市政をひらく安中市民の会・市民オンブズマン群馬

1995年に群馬県安中市で起きた51億円詐欺横領事件に敢然と取組む市民団体と保守王国群馬県のオンブズマン組織の活動記録

フリマ中止を巡る未来塾側と市・岡田市長とのバ・・・ついに逆転判決がでた東京高裁での攻防(その9)

2012-02-18 00:23:00 | 安中フリマ中止騒動
 フリーマーケット開催を巡り平成19年9月に市民団体と安中市側の間で、市長室で開かれた意見交換会でのやりとりが、虚偽の内容で安中市の広報に掲載され、市民団体と同代表者のイメージを著しく汚され名誉を傷つけられたとして市民団体と代表者が平成20年9月に安中市と岡田氏を相手取り提訴した事件は、平成23年7月13日に東京高裁で控訴審の判決が言い渡されました。7月15日に安中市の顧問弁護士のところに判決文が届き、実質的に東京高裁は市民団体と代表者の主張を認めざるを得ませんでした。判決内容は次のとおりでした。

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【控訴審の判決文】
平成23年7月13日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 林正人
平成22年(ネ)第4137号損害賠償等請求控訴事件(原審・前橋地方裁判所高
崎支部平成20年(ワ)第492号)
口頭弁論終結日 平成23年2月21日
            判    決
   群馬県安中市岩井609-1
      控    訴    人     松   本   立   家
   群馬県安中市岩井638
      控   訴   人       地域づくり団体未来塾
      代 表 者 代 表       松   本   立   家
      上記控訴人ら訴訟代理人弁護士  山   下   敏   雅
                      中   城   重   光
                      寺   町   東   子
                      後   藤   真 紀 子
                      吉   田   隆   宏
                      高   城   智   子
                      山   口   裕   未
                      釜   井   英   法
                      青   木   知   己
                      登   坂   真   人
                      船   崎   ま   み
                      寺   田   明   弘
   群馬県安中市安中1丁目23番13号
      被  控  訴  人      安     中     市
      代 表 者 市 長       岡   田   義   弘
      上記訴訟代理人弁護士      渡   辺   明   男
   群馬県安中市野殿969番地
      被  控  訴  人      岡   田   義   弘
            主    文
1 控訴人地域づくり団体未来塾の控訴に基づき,原判決中控訴人地域づくり団体未来塾に関する部分を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人安中市は,控訴人地域づくり団体未来塾に対し,5万円及びこれに対する平成19年12月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 控訴人地域づくり団体未来塾のその余の請求をいずれも棄却する。
2 控訴人松本立家の控訴を棄却する。
3 訴訟費用は,控訴人地域づくり団体未来塾と被控訴人安中市との関係では,第1,2審を通じて80分し,その1を被控訴人安中市の負担とし,その余を控訴人地域づくり団体未来塾の負担とし,控訴人地域づくり団体未来塾と被控訴人岡田義弘との関係では,控訴費用を控訴人地域づくり団体未来塾の負担とし,控訴人松本立家と被控訴人らの関係では,控訴費用を控訴人松本立家の負担とする。
4 この判決の第1項(1)は,仮に執行することができる。
            事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人らは,控訴人松本立家に対し,連帯して,400万円及びこれに対する平成19年12月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 被控訴人らは,控訴人地域づくり団体未来塾に対し,連帯して,400万円及びこれに対する平成19午12月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 4 被控訴人らは,連帯して,被控訴人安中市が制作する「おしらせ版あんなか」に原判決別紙1記載の記事を原判決別紙2記載の条件で1回掲載せよ。
第2 事実の概要
 1 本件は,控訴人地域づくり団体未来塾(以下「控訴人未来塾」という。)及びその代表者である控訴人松本立家(以下「控訴人松本」という。)が,被控訴人安中市(以下「被控訴人市」という。)発行の広報誌に掲載された被控訴人市の市長である被控訴人岡田義弘(以下「被控訴人岡田」という。)執筆に係るフリーマーケット開催についての意見交換会に関する記事によって控訴人らの名誉が毀損された等と主張して,被控訴人岡田に対し,不法行為に基づく損害賠償として,被控訴人市に対し,被控訴人岡田の行為についての国家賠償法1条1項若しくは民法715条1項(使用者責任)に基づく損害賠償又は上記広報誌の編集,発行及び配布等を担当した職員等の行為についての国家賠償法1条1項に基づく損害賠償として,連帯して,各控訴人につき400万円及びこれに対する上記広報誌配布後である平成19年12月21日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,被控訴人らに対し,民法723条に基づく名誉回復処分として,被控訴人市発行の広報誌への謝罪文の掲載を求める事実である。
 原判決は,控訴人らの請求をいずれも棄却し,控訴人らは,これを不服として控訴した。
2 事案の概要の詳細は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中「第2 事案の概要」の2,3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決3頁15行目末尾に「控訴人未来塾は,平成13年群馬銀行環境財団賞(主催・群馬銀行環境財団)を,平成19年6月25日群馬ふるさとづくり賞(主催・群馬県地域づくり協議会(事務局=県地域創造牒),読売新聞前橋支局,NHK前橋放送局)を,同年11月22日あしたのまち・くらしづくり活動賞・振興奨励賞(主催・財団法人あしたの日本を創る協会)等を各受賞した(甲26,31の4・5,乙10)。」を加える。
(2) 同4頁4行目末尾に改行して次のとおり加える。
 「エ 本件意見交換会の数日後,被控訴人市は,控訴人未来塾に対し,本件公園の使用を許可する方針であることを連絡した。しかし,控訴人未来塾は,本件意見交換会の結果を踏まえて,本件フリーマーケットの開催は困難と判断し,上記連絡のあった時点では,既に関係者に対し中止を通知していた。結局,本件フリーマーケットの開催は中止され,新聞各社は,同年10月20日から同年11月4日にかけて,この件について報道した(甲2の1ないし6,丙16の2,丙21)。」
(3) 同4頁9行目の「記載」を「執筆」と改める。
(4) 同6頁17行目末尾の次に「そして,被控訴人市側が丁寧な口調で誠実な態度を採っていたにもかかわらず,控訴人ら側が理不尽で威嚇的な発言を行ったとの印象を一般読者に与えており,人口6万4000人余りの地方都市で円滑な人間関係が大都市と比較しても重視される地域性の下で,話し合いの冒頭から怒鳴るということは,協調性がなく,不誠実な態度を採る独善的な団体であるという印象を与えることにほかならず,控訴人らの社会的評価を著しく低下させるものである。」を加える。
第3 当裁判所の判断
1 本件談話が控訴人未来塾の社会的評価を低下させたか
(1) 判断方法
 本件談話が控訴人未来塾の社会的評価を低下させたか否かを判断する方法は,原判決14頁20行目冒頭から同頁26行目末尾までに記載のとおりであるから,これを引用する。
(2) 本件談話の概要
 本件談話は,被控訴人市の市長である被控訴人岡田が本件意見交換会の経過を市民に伝えるため,執筆したものであり,本件意見交換会の開催日,出席者等を記載した上,話題となった3点についての応答の概要を記載し,それに関連する資料を掲げ,最後に被控訴人岡田の市政に対する心構えと市長である被控訴人岡田の氏名が記載されており,被控訴人市が安中市広報紙発行規則に基づき発行する広報誌である本件掲載誌に掲載され,同市の全戸に配布された。
(3) 本件談話①,③ないし⑦について
 当裁判所も,本件談話①,③ないし⑦が控訴人未来塾の社会的評価を低下させると認めることはできないものと判断する。その理由は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中「第3 当裁判所の判断」の1(1),(3)ないし(7)に記載のとおりであるから,これを引用する。
ア 原判決16頁6行目冒頭から同頁9行目末尾までを「本件談話③は,安中市民から被控訴人市に対し,控訴人未来塾がフリーマーケットの会場において募金活動を行っているとの指摘があった事実,これに基づいて,被訴人市側が控訴人未来塾側に対し,募金活動の有無を質問した事実,これに対し,控訴人未来塾側が,震災時に募金活動をしたことがあると答えた事実及び控訴人未来塾が被控訴人市に対して上記募金活動について報告していなかった事実を摘示したものである。」と改める。
イ 同16頁17行目冒頭から23行目末尾までを削除する。
(4) 本件談話②について
ア 本件談話②は,本件意見交換会の開始から出店料の徴収についてまでの応答に関する記載から成っており,冒頭部分において,被控訴人市側が「すみませんが確認させていただきたいのですが」と発言したのに対し,控訴人未来塾側が,冒頭から「目を見て話をしろ」と怒鳴り,披控訴人市側が「静かに話をしましょう。」と応じた事実を摘示し,出店料の徴収に関する部分において,安中市民から被控訴人市に対し,控訴人未来塾がフリーマーケットで出店料を徴収していることを被控訴人市は知っているのかとの指摘があった事実,これに基づいて,被控訴人市側が控訴人未来塾側に対し,出店料として2000円を徴収しているか質問した事実,これに対し,控訴人未来塾側が,2000円の出店料を徴収していると答えた事実を摘示している。
イ このうち出店料の徴収についての応答に関する事実の摘示部分は,控訴人未来塾の社会的評価を低下させるものとは認められない。
ウ しかし,被控訴人市側が,「すみませんが確認させていただきたいのですが」と発言したのに対し,控訴人未来塾側が冒頭から「目を見て話をしろ」と怒鳴り,被控訴人市側が「静かに話をしましょう」と応じたとの事実の摘示は,本件掲載誌の一般読者に対し,市長室という公共の場における市長を交えた話合いの場において,被控訴人市側が控訴人未来塾へ敬意を払い丁重に質問をして協議を開始しようとしたにもかかわらず,控訴人未来塾が,これに耳を貸すこどなく,その冒頭から,協議相手に対する敬意を欠く不穏当かつ不作法な言葉使いで威嚇的な発言を大声でするなど,社会常識上許容することが出来ない独善的な行動を行う団体であり,冷静な協議の相手方たり得ないという印象を与え,控訴人未来塾の前判示の活動を効果的に行う上で重要な,同市の住民の控訴人未来塾やその活動に対する共感を損なうものというべきである。そして,本件談話②が,公共団体である被控訴人市がその広報紙発行規則に基づき発行した公式の広報誌に掲載され,市長自らが執筆した旨の記載まであることに照らせば,一般読者が控訴人未来塾の上記発言に至る経緯などその記載内容の細部についてまで信頼するものと認められることを総合考慮すると,同事実を摘示した本件掲載誌を同市の全戸に配布する行為は,控訴人未来塾の社会的評価を低下させるものと認めるのが相当である。
2 本件談話が控訴人松本の名誉等を毀損したか
(1) 本件談話①,③ないし⑦については,前判示のとおり,控訴人未来塾の社会的評価を低下させるものと認めることはできないのであるから,控訴人未来塾の代表者としての控訴人松本の社会的評価を低下させるものであると認めることもできない。
(2) 本件談話②については,前判示のとおり,控訴人未来塾の社会的評価を低下させる事実の摘示があると認められるが,前記1(4)ウ判示の発言をしたのが,控訴人松本である旨の記載はない上,本件談話には,控訴人未来塾の代表音の氏名も控訴人未来塾から本件意見交換会に出席した者の氏名も記載されておらず,控訴人未来塾の代表者が控訴人未来塾側の他の出席者をして上記の発言をさせたことを推測させる記載もないのであるから,控訴人未来塾の代表者が控訴人松本であることが安中市民に広く知られていたとしても,本件談話②が控訴人未来塾の代表者である控訴人松本個人の社会的評価を低下させるものとは認めるに足りず,その名誉を毀損し,あるいはその人格権を侵害するものと認めることはできない。
3 本件談話②について,損害賠償責任を阻却する事由があるか
(1) 事実の公共性及び目的の公益性について
 本件談話が公共の利害に関するものであることについては,当事者間に争いがなく,本件談話の記載内容,証人長澤和雄(以下「長澤」という。)の証言(原審)及び被控訴人岡田の供述(原審)によれば,被控訴人岡田及び被控訴人市は,被控訴人市の側から本件意見交換会の概要を安中市民に説明するために本件談話を被控訴人市の広報誌に掲載したものであり,その執筆,掲載及び配布行為は,専ら公益的な目的によるものであると認められる。
(2) 摘示事実の真実性,摘示事実が真実であると信じる相当な理由について
ア 被控訴人らは,本件意見交換会の冒頭,被控訴人市側を代表して市長の被控訴人岡田が「すみませんが確認させてください」と言った途端,控訴人未来塾側が「目を見て話をしろ」という趣旨のことを大声で怒鳴り,これに対し,被控訴人岡田が「重箱の隅みたいなことを言わず,もっとおおらかに話しましょう」と言った旨主張し,被控訴人岡田作成の要点筆記(丙17。以下「本件要点筆記」という。)には,これに沿う記載があり,被控訴人岡田の供述(本人尋問(原審)),陳述書(乙17)中にはこれに沿うかのような部分があり,被控訴人市側の本件意見交換会出席者である長澤の証言(原審),同人,堀越久男(以下「堀越」という。)及び佐藤伸太郎(以下「佐藤」という。)の各陳述書(乙4,5,6)中にも,控訴人未来塾側の出席者が大声で上記の発言をした旨の記載がある。
イ しかし,控訴人らは,控訴人未来塾側の出席者が冒頭から「目を見て話をしろ」と怒鳴った事実を否認し,目を見て話をするようにとの発言に至った経緯について,本件意見交換会では最初に募金活動に開する議論があったが,被控訴人岡田が控訴人松本と会話をしているのに控訴人松本の方を全く見ずに話を進めていたため,開始から約15分か経過した時点で,控訴人松本が被控訴人岡田に対し,自分の方を向いて欲しい旨発言したところ,被控訴人岡田がこれに反発する発言をしたことから,松本遥(以下「遥」という。)がこれを諌める発言をした旨主張し,遥が本件意見交換会における応答を録音したものとして提出された録音記録(甲39,40。以下「本件録音記録」という。)には,控訴人らの上記主張に合致する経過が記録されており,本件録音記録中少なくともに本件意見交換会の開始から約15分経過後の控訴人松本と遥の上記各発言に至る応答部分の詳細な内容及び順序については,不自然な点は認められず,甲第60号証も総合考慮すれば,上記の部分について後目の修正や編集が加えられたとは認められない。
 これに対し,被控訴人らは,本件録音記録は編集加工されたものである旨主張し,丙第22号証(日本音響研究所作成)中には,本件録音記録には,30秒毎に時計の長針が移動する際の衝撃音が,509秒付近,899秒付近,1781秒付近の3か所で確認できないことから,上記3ヵ所の前後部分30秒又は30秒の倍数部分を削除した可能性がある旨の記載がある。しかし,甲第60号証(鈴本法科学鑑定研究所作成)は,本件録音記録について分析区間10秒単位で連続分析した結果,特に録音の不適続箇所や異常な箇所は認められず,編集加工された可能性が極めて低いとし,丙第22号証によれば上記長針移動の際の衝撃音が確認されるはずの箇所で上記衝撃音が明確には認められなかったとしている。その上,仮に丙第22号証のいう長針移動の際の衝撃音が確認できない箇所が存在したとしても,このことから直ちに,本件録音記録の冒頭部分が編集されて,本件談話②中前記1(4)ウ判示の控訴人未来塾側の発言が削除されたとは認めるに足りず,前判示のように,本件録音記録における本件意見交換会の開始から約15分経過後の控訴人松本と遥の上記発言に至る部分の応答の詳細な内容及び順序について不自然な点が認められないことを総合考盧すれば,丙第22号証の記載をもって,本件録音記録中の上記部分に開する前記認定判断を左右するには足りず,他にこれを左右するに足りる証拠はない。
 また,被控訴人らは,本件録音記録が無断で録音され,録音後編集が加えられたものであるので,証拠とすることが許されない旨主張する。しかし,本件録音記録中上記の部分について録音編集が加えられたとは認められないことは,前判示のとおりであって,被控訴人らの主張は前提を欠くものであり採用することができない。その上,被控訴人らが明示で録音を承諾したことを認めるに足りる証拠はないものの,本件録音記録は,被控訴人市の市長ら公職にある者が,市長室という公の場で,その職務として開催した本件意見交換会における応答内容を録音したものであり,被控訴人らと控訴人ら間で上記応答内容について記録を残さない旨の合意がされたとは認められず,被控訴人らは,その応答内容の要旨を被控訴人市の広報誌に掲載して関市の全戸に配布し,被控訴人岡田は,上記の応答内容について本件要点筆記を作成して本件訴訟に証拠として提出していることに照らせば,本件録音記録中上記部分を証拠とすることが許されないと解すべき事情は認められず,被控訴人らの主張は採用することができない。
 そして,控訴人松本の供述(本人尋問(原審))及び陳述書(甲50)は,控訴人らの上記主張に沿うものであり,控訴人未来塾側の本件意見交換会出席者である加藤政巳(以下「加藤」という。)及び遥の各陳述書(甲51,52)もこれに沿うものであるところ,控訴人松本の上記供述及び陳述書の記載,加藤及び遥の上記各陳述書の記載は,本件意見交換会の開始から控訴人松本と遥の上記各発言に至る応答の詳細な内容及び順序について不自然な点は認められず,それ自体,合理性を備えたものと認められる。
 これに対し,本件要点筆記の記載の正確性には,疑問のあることが否定できない。すなわち,被控訴人岡田は,本件要点筆記を本件意見交換会の当日である平成19年9月10日及びその翌日に作成した旨供述するところ(本人尋問(原審)),本件要点筆記が23頁からなる詳しい内容のものであり,被控訴人岡田は,本件意見交換会において被控訴人市の代表として控訴人未来塾側と自ら応答をしていることからすると,本件意見交換会の開催中に本件要点筆記の主要部分を筆記し終えたものとは認められず,その相当部分が被控訴人岡田の記憶に基づき作成されたものと認められる。しかし,本件要点筆記が本件意見交換会から時を置かずに作成されたとしても,被控訴人岡田が,時に緊迫する状況下で適切な応答をすることに注意を集中する一方,応答全体について,その詳細な内容及び順序を正確に記憶することには少なからぬ困難が伴うものと認められる上,本件意見交換会の同席者で被控訴人市建設部長であった長澤が,被控訴人岡田が作成した本件掲載誌用の本件談話の原稿を見せられた際,「これは非常に市長の思いこみといいますか,非常に強い文章だったものですから,ちょっとこれ文章強いんじやないですかとは市長には言いました」と証言(原審)し,本件意見交換会における応答について,被控訴人岡田とは異なる印象をもったことが認められる。以上判示の点に,被控訴人市は本件意見交換会について議事録の作成も会話内容の録音もしていないと主張していること,本件録音記録の内容を総合考慮すると,本件要点筆記を作成する基とした被控訴人岡田の記憶の正確性,ひいては,その記載内容の正確性には疑問があるといわざるを得ない。
 また,被控訴人市側の出席者である長渾の証言(原審)及び陳述書(乙4),堀越の陳述書(乙5),佐藤の陳述書(乙6)中には,本件意見交換会において,控訴人未来塾側から「話をするときは目を見て」という趣旨の大声の発言があったとの部分があるものの,その時期についてはあいまいさがあり,本件意見交換会の冒頭,被控訴人市側を代表して,市長の被控訴人岡田が「すみませんが確認させてください」と言った途端,控訴人未来塾側が「目を見て話をしろ」という趣旨のことを大声で怒鳴ったことまでは述べていない。
ウ 上記イ判示の各点に照らすと,本件要点筆記の記載,被控訴人岡田,長澤の各供述及び陳述書,堀越及び佐藤の陳述書などア判示の証拠のみをもって,本件談話②中前記1(4)ウで判示した,本件意見交換会において,控訴人市側が「すみませんが確認させていただきたいのですが」と発言したのに対し,控訴人未来塾側が,冒頭から「目を見て話をしろ」と怒鳴り,被控訴人市側が「静かに話をしましょう。」と応じた事実を認めるには足りず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 したがって,本件掲載訪中の本件談話②の上記部分の記載が真実であると認めることはできない。そして,これが本件意見交換会に出席した被控訴人岡田,長澤,堀越及び佐藤の直接体験した事柄であることに照らすと,被控訴人らにおいてこれが真実であると信ずるにつき相当の理由があることを認めるに足りる証拠もない。
4 被控訴人市の責任について
 被控訴人岡田が被控訴人市の市長として,被控訴人市が行った本件意見交換会の概要蜀安中市民に説明するために,本件談話②中前記1(4)ウ判示の部分を執筆して被控訴人市の広報紙発行規則に基づき発行する広報誌である本件掲載誌に掲載させ,安中市の全戸に配布させた行為は,公共団体である被控訴人市の公権力の行使に当たる公務員が職務を行うについてした違法な行為であると認められる。
 したがって,被控訴人市は,控訴人未来塾に対し,国家賠償法1条1項に基づき,控訴人未来塾が本件談話②によって社会的評価が低下したことにより被った損害について賠償する責任を負う。
 そして,前判示のとおり,本件談話②中前記1(4)ウ判示の部分を被控訴人市の広報誌に掲載し,市長が執筆した旨の記載をして同市の全戸に配布する行為は,控訴人未来塾の社会的評価を低下させるものではあるが,他方,本件掲載誌中の本件談話の他の部分の記載からは,控訴人未来塾側が被控訴人市側からの質問に対して平静に回答し,両者間で冷静な協議がなされたことが読み取れることからすると,控訴人未来塾の本件談話②の上記部分による社会的評価の低下の程度はそれほど大きいものであるとは認められず,前判示の違法行為の態様,控訴人未来塾の活動内容など本件に顕れた諸般の事情を総合すると,被控訴人市が控訴人未来塾に金銭賠償すべき額は5万円と認めるのが相当である。
 そして,前判示の違法行為の態様,控訴人未来塾の活動内容,本件談話②の上記部分による社会的評価の低下が上記の程度にとどまることその他本件に顕れた諸般の事情を総合すると,金銭賠償に加えて,被控訴人市に対し名誉回復するに適当な処分(国家賠償法4条,民法723条)まで命じることが相当であるとは認められない。
 なお,控訴人らは,本件掲載誌の編集,発行及び配布等を担当した職員の行為,本件談話の内容を修正させることなく本件談話を本件掲載誌に掲載させた総務部長等の行為並びに広報編集会議を開催しなかった総務部長等の不作為についても,違法行為であると主張しているところ,前判示の事実関係によれば,
 本件談話②中前記1(4)ウ判示の部分は市長である被控訴人岡田が自ら執筆し,これを掲載した本件掲載誌の配布が被控訴人岡田の意に沿うものであることが認められる上,上記各職員が適切な行為を行えば,本件談話②中上記の部分を掲載した本件掲載誌の配布が回避できたことを認めるに足りる証拠はないのであるから,控訴人らの主張する各職員の上記行為と控訴人未来塾の上記損害の発生との間には相当因果関係があるとは認めるに足りない。そして,仮に職員の上記違法行為による被控訴人市に対する損害賠償請求を認容する余地があるとしても,損害額に関する前記説示に照らせば,控訴人未来塾が上記認容額を超える損害を受けたものとは認められない。
5 被控訴人岡田の責任について
 被控訴人岡田が被控訴人市の市長として被控訴人市が行った本件意見交換会の概要を安中市民に説明するために本件談話②中前記1(4)ウ判示の部分を執筆して被控訴人市の広報誌に掲載し,配布させた行為が,公共団体である被控訴人市の公権力の行使に当たる公務員がその職務を行うについてした行為であると認められることは前判示のとおりである。そして,公共団体の公権力の行使に当たる公務員がその職務を行うにつき故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には,公共団体がその被害者に対して賠償の責に任ずるのであって,公務員個人はその責を負うものではないと解すべきである(最高裁昭和28年所第625号同30年4月19日第三小法廷判決・民集9巻5号534頁,同昭和49年(オ)第419号同53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁参照)から,被控訴人岡田は,控訴人未来塾に対し,控訴人未来塾が本件談話②の上記部分によって社会的評価が低下したことにより被った損害について賠償し,名誉回復処分をする責任を負わないというべきである。
6 結論
 以上によれば,控訴人未来塾の被控訴人市に対する請求は,5万円及びこれに対する不法行為後である平成19年12月21日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却し,控訴人未来塾の被控訴人岡田に対する請求は理由がないから棄却し,控訴人松本の被控訴人らに対する請求は理由がないからいずれも棄却すべきところ,これと一部異なる原判決は不当であり,控訴人未来塾の控訴は一部理由があるから,原判決中控訴人未来塾に関する部分を上記のとおり変更し,控訴人松本の控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
   東京高等裁判所第5民事部
         裁判長裁判官   大   竹   た か し
            裁判官   山   崎   ま さ よ
            裁判官   栗   原   壮   太
これは正本である。
平成23年7月13日
東京高等裁判所第5民事部
     裁判所書記官 林 正人
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■この判決文を見ると、次の7つの虚偽記事のうち、結局裁判所が無視できなかったのは②だけでだったことがわかります。
 本件談話①安中市からの回答日と開催準備期間
 本件談話②意見交換会開示直後、松本が怒鳴ったとの点
 本件談話③参加費徴収・募金・市民からの苦情指摘の点
 本件談話④スポーツセンター駐車場利用の点
 本件談話⑤有限会社サワ井商店の点
 本件談話⑥参加費及び寄付金の点
 本件談話⑦罵詈雑言の件

