蘆(あし)垣の隈処(くまと)に立ちて吾妹子(わぎもこ)が袖もしほほに泣きしそ思(も)はゆ 防人の歌 刑部(おさかべの)直(あたひ)千國(ちくに) 巻20
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これは防人の歌である。防人(さきもり)は崎守。北九州筑紫・壱岐対馬などの辺境の地を守備する任に当たった兵士。3年を1期にして交替させる規定があったとされる。東国から徴用された。太宰府に兵士の役所があったらしい。天平勝宝7年(755年)、哀別を歌った防人の歌が万葉集巻20に収められた。
隈処(くまと)は隈になって見えないところ。「しほほ」は「絞るように」と読んでみた。
わたしの可愛いあの子が、わたしが太宰府に趣くときに、芦原の続く村はずれまで来て、そこに立って見えなくなるまで、着ている衣の袖が濡れて絞るように泣いてくれた。その愛(いと)しい姿が守備に当たっているいまもしきりに思われてならない。
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これは万葉集わが勝手気まま読みシリーズの1首解釈。作者の刑部直千國はどんな人であったのだろう。どうやら若い人のようだ。愛しい人を思うことができる男だから逞しい凜々しい男であろう。吾妹子の妹(いも)は男が女を親しんで言う語。妻だったり恋人だったりする。子は愛称。女同士が親しみを込めて言う場合もあったらしい。
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昔も今も男は女を思う。女は男を思う。夫婦になったり恋人になったりして思う。思われて思われてならないほどに。それが男であろう。女であろう。互を思うことで男女が誕生するのだ。
この歌の後に、さぶろうはふっと、では己はどうだ、と思う。それほどに思う人があるか、と。袖を絞るほどに涙にかきくれて思う人がいるということは、幸福と言えばこんなに幸福はあるまい。
思う人がいないのなら、男性の性別が消えていることになりはしないか。思う人があって、そこで男女が成立している、そうも言えようから。
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これは防人の歌である。防人(さきもり)は崎守。北九州筑紫・壱岐対馬などの辺境の地を守備する任に当たった兵士。3年を1期にして交替させる規定があったとされる。東国から徴用された。太宰府に兵士の役所があったらしい。天平勝宝7年(755年)、哀別を歌った防人の歌が万葉集巻20に収められた。
隈処(くまと)は隈になって見えないところ。「しほほ」は「絞るように」と読んでみた。
わたしの可愛いあの子が、わたしが太宰府に趣くときに、芦原の続く村はずれまで来て、そこに立って見えなくなるまで、着ている衣の袖が濡れて絞るように泣いてくれた。その愛(いと)しい姿が守備に当たっているいまもしきりに思われてならない。
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これは万葉集わが勝手気まま読みシリーズの1首解釈。作者の刑部直千國はどんな人であったのだろう。どうやら若い人のようだ。愛しい人を思うことができる男だから逞しい凜々しい男であろう。吾妹子の妹(いも)は男が女を親しんで言う語。妻だったり恋人だったりする。子は愛称。女同士が親しみを込めて言う場合もあったらしい。
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昔も今も男は女を思う。女は男を思う。夫婦になったり恋人になったりして思う。思われて思われてならないほどに。それが男であろう。女であろう。互を思うことで男女が誕生するのだ。
この歌の後に、さぶろうはふっと、では己はどうだ、と思う。それほどに思う人があるか、と。袖を絞るほどに涙にかきくれて思う人がいるということは、幸福と言えばこんなに幸福はあるまい。
思う人がいないのなら、男性の性別が消えていることになりはしないか。思う人があって、そこで男女が成立している、そうも言えようから。