噛みつき評論 ブログ版

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600人の大規模食中毒事件、なぜかマスメディアは沈黙

2007-12-17 23:11:33 | Weblog
 2007年9月19日、厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課から「イカの塩辛を推定原因とする腸炎ビブリオ食中毒の発生について」報道発表がありました。

 厚労省、食品安全委員会、国民生活センター、宮城県の発表資料などによると、宮城県の食品会社が製造した「いかの塩辛」によるものと思われる食中毒事件が9月8日から発生したことがわかります。全国の12自治体で発生し、10月15日現在の患者数は593名、また9月26日の発表では、19品目の回収対象23.9tの内、回収できたものは2.2tとなっています。

 腸炎ビブリオによる食中毒事件としては、1950年10月21日、大阪府で患者数272名、死者20名の例があり、高齢者などは深刻な事態に発展する可能性もあったものと考えられます。

 また9月28日には厚労省から、「消費者への注意喚起」として「9月20日以降に報告のあった食中毒のほとんどは家庭での喫食によるものであることから、回収対象となっている製品が手元にある場合は、絶対に喫食しないようご注意下さい」との発表がされています。

 宮城県、食中毒、塩辛をキーワードにgooで検索すると377件が表示され、上位100件を調べるとほとんどが厚労省や自治体のもので、マスメディアでは「NIKKEI NET いきいき健康」と「Sponichi Annex」の記事だけが見つかりました。この検索だけで断定はできませんが、少なくとも大手のマスメディアが大きく報道した事実はないと思います。

 厚労省や自治体の発表があったので、知らなかったということは考えられないわけで、ごく一部を除いて新聞とテレビは報道の価値がないと判断した結果であると思われます。

 9月19日から月末にかけて国や数十の自治体が健康被害の拡大を防ぐための報道発表などにより注意喚起をしていますが、患者数は9月19日の発表では217名、28日の発表では354名、10月15日には593名となり、拡大が防止されたとは言えません。一般のマスメディアの協力なしでは当然といえる結果です。

 不二家、ミートホープ、吉兆など、賞味期限の不正表示、産地の偽装表示など、実際の健康被害を伴わないもの、その可能性すらほとんどないものが何十回となくトップニュースになりました。それに対し、消費者に注意を促して被害の拡大を防ぐために必要な、このかなり大規模な食中毒事件をベタ記事にさえせず、完全に黙殺するとは、いったいどう考えればいいのでしょうか。

 さらに不思議なことは特定のマスメディアではなくすべての大手マスメディアが同一行動をとったことです。したがって、これは単なる判断のブレやミスとしてではなく、メディア全体を支配する判断基準の問題として扱ってよいと思います。

 広報の放棄は健康被害だけでなく、死者を出す可能性もありました。国民への広報という役割を独占的に担う者として、ここまで無責任に役割を放棄する裏にはどんな事情があるのでしょうか。凡人には想像が及びません。偽装表示問題が、世の中がひっくり返るほどの大事件として報道された事実を考え合わせると、私の頭では理解不能であります。

 04年、鳥インフルエンザの届出の遅れを執拗に責めたてられ、浅田農産会長夫妻が自殺するという痛ましい事件がありました。また今年、消費期限が1日過ぎた原料を使った不二家は打撃が大きく、経営の自主性を失いました(不二家については拙稿参照)。

 食品企業がわずかでも(実質的にはゼロでも)人命を危険に晒した場合のマスメディアの苛酷なまでの叩きっぷりをいつも目にしている私は、人命尊重の精神に於いてマスメディアの右に出るものはないとばかり思っておりました。しかしこの中毒事件の黙殺によって、そのご立派な人命尊重精神の意味もよくわからなくなりました。