涙が溢れて止まらなかった。大竹野正典追悼公演の最終夜となる本作品の最後のステージを目撃した。日曜のマチネー、超満員の客席で大竹野正典作、演出『山の声』を見た。
吹雪の中、帰り道を求めて佇む加藤文太郎(戎屋海老)の姿が、大竹野本人と重なる。この作品は山歩きに嵌ってしまって、しばらく芝居をしていなかった大竹野の2年振りの新作である。彼の突然の死によって、結果的に遺作となってしまった作品でもある。 . . . 本文を読む
前作もそうだったが、この作品を見ながら、笠井さんの取り組みが、ますます明確なものになっていくように感じた。見ていてなんだか胸が熱くなる。これはたった1時間ほどの実験的な作品である。それを繰り返してリメイクしていく過程で、作品はよりシンプルに観客である僕たちの胸に届くようになる。とんがったところが,まるくなってわかりやすくなった、というのではなく、笠井さんの描くべきことが明確になったことで、素直に . . . 本文を読む
最初はおもしろかったのだけど、見ていくうちにだんだんどうでもよくなってきた。これはネットについての話ではなく、青春映画だと言うが、あくまでもフェイスブックを作ったザッカーバーグの物語であり、そこを抜きにしてはこの話を語ることは不可能だろうし、ナンセンスだ。でも、その部分に対して、僕はあまり興味がないから、お話の核心部分が僕にはすっきり入ってこないということだ。巨万の富を築いた男の成功物語にはもち . . . 本文を読む
本当なら3時間3幕の芝居を、2時間15分1幕ものとしてまとめ上げる。この長大な作品を一気に見せる。今から40年も前に書かれた芝居が21世紀の現代で通用するのかどうかはとても微妙な話だが、そんなことはものともしない。大丈夫だ、と胸を張って見せようとする。とても無謀な行為なのだが、新撰組がそれをすると、誰もが納得する。あの人達は時代錯誤のアナクロアングラだから、問題ない、なんて認識されている、はずな . . . 本文を読む
こんなにも暗くて救いのない話が、なぜたくさんの読者から支持されるのだろうか。僕にはよくわからない。東野圭吾のあの分厚い小説はベストセラーとなり、その後TVドラマ化されたり、韓国で映画化されたりして、ようやく(というか、とうとう、というか)今回日本でも映画化された。
監督は、『狼少女』でデビューした時は、この人はすぐに消える運命にある、と思わせた深川栄洋。まだ若い彼がその後どんどん商業映画をこ . . . 本文を読む
CIAを引退しためちゃちゃ凄いオヤジがいて、彼がかつての職場であり、仲間もいるCIAを相手にして、好き放題してしまうアクション映画。
昨年秋に公開されたスタローンたちマッチョおやじによるアクション映画『エクスペンダブルス』のような映画か、と思って見たのだが、これはもっと軽くて、どちらかというとトム・クルースの『ナイト&デイ』のような感じの映画だった。あれのオヤジバージョン。
ブルース・ウ . . . 本文を読む
今敏監督の『千年女優』を見たのはかなり昔のことだ。大阪では今ではポルノ劇場となった千日会館という小さな劇場でひっそり公開された。それまでのアニメーション映画とはちょっと肌合いが違う大人向けの映画で、当時、こういう映画は日本ではまだまだ市民権を得ていなかったはずだ。なんとも懐かしい。
TAKE IT EASY!×末満健一のよる舞台版はあの映画へのオマージュではなく、あの題材を元にしたオリジナル . . . 本文を読む
あのラストはないと思う。いくらなんでもあれではあんまりだ。あれだけ酷い裏切りを受けながら、それでも親子が和解していくなんて甘すぎる。1度ならずも、2度までも裏切られて、それでも父娘だから、とか、それはないと思うのだ。これはそんなノーテンキな話なのか。冷酷な男の話だったように思うのだが。
このラストシークエンスを除けば、これは「そこそこ」にはおもしろい映画である。マネーゲームの構造をリアルに見 . . . 本文を読む
このタイトルを見たとき、今回の満月動物園は、いつものような「夜の話」ではなく、「昼の話」なのか、と少し驚いたのだが、必ずしもそうではなかった。最初から血しぶきが吹き荒れ、ああ、これっていつもの戒田さんじゃん、と思った。ほっとしたような、同時にせっかく冒険を期待したのに、とがっかりしたり、とけっこう複雑だ。
これはかって孤児院で育った5人の女の子たちの話だ。そのうちのひとりが殺される。葬儀のた . . . 本文を読む
こういう幼い芝居をきちんと楽しめるような心の余裕があればいいのだが、今は悪いけど、そんな気分にはなれない。あまり優しいことは書けないかもしれないがご容赦願いたい。
これは初めて芝居に取り組む高校の演劇部、というノリである。それはそれで微笑ましいのだが、大人にそれをやられると、ちょっと痛い。まるで小学生の学芸会を見ているようで、でも、作り手も役者も思いっきり楽しんでいるのが伝わってくるから、本 . . . 本文を読む
『リテイク・シックスティーン』を最後に作家であることを引退してしまった豊島ミホさんの初期のエッセイを今頃読むことになった。たまたま読む本が手許になくて、図書館に行ったらこの本が目についたから。それだけ。
『檸檬のころ』を読んで、彼女の大ファンになってしまった。それからは出る新刊は全部読んだし、遡ってだいたいの本は読んだつもりだったのだが、これは今まで読む機会がなかった。軽いエッセイ集だと高を . . . 本文を読む
まるで夢を見ているような時間だった。心地よいリズムに酔いしれながら、ファン・ウンドの50年に渡る人生をたどっていく。その時この壮大な叙事詩が一瞬の夢に思える。これは波瀾に富んだ歴史絵巻なのだが、そんな彼の生涯を追いかけていくこの物語(と呼ぶにはあまりに淡すぎるのだが)は、とても静かで、内容の激しさとはまるで対照的なのだ。
当日パンフには丁寧にこのドラマのストーリーとなる部分の解説がなされてあ . . . 本文を読む
クリスティーナ・アギレラを主演に迎えたミュージカル。昔、僕が高校生だった時、初めて書いた長編小説のタイトルが『廃園のバーレスク』という。広瀬としては自信の300枚に及ぶ渾身の大作である。当時はこれで作家デビューを狙ったのだが、あえなく失敗する。夢を実現させるためには、この映画の主人公のように積極的にアプローチしなくてはならない。自分から仕掛けて行かなくては無理だ。チャンスは待っていてもなかなかや . . . 本文を読む
元旦にもう一度『ヤマト』を見に行ってきた。僕はとてもおもしろいと思ったけど、この映画のことをかなり酷く言っている人も多い。時間もあったので、今度はより冷静な目でこの映画のことを確かめたいと思った。(自分でも、何と大袈裟なことを、と思いますね。ただもう一回見たいだけ、のくせに)
アナクロでしかないこの企画を最新技術を駆使して映画化する上で、一番ネックとなるのは、このアナクロさをどれだけ大切に出 . . . 本文を読む
大切な人の死、という問題と向き合った2つの小説を続けて読むことになった。どうしようもない、でも受け入れ難い。そんな事実と向き合い、大切な人がいなくなった後の時間を生きていく。2作とも両親を事故で同時に失った子供の話である。『どんぐり姉妹』の2人も、『ツナグ』の歩美クンも、祖父母との交流によってその後の時間を生き続けることが出来た。どんぐり姉妹の祖父。歩美の祖母。2人は彼らときちんと距離をとってつ . . . 本文を読む