 それ以外は、「当裁判所も,本件談話①,③ないし⑦が控訴人未来塾の社会的評価を低下させると認めることはできないものと判断する」として、一審の前橋地裁高崎支部のトンデモ裁判官で有名な松丸伸一郎判事が下した判決を支持しています。

■しかも、判決文をよく読むと、「被控訴人市は,控訴人未来塾に対し,国家賠償法1条1項に基づき,控訴人未来塾が本件談話②によって社会的評価が低下したことにより被った損害について賠償する責任を負う」とあるにもかかわらず、その認定額は僅か5万円としてうえに、名誉毀損に関わる②にかかる記事については「市長である被控訴人岡田が自ら執筆し,これを掲載した本件掲載誌の配布が被控訴人岡田の意に沿うものであることが認められる上,上記各職員が適切な行為を行えば,本件談話②中上記の部分を掲載した本件掲載誌の配布が回避できたことを認めるに足りる証拠はないのであるから,控訴人らの主張する各職員の上記行為と控訴人未来塾の上記損害の発生との間には相当因果関係があるとは認めるに足りない。そして,仮に職員の上記違法行為による被控訴人市に対する損害賠償請求を認容する余地があるとしても,損害額に関する前記説示に照らせば,控訴人未来塾が上記認容額を超える損害を受けたものとは認められない」として、今回の名誉毀損に加担した市の職員らは岡田義弘市長のいいつけに従っただけなので、責任がないと言っています。

 これでは、安中市のようなイエスマン行政の暴走は一向に収まる方向には向かないでしょう。

■極めつけは、判決文の「5 被控訴人岡田の責任について」とある箇所です。

 そこには「被控訴人岡田が被控訴人市の市長として被控訴人市が行った本件意見交換会の概要を安中市民に説明するために本件談話②中前記1(4)ウ判示の部分を執筆して被控訴人市の広報誌に掲載し,配布させた行為が,公共団体である被控訴人市の公権力の行使に当たる公務員がその職務を行うについてした行為であると認められる」
「そして,公共団体の公権力の行使に当たる公務員がその職務を行うにつき故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には,公共団体がその被害者に対して賠償の責に任ずるのであって,公務員個人はその責を負うものではないと解すべきである」(最高裁昭和28年所第625号同30年4月19日第三小法廷判決・民集9巻5号534頁,同昭和49年(オ)第419号同53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁参照)
「だから,被控訴人岡田は,控訴人未来塾に対し,控訴人未来塾が本件談話②の上記部分によって社会的評価が低下したことにより被った損害について賠償し,名誉回復処分をする責任を負わないというべきである」
と断じていることです。

 これでは、市長の独裁性をますます助長し、公務員に課せられた「不法行為に遭遇したら告発義務がある」と定めた国家公務員法や地方公務員法が骨抜きになってしまいます。わざわざこのようなコメントを判決文につけた東京高裁の意図は分かりませんが、自らタネをまいた岡田義弘市長がその責任を問われないという裁判所の常識はどうかしているとしか思えません。

 まさか、安中市民が今回の事件で、岡田市長が公費をつぎ込んでいることに対して、住民監査請求をする動きに出るのではないかと事前に心配していた為、公安委員でもある市の顧問弁護士が東京高裁に耳打ちをしたとは思えませんが、なにしろ51億円事件を起こした安中市の体質ですから、あながち空想とも思えません。

■いくらワンマン市長でも、ここまで保護された判決文を見れば、「5万円で済み、謝罪記事も出さずに済み、職員も、そして自分自身にも特に責任をかぶせられる心配はなく、裁判費用は全部安中市民の税金から支払うのだから問題ない」と思うでしょう。

 ところが、我らが岡田義弘・安中市長はそのようなフツーの市長ではなかったのです。とにかく一部でも負けると悔しがる性分です。さっそく顧問弁護士と相談し、市議会の与党会派に根回しをして、なんと上告に向けた準備を始めたのでした。

【ひらく会情報部・この項つづく】

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フリマ中止を巡る未来塾側と安中市・岡田市長とのバトル・・・逆転劇となった東京高裁での攻防(その8)

2012-02-17 00:08:00 | 安中フリマ中止騒動
■未来塾側が満を持して平成23年2月7日に提出した第3準備書面には、わが国を代表する国際的にも著名な㈱鈴木法科学鑑定研究所の代表取締役である鈴木隆雄氏が作成した同1月27日付の意見書が添付されていました。

 これに仰天した岡田市長は、さぞ慌てたことでしょう。しかし、冷静に考えてみれば自ら撒いたタネがこのような事情をわが身にもたらせたことになります。

■平成23年2月21日(月)に東京高裁で開催された第3回口頭弁論に関しては、残念ながら安中市職員の復命書の開示はなぜかありませんでしたが、同日付で、被控訴人として岡田義弘市長が提出した準備書面とそれに添付されている平成23年2月18日付の丙第25号証を見ると、2月7日付の未来塾側の準備書面から実質的に10日間で反論のための書類の作成を行ったことがわかります。

 もちろん、準備書面の活字のフォントを見る限り、いつもの岡田市長の小ぶりなワープロ文字ではなく、大き目の明朝体の活字となっており、犠牲となったのは安中市の職員たちであることは一目瞭然です。

**********
【岡田義弘市長が第3回口頭弁論当日に高裁に提出した準備書面】
平成22年(ネ)第4137号  損害賠償等請求控訴事件
控訴人  松本立家外1名
被控訴人 岡田義弘外1名
              準 備 書 面
                       平成23年2月21日
東京高等裁判所 第5民事部 御中
                    被控訴人  岡 田 義 弘
第1 控訴人らの提出した意見書(甲60)について
1 平成23年1月27日付け(株)鈴本法科学鑑定研究所・鈴木隆雄氏作成の意見書(以下「鈴木意見書」という。)は、以下のとおり信用性がないばかりか被控訴人らの主張に対する十分な反論の証拠となり得ていない。
 そもそも音声データの分析を依頼するのに、音声の第一次記録媒体であるICレコーダ本体は提出せずに、その写しであるCD-Rだけを用いているが、この点に関連して被控訴人安中市が、原審及び前回の準備書面(2)のなかで、ICレコーダを提出しようとしない控訴人らに対して、編集加工が大きく疑われるものであるとして繰り返し批判している。
 訴訟における原本主義に鑑みれば、控訴人らが所有する録音に係る第一次記録媒体によって鑑定を行うのが常道であり、被控訴人安中市の主張に反論するためにも鑑定にあたってはICレコーダをあわせて提出し、その第一次記録媒体とそれを複製したCD-Rの内容が、全く同一であってどちらも編集加工されていないことを同時に立証すべきであった。
 御庁平成20年(ネ)650号各損害賠償、手帳返還等請求控訴事件(乙25)においても第一次記録媒体を提出できないことに対し、証拠の保管ないし提出方法において著しく不自然な点があると第一次記録媒体の重要性を指摘している。
 従って、控訴人らが自分で依頼した鑑定にあたっても、第一次記録媒体であるICレコーダを全く使用しなかったことには理解ができない。
2 控訴人ら提出した鈴木意見書に信用性がないことを立証するため、限られた時間ではあったが、原審において提出した鑑定書(丙22)を作成した日本音響研究所に急濾依頼し、反論の意見書(丙25)の提出を求めた。
 そのなかで、ICレコーダで録音したデジタルデータの場合、編集を行ってもその形跡がわからない場合があり、この主張は前出の平成20年(ネ)650号各損害賠償、手帳返還等請求控訴事件でも採用されていること、衝撃音が見つけられないとしているが、周波数分析図面上でも聴覚上でもはっきりと確認できるものであって、しかも10秒ごとの周波数分析では時計の長針による衝撃音はおよそ0.08秒程度のものであるため、妥当な検証方法ではないことなど、鈴木意見書に信用性がないことを具体的に証明している。
 本来であれば、日本音響研究所としては、鈴木意見書について、時間をかけてより詳細に検証・分析を行ったうえで、意見書を提出したかったようであるが、このように結審直前に提出されたのでは限られた反論しか行えず、紳士的な方法ではなく憤りを感じると結んでいる。
 被控訴人としても、同じ意見であり、時間は十分にあったのだから、訴訟進行上もっと早い段階で鑑定を依頼し提出されるべきであり、故意に遅らせたとするならば許されるものではないと考える。
 また、先の平成20年(ネ)650号各損害賠償、手帳返還等請求控訴事件を参考とするならば、提出された鑑定書が「音声データのすべてについて,周波数分析を行い,音や信号の周波数成分の状態をスペクトログラムに表示し,録音内容の聴取検査をも併用し,本件音声データを検査した結果,合成,修正及び加工された箇所は見当たらず,編集改ざんされた録音ではない」としているにもかかわらず、実際は削除等の加工が施されていた。
 鈴木意見書でも、録音の一部を削除したりする操作をICレコーダに添付されているソフトやパソコンを使って編集処理を行っても、スペクトログラムの解析でその接続箇所の痕跡を抽出することが可能であるとしている(2頁20行目以降)が、先の裁判の例では、スペクトログラムによっても編集改ざんの痕跡を検出することができない可能性は十分残されていることになる。
 つまり、今回控訴人らが提出した鈴木意見書における鑑定も同様な方法で分析しているならば、その信用性が全くないことは明らかである。
 鈴木意見書の結論としても、編集加工された可能性は極めて低いとはしているが、全くないとは断じておらず、ICレコーダで録音したデジタルデータの場合、編集を行ってもその形跡がわからない場合もあることを暗に示している。
3 以上に加えて、編集加工されていないとする鈴木意見書の中で、逆に現場にいた人間でなければわからない、編集加工が大いに疑われる記述がある。
 それは、鈴木意見書の9頁の図19及び図20の検討所見であって、そこに「笑い声のある部分に急に大きな音のため、音が歪んだ箇所がある」という指摘がなされていることである。
 正に、その箇所は意見交換会で控訴人未来塾側の出席者が怒鳴った場面であり、もし、編集加工されていないとするならば、この音の正体はいったい何なのか?
 付言するが、意見交換会のこの場面で急に大きな音が発生した事実は一切ない。
 雑音の類の音であれば、他の図の検討所見と同様に『「ガサガサ」というような雑音、カシッというような音、カツコツというような音』と明確に書かれているはずであり、なぜ、鈴木隆雄氏は「急に大きな音」としか表現できなかったのか、しかもなぜ原因不明の音が問題となっている場面だけに発生しているのか?
 また、図19及び図20の原信号の波形は他の図のものと比較して明らかに異なっているのが見て取れる。
 原審で提出した鑑定書(丙22)においても、本件で争いとなっているこの部分(約899秒反訳書8頁26秒付近)近くで時計の長針による衝撃音が確認されておらず、不自然であるため、この前後部分で削除が行われた可能性があると指摘している(鑑定書7頁1行目~5行目)。
 これらの理由として想定されるのは、この箇所に鑑定によってもわからない何らかの処理がなされているか、鑑定を依頼された鈴木隆雄氏が依頼主である控訴人らの不利とならないように、このような表現しかできなかったとしか考えられない。
 そうでなければ、その場にいた職員、ましてや隣室で仕事をしていた秘書行政課の職員全員が驚いたほどの大きな声が録音されていないわけがない。
 公務員は、真面目な職員ほど保守的で保身主義の傾向があるが、裁判において、意見交換会に出席した部長が3人とも偽りの陳述をすることなど、よほどのことがない限りはあり得ない
 しかも、退職して既に市と関わりを持だない職員が、市又は市長個人のために偽証罪のおそれがある危険を犯すとは到底思えない
第2 名誉毀損について
 本件談話の作成にあたっては、控訴人らの人権には十分配慮し、誰がどのような言動をしたのかわからないように、個人の名前は一切明らかにしなかった。
 一方、団体である未来塾については、県議会議員や市議会議員を有し、マスコミにも多く登場し、市民の未来塾に対する社会的関心は非常に高い。
 このような団体は、選挙で選出される市長等公人と同様に、常に社会的評価や批判にさらされる立場にあるため、名誉保護の範囲が一般の市民や団体よりも、より限定されたものになるべきである。
 また、本件談話は、控訴人らの社会的評価を低下させる内容ではないが、仮に低下させたとしても公共の利害に係る事実であり、先に発行された未来塾ニュースに反論する意味も含めて、市民に意見交換会の内容を知らしめるべく、専ら公益を図る目的で書いたものであって、その内容も真実であるから、免責される性質のものである。
 なお、これまで繰り返し主張してきたとおり、公務員の職務行為に基づく損害賠償請求については、国家賠償法第1条の適用がある限り、公務員個人の責任を追及することができないのは、最高裁判例でも明らかであって、本件控訴はこの点においてはじめから不適法である。
 その他披控訴人岡田義弘の主張及び立証は、披控訴人安中市の主張及び立証を援用する。
                             以 上
【岡田義弘市長の準備書面に添付された証拠説明書】
平成22年(ネ)第4137号 損害賠償等請求控訴事件
原 告  松 本 立 家 タト1名
被 告  岡 田 義 弘 外1名
          証  拠  説  明  書
                            平成23年2月21日
東京高等裁判所民事第5部 御中
                   被控訴人 岡 田 義 弘
号証/標目/作成年月日/作成者/立証趣旨
丙25/意見書Z・原本/平成23年2月18日/日本音響研究所/意見書(甲60)に信用性がないこと
【丙第25号証】
                    日音研発第2260号
                    2011年2月18日
群馬県安中市野殿969番地
 岡田義弘様
                    東京都渋谷区鷹ヶ谷1-38-7
                    日本音響研究所
                     所長 鈴木松美
                  主任研究員 鈴木 創
             意見書
 2011年2月10日に群馬県安中市野殿969番地 岡田義弘より依頼のあった、株式会社鈴本法科学鑑定研究所・鈴木隆雄作成の、甲第60号証、平成23年1月27日付意見書(以下鈴木隆雄意見書という)に対する意見を報告する。

 ICレコーダで録音したようなディジタルデータの場合、編集を行ってもその形跡はわからない場合もある。
 特に鈴木隆雄意見書で例として挙げられている編集の形跡(参考図1及び2)は、耳で聞いてもはっきりわかる程度のバックノイズが異なる箇所をつないでいるものであり、証拠の内容を改ざんする目的がある場合には、バックノイズがはっきりと変化する箇所をつなぐことは、編集に関して知識があまりない人間が行っても考え難いことである。
 東京高等裁判所の判例(※に事件番号)でも鈴木隆雄氏のこの類の見解は一蹴されており、当研究所が主張するディジタルデータの場合には編集されたとしてもその形跡は明らかにすることは出来ない場合もあるという主張を採用されている。
※東京高等裁判所の事件
平成20年(ネ)第650号各損害賠償,手帳返還等請求控訴審件
 (原審・東京地方裁判所平成17年(ワ)第15151号〔第1事件],第15738号〔第2事件〕,第23436号〔第3事件〕)

 編集された範囲を明らかにしていないとの指摘だが、当方はそもそも編集された箇所が非常に判別しがたいと主張しているので当然である。
 また、KAY社のCSLを用いて全体的なバックノイズの傾向よりバックノイズによる編集された形跡は見つけられないといった結果、及び時計の長針による衝撃音の時間的・周波数的特徴の明示を行ったが、長針による衝撃音は、周波数分析を参考にしながら、SONY製のSoundForge8.0dというソフトウェアを用いて、聴覚上での確認を併せて行っており、CSLの時間分解能よりも詳細な数値を得ている。

 鈴木隆雄意見書では衝撃音が見つけられないとしているが、周波数分析図面上でも聴覚上でもはっきりと確認出来るものであり、鈴木隆雄氏は何を根拠にそのような主張をされているか不明である。
 また、鈴木隆雄意見書では10秒ごとに周波数分析を行って、時計の長針による衝撃音が見当たらないと主張しているが、時計の長針による衝撃音はおよそ0.08秒程度のものであり、10秒間隔で確認しても見つけることは非常に難しく、時間軸の設定を衝撃音が確認しがたい数値にするなど妥当な検証方法であるとは到底言えない。

 マスキング効果によって衝撃音が確認しがたい部分があるのは、会議の録音であるので致し方ないものであり、当方は衝撃音が確認出来ない部分があったことがそのまま編集の形跡であるとは主張していない。
 あくまでも、衝撃音の時間間隔のズレが生じていることについて論じているものであり、編集された形跡として看過できない情報であると考える。

 結審直前にこのような意見書を提出することにより、当方による鈴木隆雄意見書の検証・反論の時間を与えない手法は非常に紳士的な方法論ではないものであり憤りを感じる。
                                 以下余白
**********

■こうして、一審の前橋地裁高崎支部で敗訴した未来塾が、起死回生をかけて、東京高裁に控訴してからおよそ7ヶ月に及んだ二審が結審したのでした。

 最後にドタバタを露呈した安中市側のとくに岡田義弘市長としては、忸怩たる想いで控訴審の幕切れをみていたことでしょう。しかし、実際にはその余韻に浸るまもなく、それからわずか3週間後には東日本大震災が勃発したのでした。

 第3回口頭弁論での審議の内容が不明な為、そのためかどうか理由は定かではありませんが、判決までに随分時間がかかりました。結局、判決が出たのは平成23年7月13日だったのでした。

【ひらく会情報部・この項つづく】

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フリマ中止を巡る未来塾側と安中市・岡田市長とのバトル・・・逆転劇となった東京高裁での攻防(その7)

2012-02-16 12:03:00 | 安中フリマ中止騒動
■未来塾側が安中市側を訴えた損害賠償控訴請求事件は、第1回口頭弁論が平成22年10月18日(月)午後1時50分~、第2回口頭弁論が平成22年12月20日(月)午前11時30分から東京高等裁判所第5民事部511号法廷で開かれ、平成23年2月21日(月)予定の第3回口頭弁論で結審することになりました。そのため、年明けから両者では、最後の仕上げを目指して活発な動きが展開されました。

 最初に、ドーンとこれでもかとばかりに準備書面を提出してきたのは、控訴人の未来塾側です。最後の最後に、岡田市長が見つけてきたイカガワシイ鑑定書に対する決定打として、株式会社鈴木法科学検定研究所が作成した「意見書」を甲第60号証として証拠提出するための「第3準備書面」を平成23年2月7日付で東京高等裁判所に提出したのでした。
**********
【控訴人が提出した第3準備書面】
平成22年(ネ)第4137号 損書賠償等請求控訴事件
控訴人(一審原告)  松本立家 外1名
被控訴人(一審被告) 岡田義弘 外1名
          第 3 準 書 面
                       平成23年2月7日
東京高等裁判所 第5民事部 御中
        控訴人(一審原告)ら訴訟代理人
                  弁護士  山 下 敏 雅
                  同    中 城 重 光
                  同    釜 井 英 法
                  同    登 坂 真 人
                  同    寺 町 東 子
                  同    後 藤 真紀子
                  同    青 木 知 己
                  同    吉 田 隆 宏
                  同    船 崎 ま み
                  同    寺 田 明 弘
                  同    高 城 智 子
                  同    山 口 裕 末

