昭和33年の東京下町を舞台にした作品「ALWAYS三丁目の夕日」を、レンタルではなくDVDを買って観た。
mariさんから「地元岡山でロケがあった」と推奨されたのと、懐かしい時代設定に惹かれたもの。
観ての結果は、おススメ度、満足度ともに5★満点の、★★★★★だった。ネタバレになるとこれから観賞する人の興をそぐので、あえてここではストーリーについては触れず、感想のみ。
昭和30年代を共有する私にとっては、しばらくどこかに忘れかけていた、セピアに色褪せた心の中の想い出を、彷彿させてくれた。緻密な時代考証、広大なロケセット、最新のVFX技術を駆使して再現された町並みを背景に、昭和のよき時代の“心”を余すことなく描き出した、見終わってから心が温かくなるそんな素晴らしい映画だった。
当時の日本は決して裕福ではなかったが、義理と人情に富み、人々は明るくきらめく未来へ向かって懸命に生きていた。その願いを託すかのように着々と出来上がっていく東京タワーが様子がバックシーンに流れる。家族、町内会、人の温かさ、優しさ、寂しさまで見事に再現されている。
この時代をダイレクトに知っている私は、映画の中に完全に同化した。
一平と同じように心待ちにしていたテレビが、わが家にやって来たのは、まさに昭和33年(私が小学5年生)で、村では第一号。
毎日物珍しさに村中の人が集まり、脱いだ履物で足の踏み場もなかった。大相撲のシーズンには担任の先生が学校帰りに寄られることも度々で、大いに鼻が高かった。放送局もNHKがメインで、民放は一、二局だった。「紅孔雀」「大相撲」「プロレス」が印象に残っている。
この時代、自分の子供も他人の子供も分け隔てなく、悪いことをしたら大人の誰もが容赦なく叱ったものだ。 頑固オヤジはどこにでもいた。怖い存在だが威厳があり、溢れる愛情があった。悪いことをすると先生からも鉄拳をくらった。それこそは子供に対する真の愛情の表れであった。
ところが今はどうか。見て見ぬふりをする、我関せずを装う。そして当たり前のことが、当たり前でなくなっている。ただ懐かしさだけでこの映画を観てはいけない。そこには失ってしまった、忘れてしまった日本の普通の人々の普通の暮らしの中に、感動がたくさんあることをこの映画は再認識させてくれた。
出演者全員が主役で、夫々がいい味を出しており、稀に見る名キャスティングである。個人的にはあまり好きでない役者が何人かいたが、それをカバーする演出だった。子役含めて。
特に吉岡秀隆の好演は出色の出来栄えで、絶妙であった。泣かせながら、笑わせる。寅さん直伝の技を持っていた。「男はつらいよシリーズ」で満男役を演じていた吉岡秀隆を子役時代からみてきた。わが家の長男と同い年だけに、共に成長してきた。そして今や風貌(ヘア、ヒゲとも)はもとより、仕草までソックリで二人が完全にオーバーラップ。それだけに思い入れも一入だった。
つい我慢できず嗚咽するほどの映画は、久しぶりだった。ただ「悲しみの涙」ではなくて「感謝、感動、感激の涙」。
何でこんなに涙が出るのか分らない。かみさん曰く「すべてに価値を心においているから」。少しでも豊かな生活をしようと、みんなで助け合って、前向きに生きている姿が素晴らしい。昨今、近所同士でこんな温かいやりとりはない。
ラストで、血の繋がりがない淳之介と竜之介が、血の繋がっているまだ見ぬ両親より親しみを感じながら、何度も突き放して、最後は抱き合うシーンには、またもや涙腺ゆるゆる。
エンディングの完成した東京タワーと夕日に向かって、「50年後もずっと夕日がきれいだといいね」というセリフこの映画の全てをみた気がした。
万人の心に響くような、みんなに勧めたくなるようないい作品だった。mariさん、心に沁みる作品を紹介いただき有難う。
あと何度でも観てみたい。きっとまた泣けるんだろうなぁ。