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映画・演劇のレビュー

『神は見返りを求める』

2022-06-30 20:02:42 | 映画
昨年2本の傑作映画をものにした吉田恵輔監督の最新作だ。今彼は絶好調で脂が乗りきっているはず。だから僕も今はまずこれを見ないわけにはいかない、と思いさっそく劇場に行く。だけど、途中からなんだかこれは違うぞ、と思うことになる。描かれる怖さがなんだか少しずれている気がするから、怖くないしリアルではない。 イベント会社に勤める田母神(ムロツヨシ)と、まるで売れてないYouTuberのゆりちゃん(岸井ゆき . . . 本文を読む
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『夜を走る』

2022-06-30 19:33:27 | 映画
何なんだろうか、このとんでもない緊張感は。彼らが働くスクラップ工場がやけにリアルだ。そこでの日常描写にまず圧倒される。これがこの工場を描くドキュメンタリーであってもいいくらいの面白さだ。ここでの日々を淡々と描くドキュメンタリー映画。そんなのもあり、と思わせる。もちろん、そうではないけど。 映画はそこで働くふたりの男が主人公。彼らが遭遇する事件を通してふたりの日常が壊れていくさまが描かれていく心理 . . . 本文を読む
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Gフォレスタ『そして誰もいなくなった』

2022-06-30 18:40:50 | 演劇
言わずと知れたアガサ・クリスティの名作小説の舞台化。アガサ本人により戯曲化されたテキストを使う。総勢11名に及ぶキャストが事件と向き合う堂々たる大作だ。そういえば劇団往来が一昨年同じくアガサ・クリスティの『ナイル殺人事件』を上演したが、あの作品には乗り切れなかったことを思い出す。笑いとシリアスのバランスが悪く、全体の構成にも破綻があった。往来らしいテイストが本格ミステリとうまく溶け合わなかったこと . . . 本文を読む
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うさぎの喘ギ『はらただしさ』

2022-06-30 18:04:49 | 演劇
タイトルは「はらだたしさ」ではない。「はらただしさ」だ。要するに「腹立たしさ」ではなく「腹正しさ」なのだが、そこに何を込めたのか。これはあきらかに読み間違いを誘因する。ここに生じる「正しさ」とは何か。それを考察する芝居なのか。 客席は四方囲み舞台。中央で演じられるのだが、一方向だけ椅子が5つ並べてある。気づくと、そこに5人が座っている。同じようなTシャツ姿だ。僕は最初、まるで気づかなかった。それ . . . 本文を読む
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万博設計『きゃんみりオん』

2022-06-30 12:06:39 | 演劇
今回の万博設計はなんとひとり芝居である。しかも、役者経験はほとんどないダンサー、槙なおこの単独主演(ひとり芝居だから「単独」は当然だけど)である。公演には彼女のSoloーDramaと銘打たれている。しかも脚本はイトウワカナ、で橋本匡市は演出に専念。彼の企画というより槙さんの企画でそれにイトウさんが乗っかり、橋本さんが請け負った、というような立ち位置だったのではないか。橋本さんの方から出た企画ではな . . . 本文を読む
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『ベイビー・ブローカー』

2022-06-24 18:09:43 | 映画
今年のカンヌ映画祭で主演のソン・ガンホが主演男優賞を受賞した是枝裕和監督の最新作。『真実』でフランス映画に挑み今回は韓国映画だ。日本映画にこだわるのではなく軽快なフットワークでグローバルな映画作りにチャレンジしていく姿勢は凄い。そして作品自体もとてもいい映画だ、とは思う。だけど、従来の是枝作品と較べるとこれは少しお話自体が甘い気がする。お話の展開も緩い。警察があんなにも暢気に追跡しているのが不思議 . . . 本文を読む
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有吉玉青『ルコネサンス』

2022-06-24 17:47:54 | その他
一時期凄く好きだった(『キャベツの新生活』を最初に読んだ時の新鮮な感動は忘れられない!)けど、いつのまにかずいぶんご無沙汰していた有吉玉青である。彼女の小説を久々に読んだ。400ページに及ぶ大作だ。お話は彼女自身の父親との実話をベースにした自伝的作品らしい。母親や祖母のことはもう書いている。ようやく今回父親である。幼いころに両親が離婚し、母親のもとで育ったため全く消息も知らないし、当然会うこともな . . . 本文を読む
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『東京オリンピック2020 SIDE:B』