第1 -審被告岡田の提出した「鑑定書」(丙22)に信用性のないこと
1 時計の針の音のズレを前提としても論理に重大な誤りがあること
 一審被告岡田の提出した,日本音響研究所所長鈴木松美「鑑定書」(丙22)は,意見交換会の録音記録(甲39)について,市長室内の時計の針の音のズレを根拠として,編集加工されたものと結論づけている。
 しかしながら,その針の音が「鑑定書」に記載されているとおり存在することを前提としてもその論理に重大な誤りがあることについては,すでに本件控訴審の一審原告第1準備書面7頁以降に詳述したとおりである。
2 「鑑定書」の時計の針の音の分析結果自体に根本的な誤りのあること
(1) さらに,別の専門家によれば,「鑑定書」が前提とする市長室内の時計の針の音の分析結果自体にも,根本的な誤りが存する。
(2) すなわち,元警察庁科学警察研究所副所長の鈴木隆雄によれば,鈴木松美が「鑑定書」で使用した分析機器のサンプリング周波数は22050Hz程度,分解能は1024ポイントであり,時間分解能は約0.05秒程度にすぎない。しかるに,「鑑定書」別表8では,時間分解能が小数点以下5析まで示されているものがある。これは,「メモリが1mmしか測れない物指しで0.1mmを測っているようなもので,まったく意味がない」ものである(甲60:3頁)。
 また,「鑑定書では長針の衝撃音の分析結果として別添7のスペクトログラムが添付されているが,①この衝撃音の分析結果が,原録音のどの部分から抽出されたか明示されておらず,本当に衝撃音であるか否かも不明であり,また,②衝撃音の立ち上がりから減衰までに約0.08秒程度の時間があり,「鑑定書」が衝撃音の時間の測定をどの部分で行っているのかの明示もない(甲60:3頁)。
 さらに,「鑑定書」の別添3~6の周波数分析結果の図からは,長針の衝撃音を読み取ることは不可能である(甲60:3頁)。
(3) 「鑑定書」8頁の番号15から2 1 1までの各部分に表示された時間を含む2分間の区間について,鈴木隆雄が周波数分析を行い,そのスペクトログラムを検討したものが,甲60号証の4真の表1及び添付の図3から図10である。
 これについて鈴木隆雄は,「表1で示したように日音研鑑定言に記載されている部分について検討したが,30秒毎の長針の衝撃音は,明確には認められなかった」と結論づけている(甲60:5真)。
(4) さらに,「鑑定言」で30秒の長針衝撃音の欠落がないとされている番号10から14の部分の2分間について,鈴木隆雄が10秒ずつ区切って周波数分析を行い,そのスペクトログラムを分析しだものが,甲60号証の5頁の表2及び添付の図11である。
 これについて鈴木隆雄は,「表2では,2分間の録音を10秒区間毎に連続で分析しているので,もし30秒毎の長針の衝撃音が明確な音であれば,少なくとも3個は認識できるはずでさるが,明確には認められなかった」と結論づけている(甲60:7真)。
(5) もし30秒毎の長針の衝撃音が明確な音ではなく小さな音であるとするならば,少なくとも現場で同じような録音実験を行い,そこに収録されている長針の衝撃音と比較して説明すべきである(甲60:7真)。しかし,「鑑定書」にはそのような実験を行い,比較した説明は一切ない。
 正確に鑑定を行うのであれば,時系列的に30秒毎の長針の衝撃音の存在を示す分析スペクトログラムを示し,さらに衝撃音の詳細な分析を2個以上示して初めて科学的な鑑定といえるが,「鑑定書」ではそのような分析はない。
(6) 鈴木隆雄は,概要,以上のように分析したうえで,「日音研の鑑定書を根拠にした論議は,日音研の時刻鑑定の物理的な合理性が無いことから,基本的に成り立だない」と結論づけている(甲60:7頁)。
3 小括
 以上のとおり,被告岡田の提出した「鑑定書」(丙22)は,市長室の針の音が「鑑定書」記載の通りであることを前提としてもその論理に重大な誤りがあるだけでなく,そもそもその針の音の鑑定結果自体に合理性がなく,いずれにしても信用性はない。
第2 録音記録(甲39)が編集加工されていないこと
1 デジタル録音の改ざんの検出可能性
 ICレコーダーのようなデジタル式の録音機では,アナログ式の録音機のようなスイッチ信号の検出はできないものの,スペクトログラムの解析でその接続箇所の痕跡を抽出することが可能である。
 周囲の暗騒音がほとんど入らないようなスタジオで少人数の音声が録音されたような場合であれば編集箇所を検出することは困難であっても,本件のような一般の録音では,対象となる会話音声の他に,必ず背景音が入る。この背景音まで偽装することは極めて困難である(甲60:2頁,7頁以降)。
2 不連続箇所・異常録音箇所のないこと
 鈴木隆雄が録音記録(甲39)の録音すべてについて,10秒毎に録音の不連続箇所・異常箇所の有無を分析した結果,周波数分析をした結果を具体的に表3及び図12~26で示したうえ,「録音の最初部分にガサガサとこすれるような大きな音があり,また,録音の途中にもガサガサという音,カシッという言うような音やコツコツと何かにぶつかるような幾つかの雑音のある箇所はあるが,特に録音の不連続箇所や異常な箇所は認められなかった。
 また,笑い声のある部分とその付近に急に大きな音のあったため音が歪んだ箇所があるが,特に録音の不連続箇所や異常な箇所は,認められなかった」と結論づけている(甲60:11)。
 特に,鈴木隆雄は,本訴訟で争いとなっている,一審被告岡田の「確認をですね/さしていただきたいと考えております」との発言の前後部分(図12~14),及び,一審原告松本の「市長さん.お話しているのは私ですから,できれば私の方に向いていただけるとお答えもしやすいんですが」との発言の前後部分(図18~20)の部分も,具体的に分析結果を示したうえで,上記の通り結論づけている(表3)。
3 鈴木隆雄による結論
 鈴木隆雄は,以上の分析結果から,
「 資料(1)の録音〔注:甲39号証の録音記録〕は編集加工された可能性は,極めて低い」
と結請づけている。
第3 鈴木隆雄の経歴・実績,及び,その鑑定結果の信用性が高いこと
 鈴木隆雄は,元警察庁科学警察研究所副所長であり,多数の刑事事件・民事事件で鑑定実績があり(甲60内「鈴木隆雄 経歴書」),その鑑定結果の信用性は極めて商い。
 本件控訴審の一審原告第1準備書面13頁以降で述べたとおり,損害賠償請求訴訟である東京地方裁判所平成12年5月30日判決(判例時報1719号40頁),及び√強姦殺人事件の再審請求事案である札幌高等裁判所平成13年2月16日決定(判例タイムズ1057号268頁)において,裁判所はいずれも,鈴木松美(木訴訟における丙22号証「鑑定書」の作成者)の鑑定意見を排斥し,この鈴木隆雄の鑑定意見を採用している。
                            以上

【控訴人が提出した証拠説明書】
平成22年(ネ)第4137号 損害賠償等請求控訴事件
控訴人(一審原告)  松 本 立 家 外1名
被控訴人(一審被告)  岡 田 義 弘 外1名
           証拠説明書
                      平成23年 2月 7日
東京高等裁判所第5民事部 御中
          控訴人(一審原告)ら訴訟代理人
                 弁護士  山 下  敏 雅  外
号証/標目/作成年月日/作成者/立証趣旨
甲60/意見書・原本/平成23年1月27日/鈴木隆雄/鈴木松美作成の「鑑定書」(丙22)が前提とする市長室内の時計の針の音の分析結果自体に根本的な誤りが存すること,録音記録(甲39)に不連続・異常箇所がなく,「編集・加工された可能性は極めて低い」こと,意見書作成者の経歴・実績等

【甲第60号証】
      平成23年1月27日
  意 見 書
(株)鈴本法科学鑑定研究所
  鈴 木 隆 雄
<意 見 書>
 平成22年11月17日付けで、東京パブリック法律事務所山下敏雅弁護士殿より下記の録音の鑑定についての意見書の作成を依頼されたので、鈴本法科学鑑定研究所の鈴木隆雄が次のように検討し、意見書を作成したので報告致します。
1.意見を求められた事項
(1)「丙第22号証」2009年12月15日付けの日本音響研究所鈴木創並びに鈴本松美作成の鑑定言に記載されている鑑定経過と鑑定結果は適切か否か。
(2)資料のCDに録音されている内容は編集改ざんされているか否か。
2.資料
 資料(1)音声データ(甲第39号証) CD・R 1枚
 資料(2)丙22号証(日本音響研究所作成鑑定書) 副本 1部
 資料(3)甲40号証(反訴)     写し 1部
 資料(4)原告第4準備書面      写し 1部
 資料(5)甲48号の1~3      写し各1部
 資料(6)準備書面(2)       写し 1部
3.各資料について
① 資料(1)音声データ(甲第39号証)のCD-Rについて
 資料(1)は、写真1に示したように、CDのケースとCDの表面に「甲第39号証」と記載されたシールが貼られている。
 その内容をパソコンで開くと、分析図1に示したようにWAV形式の録音で「意見交換会(07.9.10)」.というファイル名で保存されている。
② 資料(2)は、日本音響研究所作成の鑑定言で、表紙に「丙第22号証」と記載されたシールが貼られ、同表紙に「日音研発第2200号」、「2009年12月15日」、「彰」等の記載がある。
 鑑定書は、表紙を除き、本文が9ページ、別添資料が1~10まである。
③ 資料(3)は、反訳書で、表紙に「甲第40号証」という記載があり、1ページ目には反訳書の表紙があり、表紙を除く本文は62ページである。
④ 資料(4)は、前橋地方裁判所 高崎支部に提出された原告代理人弁護士
 山下敏雅他の作成の平成21年7月15日付けの準備書面で「第4準備書面」の記載があり、表紙を含み3ページある。
⑤ 資料(5)は、ICレコーダのコピー写真で、甲48号証の1から3までの3枚の写真である。
⑥ 資料(6)は、東京高等裁判所第5民事部に提出された接控訴人安中市訴訟代理人弁護士渡辺明男の作成の平成22年12月17日付けの準備書面で「第2準備書面」の記載かおり、表紙を含み9ページある。
4.資料(2)日本音響研究所の鑑定言に対する意見
 以下において日本音響研究所を「日音研」と呼び、日本音響研究所の資料(2)丙22号証(日本音響研究所作成鑑定書)を「日音研鑑定書」と呼ぶことにする。
(1)ICレコーダやその他の録音機に付いての編集改ざんの有無について
 日音研鑑定書においてアナログ式のテープ録音機以外のデジタル方式の録音機では、録音の改ざんが全く検出不可能のごとく述べているが、それは全く誤りである。
 参考のため、デジタル信号処理でICレコーダの録音を編集改ざんした例を、参考図1と参考図2に添付する。
 参考図1は、ICレコーダの録音データをパソコンでデジタル信号処理により、録音の一部を削除し、接続した例で、背景にある暗騒音が接続された箇所で、周波数的に不連続な状態になっている。
 また、参考図2も、ICレコーダの録音データをパソコンでデジタル信号処理により、録音の一部を削除し接続した例であるが、背景にある一定周波数の音が接続箇所で急に出現して、周波数的に不連続な状態になっている。
 確かに、ICレコーダの録音ではアナログ式の録音機のようにスイッチ信号などは検出できないが、場面が異なる箇所を挿入したり、録音の一部を削除したりする操作をICレコーダに添付されでいるソフトやパソコンを使って編集処理を行っても、スペクトログラムの解析でその接続箇所の痕跡が抽出することが可能である。もちろん総ての資料について可能ではなく、周囲の暗騒音が殆ど入らないようなスタジオで、少人数の音声が録音されたような場合は、その録音の編集箇所を見つけるのは困難な場合があるが、一般の録音では対象となる会話音声の他に必ず周囲から入る音いわゆる背景音があり、その背景音まで偽装することは極めて困難である。
 勿論日音研鑑定言に述べられているように、デジタル録音とアナログ録音を繰り返し処理したような場合は、検出できない場合もあるが、特殊な技術や専門的な知識がなければ、容易に編集改ざんが出来るものではない。
(2)日音研の述べている資料(1)音声データについての鑑定結果について
 日音研鑑定書では、録音の分析では改ざん箇所が分からないから、音声の録音と同時に背景にある時計の長針の移動時に発せられる「カチン」という音を分析して、その時間間隔の不整合性や「カチン」という音が検出できない部分があることによって、当該録音の内容が編集されたものであると推定している。
 この結論に至る手法は、極めて合理性がない。
 一般に、編集改ざんがあると言う場合は、録音のどの箇所からどの箇所までと言うように具体的に説明するのが常道である。しかるに、日音研鑑定書では、時計の長針の移動時に発せられる「カチン」という音の有無だけで、具体的に編集改ざんの発言箇所の範囲を示していない。
 図1-1~1-4に日音研の鑑定書に添付された0分から録音の最後の箇所までの周波数分析結果を示したが、Frequencyと言かれた周波数軸の上の方に「8000」と言かれた数字が見える。このことから、この資料の録音を、情報理論からするとサンプリング周波数を20,000Hz以上を使用していることになるが、日音研の鑑定書で示しているKAY社のソフトであるとすればサンプリング周波数は22050Hz程度と考えられる。また、分解能は1024ポイントであると述べられている。
 ここで録音されている時間の分解能を計算してみると、1秒間の信号を22050Hzでサンプリングし1024ポイイントの分解能とすれば、その時間分解能は、1024/22050=0.046秒となり、約0.05秒程度となる。
 日音研の鑑定書の別添8の表を見ると、時間分解能が小数点以下5桁まで示されているものがあり、物理学的に正しい表現ではない。メモリが1mmしか測れない物指しで0.1mmを測っているようなもので、まったく意味がない。
 その点を無視して、目音研鑑定書のP8で上から7行目に時計の長針の衝撃音が58.626秒と表現されているが、科学的な表現としては極めておかしい。
 また、目音研の長針の衝撃音を分析した別添7のスペクトログラムを見ると、検軸は2秒程度と考えられるが、長針の衝撃音は立ち上がりから減表するまで約0.08秒程度の時間がある。もし、そうであるとすれば、長針の音の測定をどの部分で行っているのか明示すべきである。
 いずれにしても、目音研鑑定書の添付3~6の周波数分析結果の図からは、長針の衝撃音を読みとることは不可能で、さらに添付7に示された2秒間の衝撃音の分析結果は、原録音のどの部分から抽出されたかも明示されておらず、本当に衝撃音なのか否かもわからない。
 衝撃音が図2(日音研鑑定書別添7)のような分析スペクトログラムのパターンであるならば、時系列的に30秒ごとの衝撃音を複数並べてその再現性を示して、初めて証明することができる。然るにそのような説明は無い。
(3)検証分析
 そこで鑑定人は、日音研鑑定書P8で示された時刻を付近について番号15から211までの各部分について表示された時間を含む2分間の区間について周波数分析を行い、そのスペクトログラムを検討した。
 分析結果の一部を、次の表1に示したように本意見書に添付する。
 各図において、上段は原録音の波形、中断はその周波数分析結果のスペクトログラム、下段は時報の波形で10秒ごとで30秒が分かるようになっている。
 また、各話者は、資料(3)の反訳書を参照し、松本氏を(松)、長澤氏を(長)、岡田氏を(岡)、■氏を(■)、■氏を(■)のように図中に表示した。
 なお、不明者は○○としてある。
表1 資料録音の当該箇所の抜粋分析スペクトログラム
図3:
 時間:5分00秒~7分00秒(300~420秒)
 検討:最初の部分「えー今代表・・」(長)、「ガサガサという音」、「2000円徴収‥」(長)、「フリーマーケットの出席者から・・」(松)~「新潟の地震があった時にその募金・・」(松)の部分である。30秒毎の長針の衝撃音は、明確には認められない。
図4:
 時間:7分00秒~9分00秒(420~540秒)
 検討:「地震がありました 募金・・」(松)、「ちょっと では確認ですけど・・」(長)、「控えがあるのでは」・・」(松)~「ですから明確な・・」(松)の部分である。30秒毎の長針の衝撃音は、明確には認められない。
図5:
 時間:47分30秒~49分30秒(2850~2970秒)
 検討:「市長は何もお答え・・」(松)、「じやあ それですね」(長)~「私の方はご質問‥」(松)
の部分である。30秒毎の長針の衝撃音は、明確には認められない。
図6:
 時間;49分30秒~51分30秒(2970~3090秒)
 検討:「寄付を・・」(松)、「今日は6月2日・・」(松)~「教えていただきたい・・」(松)
の部分である。30秒毎の長針の衝撃音は、明確には認められない。
図7:
 時間:69分00秒~71分00秒(4140~4260秒)
 検討:「結論が出ない・・」(松)、「そういう誤解を・・」(岡)~「2000円取ると・・」(松)
の部分である。30秒毎の長針の衝撃音は、明確には認められない。
図8:
 時間:71分00秒~73分00秒(4260~4380秒)
 検討:「それはあれですね」(松)、「イベントを開催する‥」(■)~「あの上後閑の道路の件で・・」(岡)の部分である。30秒毎の長針の衝撃音は、明確には認められない。
図9:
 時間:110秒30秒~112分30秒(6630~6750秒)
 検討:「わけですから」(●)、「いやいや それはわからない・・」(岡)~「言ってる訳だか
ら・・」(岡)の部分である。30秒毎の長針の衝撃音は、明確には認められない。
図10:
 事件:112秒30秒~114分30秒(6750~6870秒)
 検討:「ま、言い置いて・・」(松)、「どうもご苦労様でした」(岡)~「まあ どう言おうと・・」(岡)~「ありがとうございました」(○○)の部分である。30秒毎の長針の衝撃音は、明確には認められない。

 表1で示したように日音研鑑定書に記載されている部分について検討したが、30秒毎の長針の衝撃音は、明確には認められなかった。
 そこで、さらに詳細に信号の有無を確かめるために、日音研鑑定書で特に30秒の長針衝撃音の欠落がないとされる別添8に示された箇所10~14、すなわち資料録音の6分~8分の2分間について、10秒づつ区切って周波数分析を行い、そのスペクトログラムを検討した。
 その分析結果を、次の表2に示したように本意見書に添付する。
 なお、資料録音の6分~8分の全体を分析した図11は、上段は原録音の波形、中断はその周波数分析結果のスペクトログラム、下段は時報の波形で10秒ごとで30秒が分かるようになっている。
 また、各話者は、資料(3)の反訳書を参照し、松本氏を(松)、長澤氏を(長)、岡田氏を(岡)、■氏を(■)、■氏を(■)のように図中に表示した。なお、不明者は○○としてある。
 また、最初の図11は、分析した2分間の全体の録音を示している。
 10秒毎の分析結果は、表2に示したとおりである。
表2 資料録音6分~8分の部分を10秒毎に分析スペクトログラム
図11:
 時間:6分00秒~8分00秒(360~480秒)分析した2分間全体の録音
 検討:「ていうことは事実でございます」(松)、「新潟に地震が・・」(松)~「震災を受け
た地域・・」(長)付近の部分である。
図11-1:
 時間;360~370秒
 検討:「ていうことは事実でございます」(松)、「はい」(松)付近の部分である。30秒毎の長針の衝撃音は、明確には認められない。
図11-2:
 時間:370~380秒
 検討:「ガサガサという音」、「そのへんは・・・」(長)、「今・・・」(長)付近の部分である。30秒毎の長針の衝撃音は、明確には認められない。
図11-3:
 時間:380~390秒
 検討:「代表の方・・」(長)、「募金・・」~「先ほど・・」(松)付近の部分である。30秒毎の長針の衝撃音は、明確には認められない。
図11-4:
 時間:390~400秒
 検討:「・・ありました」(松)、「募金箱をもって‥」(松)、「関してはですね」(松)~「たとえばの話・・」(松)付近の部分である。30秒毎の長針の衝撃音は、明確には認められない。
図11-5:
 時間:400~410秒
 検討:「まあ 簡単に言うと」、「あるのとないのと・・」(松)、「実はですね」(松)~「阪神淡路大震災が・・」(松)付近の部分である。30秒毎の長針の衝撃音は、明確には認められない。
図11-6:
 時間:410~420秒
 検討:「募金とか・・」(松)、「新潟の・・」(松)「その募金をって・・」(松)~「そのことを・・」(松)付近の部分である。30秒毎の長針の衝撃音は、明確には認められない。
図11-7:
 時間:420~430秒
 検討:「地震がありました‥」(松)、「ということで回して‥」(松)、「市を通じて寄付‥」(松)、「ガサッという音」~「はい」(松)付近の部分である。30秒毎の長針の衝撃音は、明確には認められない。
図11-8:
 時間:430~440秒
 検討:「えーと新潟では30万・・」(松)、「思います・・」(松)、「そのことを 募金箱を持って歩いて・・」(松)付近の部分である。30秒毎の長針の衝撃音は、明確には認められない。
図11-9:
 時間:440~450秒
 検討:「そのことが なったんではないかと」(松)、「思ってるんでうけども いかがなもんでしょうか」(松)~「いや いかがなもんでしょうかっていうよりも 事実確認だけで・・」(岡)付近の部分である。30秒毎の長針の衝撃音は、明催には認められない。
図11-10:
 時間:450~460秒
 検討:「いや ですから」(松)、「そういうこと・‥」(松)、「募金箱を持って回って‥・」 (松)、「そういう場面に‥・レ(松)~「しかしながら 普段の運営・・」(松)付近の部分である。30秒毎の長針の衝撃音は、明確には認められない。
図11-11:
 時間:460~470秒
 検討:「そういうことです」(松)、「ちょっと確認ですけども・・」(長)、「たとえば市長から言われた募金箱・・・」(長)付近の部分である。30秒毎の長針の衝撃音は、明確には認めら
れない。
図11-12:
 時間:470~480秒
 検討:「・・けっこう地震とかね」(長)、「災害があります・・」(長)、「そうですね」(■)、 「あの-」、「そういうまあ 災害を受けた・・・」(長)付近の部分である。30秒毎の長針の衝撃音は、明確には認められない。

