習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

カツセマサヒロ『マリッジブルー』②

2025-02-19 08:47:00 | その他
後半は思ったほど怖くなかった。もうこれ以上の恐怖はないからだ。あるのは予定調和の虚しさだけ。こんなふうにして生きてきた自分に対して唾を吐きかけたくなる。この作品のふたりの主人公たちの末路を静かに見守る。穏やかなラストまで。これは主人公のふたりをこれ以上追い詰めて破滅させるためのお話ではないからだ。僕たちは絶対にこうなってはならない。自戒の念を込めて最後まで読む。もちろんもう既に彼らと同じくらいのこ . . . 本文を読む
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カスセマサヒコ『ブルーマリッジ』①

2025-02-19 06:28:00 | その他
僕にとっては『明け方の若者たち』以来のカツセマサヒコの作品だ。昨日偶然手にして読み始めたのだが、これが凄まじい作品だった。こんなことをこんなにも冷静になって淡々と語るなんてありですか?ふたりの男たちのことが交互に描かれていく。ひとりはまだ20代の人事部の社員。もうひとりは50代の営業の課長。彼によるパワハラが暴かれるのだが、単純な勧善懲悪ではない。周囲の人たちのさらなる冷静な対応を通してふたりの無 . . . 本文を読む
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長嶋有『僕たちの保存』

2025-02-18 08:53:00 | その他
久々の長嶋有。だけどこれを読みながら一体何を読んでいるのだろうかという既視感に襲われる。いつもの長嶋有だからだが、そこに描かれる世界があまりに自分にはわからないことばかりで戸惑いながら、わからないことはわからないまま流せばいいかぁと居直ると少し楽になる。パソコンの専門知識なんてわからない。デジタルとアナログが交錯して40年以上の歳月が描かれる。放置されていた家のレコードプレイヤーを取りに行く話から . . . 本文を読む
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松永K三蔵『カメオ』

2025-02-17 09:19:00 | その他
『バリ山行』で芥川賞を受賞した松永K三蔵の受賞後第1作ではなく、受賞前のデビュー作。未刊行だった作品が芥川賞の威光を受けて日の目を見た。よかったよかった。2021年の群像新人賞受賞作(優秀賞だからか?)なのにまだ出版されてなかったようだ。こちらも『バリ山行』に負けないくらいに面白い。ただ前半に比べると後半が弱い。あっけない亀夫の死去からが本題なのかもしれないが、そこまでの異様な迫力がなくなる。それ . . . 本文を読む
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岩井圭也『舞台には誰もいない』

2025-02-16 06:40:00 | その他
ゲネプロで奈落に落ちて死んだ女優。公演は中止になる、本番だった日に演出家からスタッフ,キャストが公演するはずだった劇場に集められた。亡くなった女優が語る彼女の来し方、行く末。ここまでが序幕。一幕は彼女の高校3年次の母の死から始まる。決められたレールの上から降りていいと言われる。だけど何も浮かばない。東京に行きたいなら行けばいい。父は優しく突き放す。吉祥寺に行く。そして女優になる。これまで芝居をした . . . 本文を読む
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金原ひとみ『ナチュラルボーンチキン』

2025-02-14 10:13:00 | その他
久しぶりに金原ひとみの小説を読む。めちゃくちゃ痛快。勢いだけで読ませてくれる。まんまとこの疾走感に乗せられてしまった。楽しい。びっくりするような展開を見せる。45歳の冴えないおばさん(事務職)が25歳のトンデモない女(同じ会社の文芸部編集者)と出会う。彼女にあり得ない世界に導かれていく。とあるバンドのライブに連れて行かれ、衝撃を受けた。なんだこれは! 彼女はあれよあれよという間に打ち上げにも参加し . . . 本文を読む
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坂崎かおる『箱庭クロニクル』

2025-02-13 22:36:00 | その他
彼女の『海岸通り』を読んで感心したけど、今回はあれよりさらに三段階くらいレベルアップしている。この不思議な味わい、この見事な世界観の構築。ただものではない、と思わせる。発想が凄いし、それを短編の中で見事に使い切る。出し惜しみしないし、ムダがなく一編ごとにきちんと完結している。6つの作品はいずれも他者との関係性から自分を見つけるお話。相容れないもの、共通するから対峙するもの、共有するもの。特に後半の . . . 本文を読む
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川上弘美『王将の前で待ってて』

