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天気:晴れのち曇り、気温:20度C(昼)
こんな山の上の牧場に職を得て、もう7回目の秋を迎えたことになる。これまで経験したさまざまの職種の中では、長いほうだ。
今日のようにいかにも秋らしいおだやかな森の中では、悔恨も諦念もない淡々とした過去が甦ってくるのか、牛たちを遠目にしばらく、勝手に湧いてくる乾いた記憶を相手にした。
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小学校6年のときの担任は中谷先生といって、バイオリンが得意だった。先生の住んでいた街からは、自転車通勤をしていて、4キロばかりのその間、いつもラジオの入った小さなバックを首からつる下げ、イヤーホンで音楽を聞いていた。
宿直の日の夜に遊びにいったら、先生は酒を飲んでいた。酒さえ止めればいつでもテレビを買うことができるのだが、と言って先生は笑った。当時テレビはまだまだ高価で、珍しかったのだ。その夜の先生のつまみは缶詰のサバの水煮で、それに醤油と酢がかけてあった。うまそうに冷酒を飲みながら、そのつまみを食べてみろと言ってくれた。喜んで食べてみたら、美味かった。
それから何年も過ぎて、つまみというものをさほど必要としない酒飲みになってしまったが、いまでも時折サバの水煮に醤油と酢をかけ、玉ねぎのスライスと鰹節を加え、熱燗を飲みながら先生を思い出している。
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10段階で音楽の成績が「1」のときがあった。「2」でも「3」でも構わないが、いくらなんでも「1」はないだろうと腹が立った。今では思い出せないがそれなりの理由があったのだろう。が、こっちは嫌がらせと信じ込んで「喧嘩でも売っているのか」と、当のその四角い善人面の教師に凄んでやった。
その件で担任の宮下先生が、職員会議の場で謝ったということを、後日別の教師から聞いた。
そんなバカが、今では毎朝NHK FMの「クラシックカフェ」なんていうのを聞きながらヘラヘラして登ってきて、牛や鹿を相手に野生化に邁進しているのだから、呆れる。
そうだ、2,3放置しておいた罠に、今朝鹿が1頭かかっていた。止め刺しに時間をかけてしまったが、懇ろに葬った。以前は肉を取るのが供養と思っていたが、この頃はそうせずに埋却してしまう。
誰かがやらねばならぬ仕事とはいうものの、嗚呼。
今夜はこれにて退散いたします。コメント有難かったです。