噛みつき評論 ブログ版

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NHKニュースの変身

2009-05-11 10:36:59 | Weblog
 10年以上前に月刊誌に載っていたものですが、新聞のトップ記事の見出し文字の大きさと新聞の信頼度の関係を調べた小論がありました。それによると主要紙のなかで見出しにもっとも大きな文字を使っているのはスポーツ紙で、もっとも小さい文字は日経新聞でした。朝日新聞は意外にもスポーツ紙に次ぐ大きさであったと記憶しています。これは参考に示した資料とも符合します。(参考 朝日新聞の読者信頼度、3位転落)

 その小論の結論は文字が大きい新聞ほど信頼度が低い傾向が見られるというものでした。ル・モンドなど海外のクォリティペーパーと呼ばれる新聞の文字も小さく、この傾向を裏付けるものとされていました。大きい文字を使う新聞ほどセンセーショナルな傾向をもつことは十分考えられることであり、信頼度と逆の関係になることは納得がいきます。

 新聞の方法と対称的なのがグーグルニュース日本版です。見出し文字の大きさに差をつけず、数本の注目ニュースをトップニュースとして上部に載せているだけで、主観的な要素はごく限られています。他のポータルサイトも似たような傾向ですが、新聞社の電子版はトップニュースに大きい文字を使っている例が多いようです。長年のクセが抜けないのでしょうか。

 一般の関心を惹く殺人事件などが重視されるように、ニュースメディアは視聴者・読者の注目を集めたいために、平板なニュースを面白おかしく脚色することに努力します。しかしこの傾向はメディアの信頼性としばしば相反します。必要な情報を適切なウエイトをつけて報道することはメディアの役割であり、信頼される条件のひとつです。センセーショナリズムは情報の適切な配分を歪め、信頼性を損ないます。

 NHKニュースにセンセーショナリズムへの傾斜が目につくようになったのはここ数年来のことです。夜7時のNHKニュースはひとつの注目ニュースに集中する傾向を強く感じます。7時の定時ニュースでありながらワイドショーと変わらない一点集中の報道が中心になっています。

 4月25日以来、軽症の新型インフルエンザはずっとトップニュースであったようです。それも30分のうち20分を充てたりする集中ぶりは常軌を逸しており、これでは「冷静な対応」を呼びかけてもあまり意味がありません。過熱ぶりはグーグルニュースと好対照です。

 ひとつの事件に強く傾斜すると、例えば感染者を収容した成田の病院前から中継をしたり、大阪府の教育委員会のコメントを報じたり、停留者の朝食メニューを映したりと、どうでもよいことばかり多くなる反面、報道されずに消えてしまうニュースが多く生じることになります。

 補正予算に関する報道は大きく削られたと思われますが、軽症インフルエンザの方が重要なのでしょうか。また裁判員制度はその重要性にもかかわらず、ほとんど報道されず、国民が知らないうちに決まってしまいました。これは公共放送の役割放棄と言えるでしょう(新聞も同罪ですが)。報道されない場合、報道されなかったという事実すらわからないことが多く、深刻な問題です。

 民放や新聞社が上記のような営業上の理由からセンセーショナリズムを目指すのはある程度は止むを得ないことですが、非営利のNHKにその必要はない筈です。視聴料で運営されるNHKまでが市場主義に染まることはないわけで、公共放送の役割である信頼性を重視する姿勢を示すべきでしょう。

 海外で高級紙と呼ばれる新聞の発行部数は日本の大新聞に比べ圧倒的に少ないながらも、影響力があるのは信頼度が高いためだと言われています。いやそれとも私が知らないだけで、世界1位の読売新聞、同2位の朝日新聞、同3位の毎日新聞は「こう主張をしている」と、海外のメディアに常に紹介され、世界のオピニオンリーダーの地位を築いているのでしょうか。

 もっとも信頼できるのはグーグルニュースである、なんてことにならなければよいのですが。
(グーグルニュースは他からの寄せ集めですが、並置されているため主観性が弱く、また同一ニュースを複数の媒体で見られるため客観的な評価がしやすい利点があります)