田舎道は暗い。自転車のライトは弱い。恐る恐るペダルを漕ぐ。寂しいを繰り返す何度も何度も。弟を思うと寂しい。ぐるぐるぐるぐる回って、8時に帰って来た。わざわざ寂しがりに行くようなものだった。もう何もかもが遅い。もっとやさしくしておけばよかったと思う。ケンカなんかしないでおけばよかったと思う。みなあとのまつりだ。今夜は月もなかった。深いぬばたまの夜であった。
ここもここです。さぶろうが住んでいるところもここ。さぶろうが生きているところもここ。さぶろうが見ているところもここ。さぶろうが聞いているところもここ。でも、仏陀がいるところもここです。星々のきらめくところもここです。死者が死んで第2ステージに上がっているところもここです。ここは広いのです。狭くしなくともいいのです。ここは広範囲に跨がっています。わたしたちは日本に住んでいながら地球に住んでいます。地球に住んでいながら同時に太陽系に住んでいます。太陽系に住んでいながら銀河団に住んでいます。銀河団に住んでいながら宇宙全体をここにして住んでいます。ここは広いのです。仏陀の国、仏国土ももちろんそのここです。切断はありません。みんな繋がっている一つの空間なのです。
直径10cmそこらの鉢にミヤコワスレが一株育っています。小さい形(なり)です。3cm足らずの細い葉っぱが5枚きりの。これが花を着けました。存在の中心に。淡い薄紫をしています。花の時は早春ですから、これはあきらかに時忘れ花です。悲しみに住みがちのさぶろうを慰めようとして力を振り絞ったのです。その渾身の慈愛を毎日受け止めてあげられるようにと思って、お風呂の窓辺の飾り棚に移動させました。うっすら朝の日が差し込んでいます。
いやはや。さぶろうは贅沢をしてる。摘んできた朝取りのオクラを薄切りにしてちょいと湯に潜らせてそれから鰹節を一袋まるごと振り掛け、酢をたっぷりたっぷり落とし、醤油を加えてぐるぐる掻き混ぜる。すると納豆よりもねばねばしたねばねば菌が繁殖して生きのいい卵のように張り切って来る。これをスプーンで口元に運ぶ。口中がとろとろする。これがうまい。さぶろうの朝ご飯のアペタイトはこれだった。味噌汁には隼人瓜の薄切りを具にしてあった。これに高菜の一夜漬け。炊きたての湯気の白飯があっというまに空になっていた。
今日は畑の野菜に施肥をしよう。ぱらりぱらりの追肥だ。窒素リン酸カリの888の肥料を買ってある。これが次の1~7の彼らをまるまると健康に太らせることになる。元気をもらった彼らはきっと大喜びをするだろう。そしておもわず投げキッスをしてくるだろう。一々受け止めてやるとタイヘンだぞ。
1,フカネギ 2,ブロッコリー 3,カリフラワー 4,キャベツ 5、大根 6、高菜 7,人参
鉢植えのミヤコワスレには固形の油粕を施肥してあげよう。時間が余ったら、水撒きもしてあげよう。ああ、一日これで忙しくなるぞ。
里芋(白芋)を掘り上げたら一株で20個ほどの子芋が収穫できた。どれもまあまあ大きかった。地上の茎や葉はほっそりしていたのに、こうだった。子作りが上手な親芋だった。でもどうやったらこれだけの大量のデンプン製造がこの一夏でできたのだろう。里芋もマジシャンだ。
で、今朝、包丁を使って丁寧に皮剥きをした。これがさぶろうの得意芸だ。でも3分の1ほどにとどめた。今夜の夕食は芋煮だ。とろりとしてさぞやおいしいだろう。酒は日本酒の熱燗。ちょいと多めの1・5合にしよう。弟にも飲み食いさせてあげるか。じゃ、1合増やしておこう。
具足神通力 広修智方便 十方諸国土 無刹不現身 妙法蓮華経「観世音菩薩普門品第二五」より
ぐそくじんつうりき こうしゅうちほうべん じっぽうしょこくど むせつふげんしん
神通力を具足し、広く智の方便を修して、十方の諸国土に刹(くに)として身を現さざるなし。
観世音菩薩は不可思議な神通力を具え持っておられるから、衆生を救うために広く智慧の方便を駆使して、十方の諸々の国土には、いかなる国であれ、そこに身を現さないということがない。 (渡辺宝陽 訳)
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観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)普門品(ふもんぼん)は略して観音経と呼ぶこともあるが、妙法蓮華経の一章である。普門(ふもん)とは十方にあまねく門を開いて待ち受けている衆生救済所というところだろうか。全篇「わたしがあなたを救います。間違いなく救います。安心をなさい」と書いてある。だから、わたしを救うためにはどんなことでもなさいます。
1,神通力を使われる。
神通力は利他の活動をするときにのみ授けられる通力である。「神」は形容詞で「すぐれた」の意味である。通力はいかなる場合にでもすぐさま通用するマジカルパワーである。
2,智慧の方便方策を尽くされる。
智慧は仏さまの智慧である。これを具現される。智慧そのものは形がないから、衆生を救済しやすいように、都合のいい形にして活動をされるのである。これが方便である。
3、十方の諸国土が活動の範囲である。
十方の諸国土、つまり一仏のテリトリーである三千大千世界が守備範囲だ。宇宙距離をも遠しとはされない。ということは? 光の速度よりもなお速いということになる。スーパーマン以上でなければならない。
4,何処に居てもその人の前にすぐに姿を現して救出活動をされる。
こりゃ、一人の観音さまでは足りない。三十三の分身に分かってもそれでも足りない。やはり仏さまの変化(へんげ)身を頼むしかない。仏さまの遣わされた変化身もまた菩薩である。仏道の修行をしている。夫であったり妻であったり親であったり子であったり兄弟であったり友人であったりして、観音の救済活動に協力をするのである。
5,互を互の観音菩薩にすること、これが救済の中核を為している。
だからわれわれは互いに観音菩薩の使者だということになる。こころは観音菩薩だということになる。菩薩は菩提薩埵、仏の智慧の実行者である。慈悲の実践を行う。
塩漬けしていたのを一担覆して洗い、これをまた乾かして、それから桶に瓜を一段並べ、少しのザラメと大量の酒粕を塗りつけ、合計54個を積み上げていきました。これで2週間待ちます。おいしく漬っていたらお好きな方にもお分けします。独特な味がします。野菜瓜を漬けた奈良漬とも違います。折しも食欲の秋、ご飯が進みますよ。
ふらふらしてトイレまで歩きます。戻って来たらしばらく寝つけません。考えごとをします。生きているわたしをいとしみ、いつくしみます。それをそうせしめている大きな力の源に思いを馳せます。繋がってあたたかくなります。するとまた眠くなります。時計の針が音を立てています。眠っていても起きていても、たえずいのちの時間が流れています。