2022-06-24 16:57:04 | 映画
きっと一瞬で上映が終わりそうなので、公開初日の1回目の上映で見てきた。お客は5人。河瀨直美監督渾身の1作(2作)なのに、まるで観客からは顧みられることはない。最初からこうなることはわかってはいたけど、なんだか悲しい。これは国家の威信をかけた大作映画でもあるはず。だけど、もう今は誰もあのオリンピックのことなんか振り返りたくはないのだろう。忘れてしまいたい、ではなく忘れている。 今回のSIDE:Bは . . . 本文を読む
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絲山秋子『まっとうな人生』

2022-06-24 16:32:08 | その他
この6月の下旬の2週間は怒濤の読書ラッシュで、そこで読んだたくさんの本の中で、これが一番面白かった。ここで描かれるのはある家族のコロナ禍の日々の記録だ。ついこの間、しかもまだ現在進行形の災厄、その日常がそこには綴られる。大きな事件はない。昔の友人と再会したことぐらいだ。若かりし日の大切なできごと。ふたりは病院を抜け出して旅をした。『逃亡くそたわけ』である。これは一応はあの小説の続編なのだ。だけどそ . . . 本文を読む
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『峠 最後のサムライ』

2022-06-23 18:15:06 | 映画
重厚な時代劇大作だ。公開がコロナのせいで2年間も延期になり、ようやくの劇場公開である。待ちに待った本格時代劇なのだが、思いのほか地味で小さな映画だったので驚く。スケールの大きな作品だと勝手に思い込んでいた。でも、この作品はそうではない。ひとりの男が信念を貫き、殉じた。その事実を丁寧に追いかけただけ。大仰な感動巨編を目指すあざとさはない。彼が何を思い、何を感じ、考え行動したか。自分の信念を曲げず、み . . . 本文を読む
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『歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡』

2022-06-23 15:59:03 | 映画
ベルナー・ヘルツォークを見るのは久しぶりだ。初めて見たのは今は亡き梅田ピカデリーで見た「ドイツ映画祭」かなんかで上映された『フィツカラルド』。これは衝撃的だった。その後、『アギーレ 神の怒り』が劇場公開され、「ヘルツォーク映画祭」かなんかで特集上映もされた。夢中で見た。あれは80年代前半の話だ。ヘルツォークだけではない。あの頃は楽しかった。いろんな映画が日本に入ってきて続々と紹介された。今まで日本 . . . 本文を読む
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『さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について』

2022-06-23 15:28:20 | 映画
なんと3時間の映画だ。1931年のベルリンを舞台にして、ひとりの青年の魂の彷徨を描く。時代は不穏な空気に包まれ、やがてはナチスが台頭してくる。(2年後だ!)そんな時代に生きた20代の作家志望の青年ファビアンの日々を描く。そこで描かれるのは一応「恋と友情」か。彼が関わるふたりの男女とのお話が中心になる。女優志願の恋人。裕福な友人。ファビアンが彼らとの交流を通してどこに行き着くのか。もちろんこのふたり . . . 本文を読む
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『恋の光』

2022-06-22 14:56:29 | 映画
小林啓一がやってくれた。始めて見た彼の映画は『逆光の頃』だ。なんなんだ、これは、と驚いた。70分ほどの短い映画の衝撃は大きい。従来の映画文法に乗っ取らない作りはさりげなく大胆。でも、それを気負うことなくやっているのが凄いと思った。何かの間違いではないか、と思うほどに。だから、あの1本で彼を信じようと思う。それからずっと潜伏する彼をひそかに見守ってきたつもりだ。(というか、この名前を忘れなかっただけ . . . 本文を読む
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演劇強制収容所 旦煙草吸『そっか』

2022-06-22 14:33:40 | 演劇
これはなんと「今どきのアングラ芝居」なのだ。今頃アングラなんてと言われそうだけど、今頃だから凄いとも言える。20代の若い集団が何をトチ狂ったか、こんな芝居を本気で作る。ここで大事なことは彼らが本気だ、ということである。面白半分だとか、なんとなくだとか、たまたまだとか。そんなのじゃない。筋金入りの「今どきのアングラ」街道まっしぐら。女の子たちのパンチラを売りにするとかいうところの、したたかさも含めて . . . 本文を読む
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『メタモルフォーゼの縁側』

2022-06-22 13:56:42 | 映画
ふだんはほとんどマンガを読まないのだが、たまたまこの作品の原作は読んでいた。こんな題材を扱うのか、と感心した記憶がある。それだけに今回の映画化は感慨深い。これがまさか映画になるのか、という思いもある。しかも芦田愛菜と宮本信子主演である。マンガも映画も最近渋い作品が出回っている。これはなんだろ、と思うような企画が通る。それくらいに人々の関心の範囲が広がっているということなのだろう。楽しい。 さて、 . . . 本文を読む
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