 表2では、2分間の録音を10秒区間毎に連続で分析しているので、もし30秒毎の長針の衝撃音が明確な音であれば、少なくとも3個は認識できるはずであるが、明確には認められなかった。
 また、もし30秒毎の長針の衝撃音が明確な音ではなく小さな音であるとするならば少なくとも現場で同じような録音実験を行い、そこに収録される長針の衝撃音と比較して説明すべきである。
 以上をまとめると、日音研鑑定では、30秒毎の長針の衝撃音については、明確な説明が無く、衝撃音と称する1個の音を分析した例だけを示しただけで、その音が衝撃音かどうか証明されていない。
 正確な鑑定を行うのであれば、時系列的に30秒毎の長針の衝撃音の存在を示す分析スペクトログラムを示し、さらに衝撃音の詳細な分析を2個以上示して初めて科学的な鑑定といえるが、その様な説明がなければ科学的な鑑定とはいえない。
 元来、衝撃音といえども音が小さければ周囲の騒音に埋没されてしまい聞こえないことは生理的聴覚の学問分野では、音のマスキング現象として広く知られていることであり、例えば普段、家の中で聞こえている相手の会話音声が、騒音の大きい工場内では聞き取れないことでも分かる。
  したがって、日音研の鑑定書を根拠にした論議は、日音研の時刻鑑定の物理的な合理性が無いことから、基本的に成り立たないことになる。
(2)編集改ざんについて
 準備書面(2)P3~8にある論議で、特にマイク時計の距離で時計の長針の衝撃音が必ず録音されていると述べているが、衝撃音より大きい音があれば上記の物理的に録音時に大きい音にマスクされて聞こえなくなることは当然で、周波数分析を行っても認識できなくなることは当然である。
 また、編集改ざんに関して30秒単位として編集加工が可能であるように述べられているが、録音の一部を削除して録音を繋げたり、録音のある部分に録音を挿入したりすると、アナログ録音でもデジタル録音でも繋げた部分に音の周波数の不連続部分が生じスペクトログラム上に現れる。
 この場合、例えば音を録音を専門におこなうスタジオのように周囲からの雑音の少ない環境で録音された音声で、音声のない部分を切断して編集した場合は、接続箇所の検出が難しい場合はある。しかし、一般に複数の人達がいて当該話者以外の周囲の人達が身動きし、机などを触ったり、小声で話したりするとそれが背景騒音となり録音される。その様な部分まで考慮して編集録音することは至難なことである。
5.録音資料に編集改ざんがあるかの鑑定
5-1 資料(1)録音の改ざん編集の有無の鑑定が可能か否かの検討
 資料(1)の録音について聴取検査を行った結果、雑音はあるが録音内容の聴取が可能であることが確認された。
 次に、資料(1)の録音内容が鑑定可能な録音状態にあるか否かを調べるために、資料(1)の全体の録音についてCSLに内蔵されているフィルタ15.77Hzを使用して分析した。
 分析結果を検討した結果、資料(1)の録音内容が鑑定可能な周波数帯域まで録音されており、その録音状態は鑑定可能な状態であることが分かった。
5-2 資料(1)の録音の不連続箇所や異常録音箇所の有無の検討結果
 資料(1)の録音を、資料(3)反訳書を参照しながら、10秒毎に連続に分析し、録音の不連続箇所や異常箇所の有無を調べた。
 資料(1)の録音の開始から終了までについて、周波数分析した結果の一部を、次の表3に示す。
 表3の資料(1)の録音開始から終了までの分析結果の抜粋の中で、話者を反訳書の名称に基づき、松本氏を(松)、岡田氏を(岡)、長澤氏を(長)、■氏を(■)、■氏を■と表示する。
 また、時間の表示は、1分1秒は1′1″のように「分」は「′」、「秒」は「″」のように表示する。
表3 資料(1)の録音開始から終了までの分析結果の抜粋
分析図:図12
 録音箇所:2′45″~2′55″付近
 内容:「はい」(?)、「たいへん(反訳書にない)お待たせいたしまして」(岡)、「すいません」(岡)、「あのー」(岡)、「確認・・・」(岡)がある。
 検討所見:特に録音の不連続箇所や異常な箇所は、認められない。
分析図:図13
 録音箇所:2′54″~3′04″付近
 内容:「確認をですね」(岡)、「さしていただきたいと考えておりおります」(岡)、「あのー」 (岡)、「まず フ」(岡)、「これまでフリーマッケッ・」(岡)がある。
 検討所見:特に録音の不連続箇所や異常な箇所は、認められない。
分析図:図14
 録音箇所:3′03″~3′13″付近
 内容:「フリーマーケット何回かやって」(岡)、「・・・してきたと思うんですが」(岡)、「この
-」(岡)、「行政に・・」(岡)がある。
 検討所見:特に録音の不連続箇所や異常な箇所は、認められない。
分析図:図15
 録音箇所:8′45 ″~8′55″付近
 内容:「ちゃんとテーマをね」(長)、「はい そうですね はい」(松)、「募金というものは明確な趣旨がないとですね」(松)、「あの-できません」(松)がある。
 検討所見:特に録音の不連続箇所や異常な箇所は、認められない。
分析図:図16
 録音箇所:8′55 ″~9′05″付近
 内容:「ですから明確なる まあ一つのこういう事っていうか」(松)、「災害という その趣旨において」(松)、「ガサガサという音」、「あの公明正大に・・」(松)がある。
 検討所見:「ガサガサ」というような雑音はあるが、特に録音の不連続箇所や異常な箇所は、認められない。
分析図:図17
 録音箇所:9′05″~9′15″付近
 内容:「だということでございます」(松)、「ガサガサという音」がある。
 検討所見:ガサガサ」というような雑音はあるが、特に録音の不連続箇所や異常な箇所は、認められない。
分析図:図18
 録音箇所:15′03″~15′13″付近
 内容:「市から許可をうけて」(岡)、「はい」(松)、「2000円・」(岡)、「はい」(松)、「誰か・・・」(岡)、「市長さん」(松)がある。
 検討所見:特に録音の不連続箇所や異常な箇所は、認められない。
分析図:図19
 録音箇所:15′13″~15′23″付近
 内容:「市長さん あの」(松)、「お話しているのは 私ですから」(松)、「できれば私の方に向いていただけると」(松)、「お答えしやすいんですが」(松)、「いや」(岡)、「そういう重箱の隅みたい・・・」(岡)、(「そういう重箱の隅みたい・・・」(岡)の部分に笑い声が重なっている)がある。
 検討所見:笑い声のある部分に急に大きな音のため音が歪んだ箇所があるが、特に録音の不連続箇所や異常な箇所は、認められない。
分析図:図20
 録音箇所:15′22″~15′32″
 内容:「・・いう重箱の隅みたい‥・」(岡)、(「そういう重箱の隅みたい・・・」(岡)の部分に笑い声が重なっている)、「笑い声」、「もっとおおらかに」(岡)、「でも話をする時は人の目を・・」(■)、「もっとおおらかに」(岡)、「おおらかに」(岡)、「はい で」(松)、「えーとですね 誰に・・」(松)がある。
 検討所見:笑い声のある部分とその付近に急に大きな音のため音が歪んだ箇所があるが、特に録音の不連続箇所や異常な箇所は、認められない。
分析図:図21
 録音箇所:72′20″~72′30″
 内容:「・・あれですか おい岡田って言うような」(松)、「そういう あれですか」(松)、「数はわかりませんが そういう市民の・・」(松)がある。
 検討所見:特に録音の不連続箇所や異常な箇所は、認められない。
分析図:図22
 録音箇所:72′30″~72′40″
 内容:「しってます しってます」(岡?)(反訳書に無い)、「そうですね それで」(松)、「お
い 岡田っていって」(松)、「我々のこの15年間 続いてきたこのことを その一言で」(松)、「やめろとおっしゃるんですか」(松)がある。
 検討所見:特に録音の不連続箇所や異常な箇所は、認められない。
分析図:図23
 録音箇所:72′40″~72′50″
 内容:「やめろとか やめろとかですね」(岡)、「カシッという音」、「あの そういうことを今言ってるんじゃなしに 事実を」(岡)、「今の‥」(■)がある。
 検討所見:カシッというような音はあるが、特に録音の不連続箇所や異常な箇所は、認められない。
分析図:図24
 録音箇所:72′50″~73′00″
 内容:「それじゃ うかがいますけど」(岡)、「はいどうぞ」(松)、「コツコツという音」、「あの 上後閑の道路の件でねえ」(岡)がある。
 検討所見:カツコツというような音はあるが、特に録音の不連続箇所や異常な箇所は、認められない。
分析図:図25
 録音箇所:73′00″~73′10″
 内容:「こうに回っている道路」(岡)、「怒鳴りこんできてますよ」(岡)、「そのくらい市民の皆さんは敏感なんですよ」(岡)がある。
 検討所見:特に録音の不連続箇所や異常な箇所は、認められない。
分析図:図26
 録音箇所:73′10″ ~73′20″
 内容:「・・意味分かりません」(松)、「い 以前 以前からやってる」(岡)、「道路工事でありながら」(岡)がある。
 検討所見:特に録音の不連続箇所や異常な箇所は、認められない。

 資料(1)の録音について、録音開始から終了まで約1時間58分23秒間の録音内容を分析区間10秒単位で連続分析し、表3にその結果の一部を示したが、録音全体のスペクトログラムを検討した。
 その結果、録音の最初部分にガサガサとこすれるような大きな音があり、また、録音の途中にもガサガサという音、カシッと言うような音やコツコツと何かにぶつかるような幾つかの雑音のある箇所はあるが、特に録音の不連続箇所や異常な箇所は認められなかった。
 また、笑い声のある部分とその付近に急に大きな音のため音が歪んだ箇所があるが、特に録音の不連続箇所や異常な箇所は、認められなかった。
 したがって、資料(1)の録音は編集加工された可能性は、極めて低い。
 以上の意見書の作成は、平成22年12月20日に着手し、平成23年1月27日に終了した。
 また、この検封書には、次の資料を添付する。
  写真   1枚
  分析図  1枚
  参考図  2枚
  図   41枚
              平成23年1月27日
              鈴本法科学鑑定研究所
                鈴木隆雄
               (日本法科学鑑定人協会会員)
添付物:
 写真1 資料(1)CD 甲第39号証
 分析図1 資料(1)CDに記録されているWAV形式のファイル「意見交換会」(07.9.10)
 参考図1 ICレコーダの録音データをパソコンによるデジタル信号処理で、原音から一部を削除して再統合して編集した場合のスペクトログラム
 参考図2 ICレコーダの録音データをパソコンによるデジタル信号処理で、原音から一部を削除して再統合して編集した場合のスペクトログラム(一定周波数の雑音がある場合)
 図1-1 日本音響研究所鑑定書(丙第22号証)の別添3 0分から30分の周波数分析結果の写し
 図1-2 日本音響研究所鑑定書(丙第22号証)の別添4 30分から60分の周波数分析結果の写し
 図1-3 日本音響研究所鑑定書(丙第22号証)の別添5 60分から90分の周波数分析結果の写し
 図1-4 日本音響研究所鑑定書(丙第22号証)の別添6 90分から最後の周波数分析結果の写し
 図2 日本音響研究所鑑定書(丙第22号証)の別添7 長針による衝撃音の周波数分析結果の写し
 図3 資料(1)録音5分から7分(300秒~420秒)の原録音波形と時報の比較
 図4 資料(1)録音7分から9分(420秒~540秒)の原録音波形と時報の比較
 図5 資料(1)録音47分30秒から49分30秒(2650秒~2970秒)の原録音波形と時報の比較
 図6 資料(1)録音49分30秒から51分30秒(2970秒~3080秒)の原録音波形と時報の比較
 図7 資料(1)録音69分00秒から71分00秒(4140秒~4260秒)の原録音波形と時報の比較
 図8 資料(1)録音71分00秒から73分00秒(4260秒~4380秒)の原録音波形と時報の比較
 図9 資料(1)録音110分30秒から112分30秒(6630秒~6750秒)の原録音波形と時報の比較
 図10 資料(1)録音112分30秒から114分30秒(6750秒~6870秒)の原録音波形と時報の比較
 図11 資料(1)録音6分00秒から8分00秒(360秒~480秒)の原録音波形と時報の比較
 図11-1 資料(1)録音6分から8分(360秒~480秒)の区間1(360~370秒)の分析
 図11-2 資料(1)録音6分から8分(360秒~480秒)の区間2(370~380秒)の分析
 図11-3 資料(1)録音6分から8分(360秒~480秒)の区間3(380~390秒)の分析
 図11-4 資料(1)録音6分から8分(360秒~480秒)の区間4(390~400秒)の分析
 図11-5 資料(1)録音6分から8分(360秒~480秒)の区間5(400~410秒)の分析
 図11-6 資料(1)録音6分から8分(360秒~480秒)の区間6(410~420秒)の分析
 図11-7 資料(1)録音6分から8分(360秒~480秒)の区間7(420~430秒)の分析
 図11-8 資料(1)録音6分から8分(360秒~480秒)の区間8(430~440秒)の分析
 図11-9 資料(1)録音6分から8分(360秒~480秒)の区間9(440~450秒)の分析
 図11-10 資料(1)録音6分から8分(360秒~480秒)の区間10(450~460秒)の分析
 図11-11 資料(1)録音6分から8分(360秒~480秒)の区間11(460~470秒)の分析
 図11-12 資料(1)録音6分から8分(360秒~480秒)の区間12(470~480秒)の分析
 図12 資料(1)録音2′45″~2′55″付近
 図13 資料(1)録音2′54″~3′04″付近
 図14 資料(1)録音3′03″~3′13″付近
 図15 資料(1)録音8′45″~8′55″付近
 図16 資料(1)録音8′55″~9′05″付近
 図17 資料(1)録音9′05″~10′40″付近
 図18 資料(1)録音15′03″~15′13″付近
 図19 資料(1)録音15′13″~15′23″付近
 図20 資料(1)録音15′22″~15′32″付近
 図21 資料(1)録音72′20″~72′30″付近
 図22 資料(1)録音72′30″~72′40″付近
 図23 資料(1)録音72′40″~72′50″付近
 図24 資料(1)録音72′50″~73′00″付近
 図25 資料(1)録音73′00″~72′10″付近
 図26 資料(1)録音73′10″~73′20″付近
 鈴木隆雄経歴書(2ページ)(平成23年1月21日現在)
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■訴訟指揮に基づいて、平成23年2月10日までに最後の切り札をだした未来塾に対して、岡田市長はどのような対応をとったのでしょうか。

【ひらく会情報部・この項つづく】

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フリマ中止を巡る未来塾側と安中市・岡田市長とのバトル・・・逆転劇となった東京高裁での攻防(その6)

