なんと高齢者による読書会のお話である。高齢者ものは近年多いから驚かないけど、読書サークルである。そんな題材で書かれた小説なんてない。古民家カフェを借りて毎月開催される読書会。参加者は6人。会長はなんと92歳。最年少でも78歳。コロナ禍かは3年間開催が見送られていたが、ようやく再開する。カフェの新米店長28歳も新たにメンバー入りする。まるで介護の一環として参加したけど、そんな舐めた印象を吹き飛ばすよ . . . 本文を読む
冒頭からガツンと殴られた気にさせられる。こんな衝撃は久しぶりのことだ。演芸写真家なんて仕事があるとは知らなかった。繭生は舞台袖から写真を撮った。演者の許可を取っていないのに。
あの時はまだ20歳で、アシスタントの身分だった。夢中でシャッターを切ってしまった高座に立つ落語家の「一重の瞳は怒りに満ちていた」。彼女の落語を壊してしまった。そしてルールを破った。たった一枚の写真ですべてを失った。
&n . . . 本文を読む
シリーズ完結編だけど、これまでの3作を読んでいないから、話になかなか入り込めない。シリーズ物とは知らないで借りてしまった。ポプラ社から出ているし、表紙のイラストもかわいいから軽く読めるかと思って。
弓、剣、茶の三道を伝える坂東巴流家元ジュニアを中心にした取り巻きの人たちのそれぞれのお話を描く連作。だけどこれはスピンオフで主人公の遊馬は最後のエピソードまででない。しかもまるで活躍しないまま終わ . . . 本文を読む
久々に軽くて楽しい小説を読んでいる。これは5話からなる連作だが、最初のタイトルにもなった『かもめジムの恋愛』がすべてを象徴する。これは75歳の西原さんの初恋を描いた短編である。かもめジムに通う西原さんは受付アルバイトの私(柏夢)に恋愛相談をする。58歳差のふたりはお互いの恋愛相談を通して友情を育む。このなんともいえない設定がいい。年齢差なんて関係ない。男女問わず。当たり前だけど特別。彼女にはそんな . . . 本文を読む
今までとはかなりタッチの違う小説にチャレンジした。映画化を視野に入れたプロデューサー目線はなく、一作家としての作品だ。と、最初は思った。
だけど川村元気はやはりエンタメ系で、これは充分「純文学」できる題材なのに、気がつくとエンタメになる。それが悪いわけではないけど、なんだか中途半端でつまらない。組合費の横領、気がつくと1億円。そこではなく、馬との話に絞り込むほうがいい。と思いながら読んでいたら、 . . . 本文を読む
ようやくホッとする小説を読む。だけどそれがなんと町田そのこだなんて、笑える。いつもキツいなと思う小説ばかりの彼女に今回ばかりは救われる。
『スピカ』は厳しかった。長くて苦しい小説で読んでいる間の3日間は気持ちが重かった。だけど途中で投げださなかったし、耐えた。もちろん悪い小説じゃない。それどころか、とてもいい作品だと思う。ただ、重い。さまざまな病気を抱えた人たちの痛みと向き合う。 . . . 本文を読む
これもまたキツい話だな、と思いつつ読み始める。病院を舞台にしてそこで働くDI犬,スピカの話。DI犬の存在をこの小説を読んで初めて知った。AAAとかAATなんてものの存在ももちろん知らなかった。医療に携わる介助犬スピカとバディを組む看護師、遙。ふたりが(ひとりと1匹、いや一頭だけど)出会う患者たちのそれぞれのドラマ(2023年から24年まで)がふたりが出会うまでの話(2012年から24年)と交互に描 . . . 本文を読む
これは歌物語だ。平安時代に書かれたあの『伊勢物語』のような。短い物語の最後にこのお話を締めくくる短歌が置かれている。18の短編集でもある。
