今年の2月、大阪で上演された久野那美さんの最新作『点転』のリニューアル・ヴァージョンである。もともとこの作品自体が以前に『・・・』として上演された作品のリニューアルである。こんなふうにして1本の作品は様々な変化をしながらどんどん進化していく。
2月のこの作品は圧迫感のある狭い空間(スペースコラリオン)で演じられたものだったが、5月の埼玉公演(コミュニティセンター進修館)では、一転してだだっ広い空 . . . 本文を読む
いくらなんでもこんなタイトルはないでしょ、と思うくらいに、ストレート。そして、小説自体もタイトルそのままの直球勝負の一作だ。大学時代から付き合い、遠距離恋愛を経て、結婚に至った若いふたりの結婚からの10年間を描く。序章は現在(37歳)の彼の視点から始まり、妻が自分から離れていこうとしているのではないか、と不安を抱く心情が描かれる。
すぐに本編であるお話に突入するのだが、そこからは彼女の視点になる . . . 本文を読む
ようやく劇場公開が始まった。コロナのせいで何度となく公開が延期され、今回だってほんとうに公開されるのかと危ぶんだけど無事ロードショーされた。よかった、よかった。これからも延期されているハリウッド映画の大作が時期を外して公開されるだろうけど、期待したほどの興行収入をあげれないのではないか。宣伝だって大変だと思うけど、それより何より時期を外すと鮮度が落ちる。そんな気がする。映画って不思議だ。
さて、 . . . 本文を読む
このモノクロ映画が描くのは豚小屋での記録だ。それだけ。93分ずっとブタたちにカメラを向けたまま。でも、そこにはこれといった劇的なドラマはない。なのに、なぜだか退屈しない。何もないのにずっと見てしまう。出産シーンから始まり、生まれてきた子豚たちが成長していく姿を淡々と描いていく。変化といえば、子ブタたちがだんだん大きくなっていることくらい。
ナレーションも音楽もない。カメラは必要以上には動かない。 . . . 本文を読む
この公演は昨年は中止になった例年年末の恒例行事である「私学芸術文化祭典」で上演された。25日には東海大仰星、そして26日に金蘭会がそれぞれ2回ずつ公演を行ったが、その最終ステージを目撃することができた。僕にとっては、今年最後のお芝居である。見に行けてよかった。夏のHPFは見れなかったので、久々の金蘭の芝居である。すばらしかった。渾身の力作で、こんな作品を高校生がやっていいのかと驚くしかない。まぁ、 . . . 本文を読む
今年もウイングカップがスタートした。コロナ下でも中止、延期することなく昨年に続いて今年もいつも通りに始められたことをうれしく思う。今年も7団体が参加する。しかも参加団体は例年以上に若いグループばかりらしい。こんな時代なのに(こんな時代だから、)それでも芝居をしたい、と思う若い人たちが確かにいる。そんな彼らの情熱が1本の作品のなかにどういうふうに込められるか。それを目撃できるのがうれしい。
さて、 . . . 本文を読む
これは園子温が大病からの復帰第1作として撮り上げた久々の自主製作映画だ。2時間半の大作である。『自転車吐息』の頃を思い出させる。いや、彼の隠れた大傑作『うつせみ』を思い出す。そして、昔この劇場(第七芸術劇場)で見た『紀子の食卓』のことも思い出していた。あの映画を見た時の興奮は忘れられない。こんな凄い映画を撮る人が現れたのか、と感動した。あれからどれくらいの歳月が過ぎたことだろうか。
その後、彼は . . . 本文を読む
なんて切ない芝居だろうか。映像として上演された作品をスクリーンで見ながら、そこに生じる距離感がなんだかとても懐かしい。この芝居を見たときの気分を想起するだけではなく、この光景が記憶の底からよみがえってくるような感じがして、何とも言えず心地よかった。
ひとりの男が、たまたまやってきたこの山の上で出会った人たちと過ごす短い時間はそれだけで夢のできごとのようだ。きっとこれは現実ではない。だけど、そんな . . . 本文を読む
この作品の正式タイトルは『話すのなら、今ここにないもののことを話したかった。今ここにないものの話ばかりしようと思った《客席編》』だ。長いから覚えられない。(まぁ、タイトルを覚える必要はないのだけど)でも、このタイトルは素晴らしい。この芝居の本質を的確に表現してある。そこにはもどかしいくらいに大切なものがある。でも、それが何なのか、よくわからない。でも、そのわからなさがとてもいいと思う。よくわからな . . . 本文を読む
今回の久野那美の挑戦は、映像による再演とリメイク。映像の前後に10分から15分程度の演劇パートを加えたことで作品自体がどういう形で姿を変えるのか。すでに完成したはずのものが、別の角度からスポットを当て、姿をかえていく。そして新しい作品へと生まれ変わる瞬間に立ち会うこととなる。だからこれは安易で単純な記録映像の上映会ではない。
作品がどういうかたちで進化していくのか、舞台から目が離せない。彼女の代 . . . 本文を読む
今年のベストワンは濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』ではないかと思っていたが、もう1本、彼は凄い映画を撮っていた。それがこの映画だ。年末のこの時期に、ミニシアターで1日2回上映という悪条件でようやく公開された。ベルリン映画祭で銀熊賞を受賞した世界が認めた作品なのに、興行的には難しいからこういう形での公開になる。仕方ないけど、なんだかなぁ、である。
こんなにも地味でささやかな映画だから、誰にも知 . . . 本文を読む
以前、伊与原新の『月まで3キロ』を読んでいる。本来ならこういうタイプの作品は理科系ではないから、苦手なのだけど、彼の小説は読める。蘊蓄を傾けることがないからだ。今回もそうだ。だから読みやすい。ということで、あれ以来の2冊目となる。
ただ、前半はつまらない。好きな女の子を守るため、影で支え続ける男の子のお話、というなんだか少女漫画みたいな設定が似合わない。謎の転校生の正体がいつまでたっても謎のまま . . . 本文を読む
この手の青春映画には(さすがに)もうあまり食指はそそられないのだけど、監督が監督が『百瀬、こっちを向いて。』の耶雲哉治だから見ることにした。でも、さすがにもう劇場では見ない。一時期キラキラ青春映画がブームになった、もちろんそれ以前だって高校生を主人公にした少女漫画を原作にした映画は多数作られている。若手俳優の登竜門だ。安い製作費で、そこそこの収益を上げられる貴重なジャンルである。ここからアイドルだ . . . 本文を読む
これは1968年に出版された森山大道の伝説のデビュー写真集「にっぽん劇場写真帖」を復刻出版するふたりの男を追いかけたドキュメンタリー映画だ。もちろん、森山大道も登場する。というか、彼が当然、主人公だ。だけど、森山は何も語らない。映画は彼がコンパクトカメラを片手に持ち、いつものように東京の街をフラフラ歩いていく姿を後ろから追いかけた、だけ。いろんなものにカメラを向けて簡単にシャッターを切り、また、フ . . . 本文を読む
こんな素朴なアニメ映画があっていいのだろうか。いや、もちろんあっていいのだ。それどころか、あって欲しいくらいだ。だから見ながらとても楽しかった。もちろんこれが凄いと大騒ぎするほどのものではない。それどころか、素朴すぎて「いいのか、これで、」と思うくらいだ。もちろん、これでいい。これがいい。
主人公の3人組は俗にいう不良なのだろうけど、別に悪さをするわけではなく、自分たちだけで、好きにしているだけ . . . 本文を読む