2012-02-16 11:12:00 | 安中フリマ中止騒動
■乙第25号証の続きです。

第3 当裁判所の判断
1 本件各記事の内容について
 被控訴人講談社らが,本件週刊誌平成17年8月6日号に第1記事,本件週刊誌同月13日号に第2記事を掲載したこと及び本件各記事の内容は,前記第2,2(前提となる事実関係)(4)(5)記載のとおりである。
 第1記事は,控訴人らが被控訴人丁田の自宅に居座って,被控訴人丁田に対し,「出すまで帰れない」「それが貴方の身のためだ」などと強要し,被控訴人丁田の手帳を段ボール箱に詰めて持ち去った,控訴人らは本棚,押入れから妻の部屋に至るまで家探ししていった,との事実を摘示したものであり,このような内容の第1記事は,控訴人らの社会的評価を低下させると認められる。
 第2記事は,控訴人らが,4回にわたって被控訴人丁田宅を訪問し,その都度,被控訴人丁田に執拗な,強い要求をし,同被控訴人が「プライバシーの侵害になる」という強い抗議をしたにもかかわらず,同被控訴人の手帳を無理矢理持ち去り,これを強奪し,また,被控訴人丁田が強い抗議をしたにもかかわらず,被控訴人丁田宅の家探しを2回にわたり強行したと,一般人に認識させるものであり,控訴人らの社会的評価を低下させると認められる。
2 本件各記事の真実性の抗弁について
(1)公益目的
 前記第2,2(前提となる事実関係)記載の事実及び弁論の全趣旨によれば,本件各記事によって摘示された事実は,もと国会議員であった控訴人らが,被控訴人丁田の自宅がら,同被控訴人が議員活動等において使い続けてきた手帳を持ち去ったというものであり,この事実は,公共の利害に関わる事実であると認められ,また,被控訴人講談社らは,専ら公益を図る目的で本件各記事を本件週刊誌に掲載したと認められる。
(2)事実関係
 前記第2,2(前提となる事実関係)記載の事実に証拠(〈証拠等略〉)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の各事実を認めることができる(甲18,25~28,59,控訴人丙川本人のうち,この認定に反する部分は措信することができず,他に同認定を覆すに足りる証拠はない。甲25~28については,被控訴人講談社らは時機に後れた攻撃防御方法であるとして却下を申し立てているところ,これにより著しく訴訟手続を遅滞させることになるとは認められないから当該申立ては採用しないが,これらの証拠が適時に提出されなかったことは,後記のとおり,証拠の信用性の判断に当たって考慮する。)。
ア 本件に至る経緯
(ア)被控訴人丁田は,昭和38年に大阪府議会議員となり,同42年から平成5年まで衆議院議員を務め,昭和42年に公明党の書記長に就任し,同61年から平成元年まで同党中央執行委員長の地位にあった。
 被控訴人丁田は,衆議院議員を引退した後,政治評論家として活動していたところ,平成5年から同6年にかけて文藷春秋に手記を連載したが,同手記に「創価学会と公明党は政教一致と言われても仕方がない部分があった」旨の記述があったごとから,創価学会等から激しい非難を受けた。その結果,被控訴人丁田は,創価学会等に対して陳謝した上,同手記を単行本として出版する際に当該記載を削除するなどの措置をとった。
(イ)平成17年4月20日,被控訴人丁田は,創価学会の一色副会長(当時。以下「一色」という。)から創価学会戸田国際会館に呼び出された。その際,一色は,同被控訴人に対し,上記の文藝春秋の手記を挙げて「創価学会青年部が怒っている。」「丁田を除名せよとの要求が出ている。」「青年部は跳ね上がっている。丁田の命も危ない。」などと述べた上,あらかじめ用意をした文案を示して,同手記に関して謝罪文を書くように求めた。被控訴人丁田は,一色の要求にとまどったが,これを了承し,渡された文案に治って謝罪文を作成し,これを翌21日に一色に渡した。このことは,同月28日付け聖教新聞(甲4)において,「公明党元委員長の丁田氏が謝罪」「『文翁春秋』(93年,94年)掲載の手記をめぐって」「丁田氏“私の間違いでした”“当時は心理的におかしかった”」等の見出しを付した記事として大きく採り上げられた。同記事では,同手記が引き金となって,何人もの国会議員が創価学会を誹膀し,「喚問」「喚問」と大騒ぎする自体となったなどと,被控訴人丁田の手記の記述によって創価学会が大きな被害を受けたことが強調されていた。
(ウ)被控訴人丁田は,平成17年4月28日から所用で妻夏子(以下,単に「夏子」ということがある。)を伴って海外に出張したが,同月30日に至り,当時オーストラリアのブリスベーンに居住していた同被控訴人の長男秋男を通じて,数回にわたって,創価学会の二宮副会長(当時。以下「二宮」という。)に連絡をとるようにとの伝言を受け取った。被控訴人丁田が二宮に電話したところ,同人から「青年部が強硬だ。事態を収めるため,帰国日である5月14日に青年部と会ってほしい。」と強く面談を勧められ,これに応じた。その後,同年5月9日付け聖教新聞(甲5)には,被控訴人丁田の前記謝罪に関して,「公明党丁田元委員長が海外!?」「行動で示せ!口先だけの『謝罪』は要らぬ」等の見出しを付した記事が掲載されたが,同記事には,「“恩知らずは畜生の所業”」「我々は『口先だけ』なら絶対に許さない。本当に詫びる気持ちがあるなら,行動と結果で示してもらいたい」などの記述がされていた。
(エ)同年5月14日に被控訴人丁田が妻夏子と共に成田空港に到着すると,約10名の各自カメラを手にした背広姿の創価学会青年部所属者が同被控訴人夫妻の後を追って移動し,各々フラッシュを焚いて夫妻の写真を撮るなどした。引き続いて,創価学会戸田国際会館で行われた創価学会青年部との会談においては,三井青年部長ら5名が被控訴人丁田を取り囲むように着席し,口々に,「青年部において除名せよとの要求が出ている。」「我々は本当に怒っている。」などと同被控訴人を糾弾し,2度にわたって「土下座しろ」と迫り,「人命にかかわるかもしれない。」「息子さんは外国で立派な活動をしている。あなたは息子がどうなってもよいのか。」などとも述べた。そして,「政治評論家をやめるべきだ。元委員長が政治評論家面をするのは許せない。」などと述べて,政治評論活動を止めるように繰り返し迫った。被控訴人丁田は,青年部幹部らの言動に身の危険を感じ,青年部の用意した,文春のことは謝る,今後は書かない,恩返しをするなどの趣旨の文書に署名をし,政治評論家を辞めると述べた。
イ 平成17年5月15日の第1回訪問
(ア)平成17年5月15日は,日曜ということもあって被控訴人丁田は東京都新宿区内の自宅に在宅していたところ,午後5時ころ,控訴人らが突然,同被控訴人宅を訪問した。控訴人甲野は,昭和34年から同38年まで墨田区議会議員,同年から同55年まで東京都議会議員,同年から同61年まで参議院議員を務め,同45年から同61年まで公明党中央執行委員の地位にあった者であり,控訴人乙山は,昭和38年から同42年まで神奈川県議会議員,同年から平成5年まで衆議院議員を務め,昭和62年から平成2年まで公明党中央執行副委員長の地位にあった者であり,控訴人丙川は,昭和40年から平成7年まで参議院議員を務め,同5年から同7年まで公明党中央執行副委員長の地位にあった者であるが,控訴人らはいずれも被控訴人丁田と十数年前から個人的なつき合いが絶えており,控訴人甲野及び同乙山は被控訴人丁田宅を訪問したこともなかった。
(イ)被控訴人丁田が控訴人らを自宅1階の応接間に通すと,控訴人らは,文藝春秋の手記に関する謝罪をめぐっての前日の同被控訴人と創価学会青年部とのやり取りを話題にした上で,控訴人甲野が「乙山さんが今もうむずむずして一番言いたいのは,要するに,あの文藝春秋の極秘メモですよ。」と本件手帳について切り出し,続けて「はっきり青年部との約束が評論活動も今後やらないというようなことを大前提でおっしやったとなれば,そんなものがあったんじゃ先々心配だな。」と述べた。そして,控訴人丙川が「青年部に対しても,今後,まあ行動で示していくと,ね。……そのメモってのは,乙山さんが一番よく知ってるんですよ。要するに,そうすると極端に言うと,27冊の衆議院手帖にいろいろと害いてあると。極端に言うと。」と述べるなど,控訴人ら3名は,口々に,被控訴人丁田に対して,本件手帳を引き渡すように求めた。これに対して,被控訴人丁田は,「それは無茶な話だ。おれのプライバシーの書いてある手帳を預けろという意味が分かっての話か。それは人権問題になる。断る。」「手帳には,我が家の内部のこと,銀行口座の番号,ID番号,債権債務,息子のこと,その他我が家のすべてが害いてある。それを渡せというのは個人情報の侵害,人権侵害,プライバシーの侵害だ。分かっているのか。君たちは国会議員までやった人間だ。そういうことが知れたら……。」「その手帳には,絶対私以外の人が見てはならないことが害いてある。学会の税金問題,ルノアール事件,捨て金庫事件,やばい筋の話,言論妨害事件で他党の政治家と交渉した内容が実名で害かれている。月刊ペン事件,本山との抗争問題,山友問題等も害いてある。これは爆弾だ。だからおれは墓場まで持っていこうと思っている。絶対に外部に知られてはならぬ内容だ。それを承知か。だから渡すわけにはいかない。」などと述べて,これを拒絶した。 しかし,控訴人らは,「それを渡さないと皆怒り狂って何が起こるか分からない。」「渡さないなら覚悟はできていますね。」などと述べて,あくまでも本件手帳を引き渡すことを求めた。
(ウ)被控訴人丁田は,かつて五木昭夫元都議会議長から創価学会と対立した六沢和夫元都議会議員に対して創価学会内部においてこれを暗殺する計画があると間いたこと,五木の依頼により,四元創価学会会長に対して当該計画を思いとどまらせるように要請したことなどを想起するとともに,かつて自分自身が公明党幹部として関与した,創価学会に批判的な人物に対する幾多の攻撃を思い出し,控訴人らの要求に応じないときには自己又は家族に対してどのような危害が加えられるかも知れないと恐怖を覚えたが,本件手帳を控訴人らに渡すことだけは避けようと考えて,本件手帳については自分自身で燃やすなどして処分することを提案したごしかし,控訴人らはあくまでも本件手帳の引渡しを受けることにこだわり,被控訴人丁田が控訴人ら立会の上で本件手帳を処分することを申し出ても,控訴人甲野において「丁田さんが本当に青年部とか一色さんときちんと大前提約束したんなら,今後のことはまたお家のことだとか,ご家族にもいろいろ関わりがあることだから,僕らは先のことを考えりゃあ,あくまで『膨大なメモ』ってやつは,燃やしちゃうとかなんとかじゃあなくて,……差し出がましいけど,一時,僕らが,ほかじゃ差し障りがあるから,僕らOBの仲間で一時お預かりしちゃって,時が来るまでは抱いてるかと。そういうね。」などと述べ,控訴人乙山が「神奈川だって火光会をやったときに,が一っと出たよ。」と発言し,これを受けて,控訴人丙川が「火光会の意見っていうのは決して火光会だけの意見じゃないですよ。学会の意見でもあるんですよね。皆組織に入ってますから。そうなるとね,要するに,今更のようだけ,ども,あのタイトルと張出しにあった膨大な資料だと,整理するのも大変だと,極秘メモだというようなことがね。要するにまたこの次書くんじゃなかろうか,これをネタにして何かやるんじゃなかろうかという,当然,やっぱり疑心暗鬼はみんなあるわけですよ。
 ………ですから,……燃やせばいいじゃないですか,ということだけじゃだめなんですよ。」と述べた。そして更に控訴人乙山が「燃やしゃいいってことじゃなくてね。」と述べ,更に,控訴人甲野が「だから,もしあれだったら,封印して,僕らが丁田さんから預かってもいいよ。開けて見る必要ないんだから。」と述べ,本件手帳を焼却するのでは足りず,これを控訴人らに引き渡す必要のあることを述べて,繰り返し本件手帳の引渡しを求めた。被控訴人丁田は,これに対して,「だから,あのね。正直言うて,個人的なプライバシーもありますし,あのう家庭のこともありますし,あるいはこの会社のね。……それはあのう……」と,なおも本件手帳を引き渡すことに難色を示し,更に,「私が処分すると。処分の方法は考えようと。こう言っていたということにして理解して下さい。僕は約束は守りますから。」と述べて,本件手帳を引き渡すことを明確に拒絶した。
(エ)これに対して,控訴人甲野は「それはね,丁田さんね,僕らの気持ちはね,残しておいて,そのことで悪用するんじゃないかっていう,僕ら,そういう邪推じゃなくて,もし,すっきりね,ここでちゃんとお辞めになるというなら,周囲をね,周囲を説得するのに,……封印して全部ね,これだけ,ちゃんとしっかりして,もうこんな論議やめてくれっていうには,預かってるのが一番いいなというのがね。……さんざん議論してね。それが,僕ら,僕の結論なんです。」「丁田さんがこっちに預けるには,全部ご自分で封印して,それをこっちに預かってきて,手つけないで,また時来たら返すってことじゃないの。」などと述べ,控訴人乙山において「だから封印してもいいじゃない。」などと述べ,本件手帳を控訴人らに引き渡す以外の選択肢のないことを示して,繰り返し,本件手帳を引き渡すことを求めた。この間,控訴人丙川は応接室から出て,玄関ホール付近において携帯電話で五木と連絡をとり,「ええ,今やっている最中です。」「はい,絶対に取ります。」「打合せどおりにやっています。」などのやり取りをした。被控訴人丁田は,控訴人らの強硬な勢いに抗することができず,本件手帳を控訴人らに預けることを了承したが,本件手帳は貸金庫に保管中であり,一部を除いて手許にはないと説明した。
(オ)被控訴人丁田が控訴人らの威勢のため本件手帳を控訴人らに預けることを了承したところ,控訴人甲野は「こっちがね。なんかね,あの強奪しちゃったみたいなね。」と述べ,控訴人乙山は,「預かります。僕がね。」などと述べた。そして,貸金庫において保管中のものを含めて,すべての本件手帳を1週間後の平成17年5月22則こ引き渡すことを決めた。その際,控訴人乙山が「じやあ党本部に来てもいいよ。持って。」と述べるなど,被控訴人丁田において本件手帳を公明党本部に持参することも検討されたが,最終的には,同日午後1時に控訴人らにおいて再び被控訴人丁田の自宅を訪問することとした。控訴人らが退去する際に,被控訴人丁田が,「皆さん,これでねえ,……これ全部,丁田の日記預かってきたと。丁田から,もうお前ら保管しとってくれと言われたというふうに言って下さい。……でないと,これはね,問題になります。」と述べると,控訴人丙川は「全部丁田さんの自発的な行動ですね。」と応じ,控訴人乙山は「そらそうでしょう。大変なことになりますよ。」と述べた。
ウ 平成17年5月15日の第2回訪問
(ア)平成17年5月15日午後6時30分ころ,控訴人らは,再び被控訴人丁田の自宅を訪れた。控訴人甲野は,「今日たまたま党側の方に帰りますと,五木さんと七瀬さんがいて……今あるならあるだけの資料でも預かってくるなり,それから貸金庫というのはどこの金庫かはっきりしてこなきや,お前ら何やって来たんだって,今言われて。もう,言われりゃそうかと。……で,また3人でやって来ました。なんていうか,むしろ,怒られちやって,笑われちやって。」と述べ,これを引き取って控訴人丙川において「おしかりを受けて,またこうやって来たわけですよ。申し訳ないです,すみません。」,控訴人甲野において「預かって,うちの党の本部で僕らが預からせてもらえば一番安全なんだけどな。変な言い方だけどね。」,控訴人丙川において「要するに,今ご自宅にあるのは,あるって丁田さん言ったんだから,それだけでもあれしなかったら,子供の使いじやないか,なんてことでですね。」と述べ,控訴人らが公明党本部に戻ったところ,五木及び七瀬の両名から,本件手帳を保管してある貸金庫の場所を確かめ,被控訴人丁田宅において保管している一部だけでも預かって公明党本部に持ち帰るように叱責されたため,再び被控訴人丁田宅を訪れた旨を述べた。
(イ)これに対して,被控訴人丁田が「何でそんなに焦るのか。」と反論したが,控訴人丙川は,大声で「3年分くらいはあるだろう。それを寄こせ。」と述べた。被控訴人丁田は,「無茶を言うな。」「お前ら狂っているぞ。こんな無茶な法律無視のことを脅迫でやったとなると,それがばれたら重大な社会問題になる。分かっているのか。」と述べたが,控訴人らは聴かず,控訴人丙川が「どうしてもだめか。」と迫ったので,被控訴人丁田は身の危険を感じて,応ずることにした。被控訴人丁田は,本件手帳は新宿区所在のA司法書士事務所に預けてあり,同事務所の金庫において保管されている旨を説明した上で,本件手帳のうち平成14年から同16年までの分を持参し,銀行の暗証番号や金融機関からの借入債務の内容等が記載されていることを告げ,手帳の内容を見ないように述べた上で,当該手帳を封筒に入れて封鍼し,控訴人らに渡した。控訴人らは,翌5月16日に本件手帳の残りを預かるために再び来訪すると述べたが,被控訴人丁田は,これらの手帳を用意するためには保管先であるA司法書士事務所の都合をきかなければならないと述べた。控訴人らは控訴人乙山の携帯電話の番号(090-***0-***0。一部を伏字とした。)を被控訴人丁田に教えて,翌5月16日に引渡しの日取りを連絡するように求めた。控訴人らは,更に,控訴人甲野において「こんなに遅く夜悪いけどさ,せっかく来たんだから,丁田さんの作業所,見学させて。」と述べ,控訴人丙川において「一色さんから3階の事務所を1回,見学して来いって言われてさ。」などと述べ,こもごも,自宅内を案内するように求めた。被控訴人丁田は,控訴人らを案内して,自宅1階の事務所やガレージなどを案内七だ。その際,控訴人甲野は「お預か
りするなら,党本部で預かりゃ一番もう安全だと思う。」と述べ,控訴人乙山は「要するに,要するにね。もう,みんな,こうカーッとなった訳よ。それは分かるでしょう。……だから,やっぱりそれをだね。誠心誠意やっていった方がいいですよ。」などと述べた。控訴人らは,被控訴人丁田とこのようなやり取りをしながら,その自宅内を見た後,退去した。
(ウ)翌5月16日,控訴人乙山から被控訴人丁田に対して再三電話があり,「水曜(5月18日)は忙しいので,明日火曜日にしてくれ。」と要求した。被控訴人丁田は,「こっちは先方に連絡しているところだ。そっちの都合だけ言うな。」と抵抗したが,控訴人乙山に押されて,5月17日に来訪するように述べた。なお,5月15日に控訴人らが被控訴人丁田宅を訪問した後,同被控訴人宅に連日のように無言電話や嫌がらせ電話がかかったり,面識のない人物らが訪れて執拗に面会を求めたりすることなどがあったほか,自宅付近に駐車した車両から常時監視を受けるようになった。
エ 平成17年5月17日の訪問
(ア)平成17年5月17日午後8時ころ,控訴人らは,被控訴人丁田の自宅を訪れた。同被控訴人は本件手帳のうちの大半のものをA司法書士事務所に預けていたことから,あらかじめこれを引き取った上で,これらを揃えて段ボール箱に詰めていた。控訴人らは,控訴人甲野が「いや,これね。話し合い,今後のことも信義をもってきちんとやってもらえないと俺もね,役目つとまんねえからさ。」と述べるなどしながら,被控訴人丁田の用意した手帳を確認し,1996年から1999年までの手帳がないことなどを指摘し,控訴人丙川が「ちょっと,抜けてるか抜けてないかというのは失礼ですけどね。要するにこれがすべてかどうかも分からない訳ですよ。ただ,年数が抜けているということだけをいうのですよ。」などと述べた。被控訴人丁田は,「昨日,僕が手許にある引出,調べてこれだけ探しできたんだから,あとも,どっかにあるかもわからへん。」「僕は誠意をもって探す。」などと述べた。
(イ)本件手帳のうち当日用意されたものを段ボール箱に入れてガムテープで密封するに当たり,控訴人丙川は,被控訴人丁田に対して,妻夏子を立ち会わせるように要求した。被控訴人丁田は,「女房にはこんなこと知らせない方がいいって。」「こんなことは,そら,うちの女房は信心しっかりしてますけれどね,そりゃ女房にはね,こういうことあんたらに渡すこと言ってないんです。やばいですよ。」「俺はね,こういう余計なことはね,この4人だけでいいと思っているから。」などと述べて抵抗したが,控訴人甲野及び同乙山も,同丙川に同調して,夏子が立ち会うことを要求したことから,被控訴人丁田もこれに応じることとして,夏子をその場に呼び入れた。前記手帳に加えて,控訴人乙山の要求により被控訴人丁田が文蔡春秋社から読者賞として受けとった記念品の置時計もー緒に段ボール箱に入れて,夏子の立会いの下で,ガムテープで封印した。その際,被控訴人丁田は,あらかじめ用意した念書について,その内容を控訴人らに説明した上で,控訴人ら及び夏子と共に署名した。念書は,2通作成して,1通を被控訴人丁田において,1通を控訴人らにおいて保管することとしたが,その内容は,次のようなものである。
 「丁田春男は,丁田の日記および関係書類(梱包2箱)を公明党元議員の甲野一郎氏,乙山二郎氏,丙川三郎氏に預ける。
 双方は次の条件を遵守する。
 ① 丁田は,三氏らが承諾する案件以外に今後この資料は利用しない,ことを責任を持って約束する。
 ② 三氏は,これら資料が丁田のプライバシーに閲する資料であること,他の人物,団体に迷惑が掛かることに鑑み,責任を持って,紛失,流出することのないよう厳重に保管し,丁田の了解なしに開封しないことを責任を持って約束する。また,丁田が個人的な情報が必要な場合は三氏の了解,立会いの元で資料を閲覧することもある。
 ③ 将来,関係者が死亡したときは,資料の流出を避けるため,上記①,②の条件に基づき,丁田は子息丁田秋男,三氏は指定する公明党関係者の立ち会いの元で協議し,これら資料の保管の継続などの処理を決める。
 ④ 5月15日に三氏に別途に預けた手帳および書類も上記①,②,③と同様の扱いとする以上,双方,信義誠実を重んじ確約する。」
(ウ)念書への署名を終えた後で,控訴人丙川が「あとは,いつ渡してくれるか。」と尋ね,被控訴人丁田が「捜す必要があるから1週間後だ。」と答えると,同控訴人は「もしこれ以外に残っていたら重大なことになる。」と述べた。被控訴人丁田が「足りない手帳を除けば,これですべてだ。重大なことになるとは,どういうことか。無礼ではないか。」と言うと,控訴人丙川は「重大なことと言えば分かるだろう。丁田さんの身に危険が迫る。」と述べ,被控訴人丁田が「また脅迫か。」と言うと,同控訴人は「そうだ。嘘をついたことになるから重大だ。そのために家探しをさせてほしい。」と述べた。被控訴人丁田は「お前,常識があるのか。家探しの捜査令状でもあるのか。」と答えたが,控訴人丙川は大声で「でないと俺たちは子供の遣いになる。是非,家探しをさせてくれ。」と言い,控訴人甲野及び同乙山も同様の要求を繰り返した。被控訴人丁田は,控訴人らの威勢に身の危険を感じ,控訴人らの要求に応じ,自宅の1階から3階までを案内し,被控訴人丁田において戸棚や引出を開けるなどして,控訴人らに見せた。その途中で,被控訴人丁田が「こんな無茶をするとは,相当上からきつく言われているのだな。」と言うと,控訴人らは「俺たちの立場があるので。家の隅々まで見たと報告しなければ,五木や七瀬にしかられる。」と述べた。
(エ)翌5月18日に,被控訴人丁田は,同月14日の創価学会青年部との面談の際の政治評論家を辞める約束の実行として,日刊ゲンダイの下桐編集長に電話をかけ,同級に当時連載していたコラムの打切りを申し出た。
オ 平成17年5月30日の訪問
(ア)平成17年5月27日,控訴人乙山から電話で「残りの手帳はいつくれるか。」と催促があったことから,被控訴人丁田は,「来週月曜日の30日の午後2時に来てくれ。」と答えた。
(イ)同月30日,控訴人らは,約束の時刻よりも早い午後1時ころに被控訴人丁田の自宅を訪れた。控訴人らが到着した時は,被控訴人丁田の妻夏子は外出中であった。被控訴人丁田は,本件手帳のうち前回の5月17日の訪問の際に指摘された1996年から1999年までの手帳のほかメモ類等の書類をあらかじめ用意しており,これらを控訴人らに見せた。控訴人らは被控訴人丁田の用意した手帳等を確認し,「年数はこれで全部揃ってます。」「国会手帳以外もあるんだね。」などと述べた。
(ウ)被控訴人丁田が,当日用意した手帳等を探し出した経緯として,「預けていない分は,ひとつは言論問題の時のやつは,大分かなり前にどっかに押し込んでしまってたんですね。僕も全然記憶がなかったんですわ。せやけど,昭和42年ですかね43年か,金属製の柳行李みたいなのあるじやないですか,箱。いろんな訳わからん,もう,書類がつっこんである,おじいさんの時代からの古い古い文書。」「古い書類がねえ。私の親父の前,おじいさんの代からね。たぶん私,引越の時に,議員宿舎から二十騎町に引っ越した時にとりあえず全部つっこんだんだね。」などと説明した。
(エ)すると控訴人甲野は,「ところでね,丁田さんね。こないだのと今日のこれで,全部お出しになるって言っていたので僕らもそれで信頼しますが。あのう,文春のはじめの方を見るとね,『資料とメモ,膨大で我ながら驚いた』って,驚きになっているから,丁田さん自身が驚きになるなら,こないだのとこれで,ほんまに膨大な資料全部なんかと思うんですけどね。」と述べ,控訴人丙川も「ご自分で扉も開けていただきましたから,私たちは秘密のご子息のあれまで見せていただいたんで,これ以上疑わないんですけど。」と述べた。続いて控訴人乙山が「いや俺達話してたのはね。『メモと資料がある』と,こうあった。これはほとんどメモだから,まだ資料があるんじやねえかと。」と述べると,これをひきとって控訴人丙川が「そういうことです。今おじいさんの時代からの鉄の行李とか何とか,そこからお探しになったって今言われましたからね。そういう物をまだ探せば,また出てくるんじやないかというような感触を,今の文春の。」と述べた。これに対して,被控訴人丁田は「はんだら,先祖代々からの全部お持ちになりますか,そんなら。それは言い過ぎじやありませんか。」と反発したが,控訴人丙川は「別に言い過ぎじやないです。」と答えた。被控訴人丁田が「誠心誠意してるわけですから。そこまで言われたら,そりやあ,もう紙1枚もないかと言われれば,あるかも分かりませんけど。」と言うと,控訴人丙川は「この前ね,丁田さん自身が開けて,みんなどうだどうだとお見せいただいたでしょ。あれが順に残っている訳ですよ。それで更に今,おっしやったようにお探しいただいて,要するに,おじいさん時代の鉄みたいな行李のなかから出てきたということを総合しますとね,何かこう今の膨大な資料という中の,内容は分かりません,私は。丁田さん,当人だから一番よく分かるんでしょうが。」と述べ,前回の5月17日の訪問の際に,被控訴人丁田の案内で自宅の本棚や引出の中を見たが,この日も,もう一度,同様に被控訴人丁田の自宅内を捜索したい希望を表明した。これに対して,被控訴人丁田は,「そんなことおっしやるならね。もう全部返して下さい。……私ね,本当にこの1週間,必死の思いで探したんですよ。そんな言われ方したんじやね。僕が今度の件で悪ロ言われることとは別に,全部返してください,と。燃やしちやいましょう,と。」「私は,もうね。これをお預けすること自体に,ものすごい抵抗感じているんですよ。正直言うて,人権喋躍ですよ。私のプライバシーまで持っていくんですから。私の子供の問題,私の家族の問題,私の父親の問題,全部人っているんですよ。これあなた方持っていったことが世間にばれたら大変なことですよ。」「私はそんなことは言いません。誰にも言いません。しかし,私のプライバシーのすべてをお持ちになってですよ,まだ残ってないかっていうのは,丙川さん,言い過ぎじゃないですか。」と述べて,控訴人らの要求を拒絶した。
