沢木さんの『深夜特急』が出版された時、すぐに読んだ。待ちに待ったとはこの本のためにある。そして、貪るように読んだ。この本と藤原新也『全東洋街道』は僕にとって旅のバイブルだ。まぁ、あんな旅はしないし、出来ないのだが。
今、久々に沢木さんの旅の本を読みながら、なんだか懐かしかった。沢木さんはいつも変わらない。それも嬉しかった。ほんとうに全然変わらない。幾つになっても同じようにいろんなことに興味を . . . 本文を読む
見ながらこの芝居の見せ方は今の時代のニーズには合わないのではないか、なんて、そんな危惧を抱いた。おしゃれで華やかな舞台はさすが花組芝居だとうならされる。泉鏡花のあの芝居をこんなにもポップなものにして、でも原作を損なうわけではない。自分たちの世界に仕立てている。確かに10数年前ならこういうものも通用しただろう。だが、今、この軽さは受け入れ難い。
キタモトさんの『夜叉ヶ池』を見てしまった目にはこ . . . 本文を読む
どうしてこんなことになったのだろうか? 見ながらどんどん違和感が膨らんでいく。007を見ているはずなのに全然ときめかない。それどころかだんだん退屈してきて、気がつけば居眠りしてる! あまりのショックさに目が覚めてしまったが。しっかり見ていても駄目だった。乗れない。
『カジノロワイアル』は別に嫌ではなかった。ダニエル・クレイグのボンドはなんだかムキムキで、甘くて優男のイメージの従来のボンドとは . . . 本文を読む
ひとりの女性の少女時代からスタートして、50年に及ぶ人生の物語を事細かに描いていく大長編。大河ドラマは数あれど、こんなにも何もないありきたりで普通の人の生涯を微に入り細に入り描くような小説はめったにない。もちろん波乱に富んだ人生の記録ではある。しかし、どんな人の人生だってこれくらいのドラマはある。ことさら小説にするほどのお話ではあるまい。もちろんだからこそ江國香織さんはこれを大長編として書こうと . . . 本文を読む
昨年のイヨネスコの『椅子』にも驚かされたが、今回もまた、見事に騙されてしまった。フェルナンド・アラバールの不条理劇『迷路』に挑戦した本作で杉原邦生さんはオリジナルにはない画期的な仕掛けを施した。
芝居が始まって30分くらいのところで、電気系統のトラブルが発生して芝居が中断する。照明機材の一部が作動しなくなったらしい。
僕は素直な正直者なので、完全に信じてしまった。だいたい芝居は生ものなの . . . 本文を読む
昨年IST【イスト】で上演された作品の再演である。寺山修司の作品をコラージュしたウォーリー木下の『書を捨てよ、町に出よう、とか』を原案にして、構成・楽曲・演出は佐藤香聲さんが担当した。今回のIST【イスト】回顧演劇展 op.2での上演で3度目となる。
毎回キャストに合わせて全体の構成を自由に変えていく。前回とは半分以上が変更されているが、全体の構成は変わらない。寺山修司の様々な言葉を引用し、 . . . 本文を読む
7年間ひきこもり続けた男が部屋を出て行く。この7年間世界と交通を絶ってこの部屋から出ないで過ごしてきた。その間に家の中では様々な事件があった。だが、彼は何も知らない。その日、マリリンと名付けたサボテンに牛乳をやるために、彼は部屋から足を一歩踏み出す。
山田将之さんによる一人芝居。作、演出はサリngROCK。彼女が3年前に自ら自作自演で作った芝居の再演。いつもの突劇金魚とは違ってとてもおとなし . . . 本文を読む
撮影監督が斉藤幸一さんだったのが嬉しかった。彼は瀬々敬久監督の最高傑作『雷魚』を撮った名手である。奇跡のように美しく悲しい風景がそこにはあった。今回も従来のパニック大作映画のカメラとはまるで違った映像を見せてくれる。
