人が生まれ、死ぬ。今まで、人生なんてものを振り返ることなんて、なかった。しかも、終わりというところから、見つめることはなかった。しかし、この芝居を見ながら、人生を死から見つめることが、なんとも自然なこととして、伝わってきた気がした。60年はひと回りで、ひとつの区切りだと、近頃とみに思う。キタモトさんもきっと60歳を目前にして、思うところがあったのではないか、なんて、そんなことを思う作品である。
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こういう難解で、観念的な芝居を作りたい、と思える若い人たちが今もちゃんといる。頭の中でこねくりまわして、その理屈にきちんと答えを出そうとする。もがいて、あがいて、ゴールにたどりつく。そんな姿を作品にする。
この世界がどうなっているのか。そこにある矛盾とどうむきあい、その先に確かな出口を見つけようとする。
この世界はいくつもの塵芥(それを「人間」と呼んでもいい。塵芥は人界)から出来ていて . . . 本文を読む
実に痛い芝居だ。13歳の頃、感じた想い。それが30歳に手が届く今、今もなお自分を支配している。友だちなんか一人もなくていい、なんて言えるのは友だちがちゃんといるから。彼女には誰もいなかった。いつもひとりぼっちだった。自分だけが特別で、みんなと自分は違うから。そんないいわけでごまかすしかなかった。モデルとして活躍していたから、という理由があるけど、でも、まだ子供で本当はみんなと一緒にいたかった。
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このなんともふざけたタイトルが素晴らしい。まるで何にも考えてなさそうなさりげなさ。でも、これくらいにシンプルでよく考えられたタイトルはない。映画自体の誠実さを見事に代弁している。この映画のポスターには私とお父さんと伊藤さんの姿しかない。3人が縦に並んだ図柄だ。ここまでやるか、と思うくらいにシンプルなのだ。もちろん、映画もポスターに負けないほどにシンプルな内容。
言うまでもない。私と伊藤さんが . . . 本文を読む
最近こういうファンタジーがあまりに多すぎて、またか、と思ってしまう。まぁ、実を言うと『君の名は。』が大ヒットしたことで、ついついそんな気になるだけで、これは今に始まったことではないのだけれども。しかも、この小説が『君の名は。』にあやかった企画であるはずもないし。
しかし、これはいかにも新海誠がやりそうな話で、藤谷浩がなんで、と思いつつ、読む。ラストのパラレルワールドとか、冬に咲く桜の謎、とか . . . 本文を読む
もうこれで何作目になるのだろうか。『スタートレック』の映画版シリーズ最新作。オリジナルシリーズだけでも7作はあるはず。リブートした新シリーズもきっと3作以上ある。あまり熱心なファンじゃないから、数えてないけど、(『スターウォーズ』なら今が何作目だか、誰もが知ってるのに!)数えることにあまり意味がないのが『スタートレック』のいいところか。基本的に1本ずつが完全に独立している。それはオリジナルのTVシ . . . 本文を読む
3部作で一応は決着がついたはずなのに、ヒット作品の宿命で、映画会社からさらに新作を求められる。グリーングラス監督とマット・デイモンは再びボーンをよみがえらせる。必然性なんてないのに。
これは最初から可能性のない映画だ。ここに残るのはテクニックだけ。でも、彼らはそこに勝負をかける。ドキュメンタリーのようなタッチをさらに推し進め、編集によって時間軸のつながりをわざと不安定なものにする。大がかりな . . . 本文を読む
前田隆成一人芝居。今年の「ウイングカップ」1番バッターの公演である。今回は9団体が参加してこの10月から来年の1月にかけて公演する。今年で7年目になるが、近年どんどん若くて意欲的なグループが参戦することが増えてきた気がする。先日の前夜祭でのプレゼンも、どこの団体も見応えがあった。期待できる。これはそんな中での、1番手なのである。
今回を第0回公演と銘打つ。彼の中では、まだ、何も始まってはいな . . . 本文を読む
まだ自分が何者でもないと思わされるのは怖い。大学に入って希望に燃えてサークル活動や勉学に全力で励んでみた。そして、次に社会に出る。自分がやってきたことを生かし、この世界に貢献したい。いや、まず社会人としてちゃんと仕事に就いて生活していきたい。大きな夢とささやかな望みを抱いて就職試験に挑む。なのに、なかなか内定をもらえない。当然希望の職種には、たどりつけそうにない。
いや、もうどこでもいいから . . . 本文を読む
久しぶりに見る林英世さんの一人語りは、松本清張のミステリー小説。これはとても難しい題材だ。しかも、ドラマチックにはならない展開である。男女の道行きを静かなタッチで描いて行く。もちろんミステリ仕立てなので、ラストのオチに至る部分はかなりドキドキするし、おもしろいのだが、そこに至るまでの何も起こらない部分がフラットになる。しかも、そここそがこの作品の見せ場だということなので、淡々としたここをドキドキさ . . . 本文を読む
2つのバージョンの見事な対比。全く違ったコンセプトでまとめあげられた同じ台本。2つの二人の世界がこの世界のすべてを普遍化する。まるで違う芝居にして見せ切った演出の笠井さんの力量にはいつもながら感服する。特に2つ目のリアリズム演出は、いつもの象徴的でスタイリッシュな笠井演出とは違い驚かされる。
いつもながらのスタイルによる1本目の作品のすぐ後だったので、始まった時には「大丈夫か、このパターンで . . . 本文を読む
こんなにも嫌な話(というか、つらい話なのだが)をアニメとして見せられて、途中何度も逃げ出したくなるけれど、実写ではないからなんとか耐えられる。小学5年生の教室で起こるいじめ。耳が聞こえない転校生に対しての悪意のないいたずら。それが徐々にエスカレートしていく。結果的にスケープゴートにされた少年。そして、5年後。世界に心を閉ざしたまま、5年前に拘り続け、罪を償うため自殺しようとする彼。そこから始まる償 . . . 本文を読む
総勢16人のキャストが織りなす。しかも、主役の猿川博士を劇団のエースである栗木己義とコヤマアキヒロがダブルキャストで演じる。ということは、2回見なくてはふたりの芝居は見れない。そんな贅沢なキャスティングって、と啞然とする。でも、主役といいながら2時間の芝居で出番は30分にも満たないけど。
これだけのキャストを擁して、でも、芝居はいつものように淡々と進行する。まぁ、当然のことだけど。いつものよ . . . 本文を読む
「松竹、秋の超大作」、のはずだった。なのに、まるで客が入らず、惨敗したようだ。大河ドラマにあやかった安易な企画と思われたのかもしれない。だが、出来あがった映画を見て、確かにこれでは誰の心も捉えない、とわかる。どこをターゲットにしたのかわからない映画だ。本来ならシルバー層にアピールして、ヒットを狙うべき企画だったのに、堤幸彦監督は、彼らの食指をそそらないような作り方で挑んだ。
これはバカバカし . . . 本文を読む
先に原作になった小説を読んでいたからかもしれないが、映画は小説の感動には及ばないような気がした。そのことに驚く。この場合原作小説といいつつも監督である西川美和が書いた作品だ。しかも、映画のために書いた映画化を前提にしたもので、どちらがどうとかいうわけではないけど、映画が小説に及ばないなんて、そんなわけない。
なのに、ここには小説を読んだ時のような衝撃はなかった。ストーリーを知っているから、で . . . 本文を読む