崩壊してゆけば、実は診療所から
紹介を受けて大きな総合病院→それぞれの科目や疾病の専門病院…といった段階を経て進むようになっている日本の医療制度も崩壊しますから!
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Unknown (青蛙堂)
2017-09-27 16:52:27
ヌマンタさんに訪ねたいんすけど。
私ら素人から観ると、税理士と弁護士って薬剤師と医師に似てる気がするんですよね。
多少の誤差はあっても、資本的学力に差はないだろって。なら、ヌマンタさんみたくコンサルタント業してきた先生が、弁護士領域や行政書士領域に足を入れても良いじゃん!
似た事は医療にも言えて、理学療法師の仕事はもともと鍼灸師や柔整師がやっていたのですけど、
理学療法師の利権確保の為には追われたのです。
実際、解剖学は柔整や俺達の方が学力も上ですよ。国家試験の難易度は!
看護師って包帯巻かせると解るけど、伸び縮みする弾性包帯でしか巻けない。サラシみたいに固い包帯で巻く訓練してないから!
だから彼女達の包帯って、関節稼働部を跨いで巻くとズルズルに崩れるの。サッカーとかのプロ選手は看護婦を使いません!
医学の根幹である解剖学と生理学を「解剖生理」と一科目にしちゃうのは看護だけ!!
エリート意識の割には正看はレベル低いってのが私の実感です。
我々は診察(病名特定)は医師法で禁止されてます。でも全体的に症状を逆算する「証立て」は許されてます。医師の判断抜きに施術方針を立てて、物理的に施術を施せる。
看護師は、医師の判断抜きには何も出来ません。
あくまでも医者のアシスト業なんです。ナースの方が読めば怒るだろうが、現に彼女らは「独立開業」が出来ません!!それはアシスト業だからです。それはそれで良い。F1にレーサー(医者)と
メカニック(ナース)がいるようなものだから!
ただ…医師会が優秀なナースらが専門職として医師の特権に触れると叩かれるように、似たことは看護もやってる!
1億総活社会とか言うのならば、医療の国家試験を単位制にして、複数の免許を習得したり、同程度の基礎学力を持つ他の職種にも、チームプレーに入る機械を与えるべきです。看護協会にムカつくのは無意味なプライドなこと!
べつに彼女らが優秀だから看護の地位や政治力が上昇して来たというのは身勝手な思い上がりです!
看護の政治力が強いのは「数が多い」からです!
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Unknown (青蛙堂)
2017-09-27 16:57:09
追記一行)
では何故に数が多いか? アシスト業だからです!
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Unknown (ヌマンタ)
2017-09-28 12:52:11
青蛙堂さん、こんにちは。人口減少と医療崩壊の問題は、既に地方から始まっています。にもかかわらず、抜本的な改革が出来ずにいるのは、既成勢力の既得権絶対堅持を崩せずにいるからでしょう。
ただ、問題意識をもっている方は、現場に限らず霞が関でも少なくありません。
いろいろ研究され、現場でも試行錯誤されていますが、未だ最良と思える解決策は見いだせずにいます。
これは、日本の悪い癖なのですが、危機が顕在化しないと、本腰を入れない。でも、一旦公になったのなら、危機をバネに改革に乗り出すと思います。
それと、専門職の細分化は、非常に難しい問題です。細分化することで、却って実態に合わぬ弊害が生じることも多々あります。現場のニーズに合わせるだけではダメで、時代の変化を織り込んだものでないと、結局は無駄になります。資格を作ったものの、役に立たない資格が如何に多いかが、その証左であると思います。
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Unknown (ヌマンタ)
2017-09-28 12:55:20
嫌な予測ですが、現在の制度が無意味化し、混乱が生じてから、そこから始めて抜本的な改革がされると考えています。
いずれにせよ、小手先の改正では対応できないほどの危機が迫っていることは確かです。
医療だけではありません。消防、警察、廃棄物処理、公共交通施設など、様々な分野で少子化が大きなダメージを与えるでしょう。
ひょっとしたら、第二の明治維新が必要かもしれません。ただ、その頃には私は生きていないと思うのですがね。
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Unknown (さんまよんま)
2017-10-02 13:20:35
医療とは患者の生命に直結するものです。学歴社会が根幹を成すことはいたしかたないのでしょう。刑事ドラマにもよくある、たたき上げの刑事対キャリア幹部ってのもこの構図ですね。どちらにしても、周りの人間がどれだけ気が付いてあげられるか?ということかも知れない。尤も本人達はさほど気にとめていないのかも知れませんよ。仕事に一生懸命な方は、プライドを持って職務に当たっているはず。こういう方だからこそ、Bさんがヌマンタさんの眼に留まったのでしょう。
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Unknown (ヌマンタ)
2017-10-03 11:59:49
さんまよんまさん、こんにちは。仕事に対する矜持は非常に大切なことだと思います。自らの不遇を誰よりも痛感していたのは、やはりBさんでしょうね。それでも看護婦としての誇りが、資格を超えて保持し続けたのだと思います。決して声を荒らげない温和な方でした。幸いだったのは、彼女の価値を総婦長や主任教授が認めていたことでしょう。たいしたものだと思います。
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