昔、ある小さな雑誌のインタビューで瀬々敬久監督にお会いしたことがある。監督のお宅に伺い1日を過ごした。とてもすばらしい1日だった。その日、大阪から東京まで行った僕らを、監督はわ . . . 本文を読む
科白が一切ない。へんてこな映画である。こんな映画を作るほうも大概だが、それを見てしまう僕も充分に大概なやつだ。
大体こんな映画が劇場公開されること自体、普通じゃない。おじいがしゃっくりをして、それが止まらない。それだけが描かれる。えっ!でしょ。ありえない。75分くらいの短い映画だが、話が話なのでそれでも決して短くない。おじいのしゃっくりはとまらない。だが、このおじいが主人公とはいえ、別にこの . . . 本文を読む
なんだか懐かしいタイプの映画だ。最近はこういうどうってことない映画がなくなった。肩肘張った映画ばかりで、疲れる。そんな時、この映画のようになんの野心もない映画を見るとほっとさせられる。つまらない映画ではない。それどころかなかなかチャーミングな映画である。
パリで生活している気分にさせられる。それって実はとても凄いことなのだ。映画は旅である。居ながらにしてその場所を旅して、生活までしている気分 . . . 本文を読む
11話からなる短編連作。東京の小さな商店街。そこで暮す人々のそれぞれの物語。この町の数十年のささやかな歴史のなかで、埋もれていく人々の営み。その長い時間の中にあるいくつかの出来事を描いていく。
魚屋の2人の男の話がすばらしい。死んでしまった妻の愛人だった男と2人で暮す。この奇妙な関係がいい。最初に彼らの話がある。ここで一気に引き込まれる。そして、独立した話が続く。だが、どれもがほんの少し続い . . . 本文を読む
こんなにも面白い映画が隠れていたなんて驚きだ。しかもリュック・ベッソン製作、ガイ・リッチー監督、ジェイソン・ステイサム主演映画である。正直言って誰もこれに期待なんかしなかった。タイトルだってこれである。ただのアクションでしょ、と思う。ノー・マークの映画が意外な出来で驚く、というのが一番楽しい。
まぁ、本当はただのアクション映画だとは思わなかったが、ここまで良く出来ているとも思わなかった、とい . . . 本文を読む
藤原新也がこんなにもやわなセンチメンタル・ジャーニーを書く、そんな時代が来るだなんて夢にも思いもしなかった。今、なぜ彼がこんな形で、自分の思い出を語るのだろうか。よくわからない。
日本という国への諦めと、自らの老いがこういう後ろ向きな紀行文に向かわせたのか。いくらなんでもこれはあんまりだ。彼らしくない。いつも冷静沈着で、世界をしっかり見つめて、自分の視点に拘り、攻撃的だが、筋の通った考えを提 . . . 本文を読む
「なぜ、セナガルなんだろう」と本人も言っている。きっかけは、30年前TVで見たドゥドゥ・ンジャエ・ローズのライブを偶然に見たこと。フランス語をフランス以外の国で喋りたかったこと。絲山さんの中で明確にされるこの答えは必ずしも絶対的な理由ではない。これもまた単なるきっかけでしかない。
もしかしたらどこでもよかったのかもしれない、と思うくらいに淡い。なんとなく日本から遠く離れた異国の地で、別の自分 . . . 本文を読む
なんとTOHOシネマズ梅田は1番スクリーンで上映していた。それだけ客が入ると見込んだのか。封切り2日目日曜の朝だがガラガラだった。だいたいこういう映画は全国拡大公開ではなく、ミニシアターで上映すべき作品だったのではないか。まぁ、僕は大スクリーンで見れてラッキーだったのだが。映画がシネスコだったのもうれしい。(続編の『39歳別れの手紙はビスタサイズらしい)
さて、映画である。実に面白い。チェ・ . . . 本文を読む