噛みつき評論 ブログ版

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いま2週間分の食糧備蓄をすすめる朝日新聞の見識

2009-05-21 10:29:59 | Weblog
 5月18日の朝日新聞には「食糧備蓄、目安の2週間分は」という記事が載っています。1面の目次にも掲載されており、力を入れている様子がうかがえます。内容は新型インフルエンザに備えて、2週間分の食糧を備蓄するための具体的な案内です。一見、親切で役立つように見える記事ですが、この時期に備蓄をすすめる記事を掲載することに強い疑問を感じます。

 備蓄は個々の人にとってはよいことかもしれません。しかし皆が一斉に備蓄を始めれば食糧は店頭から姿を消し、パニックになる恐れがあります。合成の誤謬(*1)と言ってよいでしょう。むろんこの記事だけでパニックになるとは思いませんが、その素地を作ることは十分考えられます。

 インフルエンザの不安が広がっているとき(朝日新聞はそれにも多大の貢献をされています)、この素地に加えて、どこかで保存用の食糧が売り切れたような映像が流されれば、今のマスクのようになる可能性があります。場合によっては一般の食品にまで広がるかもしれません。

 軽症とされる新型インフルエンザのために2週間分の備蓄をする必要があるでしょうか。2週間、買い物にも行かず引きこもらなければならないほど恐ろしいものでしょうか。パニックによる無用の混乱の方がよほど心配です。なかには食糧が入手できない人が出るかもしれません。もしかしてこの新聞社は内心ではパニックを期待しているのではないか、と勘ぐりたくなります(マスコミにとって騒ぎはなによりの栄養ですから)。

 800万部の影響力をもつメディアは報道の反作用を考慮するのが当然であり、皆が備蓄に走れば混乱がおきるかもしれないという予想ができない筈はありません。信頼度の低い週刊誌が書くのとはわけが違います。800万部の発行部数と信用(比較すればという意味ですが)をもつ新聞は報道の反作用に相応の責任を持つ必要があります。

 ついでながら「広がり踏まえた対策を」と題する、同日の朝日新聞社説を一部紹介します。
「インフルエンザは自宅で寝て治すことが常識の米国などとは異なり、日本では病院や診療所へ駆け込む人が多い。大勢の患者が病院に押しかけたら、発熱外来はもちろん、病院全体が大混乱に陥りかねない。
 軽症の人が家にとどまって診療を受けられる往診態勢や、医療機関が感染を広げる場にならないように感染者を分ける仕組みも必要だ」

 「軽症の人が家にとどまって診療を受けられる往診態勢」、というご主張には驚きました。往診は医師の移動時間が必要であり、大勢の患者に対応しなければならないとき、非効率な往診をする余裕があるでしょうか。社説は新聞社の最高の頭脳が書き、厳重なチェックを受けると聞きますから、誤りのあろう筈がありません。しかし、どう考えれはこのようなご主張になるのでしょうか、凡人には理解することができません。軽症の人には米国のように自宅に留まってもらい、タミフルを郵送するなどの方法なら私にでも理解できるのですが。

 意外に思われるかもしれませんが、上記のような記事を生み出す見識の方々が、オピニオンリーダーとして現在の日本社会を指導されているという現実だけはしっかり認識しておくべきでしょう。
(参考 朝日記事の信頼度が低い理由)

(*1)合成の誤謬
例えば不景気になって所得が減少したとき、個々の消費者は節約することが合理的な行動です。しかし皆が一斉に節約するとさらに景気が悪くなり、全体として悪い結果になります。