習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『それでもボクはやってない』

2007-02-27 22:01:56 | 映画
 ようやく見ることができた。封切りから40日が過ぎて、あとわずかで上映が終わる時期に、この時期一番の期待作とご対面。  《とてもいい映画だったが、いやな映画だった。》これはかなり複雑な気分だ。見終わった時の後味は、とてもよくない。2時間20分。主人公の男が出合った事件とその裁判に付き合い、身も心もクタクタになる。しかし、これは素晴らしい映画である。なぜ、こんな微妙な言い回しになるのか、そのことを . . . 本文を読む
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西加奈子『通天閣』

2007-02-26 22:59:18 | その他
 この淋しさをいかに受け止めようか? 2つの物語が交錯することもなく、並行したまま描かれていく。  40代半端の中年男。通天閣がすぐそこに見えるワンルームのアパートで一人朽ち果てていくように、暮らしている。工場で毎日単純作業の機械労働をして、ただ生きていくだけの日々。仕事が終わればいつもの中華店で大盛りの塩焼きそばを食べて、風呂に行き眠る。  女は20代の後半。恋人はいるが、彼は今映像作家にな . . . 本文を読む
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dots『MONU/MENT(s) for Living』

2007-02-24 21:17:52 | 演劇
 とてもスケールの大きな作品だ。ビックバンから始まって、地球が出来て、生物が生まれ、人間が出てくる。文明が進歩し、成熟して、滅びていく。そして、再び生命が誕生する。  そんな風景が様々なイメージの連鎖として綴られていく。とても素直に描かれていて、面白いといえば、確かに面白い。ストーリーを追うわけではないが、ただ独立したイメージの羅列でもない。一貫性を内に秘めながらも個々のシーンが展開していく。 . . . 本文を読む
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『うつせみ』

2007-02-24 10:49:20 | 映画
 2005年日本映画ベスト1が『トニー滝谷』なら、外国映画のベスト1はキム・ギドクの『空き家』である。この作品が、ようやく去年日本でも公開された。だがその日本公開タイトルが『うつせみ』に決まった時、かなりショックだった。こんなつまらないタイトルはないでしょ。英語タイトルの『3IRON』もあまり納得がいかないけど、まだ『うつせみ』よりはましだ。  と、言う訳で、久々にこの傑作を見たくなった。今日、 . . . 本文を読む
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『トニー滝谷』

2007-02-24 10:20:57 | 映画
 3年生、現代文の最後の教材が村上春樹だった。『レキシントンの幽霊』に収められている『七番目の男』である。入試前で殺気立ってる人や、もう進学が決まり授業なんて関係ないと思っている人が多数の中で、消化試合のような授業をするのは、好きではない。奴らのためではなく、自分のためにする気持ちで久しぶりにこの小説を読む。悲しくて泣いてしまいそうになる。いつものことだ。  最近の高校の教科書には、よく村上春樹 . . . 本文を読む
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中島京子『均ちゃんの失踪』

2007-02-22 21:00:54 | その他
 昨年読んだ『ツアー1989』は実に不気味な小説だった。主人公は香港旅行に行き行方不明になる。いつの間にかいなくなっているのだ。ツアーのメンバーはそれに気付いているが、誰も何も言わない。迷子ツアーというものが旅行会社によって企画されたことが、かってあった、らしい。その男の子がいなくなったのも旅行会社による何かではないか、とツアーに参加した人は思った。あれから、20年近く経つ。あの時ツアーに参加した . . . 本文を読む
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『転がれ!たま子』

2007-02-21 23:57:59 | 映画
 若い新藤風の本格的デビュー作『転がれ!たま子』はコメディーであるにもかかわらず、全く弾まないオフビートの映画。果たして何をねらってこういう作り方をしたのか、想像もつかない。 しかし、ここには作り手の頑固な意志が貫き通されてあるのは、明確だ。中途半端な妥協は一切ない。だからここまで清々しい大失敗作となる。それは状況やケースは全く違うが長崎の『闇打つ心臓』にも通ずるものが、あるような、ないような . . . 本文を読む
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『闇打つ心臓』

2007-02-21 23:17:28 | 映画
 昨年秋に大阪で公開された2本の映画をDVDでようやく見た。かなり気になっていたが、例によって公開期間が短く、限定された劇場だけでの公開で見逃していた。まずは、長崎俊一監督が23年ぶりにセルフリメイクした『闇打つ心臓』である。(もう1本の新藤風のハートフルコメディー『転がれ、たま子』は次回)  この映画のオリジナルとなった長崎の8ミリ自主映画は当時かなり気になる作品だった。なぜ、35ミリを撮った . . . 本文を読む
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『蒼き狼 地果て海尽きるまで』

