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安易に天才という言葉は使いたくないのだけど、高校での小野伸二を見た時は、こいつ天才じゃないかと思った。
たしかアンダー17の日韓戦だったと思う。当時はまだまだ南コリアのほうが強く、0-2で敗色濃厚な試合であった。そこに登場した伸二は、スルスルっと前線に上がると敵DFを一人、二人と交わして意図も容易にシュートをゴールにやさしく突き刺した。
呆然としたのは南コリアの選手だけでなく、日本のチームメイトも唖然としていた。まだ若すぎると最初から出さなかった日本の監督が一番動揺していたように見えたのは錯覚だろうか。とにかく、一人だけ異次元のプレーをしていた。
こんなの何時でも出来るぜと笑いを浮かべた小野に対し、本気で封じようとした南コリアの選手たちだが、軽く躱すばかりで、力づくのプレーは嫌いさと飄々と前線にパスを供給するだけだった。残念ながらそのチームに、小野の奇抜なパスを受けれるだけの力量を持った味方選手はいなかった。
この試合で、小野と契約したいと熱望するJリーグのチームは倍増したと云われる伝説的な試合であった。
後年小野はインタビューで「俺のサッカーでイメージを共有できたのは中村俊輔、ただ一人だった」と告白している。中村俊輔もまた「こいつには絶対負けたくない」と強烈なライバル意識を燃やしたのは、唯一小野伸二だけであったことを告白している。
実は希代のテクニシャン、小野伸二が最も技術的に素晴らしかったのは高校生の頃で、その後U17のアジア予選で、フィリピン戦での悪質なファールを受けて膝を損傷してからは、そのプレースタイルは一転している。いや、小野が最も苦しみ、もがき抜いた末に獲得した新たなスタイルであった。
小野自身は全盛期に遠く及ばぬと卑下するが、それが浦和レッズやフェイエノールト時代のあの驚異的なプレーの数々であった。並大抵の努力家ではない。サッカーが好きで好きでたまらない男が必死にたどり着いた姿であった。
小野に対する評価は、オランダで特に高くファンペルシーは「オランダ代表でも、オノほど上手い選手はいなかった」といい、スナイデルは「最も衝撃を受けた選手はオノ」と絶賛する。辛口評論家で知られるセルジオ越後でさえ小野を賛美する。
私も小野のプレーを観るのは大好きだった。あのエンジェル・パスともベルベット・パスとも云われた正確で受け手に優しいボールの出し手であり、時としてあまりに奇抜すぎて味方がついていけないこともあった。
またボールを受けるのは正に天才的に巧かった。機会があったらYOU-TUBEなどで観て欲しいが、ため息が出るほどの美しいトラップは空前絶後であったと思う。ボールを扱う技術は、今でも日本一だと私は信じている。
しかし同時に認めなければならないのは、小野伸二のサッカー選手としての限界です。小野の上手さを認めつつジーコは言い放つ「彼は腐ったミカンであった」と。どのチームにいってもお山の大将であった小野は、精神面で稚拙なところがあった。
一人で守れて、一人でゲームを作れて、その上得点も出来る小野はチームの中心選手ではあったが、同時にチームのバランスを崩す元凶ともなり得る諸刃の剣であった。先発では使ってもらえず、途中出場した試合での小野は、いささか不貞腐れた態度で「俺に何しろっていうのさ」と言わんばかりの気の抜けたプレーを平然とする。
小野以上に優れた選手であったジーコには、それは許せぬ怠慢であったと思われる。常にチームのために全力を尽くしたジーコだからこそ、厳しく接したのだろうが、小野が不貞腐れて代表合宿中にキャバクラ騒動を起こしたのは有名な事実だ。
私が少し気の毒に思うのは、多感な十代の頃、すなわち小野が誰よりも上手かった時代、彼には適切な指導者に恵まれなかった。いや、当時の日本には彼以上に上手い選手も監督もいなかった。オランダに渡り、そこで初めて従うに相応しいと思われる監督に出会えたが、そのオランダでもチーム一のテクニシャンであり、中心選手であったがゆえに、あまり改善されなかった。
その証拠に彼はオランダリーグからスペインやドイツ、イタリアへの移籍の声は掛からなかった。後にドイツのボーフムに移籍できたが、もはや中心選手足りえなかった。なにかが足らなかった。上手いだけでは世界のトップリーグには通用しない。これは中村俊輔にも共通する問題点であった。
実はこれは今も継続する日本サッカーの課題である。三苫や遠藤航が活躍しているが、世界のトップリーグでもトップチームには縁がない。辛うじて長谷部がブンデスリーガで実績を残しているが、まだまだ十分とは言いかねる。世界のサッカーを五段階評価すれば、今の日本はBクラスだと思う。運が良ければAにも勝てるレベルにようやく到達したというのが、現実だと思う。
散々文句を言ってますが、私は小野伸二のプレーを観るのが大好きでした。あれこそ金を払っても観る価値のあるプレーだったからです。彼が致命的な怪我から凄まじい努力で復活したことを高く評価しつつも、私は彼が単に上手いだけの選手であったことが残念でなりません。
その彼もついに引退です。本当にお疲れ様でしたとねぎらいたいと思います。
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