中川真一の新作である。もちろんそれは二月病の新作だ。初めてここで彼らの芝居を見てから、もう10年以上の月日が経ったのか、と感慨に耽る。(調べたら『Night Way苗と上へ』を見たのは2014年だったようだが)彼らはウイングカップに参加した。驚くほどに下手な芝居だった。なのに驚くほどに心に沁みる芝居だった。技術はないけど、伝えたい想いだけは溢れるほどにあり、舞台からそれが確かに溢れてきた。それからほぼすべての作品を見ている。毎回上手くなっていく。なのに芝居は変わらない。伝えたい想いだけは愚鈍なくらいに同じなのだ。
今回もいつも通りで重くて暗い。今回は母親と幼い娘の飛び込み心中事件を描いた。事件を描きたいのではない。痛ましい事実を通しての鎮魂は中川さんの正直な想いだけ。悲しい、つらい。悔しい。そんなありきたりのあたりまえの心情をストレートに綴る。あまりによくありそうなお話の展開には唖然とするのだが、それを怯むことなく堂々と見せていく。
母親のたどってきた人生を娘の目から描いていく。4歳の子供が20数年生きた母を客観視して見守るのだ。この子はたった4年しか生きられなかったというのに。石田麻菜子演じる母の幼い日々から死までの時間、その断片が彼女の身近かな人たちとの交流から描かれる。ギャンブルに溺れる父、一生懸命娘を育てている母。友人、恋人、最後は夫。額縁に飾られる思い出。だが、母の額だけは最後まで空白のままだ。
何かを訴えるのではなく、何も語らない無言のメッセージを託す。90分の芝居は変わらない中川真一の姿勢を確かに示す。
ウイングカップからもう10年近く経ったんですね。感慨深いです。
あの時に認めて頂いたから、自信を持って想いを込めて頑張って来れました。
大事な事をそのままに、上手くなっていく俳優たちと一緒に中川も成長していけたらな、と思います。
劇評、ありがとうございました!!