このアニメーション映画は衝撃的だ。なぜアニメなのか、と見ながらも思ってしまう。わざわざアニメーションにしなくても、実写で充分表現できるはずだ。だが、作者であるアリ・フォルマンは、これをわざわざアニメにする。そして見続けるうちにその答えを知ることになる。アニメーションだから可能だったことが、わかる。
アニメであることで、リアルから遠くなるのは必定のことだ。だって、アニメなのである。だが、この映 . . . 本文を読む
このタイトルから想像されるような情熱的な恋の物語から遠く離れた小説である。でも、これはいつもながらの柴崎さんの世界だ。驚くことはない。だが、10年間に及ぶドラマとして、こういう話を提示されるとさすがに驚く。いつものような中編ならいざ知らず、長編小説として、このなんでもない日々のスケッチが提示されるからだ。その結果、大きな話が背後に出来てしまうのだ。
まぁ、それはあくまでも結果的に、だが、それ . . . 本文を読む
18歳の大学生が気づくと、10歳の男の子になっている、らしい。本人は今まで通りで変わらないつもりなのだが、周囲は彼を子供扱いする。10歳の男の子にしか見えないようなのだ。そこは、知らない家で、知らない人が居る。彼女は少年の叔母さんらしい。やがて、おじさんたちが帰ってくる。というか、彼ら夫婦は少年の両親だ。(本人は気付かない)彼らは母の実家であるこの田舎の家に、少年の転地療養のため引っ越してきた、 . . . 本文を読む
こういう青春小説を読んで、こんなにも素直に感動できてうれしい。作者が現役女子大生で、自分の体験を生なまま小説として描いていくことが結果的に上手く機能したからだろう。主人公が等身大であるのがいい。大人が頭で作った嘘くさい女子大生ではない。こんなふうにどこにでもいるような普通の女の子のありきたりな日常がこんなにもキラキラ描かれるって、ちょっとした奇跡だ。お話に無理がない。退屈になりそうなくらいにさり . . . 本文を読む
『その男の本、198ページ』というタイトルはあまりよくないなぁ。もう少しロマンチックなタイトルの方がよかったのではないか。『リメンバーミー』のキム・ジョングォン監督最新作だ。最近ではこういうファンタジータッチのラブストーリー映画が韓国から来ることが少なくなった。以前はどんどん作られていたのに観客の嗜好が変わったのだろうか。あれは明らかに岩井俊二の『Love Letter』の影響だったのだろうが、 . . . 本文を読む
満開座の芝居の中にあるアナーキーさ、ある種の熱さを、キタモトさんは抑えたタッチで見せようとする。今から18年前に初演された芝居なのだが、80年代の香りが濃厚な作品である。虐げられた人々の思いが爆発していく様は感動的だが、それを冷静な語り口で淡々と見せていくことで、芝居は流されないで、今という時間と拮抗する力を持った。独居老人たちが、権力の前で屈することなく自分たちの抵抗を見せる姿を彼らの側に寄り . . . 本文を読む
今回の超人予備校はいつも以上に明確なストーリーラインがあり、そこに向けてストレートにドラマが収斂していくというスタイルだ。とても単純でわかりやすく、スポ根ものの王道を行くような展開である。だから、ラストはこの手のドラマのひとつのパターンである、主人公2人が初めて顔を合わせ闘うシーンとなる。タイトル通り『トラにパンチ!』だ。
主人公はうだつの上がらないサラリーマン(上別府学)。妻がスポーツトレ . . . 本文を読む
なんて暖かい映画だろう。切なくて悲しくて、でもそれでも生きる勇気を与えられる。こういう映画が見たかった。主人公は35歳の女性である。彼女は結婚もせず、ずっと叔母と2人きりで、ひっそりと暮らしている。ずっと(たぶん)大学の図書館で働いている。館長は変な人だし、大学の先生にも変な人が居るけど、でも、ここはこれはこれで居心地がいい。彼女の名前はルイ(坂井真紀)。叔母(加賀まりこ)はルイが生まれたときか . . . 本文を読む
中江裕司監督の新作だ。今回はなんとシェイクスピアの喜劇を題材にしている。もちろん彼の事だから、舞台は沖縄になる。映画自体はいつもながらのテイストで、とても楽しい。原作の設定は随所に使っているけど、あまり拘らない。ほとんどオリジナルである。『真夏の夜の夢』はモチーフに使っただけ。リゾート開発のため犠牲になり今では無人島と化した島が舞台だ。故郷であるこの島に戻ってきた女が、見る一瞬の夢が描かれる。
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パク・チャヌク監督の新作だ。『オールドボーイ』と出会ってから、ずっと彼の作品はリアルタイムに劇場で見てきた。と、いってもまだ数本だ。でも、それくらいにインパクトが強いということが言いたいのだ。要するに。『親切なクムジャさん』は韓国で見たし、『サイボーグでも大丈夫』も日本で劇場公開される前に、韓国でDVDを手に入れた。そのくらいに熱狂的なファンなのだ! なのに、今回は、劇場公開時に見逃してしまった . . . 本文を読む
以下は10月30日のくじら企画『密会』上演後のアフタートークに配布してもらう文章。当日は古賀さんと馬場さん、田口さんというスペースゼロ演劇賞の選考委員をしていたメンバーがそろって、ゼロの頃の大竹野の話をする。とても楽しみだ。
それはともかくとして、どうしても古賀さんに依頼された文章が書けなかった。大竹野について、書けなかったのだ。いつもとまるで違う文章で恥ずかしいのだが、無理してなんとか . . . 本文を読む
何なんだ。この異常な話は。原作は出版されたときに読んでいたから、お話自体にはさほど驚かない。充分その異常さは知ってるからだ。だが、この映画は、あの原作以上に異常なものになっている。しかも、話は原作そのままなのに、である。描写を過激にしたのではない。反対に淡々とさせたほどだ。なのに、途中で緊張は途切れない。こんな話が、日常の中でさらりと描かれる。これはコメディーではない。どちらかと言うと、ホラーだ . . . 本文を読む
久々に心ときめく映画に出会った。こういうラブストーリーが好きだった。でも、最近はこの手の映画にもときめかない、と思っていた。先日『君に届け』を見て、あんなにも乗れなかった自分が悔しかったのだが、それは必ずしも僕のせいだけではない。今日、この『(500)日のサマー』を見て、最初からワクワクしたし、ずっとスクリーンから(DVDなので、厳密に言えば「ブラウン管から」なのだが)目が離せなかった。トムとサ . . . 本文を読む
佐藤純彌監督入魂の一作である。75年の大傑作『新幹線大爆破』に匹敵するという評判だ。そんな噂を聞くと居ても立っても居られなくなり、さっそく劇場に行く。その構成にまず驚く。クライマックスであるはずの桜田門外の変が、冒頭40分くらいの時間に起きる。事件をクライマックスに持ってくるのが、この手のドラマの王道なのに、この映画はそこを最初に持ってきた。もちろんラストにもっと大きな見せ場があるのではない。こ . . . 本文を読む
『リア王』は父の話なのに、この作品は主人公であるはずの父を不在にして、本当なら舞台には登場しないはずの母の話として作られてある。だが、不在の父は影として、登場し、その存在は彼女たちをしっかり覆っている。しかし、問題は母である。
彼女と娘たちは、不在の父を介してここで向き合う。その図式がちゃんとあるから、こういう観念的な作品であるにも関わらず、とてもわかりやすい。政治を扱いながら、家族劇の中で . . . 本文を読む