(オ)これに対して,控訴人丙川は「だからそこまであれするとさ,またね。せっかく,せっかく好意をいただいたことについて,へんな話になっちゃいますから。」と述べたが,被控訴人丁田は,「僕もね。ほんとに必死になって探してこういうことですよ。それで1枚もないですかと言われりゃね,そら僕だってそら天井裏に1枚あったら分かりませんよ。それをね,家探しして下さいとは言えません。」と再び明確に拒絶した。控訴人丙川は,「あの,別に家探しなんてなるとね,警察沙汰にでもなるから。……ただ,家探しという言葉じゃなくて,要するに,……丁田さん言ったことをこちらも,昔の仲間として善意に受けとめて来てる訳ですよ。……ただし,是非ご理解いただきたいことは,今,乙山さんが言ったように,膨大な資料とかメモとか,それから今もう一回繰り返しますが,2週間の間に本当にご苦労いただきましたけれども,おじいさんの時代のそういう行李までひっくり返したんだということになりますとね,何となくね,まだあるんじゃなかろうかなという,感触ですよ,感触。」「あの丁田さんもね,ほいじゃあ家探しして下さいって,まあ失礼なことでは。」と,なおも家探しを要求したが,被控訴人丁田は「それは僕は断ります。」「そりゃ甲野さん,そりゃなんぼでも,おっしゃる言葉じゃないんじゃないですか。」と,引き続き拒絶する旨を明確に述べた。すると,控訴人丙川は「だから,家探しという言葉,もうまったくこれは変な言葉ですけどさ。あの,家探しという言葉はね。これはもう,今私たちが警察権力を持ってるわけでも何らありません。要するに昔の仲間としてあれしているわけですからね。」「一生懸命お探しいただいたんだと思いますけど,それで出てきた。そのほかにもどっかに,もしかすると,と。だから要するにそれで我々があれしたら,これでなきゃないでも,しょうがないと言っちゃ失礼ですけど,おしまいですよ。」と述べ,被控訴人丁田が「強盗ですよ。それは,今おっしゃっていることは。」となおも抵抗すると,控訴人乙山が「それで我々とすれば,万万が一よ,後になって出てきたなんてことになるとね,3人でこうやって話し込んで,それでお互い信頼だ信頼だと言って,後で出て来ちゃ問題だと。だから念には念を入れてという意味で言っているんであってね。そこんところは分かってくださいよ。」と述べた。控訴人丙川は,更に,「もう本当にくどいようですけど,膨大なメモ資料ということになると,……この次出てきて,何かのときになると,これ大変なことになる可能性ありますよと。」「だからね万が一ね,この次に何もペーパー1枚がどうだとか,手帳が1つどうだとかこういう問題を言っているんじゃないんです。だけど,やっぱり,その客観的に判断する人はね,『要するにまた出てきたらだめだった,また出てきたらじゃ,何回続きやいいんだ』という可能性だけ,可能性だけです。丁田さんに言わせれば,『無いよ』とこれでおしまいです。私たちもその善意に対しては間違いなかろうと。ただし,私たちあくまでも3人は言われてやってきた訳で,まだこの周りにですね,もう乙山さんも,うるさい五木さんだっているし,七瀬さんだっているし,まだまだいっぱいいるわけですよ。そういう人たちはね,要するに私たちの言っていること,丁田さんの言っていること,半分わかるけど半分わかっていない。あとは,文春のあの書面,そういうものについてやっぱり彼らは中心にいろいろコメントするわけですよ。ですから,……出てきた場合には大変なことになるよって。……もしですね,この次,……また出てきちやったじゃないかといった場合に,まあ失社ですけど,我々も立つ瀬がないわけですよ。『何だお前たちでくの坊』と,……何しに行ってんだと。」「私たちはね,言ってること7害リ,あるいは人によって違うかもしれないけど,私は7割信用します。ですけれども,……もしこの次出てきたならば,これはやっぱりね,ただ単に書かないとか,またあったから出しますよという問題ではないですよと。……意図的に隠したんですか,それとも分からないであったのか,これはね,第三者の判断というのがね,これはもう,まちまちになっちゃう訳ですよ。だから,私たちも今ここでね,もうケリをつけたい訳ですよ。」と,執拗に,家探しをしなかった場合には騒動が生ずる可能性を示し,控訴人らの威勢にひるんだ被控訴人丁田が「気持ちは分かります。じゃあ,どないしたらよろしいんですか。」と述べると,「どないしたらって言ったら,どうですか甲野さん,ですからこの前ね,要するにくどいようですけど,……開けていただいたでしょ。ああいうのを見てね,それで我々が目で見て,それで無いとなったら,それは無い訳ですよ。」と述べて,あくまでも前回の5月17日の訪問の際のように,被控訴人丁田の自宅の各部屋の本棚や引出の内部を探すことを要求した。被控訴人丁田は,「するなら勝手にやれ。不法侵入,脅迫ですぐに訴える。」と述べた。これに対して,控訴人丙川が「やるならやってみろ。」と言ったので,被控訴人丁田は110番に通報しようと電話の受話器を取り上げたところ,控訴人丙川が急いで立ち上がり,被控訴人丁田につかみかかってこれを止めた。控訴人甲野は,「どうしてもだめなら,全党挙げて丁田をつけねらう。」と述べた。
(カ)控訴人らの剣幕に,被控訴人丁田は,控訴人らの要求を拒み続けるとどのような危害を加えられるかもしれないと畏怖して,「それは,かまいませんけどね,感情論で申し訳ない。心外なんですよ。甲野さん。なんで……」と述べたが,控訴人丙川が「私たちは,本当にその,感情論で言ってるんじやないですよ。……丁田さんの立場に立ったつもりで言っているんですよ。」と畳みかけると,被控訴人丁田は,渋々「何度でも何でもどうぞ」と答えた。すると,控訴人丙川は,「いやそれは,これはね。赤の他人の家ですから,どうぞなんて言われるもんじやないですよ。やっぱりね,……やっぱり,その丁田さんがご案内いただき,奥さんのご了解をいただかなきやね。そんなもの,私は社会人だし,少なくともあの立法府に長いこといた者ですから,そんなもの,ズカズカズカズカね,行くわけにはいきませんよ,それは。それはいけませんよ。そんな失礼なことはできません。あくまでもですね,出すのも,私が自発的に出したんだよ,と。みな,自発的にやったんだよ,と。それは圧力になるよ,と。言っていただいているんですから。」と,被控訴人丁田に対して,同被控訴人の自宅内の捜索に当たって控訴人らを案内することを求めた。これに対して,被控訴人丁田が「ほんとにね。こんなこと,そんな昔の過去のことよりも,このこと自体が大問題ですよ。まさか,お互いね,野暮ですから言いません。だから僕は自発的に出した形をとっている訳ですからね。それをもう……。」と述べて案内を渋ると,控訴人丙川は「その是非はね,もう私たちはいいんですよ。ここにね,6000名のね,0Bと議員がいる訳ですよ。」と,控訴人らの背後には多数の創価学会ないし公明党関係者がいることを示して被控訴人丁田を威迫した。控訴人らから,このような要求を受けて,被控訴人丁田は,「じやあ,もうご覧下さい。」と述べた。
(キ)夏子は,控訴人らが被控訴人丁田宅に到着した際には外出していたが,その後,控訴人らと被控訴人丁田が自宅応接間で上記のようなやり取りをしている間に帰宅した。しかし,被控訴人丁田は夏子が既に帰宅していることを知らなかったことから,上記のやり取りに引き続いて同被控訴人と控訴人らとの間で次のような会話がされた。
 丁田「ご案内するんですか?」
 丙川「やっぱりそうじゃないとね。そうじゃないとね,もう。」
 丁田「屋根裏まで行きますか?」
 丙川「ズカズカズカズカってわけにはいかないし,奥様だっていらっしゃるし。」
 丁田「家内はおりませんよ,今。」
 丙川「お留守ですか,今?」
 丁田「仕事で出かけてます。」
 丙川「少なくとも,やっぱりご案内いただかないと。どうですかね,ズカズカってわけには。」
 乙山「そりゃまずいよ。」
 甲野「人の家だよ,あんた。」
 上記のような会話の後,被控訴人丁田は「いやいや,どうぞ,もう。ご案内してもいいですよ。しかし,あの,俺,本当にどないしてご覧になるかなと思って。」と述べながら,なお案内を渋る様子を見せたが,控訴人丙川が「そしたら案内してもらって。」と述べ,更に,控訴人乙山が「その方がいいよ。そんでね,そんでさ。 したくない,本当にしたくない,したくないけれどもね,したくないけれども,我々もこうやって話し合って,それで大勢の人いるわけですよ。あれだけのものを。」と述べて,再び,控訴人らの背後に多数の創価学会ないし公明党関係者が存在することを示して威迫したので,被控訴人丁田も,遂に抵抗をあきらめて,「ご案内しましょ!もうめんどくさい。……もうあれですよ,ちょっと私としては,ひっくり返っているのを見られるのはいやですけどね。そういうプライバシーのところは,目をつぶっていただいて。」と述べて,腰を上げた。すると,控訴人丙川が「あの,丁田さん。丙川が無理に押しかけてきたなんて,後で書かないで下さいよ。はっはっは。」と笑うと,これを受けて,控訴人乙山が「そんな余計なこというからいけないんだよ。」と述べた。
(ク)被控訴人丁田に案内をさせて,控訴人らは,同被控訴人の自宅を1階から3階まですべての部屋を順次捜索した。特に2階の書斎では本棚を詳細に調べ,引出も全部開け,すべてのファイルを取り出して点検した。3階の物置では,掛け軸なども調べ,段ボール箱の中まで見た。また3階の被控訴人丁田の部屋(寝室)では,すべての引出を開け,クローゼットも開け,中の段ボール箱まで捜索した。
(ケ)被控訴人丁田の妻夏子は,帰宅後,3階の自屋(寝室)において着替えをしていたところ,夏子郷帰宅を知らない被控訴人丁田が部屋の扉(引き戸)を開けた。被控訴人丁田に続いて扉の前まで来ていた控訴人らは,着替え中の夏子をいきなりのぞき見る形となり,控訴人らと目が合った夏子は,「きゃあ,きゃあ。」と大声を出した。被控訴人丁田は,「ああ,おったんか失礼。」と述べて扉を閉め,控訴人らに「着替えておりますから。」と説明したが,夏子の声に驚いた控訴人らは,他所に移動した。
(コ)被控訴人丁田と控訴人甲野は,その後,次の内容を記載した念書に署名し,原本を被控訴人丁田が,写しを控訴人甲野が保管した。
 「丁田春男は,5月15日,5月17日,5月30日の3回で1967年から2001年まで通年の丁田の日記および関係書類を公明党元議員の甲野一郎氏,乙山二郎氏,丙川三郎氏に預けた。
 双方は,5月17日に確認した条件を信義誠実を重んじ遵守する。
 以上,双方,確約する。」
(サ)被控訴人丁田は,用意した手帳のほかメモ類等の書類を大型封筒に入れてガムテープで封をし,これを控訴人らが持ち帰った。
(シ)控訴人らが退去した後,夏子が「なぜ,あの人たちに2回も家探しをさせるのか,非常識すぎる。許せない。それに私が着替え中,私の部屋を覗くとはけしからん。」と被控訴人丁田に泣きながら抗議したところ,同被控訴人は夏子に対して一言もなく,黙っていた。
(3)事実認定の補足
ア 控訴人らは,控訴人らが平成17年5月15日(2回),17日,30日に被控訴人丁田宅を訪問した際に,いずれも控訴人乙山においてICレコーダ(ソニー製品。 IC RECORDER ICD-MS515
.甲43は同型のもの)を携行し,事のすべてを隠し録りしたとする音声データを複製収録した記録媒体(CD-R)及びその反訳書(甲25~28)を提出し(以下,これらを併せて「本件音声データ」という。),被控訴人丁田本人,証人丁田夏子及び同東町純の各供述書(乙ハ4~6)並びに原審での尋問における供述のうち,本件音声データに収録されていない部分は信用できないなどと主張している。これに対して,被控訴人らは,本件音声データは被控訴人丁田宅における控訴人らと同被控訴人等のやり取りのうちの重要な部分が削除されていると主張している。
イ 本件音声データに関しては,控訴人ら提出に係る甲34(西村正作成の鑑定書)が合成,修正及び加工された箇所は見当たらず,編集改ざんが行われた録音ではないとしている。しかしながら,乙ハ7及び9(日本音響研究所鑑定書)及び弁論の全趣旨によれば,一般にデジタル方式で録音された音声データは削除,結合等による編集を行ってもその形跡が残らないと認められるから,本件音声データに編集改ざんの痕跡が認められないからというだけでは,本件音声データについて録音後に編集改ざんが行われなかったと断定することはできない。現に,日本音響研究所鑑定言において分割,削除,結合を施したデジタル音声データである乙ハ8について,西村正は甲36において,これらの作業が施された箇所を具体的に指摘することができていない。
ウ そこで検討すると,
(ア)原審では,弁論準備手続において主張内容及び証拠の整理がされたところ,本件音声データは,原審準備手続期日において提出されず,原審第2回口頭弁論期日(平成18年12月15日)の被控訴人丁田本人尋問での反対尋問において,控訴人ら代理人が同被控訴人において控訴人らの訪問時に録音をしていなかったことを念入りに確認した後の第3回口頭弁論期日(平成19年3月9日)において,初めて提出されたものであり,被控訴人丁田及び当裁判所から後記第一次録音媒体を提出するように促されても,当該録音媒体における録音内容は既に消去したというのみで,これに応じようとしないものである。控訴人らの主張によれば,本件音声データは,被控訴人丁田宅における録音の際にICレコーダに収納されていた録音媒体(64メガバイトメモリースティック。以下「第一次記録媒体」という。甲43は同型のもの)から,本件音声データが録音された当日(平成17年5月15日,17日及び30日),コンピュータ内蔵の記録媒体に複製収録し,それをさらに他の記録媒体を介して他のコンピュータ比より複製したものを証拠として提出したというものであり,第一次記録媒体からの複製収録の際,同媒体から音声データを削除し,また,その際に用いたコンピュータは壊れたので廃棄したため,いずれも裁判所に提出できないというのである。しかしながら,控訴人らが被控訴人丁田とのやり取りを録音したのは,本件のような訴訟に備えてのものであると推認されるところ,訴訟における原本主義に鑑みれば,録音に係る第一次記録媒体は原本として保管し,ICレコーダを再使用するために新しい記録媒体を購入するのが通常であること等からすれば,証拠の保管ないし提出方法において著しく不自然な点があるといわなければならない。
(イ)次に,本件音声データそれ自体を見ても,その内容において,以下のような不自然な点を指摘することができる。①平成17年5月15日の訪問時の音声データ(甲25)において,本件手帳を自ら燃やすという被控訴人丁田の供述を前提としての控訴人らと被控訴人丁田との供述が録音されているにもかかわらず(204項),前提となる本件手帳を自ら燃やす旨の被控訴人丁田の供述が録音されていない。②同月17日の訪問時の音声データ(甲27)において,エレベータの音や仏壇での題目三唱等,階上における行動に関するやり取りを録音した箇所があるのに(527項以下),念書の署名終了後の会談(455項以下)やその前の会談で,控訴人らが被控訴人丁田に対し,階上の案内を求めたことに関するやり取りが存在しない。③同月30日の訪問時の音声データ(甲28)において,同月17日の訪問の際に被控訴人丁田から自宅内の本棚等の開示を受けたことを前提とする控訴人らの供述(前回と同様に自宅内を開示することを求める供述)が録音されているにもかかわらず(97項,109項),同月17日の訪問時の音声データ(甲27)には,その様子が一切録音されていない。④同月30日の訪問時の音声データ(甲28)において,控訴人丙川が控訴人甲野に意見を求めたところ(197項),同控訴人の発言がないにもかかわらず,被控訴人丁田は,「それはかまいませんけどね。感情論で申し訳ない。心外なんですよ。甲野さんね。」と,控訴人甲野に向けて発言している(198項)。なお,その前は,控訴人丙川と被控訴人丁田のやり取りが続いていた。⑤同音声データでは,被控訴人丁田において,妻夏子が不在であると思いこんでいたことを前提とする供述が録音されているにもかかわらず(214項等),自宅3階の夏子の部屋(寝室)を控訴人らが覗いた様子が録音されていない。
 なお,上記のうち,⑤(夏子の部屋の覗き見)について,補足的に説明すれば,音声データには控訴人らが夏子の部屋付近にいる際の録音として,扉をたたくような音が録音されているところ,自宅内を控訴人らを案内した際に,被控訴人丁田は夏子が不在と思いこんでいたのであるから,夏子が在室するかどうかを確かめるために夏子の部屋の扉をたたくことはあり得ず,また,夏子においても,被控訴人丁田以外の者が自らの部屋に入ることを予想していなかったはずであるから,自室の扉を内側からだたくことで自らの在室を知らせたというのも不自然である。さらに,3階の被控訴人丁田の部屋(寝室)にギターが置いてあり,被控訴人丁田自身がこれを鳴らしているが,ギターと扉とは4m余り離れていた(当審における検証)にもかかわらず,扉の音とギターの音が短時間のうちに連続して録音されており,そのように連続して音を発生させるためには,被控訴人丁田において極めて迅速に移動しなければならないことになるが,当時の状況や同被控訴人の年齢から認められる運動能力に照らせば,そのような迅速な移動は困難である上に,控訴人らのギター談義を無視して同被控訴人において迅速な移動をしなければならない必要性はない。付加するに,控訴人らは,被控訴人丁田の部屋(寝室)を捜索するために入室したにもかかわらず,同部屋を捜索した気配が全く録音されておらず,検証における控訴人らの説明も同部屋を素通りしたことを前提になされている。
エ 上記ウに指摘した各事情に照らせば,本件音声データは,被控訴人丁田宅において録音された当時の音声データ(第一次記録媒体に記録されていた内容)について,その後に削除等の加工を施されたものと認められるから,その録音内容は,録音された部分について控訴人らと被控訴人丁田との間に録音された発言等があったことの証拠として採用しうるとしても,録音がないことを理由に録音されたもの以外の発言等がなかったと認定することができない。また,控訴人丙川の原審本人尋問における供述や陳述書についても同様であり,録音されたもの以外の発言等がなかったとの点は到底採用することができない。録音されていない部分の発言等については,被控訴人丁田本人,証人丁田夏子及び同東町純の各陳述書(乙ハ4~6)並びに原審での尋問における供述を証拠として認定するのが相当である。
(4)真実性の抗弁について
ア 上記認定事実に照らせば,控訴人らは,平成17年5月14日に被控訴人丁田が創価学会青年部の幹部多数に囲まれ,いねばつるし上げのような形で,家族に危害を加えることを暗示する脅迫の下で,今後の政治評論活動を辞めると約束させられた事情を十分に知悉した上で,翌5月15日から同月30日にかけて4回にわたって被控訴人丁田宅を訪問し,創価学会青年部との約束を守るあかしとして本件手帳を引き渡すように求め,被控訴人丁田においてこれを拒絶するや,自分たちは創価学会ないし公明党の指令により訪問したもので,控訴人らの背後には多数の創価学会員ないし公明党員が存在するものであって,控訴人らの要求を拒めば,これらの多数の創価学会員ないし公明党員が被控訴人丁田及びその家族に対してどのような危害を加えるかもしれない旨を暗示しあるいは明示的に述べて,被控訴人丁田を脅迫し,控訴人らのこのような発言内容に畏怖した被控訴人丁田が,やむなく控訴人らの要求に応じて本件手帳等を引渡したこと,控訴人らが被控訴人丁田に対して同様の威嚇をして被控訴人丁田宅の1階から3階まで,本棚,引出,クローゼット等の内容まで捜索する家探しを行い,3階の妻夏子の部屋にまで捜索に及んだことを認めることができる(控訴人らは,妻夏子の部屋に立ち入っていないとしても,夏子が室内で着替えをしていたため入室ができず,それでも扉の開かれた部分から同部屋を覗いたのであり,捜索に及んだということができる。)。
 なお,本件音声データ中には,控訴人らと被控訴人丁田がやり取りのなかで談笑する部分も存在するが,これは,控訴人らにおいて,控訴人乙山がICレコーダを携行して隠し録りをしていることを認識していたことから,録音結果がなごやかな雰囲気となることを意図して,表面上強い口調や大声を出すことを避け,会話中にあえて笑いを交えていた結果であり,他方,被控訴人丁田においては,平成5~6年ころの文藷春秋への手記の連載のため創価学会等に対して迷惑をかけたとの思いや,控訴人らを刺激することにより今後更なる糾弾を受けたり身に危険が及ぶといった事態を避けるために,あえて控訴人らに迎合する姿勢をとった結果と認められる。前記認定のような,控訴人らの訪問の前後の状況や訪問時における会話の内容に照らせば,控訴人らの脅迫の結果,被控訴人丁田が畏怖して本件手帳等を引き渡し,自宅内の捜索に応じたと認定すべきものであり,本件音声データ中の上記のような内容は同認定の妨げとなるものではない。被控訴人丁田においてあらかじめ念書を作成しておいた点も,前認定の事実関係によれば,同被控訴人主張のとおり,控訴人らが持ち去った後の本件手帳等の管理について一定の願いを聞き入れてほしいとの趣旨で作成したものと認められ,念書作成の事実をもって,被控訴人丁田において心底任意に本件手帳等を控訴人らに交付したものと認めるべきものではない。
イ 上記によれば,控訴人らが,共謀の上,被控訴人丁田の自宅において,同被控訴人に,同被控訴人が極秘メモを記載していた衆議院手帖を引き渡すよう強要し,本棚,押し入れ,妻の部屋に至るまで家探しし,被控訴人丁田の衆議院手帖を段ボール箱に詰めて同被控訴人から奪い,これを持ち去ったとの事実を摘示した第1記事の内容及び控訴人らが,4回にわたって被控訴人丁田宅を訪問し,その都度,執拗かつ強い要求をし,被控訴人丁田が「プライバシーの侵害になる」と強い抗議をしたにもかかわらず,2回にわたって家探しを強行するなどして,同被控訴人の手帳を無理矢種に持ち去ったとの事実を摘示した第2記事の内容は,いずれも真実というべきである。また,これらの事実をもって第2記事の見出しで「手帖強奪」と表現したことは,大仰な感を否めないが,強要ないしは脅迫の程度を強調したものと評価することができ,同表現があるからといって記事全体の真実性が左右されるものではない。
3 控訴人らの請求(第1,2事件)について
(1)被控訴人講談社らに対する請求
 そうすると,被控訴人講談社らに対して,本件各記事を名誉毀損であるとして,謝罪広告及び損害賠償を求める控訴人らの請求はいずれも理由がない。
(2)被控訴人丁田に対する請求
 上記のとおり,本件各記事が公共の利害に関わる事実を内容とするもので,被控訴人講談社らにおいて専ら公益を図る目的で本件各記事を本件週刊誌に掲載したものであり,本件各記事の内容が真実であるというのであるから,本件各記事についてその情報を提供した者が控訴人らに対して名誉毀損を理由とする責任を負うということはできない。したがって,本件第1記事が被控訴人丁田の取材に基づき作成されたものであるかどうかを検討するまでもなく,被控訴人丁田に対して謝罪広告及び損害賠償を求める控訴人らの請求もいずれも理由がない。
4 被控訴人丁田の請求(第3事件)について
(1)本件手帳等の引渡請求について
ア 控訴人らは,被控訴人丁田は本件手帳等の引渡しに際して2通の念書を作成し,控訴人らとの間で,当該内容の合意をしたものであるところ,上記合意は本件手帳等の負担付贈与若しくは信託的譲渡又は信託の設定とみるべきであり,これにより本件手帳等の所有権は控訴人らに移転し,被控訴人丁田はその所有権を喪失した,あるいは控訴人らに本件手帳等を保持する権原を付与する無名契約であると主張する。
イ しかしながら,2通の念書の内容は上記認定のとおりであるところ,当該念書の文言に照らせば,被控訴人丁田が本件手帳等の所有権を保持し続け,控訴人らにこれを移転していないことは明らかであって,これを控訴人ら主張のような内容の合意と解することはできず,また上記認定のようなこれらの念書の作成された前後の状況に照らしても,控訴人らの主張は採用することができない。
 この点,控訴人らは,本件手帳等引渡しの経緯や念書中に関係者が死亡した後における保管の継続等に関する条項があることからすれば,同念書に基づく合意は,民法に定める寄託契約ではなく,フランス民法1956条等に定める合意による係争物寄託ないしは英米法におけるエスクロウ契約に類似した一種の無名契約であり,少なくとも関係者が死亡するまでは本件手帳等の返還は予定されていないものであると主張する。しかしながら,念書にいう「将来,関係者が死亡したときは,……丁田は子息丁田秋男,三氏は指定する公明党関係者の立会いの元で協議し,これら資料の保管の継続などの処理を決める。」との条項は,関係者が死亡した時の本件手帳等の保管方法について定めているだけであり,また,被控訴人丁田において,その生涯返還請求権を放棄する旨の約束が含まれていないので,同主張に理由がない。
ウ なお,上記念書の文言に照らせば,当該内容のとおりの合意がされたとすれば,被控訴人丁田と控訴人らとの間に本件手帳等についての保管期間を関係者死亡までとする寄託契約が成立したことを認める余地はある(もっとも,控訴人らは寄託契約を主張しておらず,また,被控訴人丁田は合意の成立を否定している。)。しかし,仮に本件において寄託契約の成立を認めるとしても,それは無償寄託契約であり,民法662条により,期間の定めがあっても,寄託者たる被控訴人丁田はいつでもその返還を請求することができるから,現に同被控訴人が返還を請求している以上,いずれにしても控訴人らが本件手帳等を占有する権原を認めることはできない。
エ したがって,被控訴人丁田が控訴人らに対し,所有権に基づき本件手帳等の引渡しを求める請求は理由がある。
(2)不法行為を理由とする損害賠償請求について
ア 被控訴人丁田は,控訴人らが平成17年5月17日及び同月30日に被控訴人丁田の意思に反して同被控訴人宅内を家探しして検分し,同被控訴人のプライバシーを侵害したと主張して,不法行為を理由に,控訴人ら各自に対して1000万円(合計3000万円)の損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求めている。
イ 上記認定事実によれば,被控訴人丁田の主張するとおり,控訴人らが平成17年5月17日及び同月30日に被控訴人丁田の意思に反して同被控訴人宅内を家探しして検分し,同被控訴人のプライバシーを侵害した事実を認めることができる。上記認定事実によって認められる控訴人らの被控訴人丁田に対する言動や家禄しの状況等を総合考慮すれば,被控訴人丁田の精神的損害に対する慰謝料額としては300万円をもって相当というべきであり,控訴人らの行為は共同不法行為というべきであるから,控訴人らは当該金額の支払につき連帯(不真正連帯)してその責に任ずるべきものである。
ウ したがって,被控訴人丁田の控訴人らに対する損害賠償請求は,控訴人らに対して連帯して300万円及びこれに対する不法行為目以後の日である平成17年5月30目以降の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
5 結論
 以上によれば,控訴人らの請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり,被控訴人丁田の請求は,本件手帳等の引渡し及び上記の金額の支払を求める限度で理由がある。
 よって,これと異なる原判決を変更することとして,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 南敏文 裁判官 安藤裕子 裁判官 三村量一)

