たった95分で描く72年9月5日のミュンヘン五輪でのテロ。映画は無駄のない適切な見せ方で報道のあり方を問う。アメリカのABCが生放送で独占世界中継をしたテロ事件の舞台裏のドキュメントである。50年以上前の出来事を今再び問う。ちょうど同じようにテロ事件をリアルタイムで生放送することを描く日本映画『ショータイム7』(こちらの表記はカタカナで「セブン」だけど)も現在公開中。たまたまABCはこの出来事を放 . . . 本文を読む
後半は思ったほど怖くなかった。もうこれ以上の恐怖はないからだ。あるのは予定調和の虚しさだけ。こんなふうにして生きてきた自分に対して唾を吐きかけたくなる。この作品のふたりの主人公たちの末路を静かに見守る。穏やかなラストまで。これは主人公のふたりをこれ以上追い詰めて破滅させるためのお話ではないからだ。僕たちは絶対にこうなってはならない。自戒の念を込めて最後まで読む。もちろんもう既に彼らと同じくらいのこ . . . 本文を読む
僕にとっては『明け方の若者たち』以来のカツセマサヒコの作品だ。昨日偶然手にして読み始めたのだが、これが凄まじい作品だった。こんなことをこんなにも冷静になって淡々と語るなんてありですか?ふたりの男たちのことが交互に描かれていく。ひとりはまだ20代の人事部の社員。もうひとりは50代の営業の課長。彼によるパワハラが暴かれるのだが、単純な勧善懲悪ではない。周囲の人たちのさらなる冷静な対応を通してふたりの無 . . . 本文を読む
久々の長嶋有。だけどこれを読みながら一体何を読んでいるのだろうかという既視感に襲われる。いつもの長嶋有だからだが、そこに描かれる世界があまりに自分にはわからないことばかりで戸惑いながら、わからないことはわからないまま流せばいいかぁと居直ると少し楽になる。パソコンの専門知識なんてわからない。デジタルとアナログが交錯して40年以上の歳月が描かれる。放置されていた家のレコードプレイヤーを取りに行く話から . . . 本文を読む
『バリ山行』で芥川賞を受賞した松永K三蔵の受賞後第1作ではなく、受賞前のデビュー作。未刊行だった作品が芥川賞の威光を受けて日の目を見た。よかったよかった。2021年の群像新人賞受賞作(優秀賞だからか?)なのにまだ出版されてなかったようだ。こちらも『バリ山行』に負けないくらいに面白い。ただ前半に比べると後半が弱い。あっけない亀夫の死去からが本題なのかもしれないが、そこまでの異様な迫力がなくなる。それ . . . 本文を読む
休憩を兼ねて軽い映画を見ようと思ってこの作品を選択した。最近この手の「学園もの」には飽きた。高校時代という時間が好きだったから、仕事にも選んで40年以上働いてきたし、好んで青春映画も見たけど、さすがにもう飽きたのかも。久しぶりのこの手の映画だったが、こんな幼稚な映画がありなのか、と驚く。もしかしたらここから先には「何か」があるのか、と思ってずっと見ていたが、何もなく終わる。ただのよくある少女マンガ . . . 本文を読む
ゲネプロで奈落に落ちて死んだ女優。公演は中止になる、本番だった日に演出家からスタッフ,キャストが公演するはずだった劇場に集められた。亡くなった女優が語る彼女の来し方、行く末。ここまでが序幕。一幕は彼女の高校3年次の母の死から始まる。決められたレールの上から降りていいと言われる。だけど何も浮かばない。東京に行きたいなら行けばいい。父は優しく突き放す。吉祥寺に行く。そして女優になる。これまで芝居をした . . . 本文を読む