2007-02-20 20:29:41 | 映画
 30億もの大金をつぎ込んだこの大作が、出来上がったのを見た時、角川春樹はどう思ったのだろうか。何よりそれが気になった。これだけの超大作をドライブしきることは、困難を極める。誰の責任か、戦犯を問うようなことをしても仕方ないのは、承知の上で、それでもその責任の所在を確かめなくては立ち直れない。  澤井信一郎監督の久々の新作である。彼が日本を代表する昔ながらの職人監督であることは言わずと知れたことで . . . 本文を読む
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『Dear Friends』

2007-02-20 19:52:32 | 映画
 みんなから羨ましがられる完璧な女の子、リナ。小さな頃から周囲の関心を集め、何をさせても一番で、お金持ちで、美しい少女。そんな女の子に憧れ、彼女のお誕生日会に初めて呼ばれて、ドキドキしながら行くもう一人の女の子、マキ。貧乏なのでプレゼントも買えず、道端の花を摘んで持って行く。でも、リナはそんな花を「ありがとう」と受け取ってくれた。  子供の頃の、たったそれだけの思い出がマキのその後の人生の全てを . . . 本文を読む
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劇団8時半『むかしここは沼だった。しろく』

2007-02-20 00:30:31 | 演劇
 ラストでみんなを抱きしめる主任。疲れて眠るその仲間たち。この場面がすばらしい。この共同体への愛しさがしっかり伝わってくる。ずっと一緒にいたい。それだけだったのかもしれない。ずっと、なんてないのは分かってる。いつかは終わりがやってきて、変わっていかざる得ない。だからこそこの瞬間をしっかり抱きしめていたいと思う。  こだわり続けたい、と思う。出てくるあてもない恐竜の骨にこだわり、それをいつまでも探 . . . 本文を読む
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『エクステ』

2007-02-19 23:28:26 | 映画
 昨年暮れに見た園子温の『紀子の食卓』は2006年一番の衝撃作だった。あれから2ヶ月、早くも彼の新作が登場する。しかも、今回は初のメジャー映画である。ようやく園子温の時代到来か、とか思って、いの一番に劇場に駆けつけた。ブルク7で独占公開(それって単館公開でしょ)というのが、ちょっとどうだか気になったが、(全く宣伝もなくいきなり公開だし)予想通り2日目の日曜なのにがらがらだった。そして、映画自体も唖 . . . 本文を読む
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『サンクチュアリ』

2007-02-16 21:34:24 | 映画
 2人の関係性が、今一歩伝わりきらない。摑めそうで摑めないもどかしさは、いつもの瀬々さんのやりかたとはいえ、かっての映画史に残る傑作『雷魚』や『汚れた女(マリア)』の頃のような強い意志が感じられないのは、彼の演出力が落ちてきているためなのか。  現在からスタートして、1年前の夏、2年前の夏、3年前の夏。3つの時間が遡って語られていき、ラストでは、主人公である主婦が女を . . . 本文を読む
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『強運の持ち主』と1月の小説等

2007-02-13 21:02:32 | その他
 この本のタイトルを人に言うとき、『強運の神さま』とか勝手に言ってた。「今、瀬尾まいこの『強運の神さま』読んでるんだけど、すごく面白いよ」なんて感じだ。すごく恥ずかしい。でも、彼女のデビュー作『図書館の神さま』とごっちゃになってるんだよな。神様なんて言ってしまいたくなるような男の子と暮らす彼女はきっと幸せだろうな、と思わせてくれるそんな作品。彼は『幸福な食卓』の勉学が大人になったような男性だ。 . . . 本文を読む
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Gフォレスタ『100年先も手をつなごう』

2007-02-11 22:02:25 | 演劇
 どうしてこういうコスプレ芝居として、このお話を作ろうとしたのだろうか。もっとさりげない、どこにでもある家族の物語を見せてもらうつもりだっただけに、かなりの驚きがある。「愛とはなにか」なんて問いかけからスタートして、あの大仰な衣装とメイクで話が始まった時には、いったい何が起きたのか、と思った。  きっと丸尾さんは、現代のシェークスピアを目指し、この芝居を無国籍の神話として作ろうとしたのではないか . . . 本文を読む
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