そしてこれは優しい童話だ。すべての話は「誰々」の「何々」といスタイルのタイトルになっている。どの話も素敵だけど、1番気に入ったのは『ココさんの心臓』。赤いボタンの心臓を手にするまでの短いお話。
すべてが服飾にまつわる話。布、 . . . 本文を読む
凄い力作である。デビュー作『つきはぐ、さんかく』で注目した彼女の第2作だけど、若い作家がこんな作品に挑むなんて、驚きだ。DVを中心にして、ひとりの青年の老女ふたりとの出会いから始まり、彼女たちの死からこれまでの軌跡を追う長編小説。
思ったほどには作品世界は広がらない。82歳の老女とふたつ年下の妹。ふたりは大きな屋敷でふたりきりで暮らしている。そこに新しく役所の福祉課に入った男の子 . . . 本文を読む
あっ、これはツラい話だ、と読む前からわかっていたが本を手に取って読み初めてしまう。最初から強烈にキツいけど、どんどん読み進めてしまう。面白いから、ではない。気になって仕方ないからだ。介護の現場のツラさキツさはわかっているけど、こういうふうに突きつけられたら、もうどうしようもない。重い気分。なのに目が離せない。 これは特別養護老人ホームを舞台にして新人介護士の青年の日々を描く長編。だが、読 . . . 本文を読む
先月公開された映画のノベライズである。岡田磨理脚本、長井龍雪監督のアニメ映画を額賀澪が小説にした。額賀澪らしさはまるでない。映画そのままで驚く。シナリオをまんまに小説形式に移行させただけではないか、という印象を受けた。だから映像で見るよりわかりにくい気がした。まるで新鮮さはない。ノベライズだから原作を再現するべきなのかもしれないが、それなら額賀澪を呼んでくることはないじゃん、と思う。
  . . . 本文を読む
これは地下アイドル赤羽瑠璃シリーズの第2作。前作のことを忘れていたから、最初この小説、前に読んだ気がする、なんて思った。相変わらず間抜けである。
地下アイドル東京グレーデルのカリスマ、赤羽瑠璃の熱烈なファンである地味男の恋人。彼女は彼の推しである赤羽瑠璃に一方的に嫉妬する。これはそんないびつな恋愛感情を描く短編から始まった4話からなる連作。最初は赤羽瑠璃を巡る3人の女の話。そして最後 . . . 本文を読む
5才の頃、母を亡くした「僕」のその後の日々を綴る。イギリスから転校して来たさりかちゃんとの交流を中心にした少年時代がゆっくりとしたタッチで描かれていく。5歳から6歳に。春には小学生になる半年間ほどの短い時間。唯一の友だち、さりかちゃんとの間に距離が出来ていく終盤の展開が悲しい。
ハロウィンの日のこと、誕生日プレゼントのゲーム機、雪の日の時間。こんなにも決定的になるとは思いもしなかった。しかもここ . . . 本文を読む
2021年の6月7日に母が亡くなった。コロナ禍のことである。母の死のショックは大きく、だけど今は(あの時は)それから先のことが思いやられる。連絡を受け大急ぎ病院に駆けつけた時には既に亡くなっていた。大変だった。弟と妻に連絡して来てもらうようにしたが、病院からはいきなり葬儀にことを聞かれて、予定はありますか、とか言われて、あるわけないやん、と憤慨しながら、仕方ないから病院提携の葬儀屋に来てもらうこと . . . 本文を読む
山田太一が亡くなって、倉本聰は元気に90代を迎える。富良野で暮らし始めてもう40年になるらしい。早いものだ。TVドラマの両巨匠の時代を並走した。まぁ、リアルタイムで彼らの仕事を目撃しただけだけど。そんな頃が懐かしい。
当時の僕は(今も)山田太一派だったけど、あの頃の倉本聰もすべて見た。それだけ凄かったのだ。ショーケンの『前略おふくろ様』や『北の国から』は毎週欠かさず見た。単発の日 . . . 本文を読む