2025-02-13 06:39:00 | その他
句集である。川上弘美の2冊目となる句集らしい。彼女は30年前から俳句を作り始めた。作家活動より早い。17音の世界は身近で、簡単に作ることもできるけど、それだけに難しい。2010年から23年までの220句が収められている。巻末にはこの30年のベストワン作品30句とその解説。(自分による)さらには読者へのエッセイまで。だけど、このエッセイが一番面白いって、何?「俳句を、始めてみませんか」というお誘いで . . . 本文を読む
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垣谷美雨『マンダラチャート』

2025-02-11 22:32:00 | その他
ピッタリの同世代である主人公が自分の生きた時代を振り返り、再体験するタイムトラベルもの。これにはハマるわぁ。令和5年から1973年に。63歳から50年前の中2に。65歳になった僕にすれば懐かしいばかりの時間が描かれていく。価値観の違いが生むコメディ展開と齟齬に悩む日々のスケッチがリアルに体感できる。北園雅美63歳。クラスメイトのイケメン男子天ヶ瀬もまた同じ時代からここに来ている。この時代から人生を . . . 本文を読む
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小路幸也『花咲小路二丁目中通りのアンパイア』

2025-02-10 06:29:00 | その他
またまた小路幸也の新作である。そろそろ『東京バンドワゴン』の新作も刊行されるんじゃないかな。たぶん春には出るだろう。さて、この『花咲小路』シリーズ最新作はミステリ仕立て。たい焼き屋の禄朗とその彼女(婚約者)であるユイちゃんがちょっとした謎に挑む。相も変わらずたわいもないお話だけど、読んでいて楽しいのはお話がどうこうということではなく、このコミュニティの心地よさである。個人商店が軒を並べる今の時代に . . . 本文を読む
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標野凪『冬眠族の棲む穴』

2025-02-08 06:15:00 | その他
この小さな本の小さなお話が心に沁みる。立春から始まり大寒まで。新幹線の車内で読み始めた。24のお話(24節気)のひとつひとつを噛み締めながら読み進めると気がつけば1年が過ぎているのだろう。現実と幻想のあわいをたゆたう。最初の2篇が好き。動物園好きのふたり。往復書簡を思わせるメールのやり取り。買って10年過ぎたマンション。たぶんパッキンが悪くなり水がポタポタ落ちる水道。この『立春』、『雨水』から始ま . . . 本文を読む
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安田依央『深海のスノードーム』

2025-02-06 15:37:00 | その他
初めて読む作家である。生理痛が酷くて眠れない、とかいうことを延々と書くところから始まる。だから同棲していた男のところから家出して、自殺するために大阪に行く。えっ?それって何。買ってきたレコード盤(『暗い日曜日』)に入っていたメモ。大阪にある優しい死に方を教えてくれる喫茶店、「待合室」。冗談みたいだが、沙保はそこに行く。そこで出会った不思議な初老の女性、律に導かれて一緒に暮らすことになる。偶然この作 . . . 本文を読む
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大牧ぽるん『30過ぎてロリータ着てますが、世界をオシャレに出来ますか?』

2025-02-05 21:24:00 | その他
生まれて初めてネット配信小説(?)を読んだ。知り合いから頼まれたからだが、これがかなり面白くて一気に読んでしまった。携帯小説って昔流行ったけど(全く読んだことがなかったが)これってそんな感じのものなんだろうか。まぁそんなことはどうでもいい。面白いから読む。それだけ。現在公開されている15話までを読んだ。当然この先まだまだお話は続くだろうが、とりあえず、ここまでの感想を書こう。まず、問題点から。世界 . . . 本文を読む
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宮内悠介『暗号の子』

2025-02-05 10:23:00 | その他
8編からなる短編集である。いずれもテクノロジーの変化を取り上げて近未来を予見する作品が並ぶ。最初の『暗号の子』を読んでいてまるで書かれていることが理解できなくて焦った。知らないカタカナで書かれた単語が続出、しかも内容も理解不能。旧世代のアナログ人間には外国語を話されている気分。これは無理かも、と半分匙を投げる。だけどなんとかわからないなりにラストまで読んでいく。専門用語続出から浮かび上がるストーリ . . . 本文を読む
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樋口有介『11月そして12月』

2025-02-03 17:40:00 | その他
久しぶりの樋口有介の新作?って、感じで気になって手に取ったけど、そんなわけはない。彼は数年前に亡くなっている。この作品は95年4月に刊行され、2009年に文庫化された作品である。本の最後を見て確認した。というか、そこにちゃんと明記されていた。だがなぜ今頃再び単行本となって再発売されたのか、わからない。その経緯はどこにも書かれてないけど、気になって手にした以上、まず読み始める。読みながら、これは昔の . . . 本文を読む
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