最初はとても不愉快だった。つまらない、と思った。主人公の女の子の気持ちがまるで見えない。これは嘘臭いラブストーリーでしかなかった。だが、後半からの急展開。凄い小説になる。思いもしない大胆さで、でも、それが今度は嘘くさくはない。彼女の気持ちがわかる、だなんて思う始末だ。何を勝手なことを言うのか、と呆れられそうだが、正直な気持ちなのだから仕方ない。
好きな男の子が、自分以外の女の子を愛している、 . . . 本文を読む
今回はあまり乗れなかった。あまりにねらい過ぎではないか。吉田という女が嘘くさい存在にしか見えない。それは同じように彼女が好きになるさえない中年男エノマタも、だ。42歳独身のこの男が、まるで何を考えているのか、わからないし、そのことが、作品の力にならない。せめて吉田の涙ぐましい行為に説得力でもあれば、いいのだが、これでは、ただの気味の悪いストーカーでしかない。
そんなふうに主人公2人にまるで共 . . . 本文を読む
これはきつい映画だ。今までの周防監督の作品にあった笑いの要素はここには一切ない。『Shall we ダンス?』から16年、草刈民代、役所広司コンビとのコンビ再び、という宣伝に乗せられた観客は唖然とすることだろう。だが、それでいい。映画自身はとてもよく出来ているから、きついけど最後まで見ると、この映画の持つ力に引き込まれて、満足することだろう。騙されたとは思うまい。だが、ここまで緊張されられ、辛い . . . 本文を読む
希望の国。この皮肉なタイトルのもと、園子温監督が今までのタッチを棄てて、正攻法で、ストレートな映画に挑んだ。ここには遊びや冗談は一切ない。もちろんこの題材でそんな不謹慎なことは、描けない。今、この問題に劇映画で真正面から挑むということだけでも不謹慎の謗りを受けかねない。だが、園子温は一切怯まないし、妥協もしない。撮影の協力を取り付けるのも大変だったのではないか。かなり危険な内容だ。
でも、堂 . . . 本文を読む
アンアン連載の村上春樹のエッセイ、第3弾。別に取り立てて、ここに書くようなことはないけど、今回も大橋歩さんの銅版画とともにセットになった春樹さんのエッセイは読んでいて毒にも薬にもならないけれど、なんだか癒される。それだけでとても貴重なものだ、と思う。何も考えず読んでいると、一瞬で読み終えてしまう。なんだかもったいないけど、でも、あまり有難がって読むほどのものではない。軽い。でも、有難い。
自 . . . 本文を読む
石田光成率いる2万の豊臣方に対して500の兵士しか持たない忍城側がいかに戦うのか。手に汗握るアクション大作、知力の限りを尽くす頭脳戦のはずだが、実際はそうではない。最近はやりのCG満載のペラペラの映画でもない。
これは昔懐かしい時代劇大作である。悠々たるタッチで話は展開するから、2時間半でも、短いほどだ。これは最近よくあるようなスピード感が命というような映画ではない。じっくりと見せることを旨 . . . 本文を読む
たった一度のフライトのために作られる人力飛行機。1年間を費やし、たった一度の飛行に命がけになる大学生たちの姿を描くドキュメント。こういう他人からすればバカでしかないことに情熱を傾けることが出来る人たちって、信じられるなぁ、と思う。読んでいて胸が痛くなる。「青春」なんていう忘れていた言葉をつぶやきたくなる。打算ではなく、ただ、その瞬間の喜びのためだけに何かに夢中になることって絶対に大事だ、と思う。 . . . 本文を読む
これが現在のところ、濱野京子さんの最新作となる。シリーズの第3作。今回も、大国に攻められ属国となった国を舞台にしてのラブストーリー。だが、最初からそうだったが、このシリーズで大事なことは、甘い恋愛物ではなく、女性の生き方の問題のほうが先行する。大好きな人と添い遂げられて幸せになりました、というような話には一切ならない。女だからこその困難が前面にでる。
今回は1作目と同じように王女が主人公にな . . . 本文を読む
「同時代の海外戯曲」シリーズの第2弾だ。昨年に引き続き、今回もまたとても刺激的な作品になっている。これはアンという不在の女性の存在を巡る7人の男女による噂話である。話がどんどん進んでいくと、その空洞の存在であるはずのアンが明確なものとして姿を現すというのが、この手のお話のパターンなのだが、なんのなんの、この作品のアンは、話が進むにつれてますます曖昧な存在に姿を変えていくのだ。あげくは人ではなく車 . . . 本文を読む
見てよかった。若手の芝居でこんなにも刺激的な作品を見れるのって、なんだか久しぶりだ。最近はどうしてもベテランの芝居ばかり見てしまい、冒険をなかなかしなくなっているけど(毎週それだけでスケジュール表はいっぱいになるからだ)たまに見た新しい劇団にがっかりするより、少ない時間だから、ずっと見ている信用できる劇団をどうしても優先させてしまう。それってとても保守的で、つまらないことだが、忙しいから仕方ない . . . 本文を読む
なんとも素朴で心優しい男の話。だが、そんな彼が目の前の現実に翻弄される。みんなのために盗電する彼は、警察に捕まり、その後もあれやこれやで、散々な目に会うことになる。
この主人公が好きだ。こんなバカな人はなかなかいない。素朴すぎるから、生き辛いはずだ。現にこの映画の中でも困難な状況に追い込まれる。一生懸命だし、とても善良だ。だれが見てもわかる。だから奥さんにも愛されている。だが、世知辛いこの世 . . . 本文を読む
シリーズの第2弾。前作の続編ではなく、約10年後の近隣の国のお話になる。3部作はいずれも別々の主人公による独立したお話だ。今回は2人の王子から好かれた貧しい靴職人の娘が主人公。いかにも、なラブストーリーで、前作ほどにはおもしろいと思えなかった。この世界観は悪くないし、そこで展開する壮大なロマンに身を任せ、その世界を満喫できればそれでいいのだが、今回は話自体が思ったほどには広がらないからだ。
. . . 本文を読む
遊劇体のよる泉鏡花シリーズの第7作。今回は会場に国立文楽劇場を選んだ。公演会場は小ホールだが、こういうちゃんとした客席を持つ常設ホールでの上演はこのシリーズでは初めてだ。小劇場での公演から離れて、古典芸能の本場であるこの場所で、しかも、歌舞伎のスタイルに徹したオーソドックスな舞台作りである。(『多神教』のケースもあるが、あれは常設劇場とはちょっと違うと思う)
これは、今までの実験的な要素も含 . . . 本文を読む
10×10×10の十時さんが初の長編小説を出版した。5話からなる中篇連作なので、厳密には純粋な長編ではないけど、そんなことはどうでもいい。おもしろければそれが一番で、これはとても面白い作品に仕上がっているのだ。
主人公の佐久間くんは、全編に登場するけど、各エピソードは、それぞれ別の主人公がいる。その主人公の女性の一人称で話は展開する。ものすごいインパクトで唖然とさせられるキャラクターなのに、 . . . 本文を読む
読みながらどんどん嫌な気分になっていく。1億円を使い込んで逃亡した主婦。パートで銀行の営業の仕事をしていて、預金を預かり自分が作った債券を渡し、お金は自分の口座に入れて、自由に使う。そんなことしてよくばれないものだと思うが、必死に上手く切り抜ける算段をたてた。だんだんなんのために何をしているのだか、よくわからない状態になる。最初は5万円。それがどんどんエスカレートしていく。すぐに返せると思った。 . . . 本文を読む