<おでいげ>においでおいで

たのしくおしゃべり。そう、おしゃべりは楽しいよ。

弱虫

2014年09月28日 06時49分11秒 | Weblog
さぶろうは弱虫だった。喧嘩はかならず負けた。喧嘩にならなかった。暴力が振るえなかった。ぶたれて泣いて悔しい思いばかりをした。一度は、橋の上から放尿を浴びたことがあった。それでも抗議ができなかった。石を投げられて頭に血を流したこともあった。ひ弱だった。

女々しかった。取り囲まれて虐められているところを4つ違いの姉さんに助けてもらったことがあった。下級生にも組み伏せられては潰された。ちっとも強くならなかった。担任の女先生に庇ってもらって小学校を生き延びた。情けないほどの弱虫だった。おっとうにもおっかあにも心配をかけた。

そんな弱虫が70年を生きた。ばかにされながら生き延びた。周りに助けられて助けられて生き延びた。情けない話だが、そうだった。負け犬は逃げるしかなかった。

スポーツがまるで駄目だった。運動神経が育たなかった。ボールが飛んで来ると逃げ回った。泳げなかった。バレーボールのサーブがコートに飛ぶことがなかった。女の子にいいところを見せるということが皆無だった。

風に揺れるぶらりんぶらりんのヘチマだった。久しぶりにそういう子ども時代を思い出して、今日はうるるん涙を覚えた。強くして生きられる者がいる一方、弱くしてしか生きられない者もいる。弱くしてしか生きられない者は忍耐を身に付けるしかない。さぶろうに忍耐力はそだったかどうか、それも怪しい。
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韮の白い花の列

2014年09月28日 06時21分49秒 | Weblog
こうしてください、ああしてください。熱が引くようにしてください。腰の痛いのをやわらげてください。子どもの病気を治してください。台風から身を守っていてください。災難にあわぬようにしてください。お金に不自由しないようにさせてください。

仏さまに何度お頼みしたことか。どれだけお頼みをしたことか。無理難題を持ちかけて来たとこか。そしてその都度どれだけわがままを聞いてもらったことか。あろうことか、仏さまを使い走りさせて来たのだ。

さぶろうは生涯、この図々しさを押し通して来たが、もうここらで終息をはかっていいように思えて来た。こころから詫びをいれて、お礼を述べて終わりにしたいのだ。

韮の花の白い蝋燭の列が畑に現出している。このままここの中を歩いていけばいいのだ。仏国土に至り着けるのだ。
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もうここらで

2014年09月28日 05時50分30秒 | Weblog
もう十分だなあと思うようになった。もう十分に生きたと思うようになった。

見るものも見させてもらった。聞くものも聞かせてもらった。食べるべきも食べさせてもらった。まだ足りないがなくなってきた。

人間としての成長を問われるとたじたじなのだが、そういう自己規制も笹の葉の小舟に乗せて流してしまっていいように思えて来た。

柿の実が赤く熟れている。さぶろうは、柿の実のように赤く熟れてはいないのだが、いまの段階でいい、先へ進めなくともいい、ここの位置まで辿り着いてきたのだからともかくもう十分だなあと思うようになった。

ここの位置というのは、秋の気配の漂う鱗雲の位置だ。何かに必死で掴まっていようとする握力も極度に衰えて来たようなのだ。

さぶろうは野辺を歩いてそこでミズヒキソウも見た。ミゾソバも見た。草藪のあたりではコオロギを聞いた。キリギリスも聞いた。
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ぼろぼろに朽ちて、自然に帰してしまった

2014年09月28日 05時31分23秒 | Weblog
村里に赤い萩が咲き出した。白い萩も咲き出した。ススキは一斉に穂を伸ばして風に揺れている。曼珠沙華はすでに花の盛りを過ぎて変色が始まった。さぶろうはこうしてこの秋の風物のただ中にいる。人間の特殊性を離れて、風物の一つになって溶け合っている。これでいいのだ。立派でなければならぬとか、正しく偉くなければならぬとか、そういう外枠の羽目板も朽ちて、自然に帰してしまった。
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