小高知子さんと関角直子さんによるユニット。無理しないのがいい。もちろんそれは手を抜いているのとは、まるで違う。手垢のついた言葉にすると、「等身大の」なんて言い草になるのだが、そういう力の抜け方が、こういう芝居には大切なのだ。どうしても、これはくさい芝居になる。こういう素材を扱うと、鼻につくことが多い。しかも、若い子がすると、独りよがりなものに為りがちだ。自己陶酔なんかされると、恥ずかしくて見てら . . . 本文を読む
この小さな本(サイズが普通の本より少し小さくてかわいい)が描く6つの物語は、20年という歳月の重みと、その間に起きた2つの大きな災害を通して、我々が生きた(生きる)時代の意味を問い質す。6話からなる短編連作集だ。それぞれのエピソードが、6人の大学時代の仲間たちを主人公にする。阪神大震災と東日本大震災を体験した世代(要するに我々なのだが)が、震災の影響を直接受けたわけではないけど、でも、その痛みを . . . 本文を読む
去年の夏以来、久々に金蘭の芝居を見ることが出来たのがうれしい。しかも、これだけの大作だ。難しい題材に取り組んで、確かな成果をあげるのは、彼女たちの得意技で、敵が(台本ね)手強ければ、手強いほど、彼女たちは燃える。それって、きっと顧問の山本先生の指導であり、彼の姿勢なのだろう。作品を自分たちのスタイル(土俵)へと引き寄せて、解釈(咀嚼)していく。しかも、それが、とても素直で謙虚。そこが、彼女たちの . . . 本文を読む
父が帰ってきた。遺骨になって。でも、彼はここにいる。今日も目覚めると、自分よりも先に父が起きていて、そこにちょこんと座っている。たったひとりぼっちになった娘と、死者になってしまった父とが一緒に過ごす時間を静かなタッチで綴っていく。井上ひさしの『父と暮らせば』の東日本震災版とでも呼べばいいようなお話だが、このささやかなお話は重い。
軽妙なタッチでコミカルに描くことも可能だった。だが、作者の石原 . . . 本文を読む
たった29歳で死ななくてはならない。末期にガンで、次の誕生日まで、命はないから30歳にはなれない。そんな青年(演じるのは今をときめくベネディクト・カンバーバッチ)が3人の友人たちと人生で最期の旅にでる1週間の物語だ。みんな、彼があとわずかの命で、この旅のあと、死を迎える運命であることは知っている。元気でいられる時間はわずかしかないから、その前にこうして最期の旅に出る。家族もそんな彼のわがままを受 . . . 本文を読む
シリーズ第3作。これが一応の完結編になる。だが、最初はなかなかエンジンがかからない。あんなにも期待したのに、がっかりなスタートだ。しかも、それが長い。全体で470ページほどある長編なのだが、200ページを越えてもまだおもしろくならないのだから、これはちょっとヤバいのではないか、と心配になるほどだ。だが、大丈夫。随所にちりばめた伏線の配置ができると、お話はよくやく動き出す。
1作目は短編連作 . . . 本文を読む
ディズニーのアニメーション映画最新作。アメリカでアニメ映画史上空前絶後の大ヒットを記録した。なぜ、この映画がそんなにもアメリカ人を熱狂させたのか。それは、見ればわかる。こう来たか、と感心させられた。ディズニー史上初のダブル・ヒロインなんていうことまでが、宣伝の目玉になっているが、主人公を2人設定したことで、お話に奥行きが出来たのも事実だろう。2人を対照的に捉えるのではなく、両者の融合によって、生 . . . 本文を読む
小川洋子、クラフト・エヴィング商會『注文の多い注文書』
なんて素敵な小説だろう。表紙の写真を見たときから、これは大丈夫、と思った。でも、そんな期待以上にこれはとても素敵な作品で、こういう仕掛けがなんともうれしい。よく出来た作品集だ。5つの注文書と、納品書。受領書までついている。小川洋子が5つの小説を仲介して、5人の依頼者の注文書を提示する。みんながみんな、なんだかもやもやしたものを抱えていて、だか . . . 本文を読む
とある役所の会議室が舞台となる。テーブルと4脚の椅子だけを舞台装置にした簡単なお芝居。(壁には、小さなホワイトボードもあるけど。)そんな殺風景な空間で殺伐とした話し合いがなされる。とある民間の文化団体への市からの助成金のカットを告げるための会合だ。その嫌な仕事を、課長はつげ姉に押しつける。
登場人物は5人のみ。職場での人間関係やいざこざを、ピンポイントで見せる。主人公の置かれた状況をリアルタ . . . 本文を読む
ポ-ル・バーホーベンのあの傑作を20数年の歳月を経て、新たな視点からリメイクした。前作へのオマージュもあるし、ちゃんとリスペクトしている。ただの映画にはしない、という作り手の心意気はちゃんと伝わってくるのだが、いかんせん内容が今の感覚にそぐわない。これではただのロボット刑事もので、そんなのは東映映画に任せればよい。
半分はロボット、半分は人間という単純すぎる設定を逆手にとって痛快であるだけで . . . 本文を読む
5編からなる短編連作。微妙な人と人との関係性を軸にして展開するお話はなかなか面白い。最初の姉と妹のあやうい関係を描く『小生意気リゲット』のやさしいオチは良かった。両親を失いふたりきりの家族になったふたりが、姉の就職を機に同居する。でも、しばらく離れていたふたりの関係は、ぎくしゃくしてうまくいかない。妹との関係をどう保つのか。揺れる姉の心が描かれる。
ほかの4篇も基本は同じパターンだ。ただ、 . . . 本文を読む
まさかこんな映画だなんて、思いもしなかった。よくある「お涙頂戴の感動もの」かと思い、また、単純だから泣かされようか、と見始めたのだが、まるでそうではない。これは過激な映画だ。冒頭の事故で幸せな日々が一瞬で消えていく。だが、その後、愛娘を亡くした失意から、若い夫婦がどう立ち直るのか、というヒューマン・ドラマを期待したなら凄い肩すかしを食らうこととなる。
たまたま出会った女性のおなかの中の子供を . . . 本文を読む
進学校からドロップアウトして、誰も自分のことを知らない人ばかりの農業高校に入学した。そんな男の子の1年間のお話。この手の青春映画は枚挙に暇がないけど、この映画は凡百のその手の甘いラブストーリーとは一線を画する。吉田恵輔監督なのだから、当然だろう。
これはまず何よりも酪農についての映画なのである。なんと校内を1周すると20キロもある。どんだけ広いのか、目の前で映像として見ているにも関わらず、想 . . . 本文を読む
こういうとても小さな小説をさりげなく提示できるフットワークの軽やかさが今のよしもとばななの魅力のひとつなのだろう。イギリス西端の田舎町を女二人が旅する。特別な観光地ではない。何が起こるというわけでもない。ここにはお話なんかないに等しい。しかも、たった5日間ほどの出来事だ。というか、ここでドラマが起こるわけではないから、出来事もない。ふらふらして、観光地であるモンサンミッシェルのような孤島に行くく . . . 本文を読む
3部作となった「ワタシのジダイ」シリーズ最終編は、棚瀬美幸さんと同世代の役者たちとのコラボレーションとなる。同じ時代を生きる彼らとの共同作業を通して、「ワタシノジダイ」の核心に迫る完結編だ。タイトルは「生き 老い」である。「勢い」とも取れる。
3人の役者がそれぞれ自分の言葉で12年前の自分を、そして12年後の自分を語るエピソードを挟んで、全体の物語は、91歳の祖父の葬儀で再会した3人の親戚で . . . 本文を読む