今回の工藤さんは林慎一郎に脚本を依頼した。それをなんと内藤裕敬の演出で見せようとする。水と油のようにも思える両者のカップリングは見事だ。理屈で林作品をねじ伏せるなんて不可能だ。内藤さんは当然本能の赴くままこの世界を自由自在にドライブする。わかるか、わからないか、なんて気にしない。そんなことに拘っていたなら、取り残される。大体これはもともとが理屈ではないからだ。
わけのわからない世界に取り込ま . . . 本文を読む
今回のショウダウンは林遊民の一人芝居ではなく、久々に役者が4人も登場する。だが、ひとりで演じることも、2人芝居も、今回のように4人芝居になってもまるで何も変わらない。林遊民は今回は基本的には主人公のミルキだけを演じるが、他の役者たちはさまざまな役を入れ替わり立ち替わり演じることになる。要するに、いつもならそれは、遊民がひとりでしていることだ。別に彼女が楽をしているわけではない。ほとんど、彼女の一 . . . 本文を読む
こんなにも救いようのない話をよくぞまぁ、映画化したものだと驚く。母親の病気(脳種痘)によってそれまでバラバラだった家族が再びひとつになるというような話は今までもよくあったパターンだ。先日の『サクラサク』もそうだろう。だが、この映画はそんな単純なお話ではない。母親の脳に腫瘍が出来てそれにより記憶障害を引き起こすのみならず、1週間の命だと宣告された家族が、彼女のために奮闘する姿を描きながら、家族とい . . . 本文を読む
マルコの好物はチョコレートドーナツ。だから、この映画の日本版タイトルは、そこを取り上げる。原題は『ANY DAY NOW』。こんなにも情緒的ではない。
これはとても重い映画だ。彼らの前に横たわる現実は厳しい。善意からの行為であっても、法はそれを許さない。差別と偏見は彼らの愛を引き裂いてしまう。甘い映画にする気はない。しかし、邦題の優しさは好きだ。
ドラッグクイーンと、彼を好きになる弁護士 . . . 本文を読む
どうしてこんなにもつまらない映画になってしまったのだろうか。『GANTZ』2部作、『図書館戦争』の佐藤信介監督作品なのに、である。スケールの大きなエンタメをきちんとリアルに見せていくことを得意とする彼なのに、今回の設定はまったく生かすことが出来ていない。もちろんこれは、お話自体にはスペクタクルな要素はあるのだが、映像としてそれを見せることがとても難しいタイプの小説で、それを視覚化するのは、とても . . . 本文を読む
「愛は可怪しい」と帯にある。赤い帯で中心にそれだけが書かれてある。この短編集はかなりヤバイ。一筋縄ではいかない作品ばかりが並ぶ。これを恋愛小説と呼ぶのは、もうその時点で十分ヤバイのだが、敢えてそう呼ぶことで、ジャンルそのものがボーダレスなものになるだけではなく、愛というものの定義すら、もう一度根底から問い直さなくてはならなくなる。恋愛感情というものが誰に向けて発せられ、それによって人はどうなって . . . 本文を読む
奥田瑛二監督が私財を投げ打って挑んだ作品、というか、彼はいつもそんな風にして自分で映画を作っているから、これは今に始まったことではない。今の時代、こんなふうにして妥協することなく、自分の手で映画作りができるなんて、とても幸せなことだ。でも、その見返りは大きい。もっと商業ベースに乗る簡単な映画を作ればいいのに、不器用な彼にはそんなことは出来ない。というか、するつもりもない。何を作る場合でも彼のアプ . . . 本文を読む
彼女の初期作品であるこの小説を読んだにはたまたまだ。例によって読むべき本がなかったから、図書館で、身近にあった文庫本を手に取った。それだけ。帰りの電車に間に合わせるためである。つまらなければ、すぐに辞める。でも、僕が手に取るような小説はいつもあまりつまらなくはない。だから、結局は最後まで読むことになる。ロングセラーになっているこの小説も、確かにそれだけの価値がある作品だと思った。
軽い青春ミ . . . 本文を読む
このアンソロジーを読みながら、村上春樹の解説が一番面白かった、というのは作者たちに失礼だろうか。でも、春樹さんがこれらの小説をどう読んだのかが、とても興味深く、そういうチョイスだったのか、と理解した瞬間、謎が解けたみたいで、ほっとする。なんで、この小説だったのかが読みながら気になるからだ。もちろん、それぞれの小説は個性的で面白い。悪くはないものばかりだ。だが、それだけでは僕には物足りない。それだ . . . 本文を読む
こんなにも軽やかなお話として、全体をまとめてあることに驚きを禁じ得ない。武田さんは敢えて重い話にはしない。高校生の女の子を主人公にして、彼女の目から見た今(あの頃。大阪で万博が開催された時代、1970年)を描きながら、同時に、それでもまだ「戦後」は終わってはいない、ということを切々と綴る。帰らない夫を今も待ち続ける女の物語(こちらのほうが本当は中心になる)として全体をまとめあげていく。だが、最初 . . . 本文を読む
たまたま大林さんの映画を見て、昨年見逃していたこの映画のことを思い出した。ちょうどレンタル開始したはずだと思い、ツタヤに行く。ちゃんと新作コーナーにある。よしよしと思い借りてきた。タナダユキ監督の新作である。昨年秋に公開された時にはあまり評判がよくなかったようだが、そんなはずはない。『ふがいない僕は空を見た』に続く作品だ。それに、彼女の作る映画がつまらないはずはない。
原作は出版されたときに . . . 本文を読む
このタイトルは読みにくい。どこで区切るといいのか、ちょっと悩む。「なななのか」が「四十九日」のことであるということは、映画を見たならすぐにわかる。ある老人の死を描く。彼の四十九日までのお話だ。そして、彼の92年の人生のお話でもある。どんなふうにして生きたのか。死んだあと、彼の死を家族はどう受け止めるのか。死は終わりではない。永遠に続く人間の営みの一部でしかない。誰かの死は、誰かの生へと受け継がれ . . . 本文を読む
犬には興味ないから、犬を中心にした小説なら、読まない。でも、犬を周辺に置いて、昭和を描く小説のようなので、読むことにした。最初はあまり乗れなかった。ただ、主人公の柏木イクと僕とは同世代なので、(彼女のほうがいっこ上の今年55歳。もちろん、作者の姫野カオルコも同じ)背景となる時代が僕の記憶と微妙にシンクロする。彼女は滋賀で僕は大阪と、住んでいる地域も微妙に近い。まぁ、そういう個人的なことはどうでも . . . 本文を読む
劇団ひとりが原作、脚本、監督、それに助演もしたワンマン映画。原作はそこそこ面白かったけど、あれを映画にするにはかなりのテコ入れが必要だと思う。だが、その難事業を、彼が自分の手で(もちろん優秀なスタッフが付くのだが)成し遂げた監督第1作。かなりの冒険である。だが、それを見事に成し遂げた。
上映時間が1時間36分ということを事前に聞いて、これは期待できるかも、と思った。気合を入れすぎて自己満足の . . . 本文を読む
TVシリーズを見るほどのファンではないけど、映画版はスピンオフも含めてなぜか全部見ている。それほど面白いわけではないけど、よくできている。そこそこには楽しめる映画だからだ。
しかも、和泉聖治監督の作品なのだ。というか、彼の作品だから見るのだ。今では、ほぼ『相棒』専属監督になってしまったが、往年の彼の映画のファンだから、やはり、今でも彼の映画だというだけで、期待してしまう。
今回も緊張感の . . . 本文を読む