別紙
 物件目録〈省略〉
 謝罪広告〈省略〉
**********

■こうして、両者のせめぎあいは平成22年から平成23年へと年を跨いで続くのでした。

【ひらく会情報部・この項つづく】

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フリマ中止を巡る未来塾側と安中市・岡田市長とのバトル・・・逆転劇となった東京高裁での攻防(その5)

2012-02-16 10:45:00 | 安中フリマ中止騒動
■未来塾側が安中市側を訴えた損害賠償控訴請求事件の第2回口頭弁論は、平成22年12月20日(月)午前11時30分から東京高等裁判所第5民事部511号法廷で開かれました。

 安中市職員が傍聴の為出張して同日に市長に提出した復命書(出張報告書のこと)によると、次のとおりです。
**********
平成22年12月20日受付・起案、平成22年12月28日市長決裁
件 名 復命書(損害賠償等請求控訴事件の第2回口頭弁論)
地域づくり団体未来塾の市に対する損害賠償等請求控訴事件について、下記の通り第2回口頭弁論が行わ
れ、傍聴しましたので復命いたします。

1.日時  平成22年12月20日(月)午前11時30分
2.場所  東京高等裁判所第5民事部511号法廷
3.事件番号  平成22年(ネ)第4137号
4.当事者  (控訴人) 地域づくり団体未来塾 代表 松本立家、訴訟代理人弁護士 山下敏稚
       (被控訴人) 岡田義弘、安中市訴訟代理人弁護士 渡辺明男
5.概要  控訴人から第1準備書面および第2準備書面、安中市から準備書面について陳述。控訴人は平成23年2月10日(できるだけ早く)までに準備書面を提出することとなった。次回口頭弁論は、平成23年2月21日午後4時第5民事部511号法廷と決まった。(次回結審予定)
**********

■この復命書に記載されている安中市が第2回口頭弁論で陳述したとされる準備書面は、平成22年12月17日付の被控訴人の安中市側の準備書面(2)です。通常は弁論期日予定日の遅くとも2週間前に出すのですが、寸前に、あるいは法廷で当日提出するのもテクニックの一つです。安中市の顧問弁護士で群馬県公安委員もしている多忙な渡辺明男弁護士が、おそらく安中市の秘書行政課の職員にハッパをかけて、また、岡田義弘市長が直々に職員を叱り飛ばして、急遽ドラフトを作らせた可能性も否定できません。

 いずれにしても、同11月29日の控訴人の未来塾側から提出された第1準備書面と第2準備書面をみて、岡田義弘市長が拠り所としてた日本音響研究所の鑑定書の内容にイチャモンがつけられていたので、慌ててこれを払拭するために、わざわざ、ICレコーダーによる録音記録の改ざん等不自然な加工で証拠採用されなかった判例を引き合いに出して延々と例示するのが目的でした。

 じわじわと、外堀を埋めてくる未来塾の裁判進行テクニックには、群馬県公安員や県内有名会社の顧問弁護士をやっている渡辺弁護士としては守勢に立たされている観は否めません。

**********
平成22年(ネ)第4137号  損害賠償等請求控訴事件
控訴人  松本立家 外1名
被控訴人 岡田義弘 外1名
          準 備 書 面(2)
                         平成22年12月17日
東京高等裁判所第5民事部 御中
                被控訴人安中市
                訴訟代理人弁護士  渡 辺 明 男
第1 社会的評価の低下について
1 市長選挙の結果について
 控訴人らは,社会的評価の回復のために必死の努力があってこそ,市長選挙における接戦という結果を生んだと主張し,その努力の例示として,会報の発行,議会の一般質問及び本訴訟の提起などをあげている。
 しかし,乙24号証の新聞記事に「訴訟は市政の大きな課題ではなく,対立関係が市長選に持ち込まれた経緯を多くの市民が分かっている」と書かれているように,民事訴訟による対立を市長選挙に持ち込んだが故に,市民から冷ややかな見方をされ,投票率が低迷したという実態がある。
 このため,本訴訟の提起は,立候補者の高橋由信陣営の中心であった控訴人らにとって,純粋な政策論争であれば得られるべき票を失ったとも言える結果となっている。
 岡田義弘陣営の選対本部長が「不安はないが,油断することなく」(乙22号証)と述べているように,大方の推測として市長選挙があのような接戦となることは予想していなかった。
 このことから,当該市長選挙の結果や市民の冷静な反応から判断すれば,本件談話の発行が控訴人らの社会的評価に何ら影響を与えていないことは明白であって,むしろ,被控訴人岡田義弘の行政手腕が「独善的」と指摘される(乙24号証参照)要因の一つとなり,得票にも影響を及ぼしたと言えるのではないだろうか。
 なお,念のため付言すると,被控訴人岡田義弘は,直裁的な発言から誤解を受けることが多いが,行政執行そのものは,決して「独善的」ということはない。
第2 真実性・真実相当性について
1 録音記録(甲39・甲40)
(1)録音記録の提出の時期が遅れたこと
 録音記録の提出の時期が遅れたことについて,名誉毀損の立証責任から被告の抗弁事実に対する反論・反証として位置づけられることを理由としているが,平成20年(ネ)650号各損害賠償,手帳返還等請求控訴事件(乙25号証)においては,第3回口頭弁論で原告側から提出されたICレコーダの記録が時期に遅れた攻撃防除方法であると被告から批判されている。
 本件では,いったい,いつ,控訴人らは録音記録を提出する予定だったのか?
 上記事件と同様に控訴人らは,市長室で意見交換会が開催されたため,被控訴人らに録音記録があることを恐れ,それが不存在であることを確認したうえで録音記録を提出する予定であったと疑われてもやむを得ない。
 そうでなければ,控訴人らが怒鳴っていないことなどを裏付ける,極めて有利な証拠を,こちらが要求するまで提出してこない理由が見当たらない。
 しかも,原審において,被控訴人らは日本音響研究所の指示に従い,音源であるICレコーダ本体から直接データを抽出させてくれるよう求めたが,裁判長がその必要を認めなかったという経過があったにせよ,控訴人らは意見書まで提出してこれを拒んでいる。
 確かに当初は,被控訴人らもICレコーダのメーカーからの説明で,編集加工を施したものを本体に書き戻すことが可能な機種(乙15号証参照)とされたため,本体のデータ自体の真実性が極めて疑わしいことから,あえて提出を求めなかった。
 しかし,その後,鑑定を実施するに当たって,専門家である日本音響研究所から本体からのデータ抽出が必要とされたため,この事情を説明し,改めて提出を求めたが,控訴人らは,被告らの要求は理由も不合理であり,必要性を全く欠いているうえ,訴訟の遅延を招くものであると主張してこれに応じなかった。
 編集加工していないなら,なぜ正々堂々と提出に応じなかったのか,また自ら鑑定を求めなかったのか,非常に疑問が残るが,以上の経過でやむなく被控訴人岡田義弘が事実を証明するため,個人の費用をもって,写しのCD-Rにより鑑定を依頼したものである。
 このような控訴人らの不可解な訴訟対応も,本体データに編集加工を施したことが大きく疑われる証左を示すものと言える。
(2)鑑定書の信用性について
 専門家が作成した鑑定書の信用性について,互いに素人意見を重ねても意味がないため,あえて反論はしなかったが,そもそも原審においては,鑑定自体が不要とされたうえ,鑑定人の証人尋問も認められていない。
 控訴人らは,時計の衝撃音がマイクと時計との距離,マイクの感度等,何らかの原因によって録音されない場合かおるとしているが,録音した者はICレコーダの位置を変えたのは,一度だけであり,録音の障害となるものはなかったと陳述している(甲52号証松木通陳述書6頁参照)。
 したがって,マイクと時計との距離,マイクの感度などが原因で,時計の衝撃音が録音されたり,されなかったりするはずがない。
 しかも,実際に市長室に来たうえで,意識して聞いてもらえばわかるが,長針による衝撃音はかなり目立つ信号であって,それが確認できないことは非常に不自然である。
 また,30秒を単位として削除するという編集加工の作業自体が極めて不自然としているが,合計で30秒という意味であれば,例えば15秒+10秒+5秒を削除しても辻棲は合う。
 こうした場合に途中の10秒に長針による衝撃音が記録されていたが,その部分が削除の対象になったと考えれば,全く矛盾は生じないし,さらに,録音内容を削除したうえで全く同じ時間の編集加工した内容を挿入したことも想定できる。
 なお,衝撃音は聴き取りやすい場所と聴き取りにくい場所があるが,はっきり聞こえるところであれば,誰もがその衝撃音には気付くものである。
 控訴人らは,衝撃音を意識していたが,上記のような特性があるので,聞こえないところもあってもおかしくないと判断した可能性は考えられ,時間調整のみ行ったのではないだろうか。
 鑑定書後半の証明方法では,番号136から137の間で3分あるいは3分30秒のまとまった時間の削除が行われたことを示唆するものであるが,30秒又は1分までの削除ならば,誤差の増加の直線上に大きな変化は現れにくいと考えられる。
 この場合において,既に指摘したように,録音内容の挿入も行われていたとすれば,誤差増加の直線上には一切の影響は起こらない。
 時計については,市長室の時計は,子時計であり,親時計は電話交換室の壁に設置されている。
  メーカーはセイコー社であって,「RADIO CONTROL」と表示されているところから,本来はNHKのラジオを受信して,自動的に時刻修正をするタイプであったが,現在は同調しておらず単体で動いている。
 また,時計の表面にはCrystalと表示されているため,水晶振動子を使用したクォーツ時計であると推察され,その精度については,控訴人らの主張のとおり,月差±15秒以内のレベルである。
 事実,鑑定を依頼するに当たって,10月2日(金)午後3時から10月9日(金)午後3時までの1週間で市長室の時計を精査しているが,3.75秒以上の誤差は生じていなかった。
 したがって,意見交換会が行われた約2時間程度では,時計による誤差は,最大0.05秒に過ぎず,鑑定では全く問題とならない。
 また,ICレコーダの機械的な誤差については,鑑定書では「このような誤差は機械的,ソフトウェア的に発生するものであるとすれば,急激に変化するものではなく,徐々にずれていくものである」(鑑定書7頁15~16行目)としている。
 鑑定を依頼した日本音響研究所は,村越吉辰ちゃん誘拐殺害事件をはじめとして,数々の刑事事件の音声分析のほか,裁判所,各国政府機関等からの依頼で音声・音響分析の鑑定を行っており,その信頼性は高い。
(3)控訴人らの鑑定について
 控訴人らは,次々回期日までに専門家の立場から分析した書面を提出するとしているが,被控訴人としても全く異存はない。
 しかし,付言するならば,先の平成20年(ネ)650号各損害賠償,手帳返還等請求控訴事件では,原告側から「音声データのすべてについて,周波数分析を行い,音や信号の周波数成分の状態をスペクトログラムに表示し,録音内容の聴取検査をも併用し,本件音声データを検査した結果,合成,修正及び加工された箇所は見当たらず,編集改ざんされた録音ではない」とする鑑定書が提出されているが,デジタル方式で録音された音声データは,削除,結合等による編集を行ってもその痕跡は残らないと認められるため,本件音声データについて録音後に編集改ざんが行われなかったと断定はできないと事実認定が補足されている。
 本件鑑定書において,編集についての一般的な所見として,デジタル編集は,ICレコーダ等で録音された音声データを,パソコン等を用いて内容の削除・挿入等の波形編集を行う方法で,編集の初歩的な知識があれば編集した形跡をほとんど残さないため,その証明が難しいことをはっきり記している。
 このため,鑑定は市長室に設置された時計の特徴的な音響信号に着目して,その点を中心として分析が行われているが,この調査で明らかに不自然な箇所が生じているため,編集加工されたものと推定しているのである。
 これに対して控訴人らは,デジタル編集であるICレコーダでしかも無断録音された音声データについて,今さらどのような鑑定方法で編集改ざんが行われなかったと証明するのか不明であるが,真実性の証明は極めて困難であると言わざるを得ない。
2 要点筆記(丙17)
 意見交換会の要点筆記であるが,被控訴人安中市代理人が,証人尋問前日,被控訴人岡田義弘に確認したときには,意見交換会においては要点だけを走り書きでメモをしておいた。これが,本人が言うところの頭だけ書いた部分であると思われるが,その夜に意見交換会の内容について,当該メモを元に一生懸命思い出しながら書き,残りを翌日に書いたものであると話していた。
 つまり,あらためて清書したわけであるが,被控訴人岡田義弘にとって,はじめての証人尋問という経験のなかで,質問を勘違いして回答している場面も多かったと思われる。
 なお,市長がメモをとっていたことは,意見交換会の出席者の誰もが認める紛れもない事実である。
 また,市長という立場においては,いったん非常時が発生すれば,睡眠不足や過労があったとしても,休むことは許されず,これを理由に意見交換会の当日に書いたことを不自然であるとするのは,あまりに行政運営を知らない者の考えである。
3 長澤証人に関する録音記録(甲54・甲55)
 確かに民事訴訟法には証人尋問等の証拠調べ中に書証を提出してはいけないという規定はないが,同法156条には,攻撃防御方法の提出時期として,訴訟の進行状況に応じ適切な時期に提出しなければならないとされている。
 おそらく控訴人らは,証人長澤和雄から意見交換会において怒鳴っていないという証言を得るために,弾劾証拠として甲54号証及び55号証を提出したと思われるが,そこには,言葉を濁すだけで怒鳴っていない旨を発言した内容は全く記録されていなかった。
 そもそも無断録音したのも証人長澤和雄が控訴人松本立家に配慮し,本人は怒鳴っていないと発言してくれることや自己に有利な発言を引き出すことを期待して,それを記録に残そうとしたと推測できるが,徒労に終わっている。
 にもかかわらず,証人尋問では,記録された当日の会話の詳細な内容を中心として,厳しく質問しているが,証人長澤和雄から控訴人らが怒鳴っていない等の有利な証言を得ることはできなかった。
 つまり,証人長澤和雄の証明力を弱めることを目的として提出されたものの,はじめから弾劾証拠とするだけの内容は含んでいなかったことになる。
 むしろ,甲54号証及び55号証の内容を全く知らされないまま,その詳細までいきなり聞かれたのでは,記憶が曖昧であることから誘導尋問となるおそれが多分にあり,訴訟における信義則に反することは明らかである。
第3 人格権侵害
1 自己情報コントロール権
 これまで何度も主張したとおり,本件談話は,安中市の広報紙の一部として発表されたものではあるが,情報の厳格な正確性が求められる一般記事ではなく,あくまで市長としての意見表明の場であった。
 市長本人の表現方法として,本件談話を作成し,その内容も同席した3人の部長に確認を行っており,その主旨とするところは真実に全く反していない。
 控訴人らとしては,書かれた内容に不満かおり,本件談話の相当部分が真実に反すると考えることには理解できるものの,それはあくまで主観的な感情であって,客観的に判断すれば,自己情報コントロール権を侵害するような虚偽の内容ではなく,ましてや社会的評価を低下させるものではないことは,原審において認めるとおりである。
2 団体の人格権
 平成22年9月29日付け準備書面においては,公法私法の二元論に基づき,基本的人権が公権力との関係を規律するものではないと主張したわけではなく,控訴人らはその主旨とするところを故意に前提を間違えている。
 人格権は,その性質上,本来は私法上の権利として,私人間に適用されるものであるが,その根源は憲法上の人権として幸福追求の権利に結びつくものである。
 なお,私人間の効力を積極的に捉えない立場においては,人格権は即憲法上の人権とは考えない。
 それに加えて基本的人権は,自然人の権利として承認されてきたものであるから,未来塾のような団体に人格権として名誉やプライバシー(自己情報コントロール権を含む。)を認めることの是非をはじめとして,仮りに,認められるとしてもその範囲を問題としているのである。
 法人等の団体が一定の基本的人権を享有できるとしても,団体一般に名誉感情侵害は認めることはできないし,名誉侵害に対する救済方法として慰謝料を認めることに対しても議論がある。
  しかし,団体一般に対する名誉保護の範囲が,人格権の権利主体であるべき自然人と対等に取り扱われるべきではないことは、控訴人らも異論はないはずである。
 特に,その名前で独自の社会的信用の保護が問題となるような控訴人未来塾の場合,相応の社会的関心の下にあり,社会的評価や批判にさらされる立場にあるのだから,私人よりもはるかに名誉保護の範囲は限定されたものになるべきである。
第4 請願権侵害
 本件談話の掲載・発行が,なぜ控訴人らの請願権(憲法16条)を侵害することに結びつくのか,全く理解ができない。
 本件談話の掲載・発行が請願を行った一審原告らに対する「差別待遇」であって,請願を実質的に萎縮させる圧力を加えるものであるとしているが,意見交換会はその名称のとおり,対等な立場における話し合いの場であって請願を行うものではないし,本件談話の掲載・発行が「差別待遇」にも当たるはずがなく,控訴人らの論理は飛躍しすぎている。
                        以 上

【証拠説明書】
平成22年(ネ)第4137号 損害賠償等請求控訴事件
控訴人 松 本 立 室外1名
被控訴人  岡 田 義 弘 外1名
            証 拠 説 明 書
                        平成22年12月17日
東京高等裁判所 第5民事部 御中
                 被告安中市
                 訴訟代理人 弁護士 渡 辺 明 男
号証/標目(原本・写しの別)/作成年月日/作成者/立証趣旨/備考
乙25/高裁判決・写し/21.3.27/東京高等裁判所/本件の類似事件において、ICレコーダによる録音記録の提出が遅れ、その他不自然な点から削除等の加工をされたと認められたこと。

