私は小さな漁村で生まれ、そこには海水浴場というものがあった。
とはいえ、それは遠浅の砂浜ではなく、磯である。磯とは石の海岸である。
(昔泳いでいた磯)
私は、砂浜よりも石の海岸の方が好きだ。それは、身体が砂で汚れないからである。
特にゴム草履の足が汚れないのが良い。
その海水浴場には、海の家があった。海岸と道路には高低差があったので、海の家は2階建てだったような気がする。
しかし、海の家というものは、観光客用のものであるので、地元の人間が使うものではない。
私たちは、海の家の縁の下あたりの日陰に荷物を置いて、海水浴をした。
子どもだったので、バスタオルを巻いてそこで着替えをする。帰りは水着の上に服を着て帰ったりした。濡れた水着も石の上に座っていると大分水分が抜けてくるのだ。
さてさて、最近になって、自分が一度も海の家で飲食をしたことがないことに気づいた。
海水浴も故郷の海でしかしたことがないので、どこか有名なところにでも行ってみたいところだが、60代という初老のおばあさんになってしまったので、人前で水着になることなどできないし、直射日光にやられてくたばってしまいそうだ。自分が海で泳ぐなどもっての他だが、海の家で飲食をするだけならできそうだ。でも、それはやはり水着になって泳ぐ人のための家なので、泳がない人が入ったら変かなあと思う。
ところで、海の家というのは、どういうものを食べたり飲んだりできるのだろう。
まず、記憶にあるのは「かき氷」である。当然食べたことはない、海の家で四角い透明の大きな氷の塊が、機械にセットされているのをよく見たものだ。
(地元の子どもは海の家の階段を使って海水浴場に下りるのは日常的で、シャワーも勝手に使ってよかったので、中の様子は目にしていた。)
かき氷は、メロン・イチゴ・レモンとかミルク入りとかいろんな味があった。その他には、私の地元で言えば、ところてんであろう。海の近くには、天草がよく干してあった。自宅でも食べたけど、ところてんに酢醤油・辛子・青のりっていうのがあるはずだ。
それ以外に思いついたのは、やっぱりラーメンかな?それから焼きトウモロコシ。
記憶にあるのはそんなところだけど、常識で考えてアイスコーヒーとかコーラとかジュースとかはあるに違いない。焼きそばもあるかな?カレーなんかもあるのかな?
私の記憶にある海の家は、掘っ建て小屋みたいなもので、床にゴザが敷いてあり、そこに座り、お膳で食べる。テーブルと椅子ではなかった。
でも、現在、湘南の海の家なんかの写真を見せてもらうと、まるで外国のカフェみたいだ。
ちょっとイメージが違う。昔ながらの海の家を利用してみたいものだ。
実を言って、私は伊豆の田舎の生まれであるため、海の水に関しては、都会に比べ伊豆のほうがずっときれいだと思っていた。
子どもの頃、東京のほうの海水浴の様子をテレビで見ると、水は汚いし、人は多すぎるし、あんなイモ洗いみたいな状態で、よく楽しめるものだとバカにしていたものだ。
子どもの頃テレビで見た「東京の方の海」っていうのは、今になって思うと湘南海岸のことだったかもしれない。
今になったら、一度湘南の海に行ってみたいものだと思うし、故郷以外の海でも泳いでみれば良かったなと思う。
なんかもう、一生 海で泳ぐことはなさそうだけどね。
(あとできた人工海岸)