北野武の新作がAmazonから配信公開されている。凄まじく評判が悪い。カンヌ映画祭に特別招待されている(ベネチア映画祭でした。カンヌは前作の『首』ね)が、海外での評価はどうだったのだろうか。前作『首』も酷かったが、これはその比ではない出来らしい。ということで、さっそく目撃した。いやぁ、すごかった。こんな映画(配信映画だけど)を平気で作れるなんて、さすが「ビートたけし」である。しかも「北野武」名義で . . . 本文を読む
二部作の2作目は予告通りの京都編。江戸から舞台を移して、再び梅安,彦次郎のバディが悪に挑む。前作ラストに登場した椎名桔平が今回の敵。さらに佐藤浩市も梅安を狙う。と、こう書いたが、実はこの作品つまらない。一作目と同時に作ったにもかかわらず、こんなにも作品としての完成度に差が出来てしまったのは何故か。当然スタッフ、キャストは同じである。だから方向性も変わらないはずなのに。台本が悪い(同じ大森寿美男だけ . . . 本文を読む
ここからは一応学生劇団スタイルの公演が続く。近畿大学のD館ホールでの演劇公演である。年末年始にここで授業の実習作品を何本か見て感心した。笠井さんや土橋さんという知り合いの指導による作品だったから見たのだが、期待以上の作品が並ぶ。だから、さらにその先、生徒たちによる自主作品も見たいと思った。劇場で配布されたチラシではこれから3作品が並ぶが本作はその第一弾。チラシを見て劇団名は「ミルクレープバレンタイ . . . 本文を読む
久しぶりに金原ひとみの小説を読む。めちゃくちゃ痛快。勢いだけで読ませてくれる。まんまとこの疾走感に乗せられてしまった。楽しい。びっくりするような展開を見せる。45歳の冴えないおばさん(事務職)が25歳のトンデモない女(同じ会社の文芸部編集者)と出会う。彼女にあり得ない世界に導かれていく。とあるバンドのライブに連れて行かれ、衝撃を受けた。なんだこれは! 彼女はあれよあれよという間に打ち上げにも参加し . . . 本文を読む
滅多に公開されることのないマレーシア映画である。予告編を見た時はよくある台湾映画かと思った。この手の作品は韓国映画にもたくさんある。アジア映画はこういう兄弟物が好きみたい。これは新人監督のデビュー作らしい。とても丁寧に作られてある。だけどなんかもの足りない。見ていてもどかしい。お話がなかなか進展していかないので、何がしたいのかわからない。それこそがいい、という感じで見れたならいいのだけど、演出には . . . 本文を読む
彼女の『海岸通り』を読んで感心したけど、今回はあれよりさらに三段階くらいレベルアップしている。この不思議な味わい、この見事な世界観の構築。ただものではない、と思わせる。発想が凄いし、それを短編の中で見事に使い切る。出し惜しみしないし、ムダがなく一編ごとにきちんと完結している。6つの作品はいずれも他者との関係性から自分を見つけるお話。相容れないもの、共通するから対峙するもの、共有するもの。特に後半の . . . 本文を読む
ようやく映画版が公開された。同時に書かれた中村航の小説版は先行して出版されていて読んでいるし、このブログにも書いている。あの小説は楽しみにして読んだけど中村航なのに、あまり感心しなかった。それだけに映画はどんな切り口からあの話を作り変えたのか、気になる。さて映画は? こちらは高橋泉の脚本で、草野翔吾監督という最高の布陣で贈る。だけど、なのに、やはりあまり感心しない出来だった。草野監督の前作『アイミ . . . 本文を読む
時代劇チャンネル製作の配信向けの安っぽい時代劇映画、だと思っていたが、これはかなりの大作映画であった。二部作公開というのもよくある製作費節減のための2本撮りだと高を括っていたが必ずしもそうではない。これはちゃんとした映画である。もちろん劇場で見る価値ある作品でもある。こんなタイプの時代劇映画は滅多にない。しかもこんなにも静かな娯楽映画は珍しい。暗くて静謐。だけど素晴らしい緊張感が持続する。役者の動 . . . 本文を読む