【乙第25号証】
裁判年月日 平成21年3月27日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ネ)650号
事件名 各損害賠償、手帳返還等請求控訴事件
裁判結果 取消、自判 上訴等 上告、上告受理中立 文献番号 2009WLJPCA03277002
要旨
 ◆名誉毀損による損害賠償等請求訴訟において証拠として提出された音声データが削除等の加工をされたものと認められ,録音がないことを理由に録音されたもの以外の発言等がなかったとは認められないとされた事例
裁判経過
 第一審平成19年12月21日東京地裁判決平17(ワ)15151号・平17(ワ)15738号・平17(ワ)23436号損害賠償等請求事件、手帳返還等請求事件
出典
 判タ1308号283頁
評釈
 上田竹志・法セ663号122頁
 林昭一・法セ増刊(速報判例解説)6号149頁
参照条文
 民事訴訟法231条
 民事訴訟法247条
 民事訴訟規則1 4 3条
裁判年月日 平成21年3月27日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ネ)650号
事件名 各損害賠償、手帳返還等請求控訴事件
裁判結果 取消、自判 上訴等 上告、上告受理中立 文献番号 2009WLJPCA03277002
控訴人・被控訴人(原審第1,第2事件原告,第3事件被告) 甲野一郎(以下「控訴人甲野」という。)
控訴人・被控訴人(原審第1,第2事件原告,第3事件被告) 乙山二郎(以下「控訴人乙山」という。)
控訴人・被控訴人(原審第1,第2事件原告,第3事件被告) 丙川三郎(以下「控訴人丙川」といい,控訴人甲野及び同乙山と併せて「控訴人ら」という。)
上記3名訴訟代理人弁護士         佐藤博史
同                    新堀富士夫
同                    海野秀樹
同                    小川治彦
同                    金庫優
被控訴人・控訴人(原審第1,第2事件被告,第3事件原告) 丁田春男(以下「被控訴人丁田」という。)
同訴訟代理人弁護士            弘中惇一郎
同                    久保田康史
同                    川端和治
同                    河津博史
同                    弘中松里
同訴訟復代理人弁護士           大木勇
同                    品川潤
被控訴人・控訴人(原審第1,第2事件被告)株式会社講談社I(以下「被控訴人講談社」という。)
同代表者代表取締役            野間佐和子
被控訴人・控訴人(原審第1,第2事件被告) 戊原大介(以下「被控訴人戊原」といい,被控訴人講談社と併せて「被控訴人講談社ら」といい,被控訴人丁田及び同講談社と併せて「被控訴人ら」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士         的場徹
同                    山田庸一
同                    服部真尚
同                    大塚裕介
同                    小西裕雅理
主文
1 原判決中,控訴人らの請求に係る部分のうち,被控訴人ら敗訴の部分を取り消す。
2 上記取消部分に係る控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 原判決中,被控訴人丁田の請求に係る部分を次のとおり変更する。
(1)控訴人らは,被控訴人丁田に対し,別紙物件目録記載の手帳及び関連資料を引き渡せ。
(2)控訴人らは,被控訴人丁田に対し,連帯して300万円及びこれに対する平成17年5月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)被控訴人丁田のその余の請求をいずれも棄却する。
4 控訴人らの控訴(当審において変更した被控訴人丁田に対する請求を含む。)をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,一審及び当審を通じてこれを10分し,その1を被控訴人丁田の負担とし,その余を控訴人らの負担とする。
6 この判決は,第3項(1)及び(2)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 控訴人ら
(1)原判決中,控訴人ら敗訴の部分を取り消す。
(2)被控訴人講談社らは,控訴人ら各自に対し,連帯して1780万円及びうち890万円に対する平成17年7月25日から,うち890万円に対する同年8月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)被控訴人丁田は,控訴人ら各自に対し,被控訴人講談社らと連帯して1890万円及びうち1000万円に対する平成17年7月25日から,うち890万円に対する同年8月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)被控訴人丁田は,控訴人らに対し,別紙謝罪広告を被控訴人講談社発行の「週刊現代」に原判決別紙掲載要領記載の要領で1回掲載せよ。
(5)訴訟費用は,一審及び当審を通じて被控訴人らの負担とする。
(6)仮執行宣言
2 被控訴人講談社ら
(1)原判決中,被控訴人講談社ら敗訴の部分を取り消す。
(2)上記取消部分に係る控訴人らの被控訴人講談社らに対する請求をいずれも棄却する
(3)訴訟費用は,一審及び当審を通じて控訴人らの負担とする。
3 被控訴人丁田
(1)原判決中,被控訴人丁田敗訴の部分を取り消す。
(2)上記取消部分に係る控訴人らの被控訴人丁田に対する請求をいずれも棄却する。
(3)控訴人らは,被控訴人丁田に対し,別紙物件目録記載の手帳及び関連資料を引き渡せ。
(4)控訴人らは,被控訴人丁田に対し,それぞれ1000万円及びこれに対する平成17年5月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)仮執行宣言
第2 事案の概要等
1 本件事案の内容等
(1)原審第1事件(以下,単に「第1事件」という。)は,控訴人らが,被控訴人講談社発行の週刊誌「週刊現代」(以下「本件週刊誌」という。)に掲載された,控訴人らが被控訴人丁田の自宅から同被控訴人が極秘事項をメモしていた手帳を持ち去った,控訴人らは家探しをしていったとする記事により名誉を毀換されたとして,それぞれ,被控訴人らに対し,共同不法行為を理由として1000万円の損害賠償及びこれに対する不法行為日である平成17年7月25日(同記事が掲載された本件週刊誌の発売日)以降の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるとともに,謝罪広告の掲載を求めている事案である。
 原審第2事件(以下,単に「第2事件」という。)は,控訴人らが,「上記手帳は無理矢理持ち去られたものであり,上記記事の内容は真実である」旨の被控訴人丁田のコメントを内容とする本件週刊誌の記事により名誉を毀損されたとして,それぞれ,被控訴人らに対し,共同不法行為を理由として,1000万円の損害賠償及びこれに対する不法行為日である平成17年8月1日(同記事が掲載された本件週刊誌の発売日)以降の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるとともに,謝罪広告の掲載を求めている事案である。
 原審第3事件(以下,単に「第3事件」という。)は,控訴人らが,被控訴人丁田所有の手帳及び関連資料を強奪した上,同被控訴人の自宅を家探ししてプライバシーを侵害したとして,被控訴人丁田が,控訴人らに対し,所有権に基づき上記手帳及び関連資料の返還を求めるとともに,不法行為を理由として控訴人ら各自に対して1000万円(合計3000万円)の損害賠償及びこれに対する不法行為日以後の日である平成17年5月30日以降の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。
(2)原判決は,第1事件及び第2事件において控訴人らの被控訴人らに対する請求を一部認容するとともに,第3事件において被控訴人丁田の控訴人らに対する請求を全部棄却した。そこで,控訴人ら及び被控訴人らは,いずれも原判決のうち敗訴部分の取消し及び請求の全部認容(控訴人講談社らを除く。)を求めて,それぞれ控訴した。なお,控訴人らは,当審において,被控訴人丁田に対して求める謝罪広告の内容を一部変更した。
2 前提となる事実関係(末尾に証拠を掲げたもの以外は,争いがない。)
(1)控訴人ら
ア 控訴人甲野は,昭和34年から同38年まで墨田区議会議員,同年から同55年まで東京都議会議員,同年から同61年まで参議院議員を務め,同45年から同61年まで公明党中央執行委員の地位にあった。
イ 控訴人乙山は,昭和38年から同42年まで神奈川県議会議員,同年から平成5年まで衆議院議員を務め,昭和62年から平成2年まで公明党中央執行副委員長の地位にあった。
ウ 控訴人丙川は,昭和40年から平成7年まで参議院議員を務め,同5年から同7年まで公明党中央執行副委員長の地位にあった。
(2)被控訴人ら
ア 被控訴人講談社は,雑誌及び書籍の出版等を目的とする株式会社であり,本件週刊誌を発行している。
イ 被控訴人戊原は,本件週刊誌の編集人である。
ウ 被控訴人丁田は,昭和38年に大阪府議会議員となり,同42年から平成5年まで衆議院議員を務め,昭和42年に公明党の書記長に就任し,同61年から平成元年まで同党中央執行委員長の地位にあった。
 被控訴人丁田は,衆議院議員を引退した後,政治評論家として活動している。
(3)控訴人らは,平成17年5月15日に2回,同月17日及び同月30目に各1回,合計4回にわたって被控訴人丁田の自宅に赴き,同被控訴人所有の別紙物件目録記載の手帳及び関連資料(以下,この手帳を「本件手帳」といい,関連資料と併せて「本件手帳等」という。)を持ち帰った。
(4)被控訴人講談社らは,平成17年7月25日発売の本件週刊誌同年8月6日号に,控訴人らが被控訴人丁田の自宅から同被控訴人の手帳を持ち去った,控訴人らは家探しをしていったとする原判決別紙第1記事のとおりの記事(以下「第1記事」という。)を掲載した(甲1)。
(5)控訴人らが同年7月26目に第1事件の訴訟を提起したところ,被控訴人講談社らは,同年8月1日発売の本件週刊誌同月13日号に,控訴人らは,被控訴人丁田が強い抗議をしたにもかかわらず,同被控訴人の手帳を無理矢理持ち去ったものであり,第1記事の内容は真実である旨の被控訴人丁田のコメントを内容とする原判決別紙第2記事のとおりの記事(以下「第2記事」といい,第1記事と併せて「本件各記事」という。)を掲載した(甲2)。
3 争点及びこれについての当事者の主張
(1)第1記事による名誉毀損
(控訴人らの主張)
 第1記事は,控訴人らが,共謀の上,被控訴人丁田の自宅において,同被控訴人に,同被控訴人が極秘メモを記載していた衆議院手帖を引き渡すよう強要し,本棚,押し入れ,妻の部屋に至るまで家探しし,同被控訴人の衆議院手帖100冊を10箱近い段ボール箱に詰めて同被控訴人から奪い,これを持ち去ったとの事実を摘示したものである。
 このような内容の第1記事は,一般読者に対し,控訴人らが犯罪行為又はこれに準ずる行為を行ったとの印象を抱かせるものであり,控訴人らの名誉を毀損するものである。
(被控訴人講談社らの主張)
 第1記事が控訴人らの社会的評価を低下させることは認め,その余は争う。
(被控訴人丁田の主張)
 控訴人らの主張事実は認める。
(2)第2記事による名誉毀損
(控訴人らの主張)
 第2記事は,控訴人らが,4回にわたって被控訴人丁田宅を訪問し,その都度,執拗かつ強い要求をし/同被控訴人が「プライバシーの侵害になる」と強い抗議をしたにもかかわらず,2回にわたって家探しを強行するなどして,同被控訴人の手帳を無理矢理に持ち去り,これを強奪したとの事実を摘示したものである。
 このような内容の第2記事は,一般読者に対し,控訴人らが,強要,恐喝又は強盗等の犯罪行為によって,被控訴人丁田から手帳を奪い取ったとの印象を与えるものであり,控訴人らの名誉を毀損するものである。
(被控訴人講談社らの主張)
 第2記事は,被控訴人丁田の手帳が同被控訴人の意に反して持ち出されたとの事実を摘示したものであり,これが控訴人らの社会的評価に触れることは認め,その余は争う。
(被控訴人丁田の主張)
 控訴人らの主張事実は認める。
(3)被控訴人丁田の責任
ア 第1記事について
(控訴人らの主張)
 第1記事は,被控訴人丁田が,被控訴人講談社に情報を提供したものであった。第1記事中の「丁田氏と同世代の元公明党幹部X氏」は被控訴人丁田にほかならず,「黒革の手帖」あるいは「衆議院手帖」という事実,殊に,「大きな事件が起きたときや,政局が動いた年は何冊も使っていたので,合計100冊以上にのぼる」との事実は,被控訴人丁田以外には知りようのない事実である。このような第1記事の内容のほか,相当性を主張しない被控訴人講談社らの態度等からしても,第1記事の情報源が被控訴人丁田であることは明らかである。
 したがって,被控訴人丁田には,同記事による控訴人らの名誉毀損について,控訴人らに対し,被控訴人講談社らと共に共同不法行為の責任がある。
(被控訴人丁田の主張)
 被控訴人丁田は,第1記事の作成に関与していない。同被控訴人は,控訴人らの行為に憤概しており,話の通じる人にてん末を話をしたことがある。しかし,その話が被控訴人講談社に伝わったか,どのようにして伝わったかは知らない。
イ 第2記事について
(控訴人らの主張)
 被控訴人丁田は,被控訴人講談社から,控訴人らによる第1事件の訴え提起についてコメントを要請され,コメントの内容を自ら読み上げた。
 ある者の情報提供に基づく記事が人の名誉を毀損する場合において,当該情報提供者が,自らの提供する情報が報道されることを認識し,これを容認していたときは,不法行為責任を負うというべきところ,被控訴人丁田は,自らのコメントを内容とする記事が本件週刊誌に掲載されることを認識,認容していたばかりでなく,積極的に意図して虚偽の情報を提供し,記事の作成に深く関与したものであり,第2記事について不法行為責任がある。
(被控訴人丁田の主張)
 情報提供者に対して不法行為責任を問うためには,取材に対する事実の摘示や評論,意見を述べる行為が虚偽であることを知りながらあえてされるなど,取材当時,情報提供者が置かれた立場を考慮してもなお相当でないことが明らかであり,情報提供者が,自らの発言内容がそのまま雑誌等に掲載されることについて了解した上,あえて第三者の名誉を毀損するような事実の摘示や論評,意見を述べたという特段の事情が存在することを要すると解すべきところ,被控訴人丁田による第2記事のコメントはこれらの要件を欠くから,同被控訴人は第2記事について不法行為責任を負わない。
(4)真実性の抗弁等
ア 第1記事について
(被控訴人らの主張)
 第1記事は,元公明党委員長という要職にあった被控訴人丁田が多くの政治的秘密をつづった被控訴人丁田の手帳をめぐる,政権与党の一翼を担う公明党及びその支持母体である創価学会内部の騒動を報じたものである。これらの内容は国民の関心事で,公共の利害に関する事実に関わるものであり,被控訴人講談社らは,専ら公益を図る目的で第1記事を本件週刊誌に掲載した。そして,控訴人らが被控訴人丁田の意思に反してその手帳を持ち出したとの摘示事実,控訴人らが同被控訴人宅の本棚,押入れから妻の部屋に至るまで家探ししていったとの摘示事実はいずれも真実である。
 控訴人らの提出に係るICレコーダによるデジタル録音データ(甲25~28.枝番号は省略する。以下同様)は痕跡を残さずに削除,分割,結合等の編集を行うことが一般的に可能なものであり,本件においても,被控訴人丁田宅における控訴人らと同被控訴人等のやり取りのうちの重要な部分が削除されている。
(被控訴人講談社らの主張)
 控訴人らの提出に係る上記ICレコーダによるデジタル録音データは,時機に後れた攻撃防御方法として却下すべきである。
(控訴人らの主張)
 控訴人らが,手帳を渡すように被控訴人丁田を脅迫,強要したり,同被控訴人宅を家探ししたり,同被控訴人の手帳を強奪した事実はない。被控訴人丁田は,自ら進んで手帳を控訴人らに引き渡したものであり,第1記事の摘示事実は虚偽である。このことは,ICレコーダによるデジタル録音データにより明らかなところである(同データについては削除等の編集は一切されていない。)。
イ 第2記事について
(被控訴人講談社らの主張)
 第2記事は,政権与党の一翼を担う公明党及びその支持母体である創価学会内部における元公明党委員長という要職にあった被控訴人丁田に対する訴訟提起及びこれに対する同被控訴人の反論を報じたものである。これらは,国民の関心事で,公共の利害に関する事実に関わるものであり,被控訴人講談社らは,専ら公益を図る目的で,第2記事を本件週刊誌に掲載したものである。そして,控訴人らが被控訴人丁田の意思に反して手帳を持ち出したとの摘示事実,控訴人らが被控訴人の強い抗議にもかかわらず,家探しを2回にわたって強行したとの摘示事実はいずれも真実である。
 控訴人らの提出に係るICレコーダによるデジタル録音データに関しては,前記第1記事に関する主張と同一である。
 仮に本件第2記事の内容が真実でないとしても,被控訴人講談社らには,これを真実と信じるについて相当な理由があった。
(被控訴人丁田の主張)
 第2記事は,政権与党を構成する公明党の元委員長という要職にあった被控訴人丁田に対して訴訟が提起されたことを報じるとともに,訴訟の対象とされた第1記事が真実であることを同被控訴人が述べたと報じるものであり,その報道が国民の関心事であり,公共の利害に関するものであること,報道目的が専ら公益を図ることにあったことは明らかである。そして,被控訴人丁田が控訴人らから脅迫,暴行を受け,手帳を強取されたとの摘示事実,控訴人らが同被控訴人の強い抗議にもかかわらず,家探しを2回にわたって強行したとの摘示事実はいずれも真実である。
 控訴人らの提出に係るICレコーダによるデジタル録音データに関しては,前記第1記事に関する主張と同一である。
(控訴人らの主張)
 控訴人らが,手帳を渡すよう被控訴人丁田を脅迫,強要したり,同被控訴人宅を家探ししたり,同被控訴人の手帳を強奪した事実はなく,第1記事の摘示事実は虚偽である。被控訴人丁田は,自ら進んで手帳を控訴人らに引き渡したものである。このことは,ICレコーダによるデジタル録音データにより明らかなところである(同データについては削除等の編集は一切されていない。)。本件第2記事の内容を真実と信じるについて相当な理由があったとの被控訴人講談社らの主張は,争う。
(5)第1事件及び第2事件の損害額
(控訴人らの主張)
 被控訴人らの上記各不法行為により,控訴人らの社会的評価は著しく低下し,控訴人らは多大な精神的苦痛を被った。
 第1記事及び第2記事は,ねつ造された虚構の記事であり,被控訴人講談社らにおいても,これを認識し,又は容易に認識することができたものであり,被控訴人らの行為は悪質である。
 被控訴人講談社らは,第1記事において情報提供者が被控訴人丁田であることを隠ぺいした上,情報提供者をねつ造し,さらに,第2記事により再び虚偽の事実を公表し,控訴人らの提訴を擲楡し,嘲笑している。これらに加え,本件各記事の内容,本件週刊誌の社会的影響力,被控訴人講談社が得た利益,控訴人らの受けた被害の内容,被控訴人丁田が本人尋問において虚偽の供述をしていることなどを考慮すると,被控訴人らの上記不法行為による控訴人らの損害額は,弁護士費用相当分の損害を含めて,控訴人各自において第1事件につき1000万円,第2事件につき1000万円を下らない。
(被控訴人らの主張)
 控訴人らの主張は争う。
(6)謝罪広告
(控訴人らの主張)
 上記のとおり,被控訴人らの不法行為は悪質であり,また,本件週刊誌が大きな社会的影響力を有していることにかんがみると,これらの記事により低下した控訴人らの社会的評価を回復させるためには,金銭賠償のみでは足りず,謝罪広告が必要である。その内容は,①第1記事については,被控訴人講談社らにつき原判決別紙謝罪広告1のとおりの謝罪広告,被控訴人丁田については別紙謝罪広告のとおりの謝罪広告,②本件第2記事については,被控訴人講談社らにつき原判決別紙謝罪広告2のとおりの謝罪広告,被控訴人丁田については原判決別紙謝罪広告3のとおりの謝罪広告がそれぞれ相当であり,これらを原判決別紙掲載要領記載の要領により掲載することを命じる必要がある。
(被控訴人らの主張)
 控訴人らの上記主張は争う。
(7)本件手帳等の返還請求及び控訴人らの不法行為について
(被控訴人丁田の主張)
ア 控訴人らは,平成17年5月15日,同月17日及び同月30日,被控訴人丁田宅を訪問し,同被控訴人に本件手帳等を出すよう強要し,同被控訴人の意思に反してこれを奪い,持ち去り,本件手帳等を強奪した。
 仮に,控訴人らの挙げる念書により本件手帳等を占有管理する権原が控訴人らに付与されたとしても,同念書により成立するのは民法上の寄託契約であり,民法662条により寄託者たる被控訴人丁田はいつでもその返還を請求することができるから,本件第3事件の提起による解約告知に伴い寄託契約は終了した(なお,寄託契約の解約を制限する特約の効力を認める学説も,受託者に特別の利益が認められる場合か又は有償寄託の場合に限って特約の効力を認めるものであるところ,本件においては受託者に特別な利益は認められず,また無償寄託であることは明らかである。)。
イ また,控訴人らは,同年5月17日及び同月30日,被控訴人丁田の意思に反して同被控
訴人宅を家探しして検分し,同被控訴人のプライバシーを侵害した。
(控訴人らの主張)
ア 被控訴人丁田は,平成5年9月以降,月刊誌「文藝春秋」(以下,単に「文藝春秋」という。)に,「極秘メモ全公開」と題する,公明党の書記長,委員長時代のぼう大な資料とメモに基づくと称する手記を公表していたところ,平成17年4月28日付の聖教新聞には,被控訴人丁田は,創価学会の副理事長らとの面談の席で,上記記事によって支持者に迷惑を掛けたことを謝罪したとの話が紹介された。
 このような経緯の下で,被控訴人丁田は,今後,本件手帳等を利用するつもりはないとし,控訴人ら立会いのもとで処分したいとの意向を示したことから,同被控訴人と控訴人らで協議した結果,被控訴人丁田が本件手帳等を封印した上で控訴人らに交付し,以後,控訴人らがこれを保管・管理することになった。
 被控訴人丁田は,本件手帳等を控訴人ら立会いの下で処分する,これを使う気はないし,自分のもとに残ってもろくなことはなく,万一これを控訴人らの立会いの下で見ることはあっても,これを持って帰ることはない,自分の死後は燃やしてくれと述べ,「被控訴人丁田が利用しないことを約して控訴人らに交付し,以後,控訴人らがこれを保管・管理すること」を約する内容の2通の念書を作成し,控訴人らとの間で,その内容の合意をした上,本件手帳等を控訴人らに引き渡した。
イ 上記合意は,被控訴人丁田が公明党やその関係者に迷惑をかけることがないよう,本件手帳等を利用できない状態に置くことを目的としたもので,本件手帳等の負担付贈与ないし信託的譲渡あるいは信託の設定とみるべきであり,これにより,本件手帳等の所有権は控訴人らに移転し,被控訴人丁田はその所有権を喪失した。
 また,控訴人らは,上記のような日的のもとに締結された無名契約である上記合意により,本件手帳等を保持する権原を取得したというべきである。この合意は,被控訴人丁田による本件手帳等の利用を制限することを中核とするものであり,被控訴人丁田に返還することは予定されておらず,寄託契約ではない。
(被控訴人丁田の再反論)
 上記の念書は,本件手帳等を奪い取られるにしても,せめてその後の管理について一定の願いだけは聞き入れてほしいという趣旨で被控訴人丁田が作成し,控訴人らにおいて,これを聞き入れるという趣旨で署名したものである。所持者が畏怖して物を交付し,あるいは奪取行為があった場合においても,念書など自由意思があったかのような文書が交付される例はままあることであり,上記のような念書が作成されたことによって,本件手帳等が強奪されたとの事実が変わるものではない。
(8)第3事件の損害額
(被控訴人丁田の主張)
 被控訴人丁田は,控訴人らによる本件手帳等の強奪及び被控訴人丁田の意思に反した家探しにより,多大な精神的苦痛を被った。これに対する慰謝料の額は,控訴人ら各自について1000万円(合計3000万円)を下らない。
(控訴人らの主張)
 被控訴人丁田の主張は争う。
**********
【ひらく会情報部・この項つづく】

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